ある雪の降る夜、映画館から自宅に向かう車の中。妻のペイジはシートベルトを外し、身を乗り出して夫にキスした。その瞬間、一台のトラックが二人の車に追突し、ペイジはフロントガラスを突き破り、車の外へ放り出された。すぐさま、救急室に運ばれるが、頭部を激しく打ちつけていたペイジは、生死の境をさまようことに。医師の懸命な努力の結果、意識は回復したものの、過去数年間の記憶はすっかり失われていた。自分が彫刻家であること、家族と絶縁状態であること、そしてなによりも、いつも自分に付き添ってくれている夫レオのことさえも。一体、彼は何者だろう。
その時から、愛する妻の記憶を蘇らせようと、再び彼女の愛を取り戻そうと奮闘するレオの苦悩が始まっていく。彼が努力すればするほど、彼女は彼と結婚している事実に戸惑うばかりだ。やがて月日が流れ、苦しむ彼女を見ていた彼はついにある決断をする。もちろん、それは彼女を愛すればこその辛く、悲しい決断だった……
この限りなくロマンティックな映画でメガフォンを握るのはGrey Gardens (2003)で知られるマイケル・スーシー(Michael Sucsy, 1973 - )。献身的に妻に尽くす夫レオには『親愛なるきみへ』(Dear John, 2010)のチャニング・テイタム(Channing Tatum, 1980 - )、記憶を失う悲劇の妻ペイジにはMidnight in Paris (2011)のレイチェル・マクアダムズ(Rachel McAdams, 1978 - )が扮している。
なお、以下の対話は、二人が別れてしばらくたったある夜、突然、レオの前に姿を現したペイジと彼の最後を飾る、感動のラストシーンのときのものである。
(青色の語句には注釈が付いています)
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Ext. Restaurant – Night
Leo
sees Paige walking toward him.
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屋外―レストラン-夜
レオはペイジが自分の方に向かって歩いてくるのを目にする。
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Leo: |
Hi.
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レオ: |
ハイ。
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Paige: |
Hi.
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ペイジ: |
ハイ。
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Leo: |
I hope you didn’t come all the way into the city for hot chocolate.
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レオ: |
ホットチョコレートを食べにわざわざ町までやって来たんじゃないだろうね。
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Paige: |
Actually, I moved back here six months ago. I’m over in Rogers Park.
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ペイジ: |
実を言うと、6ヶ月前にこちらに戻ってきてるの。ロジャーズ・パークのほうにいるのよ。
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Leo: |
Really? That…that’s great.
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レオ: |
本当?それは…そりゃあいい。
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Paige: |
I’m actually back at the Art Institute.
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ペイジ: |
実のところ、美術学院に戻ってるの。
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Leo: |
What? Are you kidding me?
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レオ: |
何だって?僕をからかってるのか?
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She
shakes her head.
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彼女は頭を横に振る。
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Leo: |
That’s amazing.
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レオ: |
そいつはすごい。
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Paige: |
Yeah. I mean, I’m sitting in on a few classes, and it’s crazy what hands remember that my, you know,
that my mind forgot.
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ペイジ: |
ええ。つまり、幾つかのクラスに出てるんだけど、すごく変なの、私の、ほら、私の心が忘れていることを手が覚えているんだもの。
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Leo: |
Yeah.
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レオ: |
そうだね。
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Paige: |
So, thank you.
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ペイジ: |
ところで、ありがとう。
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Leo: |
I didn’t do anything.
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レオ: |
僕は何もしていない。
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Paige: |
You did everything. You accepted me for who I am,
and not for what you wanted me to be.
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ペイジ: |
あらゆることをやってくれたわ。今の私を受け入れてくれたもの。あなたが望む私じゃなくてね。
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Leo: |
I just wanted you to be happy. That’s all.
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レオ: |
僕はただ君に幸せになって欲しかっただけ。それだけさ。
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She
wipes her tears with her hand.
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彼女は手で涙をぬぐう。
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Paige: |
Ah, isn’t there some Cuban place around here where we used to go when this place was closed?
