計量実ベクトル空間の直交系・正規直交系の性質 : トピック一覧 

・定理:直交系からの正規直交系の生成/直交系・正規直交系は一次独立
・定理:ベクトル和のノルムの2乗/ベッセルの不等式 


【関連ページ】
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定理:直交系からの正規直交系の生成  

 [永田『理系のための線形代数の基礎』補題4.2.1(p.116);]
【舞台設定】
 R実数体R   
 V計量実ベクトル空間 
x,y〉:計量実ベクトル空間Vにおけるベクトルx,y内積   
 ‖x‖ :計量実ベクトル空間Vにおけるベクトルx内積により定まるノルム   
【本題】
ベクトルv1,v2,…, vkV直交系であるならば
ベクトルv1,v2,…, vkをそれぞれ単位ベクトル化した       
  
v'1 = ( 1/v1 ) v1 , v'2 = ( 1/v2 ) v2 , , v'k= ( 1/vk ) vk  
は、正規直交系である。
※なぜ?→単位ベクトル化
 

定理:直交系・正規直交系は一次独立  

 [砂田『行列と行列式』§7.1-(b)正規直交系(p.243)証明付;斎藤『線形代数入門』4章§6[6.1](p.121)証明付;
  永田『理系のための線形代数の基礎』補題4.2.2(p.116)]
【舞台設定】
 R実数体R   
 V計量実ベクトル空間 
x,y〉:計量実ベクトル空間Vにおけるベクトルx,y内積   
【本題】
1. ベクトルv1,v2,…, vkV直交系であるならばベクトルv1,v2,…, vk一次独立である。  
したがって、
2. ベクトルv1,v2,…, vkV正規直交系であるならばベクトルv1,v2,…, vk一次独立である。 
(証明)
一次独立の定義に遡って、
命題「 ベクトルv1,v2,…, vkV直交系であるならばベクトルv1,v2,…, vkV一次独立である」
をとらえ返すと、
ベクトルv1,v2,…, vkV直交系であり、かつc1v1+c2v2++ckvk=c1 , c2 , , ck R ならば
  c1 = c2 ==ck =0 」 
という命題にほかならないことがわかる。この命題が成り立つことを、以下で示す。
 
Step0仮定の確認 
 ・仮定
1v1,v2,, vk直交系
      つまり、
v1,v2,, vk …(仮定1-1)    
          
任意i,j=1,2,,kについて、ij ならば vi,vj =0 …(仮定1-2)  
 ・仮定
2c1v1+c2v2++ckvk=c1 , c2 , , ck R )    
 
Step1 c1 =0 の証明  
 ・
c1v1+c2v2++ckvk , v1 = , v1   ∵仮定2 
              
=0       ∵零ベクトルとの内積は0   
 ・
c1v1+c2v2++ckvk , v1 =c1v1 , v1 c2v2, v1 +…+ckvk , v1  ∵内積の要件1:線形性1 
              
=c1v1 , v1 c2v2, v1 +…+ckvk , v1  ∵内積の要件2:線形性2 
              
=c1v1 , v1    ∵仮定1-2  
 ・上記
2点より、c1v1 , v1 =0   
  ところが、仮定
1-1内積の要件3より、v1 , v1 ≠0 であるから、
  
c1 =0 。
 
Step2 c2 =0 の証明  
 ・
c1v1+c2v2++ckvk , v2 = , v2   ∵仮定2 
              
=0       ∵零ベクトルとの内積は0   
 ・
c1v1+c2v2++ckvk , v2 =c1v1 , v2 c2v2, v2 +…+ckvk , v2  ∵内積の要件1:線形性1 
             
=c1v1 , v2 c2v2, v2 +…+ckvk , v2  ∵内積の要件2:線形性2 
              
=c2v2 , v2    ∵仮定1-2  
 ・上記
2点より、c2v2 , v2 =0   
  ところが、仮定
1-1内積の要件3より、v2 , v2 ≠0 であるから、
  
c2 =0 。
 
 
 
 
 
Step-k ck =0 の証明  
 ・
c1v1+c2v2++ckvk , vk = , vk   ∵仮定2 
              
=0       ∵零ベクトルとの内積は0   
 ・
c1v1+c2v2++ckvk , vk =c1v1 , vk c2v2, vk +…+ckvk , vk  ∵内積の要件1:線形性1 
             
=c1v1 , vk c2v2, vk +…+ckvk , vk  ∵内積の要件2:線形性2 
              
=ckvk , vk    ∵仮定1-2  
 ・上記
2点より、ckvk , vk =0   
  ところが、仮定
1-1内積の要件3より、vk , vk ≠0 であるから、
  
ck =0 。
以上によって、仮定1,仮定2のもとで、つねに、c1 = c2 ==ck =0 が成り立つことが示された。



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定理:ベクトル和のノルムの2乗  

 [砂田『行列と行列式』§7.1-(b)例題7.12(p.243) ]
【舞台設定】
 R実数体R   
 V計量実ベクトル空間 
x,y〉:計量実ベクトル空間Vにおけるベクトルx,y内積   
 ‖x‖ :計量実ベクトル空間Vにおけるベクトルx内積により定まるノルム   
【本題】
ベクトルv1,v2,…, vkV直交系であるならば
  
v1+v2++vk , v1+v2++vk =v1 , v1 v2 , v2 +…+vk ,vk  
・上記の命題を、
内積により定まるノルムを使って書きなおすと、    
  
ベクトルv1,v2,, vkV直交系であるならば
   
v1+v2++vk2v12v22+…+vk2     
※なぜ?  
 内積の要件1:線形性1と、v1,v2,…, vk直交系であるがゆえにij ならば vi,vj =0 
 による。      
 


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定理:ベッセルの不等式

   [砂田『行列と行列式』§7.1-(b)正規直交系(p.243):証明付 ]
【舞台設定】
 R実数体R   
 V計量実ベクトル空間 
x,y〉:計量実ベクトル空間Vにおけるベクトルx,y内積   
 ‖x‖ :計量実ベクトル空間Vにおけるベクトルx内積により定まるノルム   
【本題】
ベクトルv1,v2,…, vkV正規直交系であるならば、 
任意のベクトルxVにたいして、次の不等式が成り立つ。
   x , v1 2x , v2 2+…+x , vk 2x2     


(reference)

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目341ヒルベルト空間C.正規直交系(pp.1006-7)
線形代数のテキスト
ホフマン・クンツェ『線形代数学I』培風館、1976年。
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、4.2正規直交基底の存在と計量同型(p.116-);。
佐武一郎『線形代数学(第44版)』裳華房、1987年。
志賀浩二『数学30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年。
藤原毅夫『理工系の基礎数学2:線形代数』岩波書店、1996年。
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、4章§6計量線形空間(p.121-)。
砂田利一『現代数学への入門:行列と行列式』2003年、、§7.1-(b)正規直交系 (c)正規直交基底 (pp.242-7).

解析学のテキスト
杉浦光夫『解析入門I』東京大学出版会、1987年、I章§4(pp.33-38)。
数理経済学のテキスト
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、§3.2.3(p.124)。