『身体の夢〜ダンスの後に残るもの』「いま、物理学はたいへんな時代に入っている。かつてはSFの範疇と思われていたような考えが、理論的に、ひょっとすると実験的にも、ありうると見なされるようになってきた。余剰次元という新しい概念が発見されると、素粒子物理学者、天体物理学者、宇宙論研究者の世界の見方はがらりと変わり、もはや従来の考えには戻れなくなっている。」(リサ・ランドール/理論物理学者 『ワープする宇宙』2005) これからは、個人としての生き方の開拓が重要になり、トレンドは「一人の生活」になるのではないか。先進国を中心に、結婚しない男女が世界的に増えている。男も、女も、これまでと同じように相手に頼っていると面白いことが始まらない気がするからだ。女が自立を始めたので、男も自立しないと大変なことになる。定年や第二の人生という概念も怪しくなりはじめた。年齢に対する感覚も、信じられないほど変わっていくだろう。住むべき場所も、情報技術が「新しいリアル」を提供するレベルが高くなるため、「一所定住」と「世界周遊」を同時にむりなくこなせるようになる。 たとえば、わかりやすい例として、10代・20代の女性の感覚の変容について考えてみる。10代・20代の女性からすれば、恋愛対象になる男とは、不倫などのケースを別にすれば、一般的には同世代か、或いはせいぜい30代の男がその上限になるだろう。そして、これらの女性の大きな関心のひとつは通常は「恋愛」であるために、感覚も「恋愛」に特化したものとして集約されている。 しかし、この女性が文化的に成熟した国の国民で、彼女も主たる関心が「恋人」ではなく「文化」に移っているとすれば、彼女の内部では感覚の変容が進んでいるはずだ。一人の男と出会った時に、関心が「恋愛」ではなく「文化」であるとすれば、相手の年齢はほとんど関係なくなる。9才の男の子であっても、80才の老人でも、相手がたとえば自分がもっとも知りたかったり身につけたかったりする知識や技術の持ち主であることがわかれば、「恋愛」とは違った形ですぐに相手に関心を示し、夢中になることになる。同席しても、「恋愛」が目的だった時のような違和感や嫌悪感はもう存在しない。 当然、このような感覚の変容は相手が女であっても同様であり、また男の場合の男や女に対する場合も同様である。男の場合でも、「文化」が関心事になっている時は、性別も年齢も関係ない。 このような感覚の変容を体験することは、女や男という性別に特化した感覚から自由になれるわけであるから、「自立」のための大切な条件のひとつになる。 終身雇用制が崩壊した先進国では、労働における「自立」もまた必須のテーマになった。そして、その「自立」を手に入れる場合、たった一つの専門職をもっている場合よりも、複数の専門職をもっている方が有利なのはなぜだろうか。 植島啓司は『SA』(求龍堂 2004)のなかで、結婚についてふれて次のような趣旨を述べている。 「フランスなどではいま、若い人たちはほとんど結婚しなくなった。男女の間が半永久的にくっついているというようなことが、なぜ制度に依存しなければならないのか。あらためて問うべき問題である。結婚という制度があると離婚という不幸がある。一人を選ぶと他の可能性はすべて放棄しなければならない。たまたま出会った人と生涯を共にしなければならない」。 TOP HOME |