■ 2010年に読んだ本
  
2010年12月 「猛スピードで母は/長嶋有」 (文藝春秋・文庫)
2001年下半期の芥川賞受賞の表題作と、その前回に候補になった「サイドカーに犬」の二篇を収録。初読の作家さんでしたが、いやはや参りました。これだけ淡々とした題材と展開でありながら、相当に読ませます。僕は「サイドカーに犬」のほうにより好印象を持ちました。小学4年の女子・薫が語り部で、ある日母親が家を出て行き、かわりに洋子さんという若い女性が料理を作りにくるようになった。薫と洋子さん、そして父や弟と一緒に過ごした一夏のほんの短いお話ですが、最後の一行がめちゃくちゃさわやかなんですよ。おかげで読後感がすごくいいです。
 表題作のほうも同じような感触の物語で、こちらは小学生男子とその母親が描かれます。この母親も離婚していて、一人息子とともにけなげに生きている。ただ、いかにも芥川賞対策を考えて書きましたーっていう感じがして、言い回しもなんだか抑えめな気がするし、いかにも社会問題も盛り込んであります風の息子のいじめについては別にいらなかったんじゃないかと思いました。ただ、芥川賞の選評にもあったのですが、非常に巧い省略のしかたをするなあと思いました。さっと一行ですませる鮮やかさというのは芸だと思います。なので両作ともに文庫本80ページほどの短篇なのに、豊かな読書をさせてもらったという感想が残ります。

 ただひとつ、純文学系で好まれる人物設定はすこしワンパターンな気がします。前に読んだ「八月の路上に捨てる/伊藤たかみ」にしても「イッツ・オンリー・トーク/絲山秋子」にしても、中心人物として描かれているのは、“強い”女性ばかりということ。強い、というのは社会的地位や名声とは関係なく、自分の思うまま好きに生きて迷いがない。すっきりさばさば、常識や周りの目に構わず堂々としている。そんな女性ばかりです。「羊をめぐる冒険/村上春樹」の感想にも書いた「超人」と同じです。NHKの朝の連続ドラマに出てくる女性、何があってもくじけず前向きに生きる女性像と同じものを感じます。こういう人がいて、現実世界でがんばっていることを描きたいとか、そういう人物像を読んで元気をもらいたいという人がいるのもわかるのですが、僕にはリアリティが感じられません。人はもっと迷うでしょう。自信も持てないでしょう。そういう物語を読みたいと思うのです。
文学賞メッタ斬り」「文学賞メッタ斬り!リターンズ」)につづく第3弾。前作までと同様、2007年における各文学賞受賞作の評価、選考委員の評価などにくわえ、2007年の文学賞受賞作品の中の一等賞を決める「文学賞メッタ斬り」大賞の第2回も掲載されています。「リターンズ」が3年分の考察だったのに対し、今回は1年分なのでコンパクトにまとまり、読みやすくなった気がします。各文学賞についての考察も、前作より面白いと感じました。また、前作での芥川賞・直木賞の考察は、先に選考結果とその感想が述べられ、後から事前の予想内容が述べられるという駄目駄目な構成だったのが、今回はちゃんと順序が逆に、つまり時系列的・ストーリー的に順当な構成になっているのも読みやすく、面白かったです。ただ、受賞作について好き勝手言い放題という芸風にも飽きてきたので、さほど興奮するような内容ではありませんでした。
前作「文学賞メッタ斬り」(書評はこちら)につづく第2弾。前作同様、2004〜2006年における各文学賞受賞作の評価、それから選考委員の評価が述べられたうえ、今回はさらに作家島田雅彦氏との鼎談、3年間計6回に及ぶ芥川賞・直木賞の予想など、内容が厚くなっています。極めつけは、この3年間の文学賞受賞作品の中でもっとも優秀だった作品を、(W杯形式で!)決定するという「文学賞メッタ斬り」大賞という企画もあります。ただ、前作でも思ったのですが、ここで俎上に上がっている作品のほとんどを僕が読んだことがないため、どれだけほめられようがけなされようがぴんと来ず、話に乗っていけないということはあります。それに、さすがに今回は内容が多すぎるかなとも思いました。たくさん本を読んでいる人にはお勧めです。
2010年10月 「5分間集中トレーニング/須崎恭彦」 (ダイヤモンド社・単行本)
本業は獣医さんなのに、速読術や能力開発術に長けた著者による、まさにタイトルどおりの本です。集中したいのに集中できない、それは集中力がないのではなく、集中力が「発揮できていない」だけだと著者は言います。そしてその具体的な方法が書かれています。この本を読めば、よくわからないけどとりあえずやってみることはできます。僕自身、ほんの少ししか実践していないのですが、なかなか効果はありそうです。
2010年 9月 「イギリスはおいしい/林望」 (文藝春秋・文庫)
今年の1月にイギリスに行った影響で、タイトルを見た瞬間に手に取らないわけにいきませんでした。ぱらぱらめくってみると、イギリス料理について書いてあるようで、迷わず購入に至りました。そして読了した感想はというと……。
 本書の評判はおしなべていいようですが、僕には少し首をひねる部分もありました。イギリス料理について紹介しているにも関わらず、全体の80%ぐらいは、イギリス料理がいかにまずいかという言及にページが割かれています。著者からすれば、まずいものも含めてイギリス料理であり、料理の際の会話などを含めたイギリス社会の風習は賞賛に値する、という感じなのでしょうが、最近イギリスで美味しいものをたらふく食べてきた僕からすれば、納得しかねる部分です。
 何回か書いたことがありますが、そもそも僕は、「イギリス料理はまずい」「フランス人は冷たい」「名古屋の人はケチだ」式の主張は、まったく信用していません。「イギリス料理とは〜」という主張ですが、イギリスに何千あるか知れない店の料理、何十万何百万あるか知れない家庭の料理について、ひとくくりで美味しいとか不味いとか言えるわけがない。自分のわずかな経験だけで一般化して語るのはナンセンスなことです。自分が出会った料理がたまたま不味かったというだけで、イギリス料理は云々、などと大上段に構えられたら堪りません。現に僕は、イギリスでたくさんの美味しい料理に出会いました。

