部分ベクトル空間の集合算:トピック一覧  〜  数学についてのwebノート

  ・定理:部分ベクトル空間の共通部分部分ベクトル空間の合併 

n次元数ベクトル空間関連ページ:n次元数ベクトル空間の定義/線形結合/一次独立・一次従属/線形結合と線形独立・従属の関係/次元   
Rnの部分ベクトル空間:定義/具体例/部分空間における線型独立と線型従属/〜に張られた部分ベクトル空間/和・直和分解・補空間/部分空間の基底/部分空間の次元   
線形代数目次総目次  

定理:部分ベクトル空間の共通部分も部分ベクトル空間

設定

R実数体(実数をすべて集めた集合)  
Rnn次元数ベクトル空間 
W1Rn部分ベクトル空間  
W2Rn部分ベクトル空間

[文献:実n次元数ベクトル空間について]
佐武『
線形代数学』V§2(p.96)
[文献:ベクトル空間一般について]
ホフマン『
線形代数学I2.2定理2(p.37):証明付;
斎藤『線形代数入門4.1(p.108):
永田『理系のための線形代数の基礎1.51(p.32):証明なし;
砂田『行列と行列式』§5.2(p.162):証明なし;

本題1

Rn部分ベクトル空間W1 ,W2 共通部分W1W2 も、
 「
Rn部分ベクトル空間」となる。  

本題2

Rn部分ベクトル空間W1 ,W2 , ,Wk共通部分
   
W1W2Wk
も、「Rn部分ベクトル空間」となる。 

活用例:〜が張る部分空間 

証明
↓ 
本題
1

仮定1W1は「Rn部分ベクトル空間」  
仮定
2W2は「Rn部分ベクトル空間」   
この仮定のもとで、
W1W2 は、「Rn部分ベクトル空間となるための必要十分条件を満たすことを示す。
1. W1W2 は、『nでない部分集合』である。 
 仮定
1,2より、
 
W1W2も「Rn部分ベクトル空間」の定義:条件I-2-2を満たし、
 
W1にもW2にも零ベクトル=( ,,, )属す。 
   つまり、
=(,,,)W1かつ=(,,,)W2 
 したがって、
W1W2 には、零ベクトル=( ,,, )属す。 
   つまり、
=(,,,)(W1W2 ) 
 よって、
W1W2 は、nでない部分集合。 
2.W1W2 は、『nに定められているベクトルの加法』について閉じている。    
 ・
W1W2属す任意n次元数ベクトルu,vは、   
   
の定義から、u,vW1かつu,vW2 を満たす。 
 ・仮定
1,2より、W1W2も「Rn部分ベクトル空間」の定義:条件I-1を満たし、
    
u,vW1 にたいして、u+vW1  
    
u,vW2 にたいして、u+vW2  
 ・上記二点をあわせてかんがえると、
   
W1W2属す任意n次元数ベクトルu,vにたいして、
        
u+vW1 かつ u+vW2 
 ・したがって、
   
W1W2属す任意n次元数ベクトルu,vにたいして、u+v(W1W2 ) 
  以上から、
W1W2 は、『nに定められているベクトルの加法』について閉じていることが示された。
3.W1W2 は、『nに定められているスカラー乗法』について閉じている。
 ・
W1W2属す任意n次元数ベクトルvは、   
   
の定義から、vW1かつvW2 を満たす。 
 ・仮定
1,2より、W1W2も「Rn部分ベクトル空間」の定義:条件I-1を満たし、
    
任意n次元数ベクトルvW1 と、任意実数aRにたいして、avW1  
    
任意n次元数ベクトルvW2 と、任意実数aRにたいして、avW2  
 ・上記二点をあわせてかんがえると、
   
W1W2属す任意n次元数ベクトルv と、任意実数aにたいして、
        
avW1 かつ avW2 
 ・したがって、
   
W1W2属す任意n次元数ベクトルvと、任意実数aにたいして、av(W1W2 ) 
  以上から、
W1W2 は、『nに定められているスカラー乗法』について閉じていることが示された。 
以上
1.2.3. より、
仮定
1W1は「Rn部分ベクトル空間」  
仮定
2W2は「Rn部分ベクトル空間」   
のもとで、
W1W2 が「Rn部分ベクトル空間となるための必要十分条件を満たすこと  
を示した。
したがって、「
Rn部分ベクトル空間W1 ,W2 共通部分W1W2 も、
 「
Rn部分ベクトル空間」である。   

