Message for you

                          

文月7月・・・

この間、と言ってももうかなり前になるのですが、「めぐりあう時間たち」と言う映画を見てきました。
映画事情にさほど詳しくない私には、この映画がどの程度話題だったのかは、わからないのですが。
興味を惹かれたのは、テレビでのCM、川へと入って行く女性、そしてベッドに横たわっている女性の周りに、まるで浸水したように水が溢れてくるシーン・・・ いったい、この映像は何を意味しているのだろう? どんな映画なのだろう?と思ってしまったのでした。

たまたま、久しぶりに会うことになった友達と「雨の時期だし、映画でも見ようか」と言うことになり、何の映画にしようかと言う相談に、まっさきにこの映画を挙げていました。
すると友達も「あ、私もそれがいいと思っていた」と・・・やっぱりね(笑)
長年の付き合いなので、だいたい好みはわかっていますから。

お互い、ほとんど何も予備知識なしのまま、見てしまいました。
見終わって、友達が「私、泣いちゃった」と・・・よかった、私もだ〜!(笑)
特に、いわゆる「お涙頂戴」的な映画ではなかったと思うのだけど。なぜか、ひとつひとつのシーン、ヒロインたちの心情が妙に胸に迫って、気がつくと、暗闇の中で必死にハンカチを探していました(^^;

内容は、あまりネタばれになってはまずいので(笑)、簡単なところだけ。などと言いつつ、かなりネタばれになりそうですが(^^;
知りたくない方は、読まないで下さいm(__)m
ヒロインは3人。女流作家ヴァージニア、ごく普通の主婦ローラ、編集の仕事をしているクラリッサ。
それぞれ時代も、住む場所も違う3人の女性に絡んでくるキーワードは「ミセス・ダロウェイ」。

これは、映画の中でヴァージニアが、今まさに執筆している最中の小説の主人公の名前。ヴァージニアは神経を病み、そのためにロンドンを離れて田舎暮らしをしています。
やさしい夫レナードと穏やかな田舎の風景、小説を書く才能。
画面に登場するヴァージニアは、いつも神経が張り詰め、崩れそうになる自分と戦いながら、必死に小説を書こうとする姿が痛々しいほど。
映画では、いきなりヴァージニアが川へ入ろうとするシーンが流れます。ポケットに石を詰め、川の中へ入って行こうととする彼女に、「あ、これは・・・」とドキッとします。
どうなってしまうのだろう、と思う間もなく、川は彼女の体を包み、押し流して行く・・・ そこから、回想シーンに入ります。

一方、別の時代では、ローラがベッドで本を読んでいます。それがヴァージニアの書いた「ダロウェイ夫人」の小説。
彼女には、朗らかな夫とかわいい男の子がいて、いかにも穏やかな家庭の主婦。けれど、やはりローラも、まるでむき出しの心を、どう取り繕って「いい奥さん」を演じようかと苦しんでいるように見えます。
その日は、夫の誕生日・・・子供に「パパのためにバースディ・ケーキを作りましょう」と言いながら、上の空の気持ちを必死に繋ぎ止めようとするローラ。
平穏なこの暮らしから、逃げ出すことばかりを考えているようなローラ・・・傍目には、何の不自由もなく見えるローラが、実は息が詰まりそうなほど不幸らしい、と見ている私まで切ない気分になってきます。
彼女は、実際に逃避を試み、断念し、そして・・・

もう一人のヒロイン、現代のニューヨークに住む、いかにもキャリアウーマンらしい知性と行動力を感じさせるクラリッサ。
これは予備知識のなかった私が後で知ったことだけど、ヴァージニアの書いていた「ダロウェイ夫人」の主人公のファーストネームがクラリッサなのだそう。
同じ名前だと言うことで、彼女は恋人(?)のリチャードから「ミセス・ダロウェイ」と言うニックネームで呼ばれています。
エイズに侵されたリチャードの書いた小説がある賞を受け、そのパーティの準備をするクラリッサ。
常にテキパキと物事を運んで行く彼女もまた、どこかとても張り詰めた感じが漂います。何かを、これからもしかしたら起こるかもしれない何かを恐れているような感じ・・・

こうして、3人のそれぞれの一日が、「ミセス・ダロウェイ」と言うキーワードと共に織り成されて行きます。
ごく普通のようでいて、特別な一日・・・ その中に、繊細で、刹那的な鮮やかさをも感じさせる彼女たちの心が揺れ動い
て見える。
単純にわかりやすい、とはとても言えないけれど、深みのある、不思議な余韻に浸ってしまう映画でした。
幸せと言うのは、いったい何なのだろう? その価値を認めるのは、自分以外誰もいない。傍目に見える幸せなど、本人にとっては意味がないのかもしれない・・・そんなことを、ふと思ってしまいました。

映画のおしまいの方で、ローラが言います。
「後悔はずっとしていた。けれど後悔しても何にもならない。私は『生』が欲しかった、『死』ではなく・・・」
正確ではないけれど、こんなニュアンスだったと思います(^^;
映画を見終わった私には、このローラの生き方が、一番壮絶に思えたりもしたのですが・・・
ものすごいネタばれです、ごめんなさいm(__)m
実はローラは結局幸せそうに見えた家庭から逃げ、一人で生きることを選んでいたのだと、最後にわかるのです。
彼女にとって、家庭の中で生きることが、まるで『死』のように思えたと言うこと、そのためにすべてを捨ててしまい、しかも誰よりも長く生き残ってしまったと言うこと。これらを踏まえた上での彼女の言葉が、ずしっとのしかかってきました。

さて、あなたにとっての『生』とは?


平成15年7月1日

                                                        



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