= INDEX =
1 アリゾナの風来坊 2 オカバンゴのフォックス 3 入墨屋のルソー 4 ルーマニアの自転車乗り 5 キリマンジャロのセラフィンとエリ 6 アラスカのジャックさん 7 アマゾンのナポレオン 8 パプアの村人たち 9 ウォークマン 10 エルサルバドルのコロー 11 エクアドルの警官 12 イランのホセイン 13 ヒンバ族 14 ザンビアの妖術師 15 国境警備隊 16 マサイの大男 17 ツルカナ族 18 メキシコのおじさん 19 巡礼船にて 20 牛をつれたおばさん |
アマゾン川をイカダで下りはじめて三か月ほどたったある日、川辺の民家の屋根に日の丸を見つけた。上流で“ナポレオン”という日系の村の噂を耳にしていたので上陸すると、なんとナポレオンというのは村の名前ではなく、この丸山さんの名前だった。
丸山さんは僕らの噂を聞いて、なんとか気付いてもらおうと押し入れの奥から日の丸を捜しだしたという。彼の家で久し振りの日本食をごちそうになると、大根の味がするパパイヤの煮物がでた。手に入らない物は作る。単純な理屈だけど、今の日本にいたらこういう発想はできない。アマゾンで生きてる日系人にも、日本への出稼ぎブームは押しよせてる。でも丸山さんはここにいたら大将だから動く気はないと言う。
夕方、漁師がとれたてのスルビンという虎模様のナマズを持ってきてくれた。僕らが感動してると彼は『最近、魚が減ってしまった』と言った。それまでも何度かその話は聞いたけどアマゾンで聞くのは日本よりも辛い。
いつものように夕日を眺めていると丸山さんが来て「君が今見ている向こう岸は昔はなかったんだよ」と言う。実はそれは岸ではなく、堆積した泥から出来た中洲らしい。アマゾンの流れは常に変わる。今、流れは足元の岸を削る方向だ。数年前まで庭先にあった家も今はない。丸山さんの家も近い将来、川に飲まれるのだ。それを知っていても彼は悠然と流れを見ていた。 |