証明
↓ 
本題
2

本題1への証明と、まったく同じ論理で証明できる。

[トピック一覧:部分空間の集合算の性質]
線形代数目次総目次

定理:部分ベクトル空間の合併は部分ベクトル空間になるとは限らない

設定

R実数体(実数をすべて集めた集合)  
Rnn次元数ベクトル空間 
W1Rn部分ベクトル空間  
W2Rn部分ベクトル空間

[文献]
佐武
線形代数学
 V§
2(p.96):反例つき

本題

Rn部分ベクトル空間W1 ,W2 合併集合W1W2 は、
Rn部分ベクトル空間」になるとは限らない。  

証明

W1W2 が、「Rn部分ベクトル空間」にならないような、
Rn部分ベクトル空間W1 ,W2 の例をあげる。
(例)
1.
W1
を、基本ベクトル e1 1個のみから生成された部分ベクトル空間e1とする。
  つまり、
W1は、n次元数ベクトル ( 1,,, ) 一次結合をすべて集めた集合。
  といっても、一個のベクトルの
一次結合だから、
  要するに、
  
W1は、n次元数ベクトル ( 1,,, ) 任意スカラー倍をすべてかき集めた集合   
     
{ (a ,,,)aR } 
     となる。   
W2を、基本ベクトル e2 1個のみから生成された部分ベクトル空間e2とする。
  つまり、
W2 は、n次元数ベクトル(, 1 ,,, ) 一次結合をすべて集めた集合。
  といっても、一個のベクトルの
一次結合だから、
  要するに、
  
W2は、(, 1 ,,, ) 任意スカラー倍をすべてかき集めた集合  
      
{ (, b ,,, )bR } 
     となる。   
2.
この「Rn部分ベクトル空間W1 ,W2 の例において、
    
W1W2 ={ (a ,,,)aR }{ (, b ,,,)bR }
は「
Rn部分ベクトル空間」とはならない。
Rn部分ベクトル空間となるための必要十分条件のなかの一要件を満たさないからである。   
3.
Q1「『Rn部分ベクトル空間』となるためには、nでない部分集合でなければならない」  
Q3「『Rn部分ベクトル空間』となるためには、『nに定められているスカラー乗法』について閉じていなければならない」
という二要件については、
 
W1W2 ={ (a ,,,)aR }{ (, b ,,,)bR }
は満たしている。   
しかし、
Q2「『Rn部分ベクトル空間』となるためには、『nに定められているベクトルの加法』について閉じていなければならない」
という要件について、
 
W1W2 ={ (a ,,,)aR }{ (, b ,,,)bR }
は満たさない。
実際、
( 1,,,)W1 、したがって、( 1,,, )W1W2)  
(, 1 ,,,)W2 、したがって、(, 1 ,,,)W1W2) 
にたいして、
 
( 1,,,)(, 1 ,,,)( 1, 1 ,,,)  
は、
  
W1W2 ={ (a ,,,)aR }{ (, b ,,,)bR }
属しておらず、
  
W1W2 ={ (a ,,,)aR }{ (, b ,,,)bR } 
の外へ飛び出してしまう。

関連

W1W2 を含む最小の『Rnの部分ベクトル空間』は、和空間W1W2)。

[トピック一覧:部分空間の集合算の性質]
線形代数目次総目次

 

(reference)
日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目210線形空間(pp.570-576)
線形代数のテキスト

ホフマン・クンツェ『
線形代数学I』培風館、1976年、2.1ベクトル空間(pp.28-34)
砂田利一『現代数学への入門:
行列と行列式2003年、§5.2(p.162).
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.3ベクトル空間(pp.14-6)
佐武一郎『
線形代数学(44)』裳華房、1987年、Vベクトル空間§6ベクトル空間の公理化(p.115)
志賀浩二『数学
30講シリーズ:線形代数30』朝倉書店、1988年、13講ベクトル空間へ(pp.85-7);14講ベクトル空間の例と基本概念(pp.88-90)
藤原毅夫『理工系の基礎数学
2線形代数』岩波書店、1996年、4.1線形空間と写像(p.91)
斎藤正彦『
線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第4章§2線形空間(p.96):実線形空間・複素線形空間のみ;附録V§2(p.249)

代数学のテキスト
本部均『新しい数学へのアプローチ
5新しい代数』共立出版、1969年、5.2-Aベクトル空間(p.132)
酒井文雄『共立講座
21世紀の数学8環と体の理論』共立出版、1997年、1.6ベクトル空間(p.22)

数理経済学のテキスト
神谷和也・浦井憲『
経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、§3.1ベクトル空間とは何か(p.105)


 

[トピック一覧:部分空間の集合算の性質]
線形代数目次総目次