実n次元数ベクトル空間Rnにおけるノルムとノルム空間の定義
・定義:Rn上のノルム・ノルム空間、単位ベクトル、ノルムから定められる距離
・性質:ノルム空間と距離空間、単位ベクトル化
※Rn上のノルムの下位類型:ユークリッドノルム、変分ノルム、supノルム
※上位概念:実ベクトル空間一般におけるノルム空間
※計量実ベクトル空間Rn関連ページ:内積・計量実ベクトル空間の定義
※ユークリッド空間Rn関連ページ:ユークリッド空間Rn-内積・ノルム・距離/内積の性質/正規直交系・正規直交基底の定義/計量同型写像
※線形代数目次・総目次
定義:実n次元数ベクトル空間におけるノルム・ノルム空間
[神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.2.3(p.121-2);砂田『行列と行列式』§7.1(pp.241-2);松坂『集合・位相入門』§5-B例1(pp.277-8);矢野『距離空間と位相構造』1.1.1例1.3(pp.4-5)]
【舞台設定】
R:実数体
Rn:実n次元数ベクトル空間
v:実n次元数ベクトル。具体的に書くと、v1,v2,…,vn∈Rとして、v=( v1,v2,…,vn )∈Rn
【本題】
・任意の実n次元数ベクトル v=( v1,v2,…,vn )∈Rn にたいして、実数‖v‖を定める関係があって、
次の[要件1]〜[要件3]を満たすとき、
‖v‖を、vのノルムnormとよぶ。
[要件1] 非負性 任意のx∈Rnにたいして、‖x‖≧0 であって、
‖x‖=0となるのはxが零ベクトルである場合のみに限る。
論理記号で表すと、∀x∈Rn ( ( ‖x‖≧0 ) かつ (‖x‖=0⇔x=〇) )
あるいは、∀x∈Rn ( ( ‖x‖≧0 ) かつ (x≠〇⇒‖x‖>0) )
[要件2] 線形性 任意の∀x∈Rnと任意の実数aにたいして、‖ax‖=|a|‖x‖
論理記号で表すと、∀x∈Rn ∀a∈R (‖ax‖=|a|‖x‖ )
[要件3] 三角不等式 任意のx,y∈Rnにたいして、‖x+y‖≦‖x‖+‖y‖
※ただし、不等式左辺の+は実n次元数ベクトル空間に定義されたベクトル和、
不等式右辺の+は、実数の足し算。
論理記号で表すと、∀x,y∈Rn ( ‖x+y‖≦‖x‖+‖y‖ )
・様々なノルムが定義可能である。
たとえば、ユークリッドノルム、変分ノルム、supノルムなど。
・実n次元数ベクトル空間において単に「ノルム」といえば、ユークリッドノルムを指すのが普通。
・ノルムの定義された実n次元数ベクトル空間Rn、
ないし、
ノルム‖‖の定義された実n次元数ベクトル空間Rnにおける、
ノルムと実n次元数ベクトル空間の組(Rn,‖‖)
のことをノルム空間とよぶ。
※上位概念:実ベクトル空間一般におけるノルム、実ベクトル空間一般におけるノルム空間
定義:単位ベクトル
[砂田『行列と行列式』§7.1(pp.241-2);]
【舞台設定】
R:実数体
Rn:実n次元数ベクトル空間
v:実n次元数ベクトル。具体的に書くと、v1,v2,…,vn∈Rとして、v=( v1,v2,…,vn )∈Rn
‖v‖:ノルム空間Rnに定義されているノルム
【本題】
ノルム空間Rnにおける単位ベクトルとは、 ‖v‖=1を満たす実n次元数ベクトルvのこと。
定理:単位ベクトル化
[永田『理系のための線形代数の基礎』補題4.2.1(p.116);]
【舞台設定】
R:実数体
Rn:実n次元数ベクトル空間
v:実n次元数ベクトル。具体的に書くと、v1,v2,…,vn∈Rとして、v=( v1,v2,…,vn )∈Rn
‖v‖:ノルム空間Rnに定義されているノルム
【本題1】
任意の実n次元数ベクトルv∈Rn について、
vが零ベクトルでないならば、
「vのノルムの逆数(スカラーになる)」と、実n次元数ベクトルvとのスカラー積
( 1/‖v‖ ) v
は、
ノルム1の実n次元数ベクトルになる。
以上を論理記号でかくと、
∀v∈Rn ( v≠〇 ⇒ ‖ ( 1/‖v‖ ) v ‖=1 )
【本題2】
( 1/‖v‖ ) v をつくることを、vの単位ベクトル化という。
※どうして、‖ ( 1/‖v‖ ) v ‖=1 といえるのか?
