ノルムとノルム空間の定義 : トピック一覧

・定義:ベクトルのノルム/ノルム空間単位ベクトル/ノルムから定められる距離 
・性質:ノルム空間と距離空間/単位ベクトル化 
計量実ベクトル空間関連ページ:内積・計量実ベクトル空間の定義/内積の性質/計量同型写像 
               正規直交系・正規直交基底の定義/直交系・直交基底と内積/直交系・正規直交系の性質/正規直交基底の存在と構成//直交補空間
ノルム空間の具体例:n次元数ベクトル空間Rnに定義されたノルム空間/n次元数ベクトル空間Rnに 定義されたユークリッドノルム /Rnに 定義された変分ノルム   

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定義:実ベクトル空間におけるノルム norm 「ノルムの公理」 


【舞台設定】 

 R実数体 
 V実ベクトル空間 

【本題】

 ・実ベクトル空間V属す任意のベクトルxに対して、実数xを定める関係があって、
  次の[要件1]〜[要件3]を満たすとき、
 xを、xノルム normとよぶ。

 [要件1:非負性] 任意のxVにたいして、‖x‖≧0 であって、      
                   ‖x‖=0となるのはx零ベクトルである場合のみに限る。
          論理記号で表すと、(xV) ( ( ‖x‖≧0 ) かつ (‖x‖=0x=) ) 
              あるいは、(xV) ( ( ‖x‖≧0 ) かつ (xx‖>0) )  
 [要件2:線形性] 任意のxV任意の実数aにたいして、‖ax‖=ax
          論理記号で表すと、(xV) (aR) (‖ax‖=ax‖ ) 
 [要件3:三角不等式] 任意のx,yVにたいして、‖xy‖≦‖x‖+‖y‖ 
                 ※ただし、不等式左辺の実ベクトル空間Vに定義されたベクトル和、
                      不等式右辺の+は、実数の足し算。 
          論理記号で表すと、(x,yV) ( ‖xy‖≦‖x‖+‖y‖ ) 

 ・様々なノルムが定義可能。
  たとえば、
   ・計量実ベクトル空間の内積によって定義されたノルム 
   ・n次元数ベクトル空間Rnにおける内積により定まるノルム/Rnに 定義されたユークリッドノルム/Rnに 定義された変分ノルム   

【文献】

 ・神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.2.3(p.121-2)
 ・砂田『行列と行列式』§7.1(pp.241-2)
 ・斉藤『集合・数・位相』4.5.7ノート(p.128)
 ・松坂『集合・位相入門』§5-A(p.277)
 ・矢野『距離空間と位相構造』1.1.1距離関数(p.5)

定義:ノルム空間


【舞台設定】 

 R実数体 
 V実ベクトル空間 

【本題】

 ノルム空間とは、
 ノルムの定義された実ベクトル空間
 ないし、
 ノルム‖‖の定義された実ベクトル空間Vにおける、ノルム実ベクトル空間の組(V,‖‖)
 のことをいう。

【具体例】

 ・一般の計量実ベクトル空間に、その内積から定まるノルムを定義してつくったノルム空間  
 ・計量実ベクトル空間Rnに、ユークリッドノルムを定義してつくった、ノルム空間  

【文献】

 ・神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.2.3(p.121-2)
 ・砂田『行列と行列式』§7.1(pp.241-2)
 ・松坂『集合・位相入門』§5-A(p.277)
 ・矢野『距離空間と位相構造』1.1.1距離関数(p.5)
 ・Lang, Undergraduate Analysis,Chapter6§2 Normed Vector Spaces (p.111)



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定義:単位ベクトル  

【舞台設定】 

V実ベクトル空間 
V実ベクトル空間であって、ノルム空間  
x実ベクトル空間Vに属すベクトル  
x‖:ノルム空間Vに定義されているノルム   

【本題】

ノルム空間Vにおける単位ベクトルとは、 x=1を満たすベクトルxのこと。

【文献】

 ・砂田『行列と行列式』§7.1(pp.241-2)

定理:単位ベクトル化  


【舞台設定】 

 R実数体 
 V実ベクトル空間 
 x実ベクトル空間Vに属すベクトル  
 ‖x‖:ノルム空間Vに定義されているノルム   

【本題1】

 任意のベクトルxVについて、
  x零ベクトルでないならば
  「xノルムの逆数(スカラーになる)」と、ベクトルxとのスカラー積    
    ( 1/x ) x 
   は、
   ノルム1のベクトルになる。

 以上を論理記号でかくと、
   (xV)( x   ( 1/x ) x =1 )

 【本題2】

 ( 1/x ) xをつくることを、x単位ベクトル化という。


どうして、 ( 1/x ) x =1 といえるのか?

