被団協新聞

非核水夫の海上通信【2023年】

このコラムは、川崎哲氏(ピースボート地球大学)によるもので、
「被団協」新聞に2004年6月から掲載されています☆☆

2023年12月 被団協新聞12月号

イスラエル めざすべきは共存

 イスラエルの閣僚がガザ地区への核使用を「選択肢の一つ」と語った。恐るべき発言であり許しがたい。別の閣僚はパレスチナ人を「人間の顔をした獣」と表現。敵を非人間化することで皆殺しを正当化する。およそ戦争はそうした差別思想に支えられており、核兵器はその極限だ。四国ほどの面積のイスラエルが隣接する名古屋市ほどの面積のガザ地区に核兵器を投下すれば、自国も被害を免れない。そうした現実を核保有国の閣僚が知らないのならなお恐ろしい。
 イスラエル政府は公式には認めていないが、同国が核保有国であることは公知の事実である。イスラエル側の論理は、ホロコーストを経験したユダヤ人の国家にとって安全保障が必要だというものだ。めざすべきは、イスラエルとパレスチナの二国家共存と中東非核・非大量破壊兵器地帯の設立である。

2023年11月 被団協新聞11月号

CTBT ロシアが批准撤回

 プーチン大統領の指示でロシア議会は10月、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准撤回を可決した。署名したが未批准である米国と「同じ立場」に立つのだという。
 CTBTは、原子炉をもつ44カ国がすべて批准して初めて発効する定めだ。うち核兵器国である米国と中国は署名したが未批准。これらを含む8カ国が未批准のため、96年にできた条約は未発効のままだ。
 ロシアは、核実験を再開する意思はなくCTBT機関への協力も継続するとしている。だが、国際法をもてあそぶ無責任な行為だ。
 CTBTは、あらゆる核爆発実験を禁止している。核兵器禁止条約は、核爆発を伴うもの以外も含むすべての核実験を禁止している。これらの条約に未だ署名・批准していない国は速やかにそれらを行ない、いかなる核実験もさせない国際ルールを確立すべきだ。

2023年10月 被団協新聞10月号

FMCT 核禁条約無視は滑稽

 9月の国連総会に合わせ、岸田首相は核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始に向けたハイレベル会合を開いた。
 FMCTとは、核兵器目的の核分裂性物質(高濃縮ウランやプルトニウム)の生産を禁止する条約のことで、90年代から交渉が呼びかけられてきた。材料の生産が止まれば核兵器の増産はできなくなる。だが既存の物質の扱いや検証をどうするのかといった点をめぐり、議論は停滞してきた。提案から約30年が経った今も交渉開始の目途はたっていない。
 一方、やはり90年代から提案されてきた核兵器禁止条約は、2017年に採択され21年に発効した。核禁条約は核兵器の開発を禁止しているから材料物質の生産も当然に禁止している。現存する核禁条約を無視して見通しの立たないFMCTを呼びかけるという政府の姿勢は滑稽だ。

2023年9月 被団協新聞9月号

締結国会議 日本政府は参加せよ

 8月に広島で開かれた与野党国会議員の討論会で、自民党を除く全政党の代表が、核兵器禁止条約の締約国会議に日本がオブザーバー参加することを求めた。公明も維新も明確にこの立場だ。自民党の寺田稔「原爆議連」会長はオブザーバー参加の「メリットは見いだせる」としつつ、核兵器国と非核兵器国の「対立の構図」にさせないことが重要であると述べ、党内で持ち帰り議論するとした。
 岸田首相は国会質疑でオブザーバー参加を求められると「核兵器国を関与させていかねばならない」と答弁している。しかしこれは不参加の理由にならない。むしろ日本が参加することで、核兵器国と非核兵器国の溝を埋める役割を果たすことができる。昨年はドイツなどNATO4カ国とオーストラリアが参加している。日本も、米国と協議の上で参加すればよい。

2023年8月 被団協新聞8月号

核共有 NPTが崩れていく

 ロシアがベラルーシに核兵器配備を進めている。プーチン大統領は「NPTに違反しない」と主張している。
 ドイツやイタリアなどNATO5カ国には計約百発の米国の核兵器が置かれている。これはNPTに違反しないとの解釈が一般的だ。その理由の一つは、これらの核配備がNPT成立以前の1950年代に始まっていること、もう一つはこれらの核兵器は米国が管理しているとされることだ。NATOの中には、戦争が始まればNPTは無効になりこれらの国々が米国と核兵器を共同運用しても問題ないとの主張がある。
 ロシアによるベラルーシへの配備はNPT成立後初のケースとなる。管理はロシアが続けるというが、ルカシェンコ大統領は「我々の兵器だ。我々が使う」とも述べている。
 ポーランドも核共有を求め始めた。NPTが崩れつつある。

2023年7月 被団協新聞7月号

核兵器支出 9カ国で11兆円超

 6月、ICANは世界の核兵器支出報告書を発表した。核保有9カ国による昨年の支出総額は829億ドル(11兆円超)に上り、うち290億ドル以上が民間企業の収益になっている。全体の半分以上が米国のもので、その額は437億ドル。ロシアは米国の22パーセントにあたる96億ドル、中国は同27パーセントにあたる117億ドルを支出している。
 民間企業にかかる継続中の核兵器関連契約総額は2786億ドル(39兆円)で、中には今後数十年続くものもある。昨年は159億ドル(2兆円)以上の新規契約が結ばれた。これらの企業は政府へのロビー活動に、米仏2カ国だけで1・1億ドル以上(158億円)費やしている。また核保有国の主要10のシンクタンクは、政府や核兵器製造企業から2・1〜3・6千万ドルを受け取っている。まさに核兵器ビジネスである。

2023年6月 被団協新聞6月号

矛盾だらけ アクション・プラン?