 本書では、パブの素晴らしさについて書かれていて、その部分は共感できるし面白いです。まあここも、自分の良い経験だけで、イギリスのパブは云々、となっているのでどうかとは思います。要は、「自分の行ったパブは良かった」というだけでいいと思うのです。その意味で、僕らがイギリスで入ったパブは本当にビールや料理が美味しく、店員の接客もよく、雰囲気も素晴らしかったです。他のパブのことは、行ったことがないので知りません。

 様々なイギリス料理について紹介されている点は、なかなか興味深いです。著者は、自分が興味を持った料理についてはとことん追求したくなるたちらしく、料理のレシピをなんとか調べ上げて紹介している点も評価できます。ただそれも結局は、自分の知識と料理の腕前を自慢したいだけのような……。
2010年 9月 「告白/湊かなえ」 (双葉社・文庫)
珍しく最近の作品(とは言ってももう2年前のものですが)に手をつけました。2008年度本屋大賞を受賞し、各所で大きな評判となった本作は、ずっと気になっていました。あらすじからして、以前に読んだ「そして粛正の扉を」(2002年3月の感想)を思い起こしましたが、読後感はかなり違いました。
 本作はもともと、第1章が短編として発表されました。女教師が、自分の娘が死んだことを理由に学校を辞めることを生徒の前で話す、そのシーンだけで構成されています。彼女の話はやがて思いがけない告白に至ります。娘を殺した犯人はこのクラスの中にいる、と。
 確かにこの章だけでもインパクトのある内容です。そこに、別の人物の視点で描かれた第2章以降が付け加えられ、これが単なる付け足しや焼き直しに終わらず、映画的な派手な展開こそないものの意外な展開が次々に仕掛けられていて、作者の想像力の豊かさを感じさせてくれます。ただ、文章は読みやすさこそあれ、やはり昨今のミステリー作家にありがちな味気ないものです。また、リアリティを考え始めると首を傾げる部分も多々あります。そのあたりの物足りなさを除けば、最近読んだミステリー作品の中では群を抜いて面白かったです。後味が悪いという評判も、僕にはそれほど気になりませんでした。
2010年 8月 「向日葵の咲かない夏/道尾秀介」 (新潮社・文庫)
今や人気作家の一人となった道尾秀介氏、初読です。なかなかの問題作ですね。ミステリーなのかホラーなのかSFなのか判断がつかないという意見もあるかと思いますが、僕はそこにそれほどこだわりはありません。要は、その物語世界の中で楽しめればいいだけの話です。面白いか面白くないか、基準はそこだけです。その点でいうと、本作は、まあそこそこ、楽しめました。また、内容が悲惨すぎるという評判も、僕にはそんなに気になりませんでした。

