= INDEX =
1 アリゾナの風来坊 2 オカバンゴのフォックス 3 入墨屋のルソー 4 ルーマニアの自転車乗り 5 キリマンジャロのセラフィンとエリ 6 アラスカのジャックさん 7 アマゾンのナポレオン 8 パプアの村人たち 9 ウォークマン 10 エルサルバドルのコロー 11 エクアドルの警官 12 イランのホセイン 13 ヒンバ族 14 ザンビアの妖術師 15 国境警備隊 16 マサイの大男 17 ツルカナ族 18 メキシコのおじさん 19 巡礼船にて 20 牛をつれたおばさん |
シリアからトルコに入ると急に緑が目につきだす。新緑の季節、トルコ東部の山間部の道はライダーにとってまさに天国だ。
ユーフラテス川の源流付近をのんびり走っていると牛を連れたおばさんが前から歩いてきた。僕の前まで来た時だった、巨大な牛はバイクのライトにびびって道の真ん中で硬直した。おばさんがいくら引いても牛は怯えた目でこっちを見ながらガンとして動かない。
僕はエンジンを止め路肩にバイクを寄せておばさんと牛に道を譲った。バイクを降りて背伸びすると、ちょうど眼下には源流の砂州と川面が春の陽射しを浴びてキラキラしている。まだ牛が動きそうにないので僕はカメラを取り出し川の写真を撮った。なんか素晴らしい写真が撮れた気がした。
もう一枚撮ろうと斜面に足を踏み出した時だった。後でおばさんが怒っている。何の事だが分からないのでカメラをさして身振りで説明するが、彼女はダメだと全身を使って言う。どうも納得いかないがおばさんがあまりにも真剣なので、僕はカメラをしまい牛を驚かさないようにバイクを押してそこから離れた。
そのまま蛇行する川沿いを進み、さっきの場所の対岸に来た時に僕はすべてを理解した。道から見下ろせば緩やかな斜面に見えたその場所は、実はその先で10メートル近い崖になっていたのだ。
もしあそこでおばさんが止めてくれてなかったら、僕はそのまま崖から落ちて雪解けの冷たい水に飲まれていたにちがいない。 |