胃弱・胃下垂・胃アトニー

胃下垂とは、骨盤の上部の左右を結んだライン(ヤコビー線)よりも胃角が下がっている状態を言います。胃下垂自体は病気ではありませんが、重度の胃下垂(骨盤内まで下がる)になると胃アトニーを伴ってきます。

 

体質的には、やせ形で、お腹の筋肉の緊張がなく血色が悪く顔色も青白く、疲れやすく神経質で手足が冷えたり立ちくらみ、低血圧、食欲不振といったタイプの人で、姿勢が悪く猫背で運動が苦手な人が多いようです。中には自覚症状がなく、自分では胃下垂と思っていない人もおられ、病院の検査でバリウムを飲んでX線を撮ると胃下垂ですと言われ初めて認識する人もおられます。

 

重度の胃下垂になると胃アトニーを伴います。胃アトニーの症状としては、小食で、すぐにお腹がいっぱいになってしまう、胃もたれ、げっぷ、胸がムカムカする、食欲不振、便秘、下痢などが起こります。食が細いことから栄養吸収も良くなく一向に太りません。本人の自覚としては、胃弱や胃腸虚弱だという認識にとどまっているケースも多くあります。栄養吸収の関係は、腸内細菌叢のバランスにも影響されます。

漢方から見た胃下垂・胃アトニー

西洋医学では、胃下垂・胃アトニーは機能性ディスペプシアの範疇に入る一形態とみており、胃下垂自体は病気ではないので特に治療対象とはなりません。しかし、漢方では、脾胃が虛している状態であり気力、元気が出ない状態とみて治療対象になります。
胃弱や胃腸虚弱だからとほっておかず、積極的に健康を意識して元気、やる気を出したいものです。

 

また、最近では何かと水分を摂りなさい、血液サラサラに、熱中症予防に、脳梗塞予防に水を飲みなさいと言っていますが、そういった間違った情報で、胃腸や腎臓に負担をかけ、体中水浸しで体を弱らせています。漢方では「胃は、水穀の海であるから、とかく水を飲み胃の中に水分が溜まりやすくなる」といっていますし「脾(胃腸)は湿を嫌う」とも言います。食事を終えてしばらくすると胃の中は空っぽになり乾いた状態であることを良しとします。胃がいつまでもチャプチャプしている人は、胃内停水といって、胃にとっては良くない状態です。

 

胃アトニーは、いわゆる虚証の水毒体質とも言えます。胃がチャプチャプする、下痢、嘔吐、悪心、尿量減少、頻尿、めまい、立ちくらみ、動悸、耳鳴り、頭痛、薄い唾液が口にたまるなどの症状が現れます。

胃弱・胃下垂・胃アトニーに用いられる漢方薬

胃弱・胃下垂・胃アトニーに用いられる漢方生薬の主薬は何といっても「お種人参」です。
漢方の古典である神農本草経には人参について
「味甘微寒 五臓を補し、精神を安じ、魂魄を定め、驚悸を止め、邪気を除き、目を明らかにし、心を開き智を益すを主る。久しく服すれば身を軽くし年を延べる」
と云っており
また、名医別録では
「微温無毒、脾胃の冷え、心腹の鼓痛、胸脇の逆満、霍乱吐逆を主治する。中を調え消渇を止め、血脈を通じ、堅積を破り、人をして忘れざらしめる」

 

薬味薬性は、甘微寒 水剤

 

漢方薬(処方)としては、この人参が主(君薬)となり朮、甘草、乾姜、半夏などと組み合わされ、その人その人の証に随った漢方薬が用いられます。

漢方コラム

お種人参

ニンジンは、高麗人参、朝鮮ニンジンなどと呼ばれていますが正式にはニンジンでオタネニンジンの根を乾燥させたものです。
日本では、江戸時代までもっぱら輸入に頼っていましたが、江戸時代、漢方生薬の国内生産が奨励され、ニンジンは、徳川吉宗の命を受け対馬藩の藩主の宗家が朝鮮から苗や種を輸入しました。徳川御料地の日光薬草園で栽培がおこなわれ量産ができるようになり、ニンジンを広く大衆化させるために諸大名に種や苗が与えられました。
将軍からいただいた「お種」と言うことでお種人参という名が生薬の正式名称になりました。
産地としては、長野県の上田、福島県の会津、島根県の八束が有名で、現在でも受け継がれています。

胃弱・胃下垂・胃アトニーの食養生

貝原益軒 養生訓から
「胃腸から取り込まれる養分が身体を養っている、草木が土の中の栄養を取り込み生きているのと同じである。養生の道とは胃腸を整えることが第一である」

 

「日本人は、胃腸の弱い人が多く、肉類やゆで卵をまるごと食べたりすると消化しにくいので多く食べてはいけない。野菜も大きく切ったものや丸煮にしたものはいけない」

 

「朝早く粥を温かにやわらかにして食べると胃腸によく、身体を温め唾液ができる。冬期にはもっともよいもだ」

 

「生姜、胡椒、山椒、蓼、紫蘇、生大根、生のねぎなどは食べ物の香りを引き立て悪臭を取り去り、魚毒を取り除き食欲を増やす。それぞれの食品にあった香辛料をほどよく加え毒をなくすのが肝心である。ただし多く使用してはいけない。辛いものが多いと元気がなくなり喉が渇いてくる」

 

食養生としては、朝粥が一番です。玄米、もち麦に大豆、黒豆、赤小豆などの豆類を入れ、海の精(自然海塩)で二味の調和を調えて食すれば、一日元気にスタートできます。

 

人見必大の「本朝食鑑」

「よく脾胃を調え、元気を益し、五臓を養うものである」
と云っています。

 

昔の人は、いかに胃腸を守り食養生をしていたかがよく分かります。現代、わたくしたちの毎日に食事には、肉類が欠かせない食材となっていますが、食養生にかなった正しい食べ方をしていません。貝原益軒の養生訓の中にもありましたように、和食であっても生姜、胡椒、山椒、紫蘇、ねぎなどを香辛料として使いなさいと言っているくらいなのに、肉料理に香辛料を使っていない人が意外と多いのに驚かされます。また、人の生命の源である「塩」についても軽視されがちです。

 

中世ヨーロッパでは、肉食をしていたため、多種多量のスパイスが必要で大航海時代、アジアの果てまで命がけでスパイスを求めやって来ました。現代の私たちは、これらのスパイスを手軽に手に入れることができます。肉料理には、胡椒だけではなく必ずその肉の種類や料理に合ったスパイス(クミン、クローブ、カルダモン、オールスパイスなど)やハーブ(フェンネル、ローズマリー、タイムなど)を上手に取り入れ五味の調和が調った食事で食養生したいものです。

 

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