 最初、読み始めた時は、やっぱり現代ミステリー作家特有の文章だなあと思いました。読みやすいが味気なく、説明過多で描写がほとんどない、つまりは下手な文章に、嫌気がさしかけていました。また、超自然的な設定はいいとしても、人物の描き分けが下手だなあ、会話が下手だなあという不満がずっとつきまとっていました。そう思われる方は多いと思いますが、是非途中で投げ出さずに最後まで読んでみることをお勧めします。ああこれはこういうことだったのかー、という衝撃は味わえると思います。二転三転するストーリーが、ちょっとやりすぎではありますが。
2010年 7月 「倫敦塔・幻影の盾/夏目漱石」 (新潮社・文庫)
漱石の初期短編七作が収められています。「こころ」や「坊ちゃん」で親しんだ印象で本書を取り上げると、少々戸惑うはめになるかもしれません。なかなかの難敵です。「倫敦塔」と「カーライル博物館」は小説というより紀行文であり、大きな事件は起きず淡々とした描写が続きます。「一夜」は、古風な日本語で読みづらい。「幻影の盾」「薤露行(かいろこう)」は、イギリス幻想文学を模した題材と文章で、僕はこれが一番苦手でした。「琴のそら音」「趣味の遺伝」がかろうじて現代文学として普通に読めて、やはりこの二作がもっとも楽しめました。
 とくに「趣味の遺伝」が気に入りました。反戦を描きながら男女の関係の機微にも分け入り、ときには「謎の女」を登場させてミステリー的興味も引き起こさせる、読み応えたっぷりの一編です。それ以外の作品も、読みづらくはあってもやはりそこは漱石、うーむとうならされる文章の巧さ、味わい深さは天下一品です。
2010年 6月 「発酵道/寺田啓佐」 (河出書房新社・単行本)
僕はこの本を、酒に興味があるないに関わらず、すべての人に勧めたい。素晴らしい本です! ときおり話を広げすぎるきらいはありますが、酒造りを通して人生の大切な部分が見えてくる、しかもまったく難しい話ではなく、楽しみながら読めて深い思考にたどりつくところがまた素晴らしい。

 家の近くにある自然食品店に、「寺田本家」という造り酒屋の日本酒が置かれています。4月に、この店の主催で、「寺田本家」当主の寺田啓佐さん(本書の著者)の講演会が開かれ、行ってきました。講演会はめっぽう面白く、そこで供された日本酒は、酒の飲めない僕でもおいしく感じられ、飲んだあとでも気持ち悪くなったり頭痛がしたりということはありませんでした。(普通の酒を飲めば、そういう症状が必ず僕には出ます。)

 本書は、講演会の内容をさらに詳しく紹介したものです。一般に売られているほとんどの日本酒が、いかにまがいものであり、いかにまずいものであるか、それはどこに問題があるのか、といった点から始まり、そこに気づいた著者が、本物の酒造りに挑戦する様が克明に描かれます。
 昔はどこの酒屋でもおこなわれていた手法が、効率を追求するあまり、ほとんどおこなわれなくなった。かわりに、より工程が単純化され、自然の旨みの替わりに添加物が添加された酒が、いまや市場のほとんどを占めている。一時は寺田酒造も時代の波に乗り、不本意ながらも周りと同じような酒を造っていました。それが、著者自身の大病をきっかけに180度変わることになります。手間がかかるけれど意味のある工程を復活させ、添加物をやめ、使う米も無農薬米に変える。さらに、常識では無理とされた玄米での酒造りにまで挑戦し、苦難の末、みごと完成に至ります。