 ・ノルムであるための要件1:非負性より、 xならば、‖x‖>0 
   したがって、 xならば、1/x >0      

 ・   ( 1/x ) x =( 1/x )x  ∵ノルムであるための要件2:線形性   
             =1     

【文献】

 ・永田『理系のための線形代数の基礎』補題4.2.1(p.116)



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定義:ノルムから定められる距離 

【舞台設定】 

 R実数体 
 V実ベクトル空間であって、ノルム空間  
 x,y実ベクトル空間Vに属すベクトル  
 ‖x‖:ノルム空間Vに定義されているノルム   

【本題】

実ベクトル空間Vに属す任意のベクトルx, yに対し、
    
d(x, y)=xy    
 とおくと、
d(x, y)は、Vにおけるx, y間の距離の定義を満たす。
d(x, y)=xy を、ノルムから定められる距離という。
※いろいろなノルムをつくりえるので、
  いろいろなノルムに応じて、いろいろなノルムから定められる距離をつくりえる。
  [→矢野『距離空間と位相構造』1.1.1距離関数(p.5);]       
どうして、ノルムから定められた距離d(x, y)=xy距離の定義を満たすといえるのか?
  →
矢野『距離空間と位相構造1.1.1距離関数(p.5);神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.2.3(p.123);  
d(x, y)は、ノルムの要件1:非負性により、Vにおけるx, y間の距離の要件(i)非負性を満たす。   
d(x, y)は、Vにおけるx, y間の距離の要件(ii) を満たす。
   なぜなら、 
    
任意のx,yVにたいして、
     
d(x, y)=xy=xy=0  ∵ノルムの要件1:非負性  
               
x=y       
 ・
d(x, y)は、Vにおけるx, y間の距離の要件(iii) 対称性を満たす。
   なぜなら、
    
任意のx,yVにたいして、 
     
d(x, y)=xy 
        
=−1(x)−1y   ∵逆ベクトルとスカラー積の関係 
        
=−1(xy    ∵スカラー積のベクトルに関する分配則  
        
=−1(yx     ∵ベクトル和の可換則   
        
=−1yx  ∵ノルムの要件2:線形性 
        
=yx  ∵絶対値の定義 
        
=yx   
        
=d(y, x)  
d(x, y)は、Vにおけるx, y間の距離の要件(iv) 三角不等式を満たす。
   なぜなら、
    
任意のx,y,zVにたいして、 
     
d(x, z)=xz 
        
=xz     ∵零ベクトルの定義 
        
=xyyz  ∵逆ベクトルの定義  
        
=xyyz  ∵ベクトル和の結合則 
          ≦
xyyz  ∵ノルムの要件3:三角不等式  
            
=d(x, y)d(y, z)      
【文献】

 ・神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.2.3(p.123)
 ・松坂『集合・位相入門』§5-A(p.277)
 ・矢野『距離空間と位相構造』1.1.1距離関数(p.5)
 ・志賀『固有値問題30講』8講(p.61)

定理:ノルム空間と距離空間  


【舞台設定】 

 R実数体 
 V実ベクトル空間であって、ノルム空間  
 x,y実ベクトル空間Vに属すベクトル  
 ‖x‖:ノルム空間Vに定義されているノルム   

【本題】

 ・実ベクトル空間Vノルムが定義され、ノルム空間V,‖‖)が設定されているならば、  
  実ベクトル空間Vの距離dを、「ノルムから定められる距離」によって定義することによって、 
  距離空間V,d)を設定することができる。
  つまり、「ノルムから定められる距離」によって、ノルム空間V,‖‖)はいつでも距離空間V,d)と見なせる。

【文献】

 ・神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.2.3(p.123)
 ・松坂『集合・位相入門』§5-A(p.277)
 ・矢野『距離空間と位相構造』1.1.1距離関数(p.5)
 ・志賀『固有値問題30講』8講(p.63)



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(reference)

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目317バナッハ空間(pp.922-):ノルムとノルム空間の解説が含まれている;項目341ヒルベルト空間B.(pp.1006-7):内積の定義が含まれている.

【線形代数のテキスト】

ホフマン・クンツェ『線形代数学I』培風館、1976年。
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、4.1内積(p.114);。
佐武一郎『線形代数学(第44版)』裳華房、1987年、Vベクトル空間§6ベクトル空間の公理化(p.117)。
志賀浩二『数学30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年。
藤原毅夫『理工系の基礎数学2:線形代数』岩波書店、1996年。
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、4章§6計量線形空間(p.120)。
砂田利一『現代数学への入門:行列と行列式』2003年、§7.1-(a)内積 (pp.238-9).

【解析学のテキスト】

杉浦光夫『解析入門I』東京大学出版会、1987年、I章§4(pp.33-38)。
位相空間・距離空間についてのテキスト
松坂和夫『集合・位相入門』岩波書店、1968年、§5ノルム空間、Banach空間(pp.275-288)。
矢野公一『距離空間と位相構造』共立出版、1997年、1.1.1距離関数(p.5)。


【数理経済学のテキスト】

神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、§3.2.3(p.124)。