初めての海外旅行でアメリカに行った時だった。アリゾナの草原でいきなりバイクのチェーンが切れた。偶然、近くにガソリンスタンドがあったが、店員の話では村までは10キロ、バイク屋のある町まではさらに100キロあるらしい。しかも日没と共に『夜は動物に気をつけろよ。』の笑い声だけを残し彼等は去っていってしまった。
どうしようもなく寝袋にくるまりバイクにもたれると本当にコヨーテの遠吠えが四方から聞こえてきた。翌朝、村まで歩いたが、一日待ってもバスは来なかった。次の日、バスを諦めて朝からヒッチしてると太陽が真上に来た頃、車の代わりに真っ黒な男が道を歩いてきた。その男は会うなり酒臭い息で『バカかお前、こんな所でヒッチやっても車なんか止まるか。ちょっと俺についてきな。』と言うと答える暇も与えず、村から離れた丘に僕を強引に連れていった。
そして男は魔法のように一瞬にしてトラックを止め、『あの町はいい』とだけ言って一緒に荷台に乗った。正直、僕は得体の知れないこの男が気味悪かった。逃げ場のない荷台の上で『俺は昔、ボクサーだったんだ。』などと赤い目で言われるとコイツの狙いは何なのだと勘ぐってしまう。
しかし彼はメキシコから来た、ただの親切な酔っ払いだった。バイク屋に連れていってくれた彼は『キングス、キャニオンに行く』とだけ言うとまたフラリフラリと道を歩きだした。しかしキングス、キャニオンまでは軽く1500キロはあるはずだった。 |