19 巡礼船にて
旅する冒険ライダー 坪井伸吾のページです

 

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1 アリゾナの風来坊
2 オカバンゴのフォックス
3 入墨屋のルソー
4 ルーマニアの自転車乗り
5 キリマンジャロのセラフィンとエリ
6 アラスカのジャックさん
7 アマゾンのナポレオン
8 パプアの村人たち
9 ウォークマン
10 エルサルバドルのコロー
11 エクアドルの警官
12 イランのホセイン
13 ヒンバ族
14 ザンビアの妖術師
15 国境警備隊
16 マサイの大男
17 ツルカナ族
18 メキシコのおじさん
19 巡礼船にて
20 牛をつれたおばさん


五階のデッキまで突風にあおられた波しぶきが飛んでくる。僕の乗ったサウジアラビア発エジプト行きの大型フェリーは紅海の真ん中で夜の嵐に翻弄されていた。こんな状況でありながら船員は安い切符しか買えない貧乏人は船室に入れてくれないのだ。

切符を買うだけで三日間も交渉を強いられたあげく、現地通貨すべてを税関で取られた僕は、その日船上のパンすら買えずにいた。そんな僕に持参のパンを分けてくれたのがメッカ帰りのエジプト人の一家だった。イスラム教徒にとってメッカ巡礼は一生の夢だ。嵐の中、柱の陰で一緒に寒さに震えながらも、彼等はどこか幸せそうだ。

なんとかみんな船内に入れてもらえないだろうか?交渉のために再び船室入り口に行くと、老人達が船員を取り囲んでいる。僕らと同じ波しぶきを浴びながらも、船員はガンとして扉を開けようとはしなかった。ついに寒さに耐えきれなくなった僕は、卑怯にも虎の子ドル紙幣を払ってひとりだけ船内に入った。老人達の視線から逃げるように進むと船室は船酔い患者だらけだ。それでも突然の異教徒の侵入に緊張が走った。

沈黙の中でひとりの紳士が、嫌がる黒装束の奥さんを説得して場所を開けてくれた。黙々とコーランを読み続ける信仰深い彼は、船酔いした奥さんをいたわりながら、僕にまで気をつかってくれる。

えげつない嘘八百の交渉をするアラブ人もいれば、優しくて礼儀正しいアラブ人もいるのだ。

 

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