 タイトルにあるとおり、本書を貫くテーマは「発酵」です。このテーマの中に、酒造り、食べ物全般の考え方、人としての生き方、さらには地上で様々な生き物と共生していく大切さまで、深くて広い洞察が含まれています。
2010年 5月 「八月の路上に捨てる/伊藤たかみ」 (文藝春秋・文庫)
第135回芥川賞受賞作。ずっと女性作家だと思っていたら男性でした。まあいずれにせよ褒められた小説ではないと思います。何故に本作が芥川賞を獲るのかわかりません。
 ストーリーがつまらないから、ということではありません。主人公は、自動販売機のジュース補充のアルバイトをする青年で、きっぷのいい同僚女性との仕事風景と、青年が結婚してから離婚に至るまでの回想が交互に語られる、それだけの話です。それでも、ストーリーだけ取り出すと他愛もないのに読んでみると無類に面白いという小説はたくさんあります。要は描写の力なのです。この小説では、そこが決定的に弱い。目につくのは説明文の多さ。語らずに済ませていいところを全部残さずに語ってしまい、読む者の空想を膨らませる余地がない。よって、広がりや深みが出てこない。はっとする表現がなくもないのですが、全体的に平板で味のない文章が続きます。書評家の豊崎由美氏によれば、本作はさておき、第一人称視点で書かれた「ドライブイン蒲生」はうってかわって良作とのことです。
2010年 4月 「地球(ガイア)のささやき/龍村仁」 (角川書店・文庫)
2月に読んだ「ガイアシンフォニー間奏曲」(感想)に続き、同著者、龍村氏のエッセイ集です。「ガイアシンフォニー間奏曲」と内容がかぶるところもありますが、こちらは映画だけの話にとどまらず、より一般的・包括的な内容となっています。人の性についてかかれた「神の仕掛けた罠」という章にはちょっと疑問を感じないではなかったのですが、実はその後に続く話にリンクする意味合いもあって、それならばと納得することができました。本書を読むと、生命とはなにかという根元的な問いかけに対し、ある程度明確な答えが見えてきそうです。
2010年 4月 「もう牛を食べても安心か/福岡伸一」 (文藝春秋・新書)
同著者によるベストセラー、「生物と無生物のあいだ」(感想)は最高に面白かったですが、こちらもめっぽう面白い作品でした。狂牛病について、その発端からこれまでの経緯が一通りわかるばかりか、「生物と〜」で展開された動的平衡論を用いた、著者ならではの解釈がなんとも素晴らしいです。
 人がタンパク質を消化する際には、分子単位まで粉々にすることで、元の生物の情報をなくし、それから体内に組み込まれていきます。これにより、異常なタンパク質を摂取したとしてもすぐに感染は起きない。なのになぜ狂牛病は広まり、種の壁を超えて牛から人間に感染するようになったのか。このあたりが実に鮮やかに解き明かされます。完全な免疫機能が生後まもなくの授乳期間だけ機能停止をすることや、本来草食である牛が、牛から作られた肉骨粉を食べて発症したことと、人食をおこなっていた部族の間にだけ発症するクールー病という同種の病気との類似性など、ダイナミックに論が展開されます。プリオン説についての考察も丁寧で、プリオンの信憑性について、冷静に客観的に書かれています。

