= INDEX =
1 アリゾナの風来坊 2 オカバンゴのフォックス 3 入墨屋のルソー 4 ルーマニアの自転車乗り 5 キリマンジャロのセラフィンとエリ 6 アラスカのジャックさん 7 アマゾンのナポレオン 8 パプアの村人たち 9 ウォークマン 10 エルサルバドルのコロー 11 エクアドルの警官 12 イランのホセイン 13 ヒンバ族 14 ザンビアの妖術師 15 国境警備隊 16 マサイの大男 17 ツルカナ族 18 メキシコのおじさん 19 巡礼船にて 20 牛をつれたおばさん |
中米エルサルバドルの海辺の小さな食堂でビールを飲んでたら、コローという小太りな高校生ぐらいの女の子が目の前に座り「私にもおごってよ」と言った。
退屈だったのでちょうどいいやと思ってビールをたのむと、なんと彼女は十八本も飲み干した。物価が安いからおごるのはかまわないけど、大丈夫かなと思って「何でそんなに意地になって飲むんだ」と聞くと「今日は兄さんが政府軍に殺された命日なの」と予想もしない答が返ってきた。 この国が内戦中なのは知ってるし、昨夜も銃声は響きわたってた。しかし現実をこうして突き付けられると言葉をなくしてしまう。
戸惑ってるとそこに軍人が四人いきなり入ってきて、店の女の子たちに何か尋問を始めた。何が起こってるのかは分からないが、僕も昨日町で軍に一時間も荷物検査やられたばかりなので、その様子は非常に不愉快だった。
軍人が出ていくとカウンターにいた男が床に唾を吐いてラジカセをかけ、こっちを向くと「兄さん、この曲知ってるか?」と聞く。聞いたことない曲だった。知らないというと男は「この曲は政府の暴挙を非難する曲だ。こんなのヤツらの前でかけたらえらいことになる。この曲を作った人はな家族も全員、政府に処刑されちまった。子供もだぞ、分かるか、逆らえないんだよ。でも俺はこの曲が好きなんだ、だから聞くんだ」と言った。
聞くことすら危険な、作曲家の命を奪った歌にカウンターの男やコローも酔っ払いながら聞き惚れていた。 |