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Wisteria

藤の出てくる物語や詩、漫画などをご紹介しています。

藤

マメ科の落葉つる性植物

〔花期〕4月〜6月

〔花言葉〕あなたを歓迎します

春から初夏にかけて、長さ30センチ〜60センチぐらいの房を下垂させ、淡い紫色の蝶の形の花を多数つける。桜などともの日本の代表的な花の一つ。

 

<古典>


『伊勢物語』 第八十段

むかし、おとろへたる家に、藤の花植へたる人ありけり。三月のつごもりに、その日、雨のそほふるに、人のもとへおりて奉らすとてよめる。

 ぬれつつぞ しゐて折りつる 年のうちに 
    春はいくかも あらじと思へば

『伊勢物語』 第百一段

……その花の中に、あやしき藤の花ありけり。花のしなひ、三尺六寸ばかりなむありける。それを題にてよむ。よみはてがたに、あるじのはらからなる、あるじし給ふときゝて来たりければ、とらへてよませける。もとより歌のことは知らざりければ、すまひけれど、しひてよませければ、かくなむ、

 咲く花の したにかくるゝ 人を多み 
    ありしにまさる 藤のかげかも

「などかくしもよむ」といひければ、「おほきおとどの栄花の盛りにみまそがりて、藤氏のことに栄ゆるを思ひてよめる」となむいひける。みな人、そしらずなりにけり。

『枕草子』 第三十四段

(前略)……藤の花は、しなひながく、色こく咲きたる、いとめでたし。……(後略)

<短歌・俳句>


藤波の 花は盛り になりにけり 
   平城(なら)の京を 思ほすや君
 (大伴四綱/万葉集)

よそにみて かへらむ人に 藤の花 
   はいまつはれよ 枝はをるとも 
(僧正遍昭/古今和歌集)

春のものと おもはれぬまで あまりにも 
   さびししづけし 白藤の花 
(落合直文)

瓶にさす 藤の花ぶさ みじかければ 
   たゝみの上に とどかざりけり
 (正岡子規)

くたびれて宿から頃や藤の花 (芭蕉)

吹き出して藤ふらふらと春の外 (千代女)

藤棚や雨に紫末濃なる (泉鏡花)

<小説>


氷室冴子 『アグネス白書』 集英社文庫

徳心学園高等科に進むことになった桂木しのぶことしーの。
当然寄宿舎もクララからアグネスに移ることになり、
アグネスの舎長に編入生と同室になってくれるように頼まれる。
ところが、同室になった少女とどうにもうまくやっていけないようで……。

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久しぶりに読み返しました。
時代を感じる表現が幾つかあって、そこも面白かったです。

<漫画>


花郁悠紀子 「不死(ふじ)の花」(『幻の花恋』収録) 秋田書店

シテ方(主役)を父親から譲られることになった万里(まさと)は、「藤」を演じるように父から言われ、そのことに対して鬱屈した思いを抱いていた。自分の得意とするものとは違う、叙情的な力量を必要とする演目だったからだ。

悩む万里を見かねた弟にすすめられた旅行先で、万里はたまたま小さな寺に咲く藤を目にする。そこで出会った少年を追いかけた万里は足を滑らせ、目を覚ましたときには、「元雅様」と呼ばれていて……。

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著者の能と花をテーマに描いた作品の一つ。