 ただ、最終的な結論については、すこし納得しかねます。著者が本書を通じて訴えている主張は、これだけ未知の部分が多く人への危険性もある、だから全頭検査を中心に徹底的な検証が必要である、というものです。確かに未知な病気で、人も死んでいます。だからといって闇雲にコストをかけて検査しなければならないのか。僕はやはり、病気の発生率によると思うのです。たとえば10人に1人がこの病気にかかる可能性があるとなれば、大規模な対策は必要でしょう。Wikipediaによれば、2008年6月時点で、全世界での死者は163名だそうです。つまりある一人の人間がこの病気で死亡する確率は、限りなくゼロに近いものです。そのために徹底的な検証が必要だ、となれば、世の中には無数の病気があるわけで、あらゆる食物に様々な危険性があります。著者の主張によれば、それらすべての検証をおこなわなければならないことになり、そんなことは不可能です。
 何をするにもコストはかかるのです。100%完全な対処は望めない。そこで、どのあたりで良しとするかという議論をしない限り、すべては空論になってしまいます。

 本書は2004年に書かれた本ですが、それ以降も狂牛病についてはさほど大きな発展はなく、本書の内容は今でも有効だと思います。
ホームズもの短編集第4弾。これまでずっとワトスン先生が語り部となってきましたが、なんとホームズ自身が筆をとったという設定の話や、三人称で書かれている話が掲載されていることなどから、なんとなくネタ切れ感が見え始めた気がします。それでも、子供に噛みつき血を吸う妻の謎を解く「サセックスの吸血鬼」、ガリデブという奇妙な名の男を捜す「三人ガリデブ」等、なかなか波乱に富んだ物語が楽しめます。ちょうどこの年の1月にイギリスに旅行したため、ロンドンや周辺地域で知っている地名が出てくることでも楽しんで読めました。
2010年 2月 「ガイアシンフォニー間奏曲/龍村仁」 (インファス・ムック)
2か月前の読書感想で、星野道夫さんの「旅をする木」を取り上げました(こちら)。9月に観た映画「地球交響曲〜ガイアシンフォニー」を観て触発された旨をそこに書きましたが、本書はその映画の監督をされた龍村氏の著書です。これまた星野さんの著書と同様、深い感銘を受けました。
 映画は通常の映画館で上映されることはほとんどなく、映画の主旨に賛同した人達により自主上映として各地のホールなどで上映されており、それは今もずっと続いています。
 「ガイア仮説」という、地球全体を一つの大きな生命体ととらえる考え方があります。我々人間や動物、植物などはすべてつながっていて、それが時にとてつもないパワーを生み、信じられない奇跡を呼び起こす。映画はそうした実例をたどりながら、理屈ではなく映像を通してガイアを実感できるものとなっています。本書は、映画撮影にまつわるエピソードを中心にまとられたものですが、映画を観ていなくても十分に理解できる内容です。

関連リンク:
地球交響曲(ガイアシンフォニー)公式サイト
当サイト内「ガイアの思想/田坂広志編」感想
   〃  「地球生命圏―ガイアの科学/J・E・ラブロック」感想
いまやテレビにラジオに雑誌にと各方面で大活躍の映画評論家、町山智浩氏の著書。氏の映画解説は本当に面白くて、ラジオ番組「TBSストリーム」や「キラ・キラ」など、僕もポッドキャストでいつも楽しみに聴いています。本書はラジオで話されたネタが主な内容で、いちど放送を聞いた者にとっては真新しさはなく、また、氏の書く文章はしゃべりほどに面白くはありませんでした。やはりしゃべりの人なんだと思います。実際、氏の紹介する映画も、実際観てみるとその映画解説ほどには面白くない、ということが多々ありました。
2010年 1月 「ナチュラル・ウーマン/松浦理英子」 (河出書房新社・文庫)
松浦理英子、初読。代表作の一つであるという本作、なかなか興味深く読みました。女性同士の恋愛を描く連作短編3本が、時間の連続性をあえてばらばらにして配置されています。文章に癖はなくて読みやすいけれどもそのぶん味わいに欠けるかなあと思っていたら、読み進めるうちにじわじわと味が出てきました。とくに大きな事件が起きるわけでもなく、主人公を中心にした恋愛模様がぐだぐだと続いていくだけなのに、ひきこまれる魅力があります。過激な性描写もあって、万人向けでないかもしれません。また別の作品を読んでみたいと思いました。