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霜月11月・・・

今月はいきなり漫画の話です(笑)
漫画、もちろん読むのは好きなのですが、決して詳しいとは言えません。
たまたま、何かのきっかけで知り、面白そうと思ったものは買ってみるか、はたまた友達が「これ面白いよ」と貸してくれるか、そのどちらかのパターン。
ですから、かなり有名と思われる漫画でも、「タイトルは知っているけど、読んだことない」と言うことが多いんですねえ(^^;

さて、今回話題にしたいと思ったのは、少し前に買った池田理代子さんの『聖徳太子』と言う漫画です。
池田理代子さんと言えば、かの有名な『ベルサイユのバラ』! さぞかし聖徳太子も美しく描いて下さるだろう、と言う期待大ですよね(笑)
ある年代以上では、聖徳太子を描いた漫画と言ったら山岸涼子さんの『日出処の天子(ひいづるところのてんし)』を思い浮かべる方も多いのではないかと思います。珍しくも、これは私も読んでいます。友達から借りたのでした。と言うか・・・しまった、まだ借りっぱなしだった(^^; ○○さん、ごめん〜〜、と心の中で詫びながらm(__)m

で、この『日出処の天子』、髪をみずら(真ん中から分けて、顔の両側でくるりんと輪にするのです)に結い、花飾りをつけた、少女の如き見目麗しき聖徳太子(いえ、まだ厩戸皇子の呼び名ですね)が登場します。
人にはない不思議な力と、博士も顔負けの聡明さを持つ皇子・・・と、ここまではいいのですが、このお話、実はかなり全体的に「ぶっ飛んでいる」と言っても過言ではないと思うのです(^^;
聖徳と言うくらいだから、徳の高い聖人君子と言うのが、従来のイメージ。でも、ここに登場する厩戸皇子、確かに神秘の力を操ることができるけれど、むしろイメージとしては、魔性と言う言葉の方が似合いそうです。
表面は穏やかな微笑を湛え、冷静にして高貴な皇子ですが、その内面はかなりエキセントリック。仏の清浄な世界をも、魑魅魍魎のおどろおどろしい世界をも、どちらも見てしまう。人に知られぬところでは、かなりダーティなことにもこっそり手を染めます(暗殺とかね)
冷たく残酷な面さえ持ち、一見悪とも取られてしまいがちな厩戸皇子から、なんとも言えぬ切ない透明感が漂うのは、ひとえに作品の最初からおしまいまでを貫く、彼の救いがたいほど深淵な孤独のため。
家族にさえ、ほとんど心を開かない皇子が、その心の奥でただひとつの愛を悲しいほど求め続けている姿に、つい肩入れしてしまうのです。

他の登場人物も、かなり俗世的な欲や業に振りまわされている人が多い。その意味ではリアル、それでもそれがあまりどぎつく見えないのは、山岸さんのさらりとした絵柄のためかもしれません。
たぶん、この『日出処の天子』かなりファンの方がいらっしゃるものと思います。

今回の池田さんの『聖徳太子』、正直なところ、『日出処の天子』との比較にも興味がありました。
ここでの厩戸皇子、みずらの髪も花飾りも、そして少女の如き麗しさも健在!(笑)
仏教に深い造詣を持ち、やはり神秘な力も持ち合わせます。もっとも、それは身近な人の死を予見してしまうと言う、悲しいものであったりするのですが。
『日出処〜』と決定的に違うのは、この厩戸皇子には魔性が微塵も感じられないところ。
家族や友人に対する深い愛情、そしてすべての人への平等な慈悲の心・・・国をよくしようとする高い理想を持つ、善政の人です。たぶん・・・この厩戸皇子の方が実像に近いのでしょうね。
それに準ずるように、周りの人たちもそれぞれのひたむきさが前面に出ている感じ。よく言えば理想的な話になっているのかな。

ところが・・・その中の数人に関しては、まるでわざと狙ったかのように、『日出処〜』とまったく逆の人間性に描かれている人物がいるのです。
もちろん、その先鋒は厩戸皇子なのですが、他にも『日出処〜』で、唯一厩戸皇子が心を許す蘇我毛人(そがのえみし)、穏やかでおおらかで誠実、善人の見本のようだった毛人が、こちらでは強烈な意志と野望、残忍性さえ持った、濃〜い人物になっている(^^;
清らかでか弱く可憐な美女、泊瀬部大王(はつせべのおおきみ)に見初められ、無理やり妃に望まれる石上斎宮(いそのかみのさいぐう)布都姫(ふつひめ)も、ここでは滅ぼされた一族の復讐を誓う、したたかさを持った女性に描かれています。
もっとも蘇我毛人に関しては、蘇我氏と大王家との因縁やら、聖徳太子の息子である山背皇子の一族すべてを死に追いやるのが毛人の息子、蘇我入鹿と言うことも考え合わせれば、これまた池田さんの描かれた毛人像の方が真実に近いのかもしれないとも思えるのですが(^^;

同じ人物なのに、作者によってまったく別人格になってしまう、ある意味これが歴史ものの面白さかもしれません。
歴史の中に登場する人物は、実像は本当は誰にもわからない。たとえ何らかの歴史書が残ったいたとしても、書いた人の立場により、いくらでも人物像は変わってきます。
だからこそ、想像の余地がある。自分なりの解釈で、自分だけの人物像を作り上げることもできる。
もしかしたら、まったく見当違いのこともあるかもしれないけれど、それはそれ(笑)
書く人にとっては・・・そして、読む人にとっても、真実ももちろん気になるところではあるけれど、それにも増して、いかに魅力的にその人物が描かれているか、と言うところは大きいと思ってしまいます。

今回の厩戸皇子に関しては・・・どちらの厩戸皇子も魅力的でした。インパクトでは、あそこまで独創的で他に類を見ないような厩戸皇子を創造した山岸さんに軍配、と私は思っていますけど、でも読み進んで行くうちに、慈悲深く凛々しい池田さんの厩戸皇子も、十分魅力的に見えてきます。さすが、『ベルバラ』でオスカル・フランソワを生み出した作者!(笑)

そんなわけで、またしても飛鳥の世界へと浮遊してしまったりする今日この頃です(^^;
さて・・・ みなさんは歴史上の人物、誰がお好きでしょう? どんなイメージに惹かれるのでしょう?



2002年11月1日
                                                        



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