= INDEX =
1 アリゾナの風来坊 2 オカバンゴのフォックス 3 入墨屋のルソー 4 ルーマニアの自転車乗り 5 キリマンジャロのセラフィンとエリ 6 アラスカのジャックさん 7 アマゾンのナポレオン 8 パプアの村人たち 9 ウォークマン 10 エルサルバドルのコロー 11 エクアドルの警官 12 イランのホセイン 13 ヒンバ族 14 ザンビアの妖術師 15 国境警備隊 16 マサイの大男 17 ツルカナ族 18 メキシコのおじさん 19 巡礼船にて 20 牛をつれたおばさん |
アメリカからメキシコに入った日、ガソリンスタンドにガソリンがなかった。なんだそりゃ!呆然として回りを見ると、ガラスやドアすらない車のドライバー達が日陰で寝ていた。国境を越えてたった数十キロで僕は全く未知の世界に足を踏み入れていた。待つこと3時間。タンクローリがやって来ると、ガソリンを入れた車は当たり前のように去っていった。
これがメキシコなのか!言葉も物の相場も、彼等の感覚までも分からない。ないないづくしの中を走って次のガソリンスタンドに行くと今度はお釣りがなかった。丸っこい体格のヒゲづらのおじさんは、レジにあるだけの札を全部持ってきて僕の目の前に広げると『ほら、本当にないだろう』と堂々と言った。
『そんな事は僕の知った事じゃない、準備しとくのはアナタの仕事だろう。なかったら他の店で借りてきたらどうなんだ!』すっかり頭にきた僕が日本語で怒鳴ると、おじさんは小さな目をしばたたかせていたが、突然何か閃いたのかポンと手を打つとガハハと笑った。
彼はポケットからコインを取り出すと『これで勝負だ。表か裏か選べ。俺が勝てばお釣り払わん、お前が勝てば半額だ、どうだ!』という。どこまで驚かす気だアンタは!怒りは笑いに変わっていた。僕が投げたコインは表、勝負は僕の勝ちだった。おじさんは一瞬チッと舌打ちしたが、またガハハと笑って本当に半額にしてくれた。すごい国だな、ここは。 |