= INDEX =
1 アリゾナの風来坊 2 オカバンゴのフォックス 3 入墨屋のルソー 4 ルーマニアの自転車乗り 5 キリマンジャロのセラフィンとエリ 6 アラスカのジャックさん 7 アマゾンのナポレオン 8 パプアの村人たち 9 ウォークマン 10 エルサルバドルのコロー 11 エクアドルの警官 12 イランのホセイン 13 ヒンバ族 14 ザンビアの妖術師 15 国境警備隊 16 マサイの大男 17 ツルカナ族 18 メキシコのおじさん 19 巡礼船にて 20 牛をつれたおばさん |
日本人の父に韓国人の母、アラスカに住み、奥さんはフランス人。この人の前では人種とか国籍は無意味だ。おまけに7ヶ国語しゃべる事ができるという語学力、一流大卒の学歴。それでなぜ毛皮屋なのか?。平凡な私の日本的感覚からするとこの人のすべてが不思議だった。
ジャックさんは冒険家タイプの人が好きだ。アンカレッジのこの小さな店にはマッキンリー登頂を目指す登山家や著名な小説家、私のようなバイク乗りも来るという。かくいう私もYHで会ったバイク乗りに聞いて遊びに来たのだ。何も買わずにコーヒーだけを飲んでいる私のどこが気にいったのか、その日から私はジャックさんの所に泊めてもらえる事になった。
夏のさかりも過ぎた店はヒマだったし、バイクを買ったものの難解な書類手続きに苦しむ私も時間だけはあった。ぼんやり椅子に座っている私にジャックさんは『あなたの座っている椅子に植村さんもそんな風に座ってましたよ。優しい人でしたね。』と言った。
植村直己遭難の報を聞いたジャックさんはどうしても信じられず、自家用セスナで捜索したという。『山は厳しいですね。私の友達ももう何人もあそこから帰って来ない。』そう言ってからまたコーヒーを入れてくれる。ジャックさんはすべてを知った上で決して否定しないのだ。それどころか『バイクに関してはあなたが私の先生です。』と親子ほど年の離れた私にさえ、頭を下げられるほど器の大きい人だった。 |