・ノルムであるための要件1:非負性より、 v≠〇ならば、‖v‖>0
したがって、 v≠〇ならば、1/‖v‖ >0
・ ‖ ( 1/‖v‖ ) v ‖= ( 1/‖v‖ )‖v‖ ∵ノルムであるための要件2:線形性
=1
定義:ノルムから定められる距離
[神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.2.3(p.123);松坂『集合・位相入門』§5-A(p.277);矢野『距離空間と位相構造』1.1.1距離関数(p.5);志賀『固有値問題30講』8講(p.61);]
【舞台設定】
R:実数体
Rn:実n次元数ベクトル空間
x,y:実n次元数ベクトル。
具体的に書くと、x1,x2,…,xn∈Rとして、x=( x1,x2,…,xn )∈Rn
y1,y2,…,yn∈Rとして、y=( y1,y2,…,yn )∈Rn
‖x‖:ノルム空間Rnに定義されているノルム
【本題】
実n次元数ベクトル空間Rnに属す任意の実n次元数ベクトルx, yに対し、
d(x, y)=‖x−y‖
とおくと、d(x, y)は、Rnにおけるx, y間の距離の定義を満たす。
・d(x, y)=‖x−y‖ を、ノルムから定められる距離という。
※いろいろなノルムをつくりえるので、
いろいろなノルムに応じて、いろいろなノルムから定められる距離をつくりえる。
例:ユークリッドノルムから定められる距離、変分ノルムから定められる距離、
supノルムから定められる距離
※どうして、ノルムから定められた距離d(x, y)=‖x−y‖が距離の定義を満たすといえるのか?
→矢野『距離空間と位相構造』1.1.1距離関数(p.5);神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.2.3(p.123);
・d(x, y)は、ノルムの要件1:非負性により、Vにおけるx, y間の距離の要件(i)非負性を満たす。
・d(x, y)は、Vにおけるx, y間の距離の要件(ii) を満たす。
なぜなら、
任意のx,y∈Vにたいして、
d(x, y)=‖x−y‖=0⇔x−y=0 ∵ノルムの要件1:非負性
⇔x=y
・d(x, y)は、Vにおけるx, y間の距離の要件(iii) 対称性を満たす。
なぜなら、
任意のx,y∈Vにたいして、
d(x, y)=‖x−y‖
=‖−1(−x)−1y‖ ∵逆ベクトルの定義
=‖−1(−x+y)‖ ∵スカラー積のベクトルに関する分配則
=‖−1(y−x)‖ ∵ベクトル和の可換則
=|−1|‖y−x‖ ∵ノルムの要件2:線形性
=1‖y−x‖ ∵絶対値の定義
=‖y−x‖
=d(y, x)
・d(x, y)は、Vにおけるx, y間の距離の要件(iv) 三角不等式を満たす。
なぜなら、
任意のx,y,z∈Vにたいして、
d(x, z)=‖x−z‖
=‖x+〇−z‖ ∵零ベクトルの加法の性質
=‖x+(y−y)−z‖ ∵自らの逆ベクトルとの加法
=‖(x−y)+(y−z)‖ ∵ベクトル和の結合則
≦‖x−y‖+‖y−z‖ ∵ノルムの要件3:三角不等式
=d(x, y)+d(y, z)
定理:ノルム空間と距離空間
[神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.2.3(p.123);松坂『集合・位相入門』§5-A(p.277);矢野『距離空間と位相構造』1.1.1距離関数(p.5);志賀『固有値問題30講』8講(p.63);]
【舞台設定】
R:実数体
Rn:実n次元数ベクトル空間
x,y:実n次元数ベクトル。
具体的に書くと、x1,x2,…,xn∈Rとして、x=( x1,x2,…,xn )∈Rn
y1,y2,…,yn∈Rとして、y=( y1,y2,…,yn )∈Rn
‖x‖:ノルム空間Rnに定義されているノルム
【本題】
・実n次元数ベクトル空間Rnにノルムが定義され、ノルム空間(Rn,‖‖)が設定されているならば、
実n次元数ベクトル空間Rnの距離dを、「ノルムから定められる距離」によって定義することによって、
距離空間(Rn,d)を設定することができる。
つまり、
「ノルムから定められる距離」によって、ノルム空間(Rn,‖‖)はいつでも距離空間(Rn,d)と見なせる。
(reference)
日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目317バナッハ空間(pp.922-):ノルムとノルム空間の解説が含まれている;項目341ヒルベルト空間B.(pp.1006-7):内積の定義が含まれている.
線形代数のテキスト
ホフマン・クンツェ『線形代数学I』培風館、1976年。
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、4.1内積(p.114);。
佐武一郎『線形代数学(第44版)』裳華房、1987年、Vベクトル空間§6ベクトル空間の公理化(p.117)。
志賀浩二『数学30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年。
藤原毅夫『理工系の基礎数学2:線形代数』岩波書店、1996年。
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、4章§6計量線形空間(p.120)。
砂田利一『現代数学への入門:行列と行列式』2003年、§7.1-(a)内積 (pp.238-9).
解析学のテキスト
杉浦光夫『解析入門I』東京大学出版会、1987年、I章§4(pp.33-38)。
位相空間・距離空間についてのテキスト
松坂和夫『集合・位相入門』岩波書店、1968年、§5ノルム空間、Banach空間(pp.275-288)。
矢野公一『距離空間と位相構造』共立出版、1997年、1.1.1距離関数(p.5)。
数理経済学のテキスト
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、§3.2.3(p.124)。