 G7で日本の「ヒロシマ・アクション・プラン」が支持されたと政府は自賛している。だがその内容はどうか。
 第一に「核不使用の継続」。ならばなぜ核の使用・威嚇を禁じた核兵器禁止条約に反対するのか。「先制不使用」にさえ反対しているではないか。第二に「透明性の向上」。2010年のNPT会議以降言われ続けているが、核兵器国は報告書式にすら合意できていない。第三に核の「減少傾向の維持」。イギリスは2年前に表明した核保有数上限の引き上げを撤回すべきだ。第四に原子力の平和利用の促進。日本の大量のプルトニウム保有や、福島の処理汚染水海洋放出に対する国際的懸念にどう答えるのか。第五に被爆地訪問と軍縮教育の促進。これは被爆者やNGOが長年やってきた分野だ。取り組むなら市民と協力すべきだが、政府からの打診は今のところない。

2023年5月 被団協新聞5月号

条約締結国 核兵器開発援助は禁止

 ロシア国防省は4月、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を行ない成功したと発表した。新型ミサイルの開発に向けたものだといい、米政府には事前通告をしたとしている。
 ミサイルは南部の試験場から発射され、隣国カザフスタンの試験場に置かれた標的に命中したという。カザフスタンの試験場は、これまでもロシアの実験に使われてきた。
 カザフスタンは核兵器禁止条約の締約国である。同条約は第一条で、核兵器の開発、保有、使用を禁止し、それらの行為をいかなる形であれ援助、奨励、勧誘することを禁止している(e項)。ICBMは核兵器の運搬手段であり、その実験に協力することは核兵器開発の援助にあたると考えるべきだろう。カザフスタン政府は締約国としてまずはしっかりと説明し、今後ミサイル実験に協力しないと表明すべきだ。

2023年4月 被団協新聞4月号

G7サミット 核廃絶への一歩を

 5月19日に始まるG7広島サミットは被爆地で開催される初の主要国首脳会合となる。核廃絶に向けてサミットがなすべき事項を端的に3つ挙げたい。第一に、首脳らは被爆者と会い証言を聞き、原爆資料館をしっかりと見学すべきである。第二に、首脳宣言は、核兵器のあらゆる使用がもたらす壊滅的な非人道的結末への憂慮を表明すべきである。これは過去のNPT再検討会議で合意されている表現である。核保有3カ国と核傘下4カ国の首脳が再表明することの意義は大きい。
 第三に、「核兵器のいかなる使用・威嚇も許されない」ことを明示的に表明すべきである。昨年のG20バリ宣言はこれを表明しているから、G7にもできるはずだ。ロシアの核を非難するのは当然だが、あらゆる核の使用・威嚇が許されないと確認することこそ、廃絶への第一歩となる。

2023年3月 被団協新聞3月号

敵基地攻撃 「抑止力の強化」のため?

 政府は昨年末の国家安全保障戦略で「反撃能力」と称する敵基地攻撃能力の保有を決定した。そして長射程ミサイルの購入・配備計画を進めている。
 政府は従来、ミサイルの脅威には迎撃網を強化するとしてきた。しかし今回「ミサイル防衛網だけで完全に対応することは難し」いとして「有効な反撃を加える能力」の保有を決めたというのである。
 実際にミサイル攻撃があり日本が反撃すれば、さらに相手は反撃してくるだろう。これを迎撃しきれないことは政府が認めているとおりであり、ミサイル撃ち合いの戦争になる。政府は「抑止力の強化」のためだというが、実際にしていることは、抑止が破れて戦争になった場合の戦闘能力の整備だ。それをみた相手も当然、戦闘態勢を強化するだろう。
 このような軍拡競争は止め、軍縮外交こそ進めるべきだ。

2023年2月 被団協新聞2月号

利益相反 資金提供どこから

 昨年末、パリの2人の研究者が「核兵器政策における調査資金と利益相反」と題する論文を発表した。外交政策シンクタンクの多くが、核兵器関連企業や核抑止戦略を掲げる政府から資金を得ており、こうした利害関係者からの資金が知的自由に影響を及ぼしているという内容だ。45のシンクタンクへの調査の結果として明らかにした。
 その影響とは検閲、またより多くの場合は自主規制としてみられる。とくに「議題の設定」に強い影響をもつ。ある防衛業者は、資金提供によって自社に不利となる調査結果を出さなくなることを期待していると証言した。ある政府関係者は「論争を起こしたくないなら批判者に資金提供をするのがよい方法だ」と述べた。核兵器が世界平和に必要だという学者がいたら、その人がどこからお金をもらっているのかを検証する必要があろう。

2023年1月 被団協新聞1月号

被爆者援助 国際基金設置へ

 核兵器禁止条約の第2回締約国会議が今年11月に開かれる。それに向けて具体的進展が望めるのは核被害者援助の分野だ。条約第6、7条には核兵器の使用・実験の被害者に援助を提供し核実験等により汚染された環境を修復すること、そのための国際協力を行なうことが定められている。昨年のウィーン行動計画には、国際信託基金の設立の可能性が盛り込まれている。実現には、世界中の政府と民間からの拠出が必要になる。これには人道的見地から核兵器禁止条約の未締約国であっても貢献できるはずだ。とりわけ被爆国日本は積極的に関わるべき課題だ。
 ウィーン行動計画は、核被害者援助に関するあらゆる段階で核被害地域の人々との「綿密な協議と積極的関与」を定めている。日本の被爆者や被爆医療の専門家、法律家らの積極的な取り組みが求められている。