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ペイジ: |
ねえ、この店が閉まっていたとき私たちがよく行ったキューバ料理の店、この辺じゃない?
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Leo: |
Yeah. It’s….wait. You remember?
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レオ: |
うん。それは…待ってくれ。君、覚えているのかい?
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Paige: |
No, no.
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ペイジ: |
いいえ、そうじゃないの。
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He
sighs.
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彼はため息をつく。
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Paige: |
I wish. No, the memory stuff hasn’t come back, but I’ve…Sonia and I have been hanging out a little bit, and I’ve been asking her about us.
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ペイジ: |
だったらいいんだけど。じゃないの。記憶は戻ってきていないけど、でも、私….ソニアと私ね、このところ少しばかり付き合ってるの。だからいつも彼女に私たちのことを聞いているのよ。
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Leo: |
Really? And what has she been saying?
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レオ: |
本当?で、彼女は何て言ってる?
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Paige: |
That she doesn’t think you’re seeing anyone tight now.
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ペイジ: |
今のところ、あなたは誰とも付き合っていないと思うって。
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Leo: |
She just happens to be right. You? Are you seeing anyone?
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レオ: |
あいにく彼女の言う通り。君は?君は誰かと付き合ってるのかい?
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She shakes her head. He smiles.
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彼女は頭を横に振る。彼は微笑む。
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Leo: |
That’s good.
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レオ: |
それは良かった。
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Paige: |
So, do you wanna go to the Cuban place? With me?
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ペイジ: |
ところで、キューバ料理の店に行かない?私と?
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Leo: |
Okay.
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レオ: |
いいよ。
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Paige: |
Okay.
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ペイジ: |
オーケー。 |
They
start to walk.
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彼らは歩き出す。
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Leo: |
What would you say to trying someplace that we haven’t been to before?
Someplace new?
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レオ: |
今まで一度も行ったことがない店を試してみるのはどう?新しい店をさ?
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Paige: |
I’d like that.
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ペイジ: |
それ、いいわね。
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They are
about to walk across the street.
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彼らは通りを渡ろうとする。
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Leo: |
After you.
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レオ: |
お先に。
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The following subtitles appear on the screen. |
以下の字幕がスクリーンに現れる。 |
The couple who inspired this film are happily married today and have two children.She never regained her memory.
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この映画製作のきっかけとなった二人は今日、二人の子供に恵まれ、幸せな結婚生活を送っている。彼女の記憶は二度と戻ることはなかった。
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語句解説 |
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all
the way わざわざ、はるばる
Ex.
He came all the way from Los Angeles. (彼ははるばるロサンゼルスからやって来た)
actually
実は、ところで →話の途中で、新しい話題を導入する際の表現。なお、数行下のactuallyは、事実関係を訂正したり、厳密に述べて「実のところ、本当は」を意味する。
move
back 戻る →以前住んでいた場所に戻ること。
over
in Rogers Park
向こうのロジャーズ・パークに
That’s
great それはいい、そいつはすごい →ここでのgreatは是認、賛同、感嘆、感謝などを表す間投詞。
Art
Institute 美術館、美術専門学校 →instituteは高度な教育、研究のための大学付属研究所、特殊分野の専門学校、専門課程などをいう。
Are
you kidding me?
僕をからかってるのか、冗談でしょ、まさかそんな → You are kidding
me/ You must be kidding/ You’ve got to be kidding などともする。
amazing 驚くべき、見事な、すごい
I
mean つまり、その →話し手が聞き手の注意を引きつけたり、先ほど述べたことをより明確にしたり、説明を付け加えたり、また単に少し間を置く際の表現。
sit
in 参加する
Cuban
place キューバ料理の店 →ここでのplaceは単なる「場所」ではなく、ある目的のための「場所」をいう。日常会話では「飲食店、店」、また Come to my place tonight. (今夜、僕の家へ来いよ)のように「住居、家」の意味で頻繁に用いられる。
used
to go よく行った、頻繁に行った →used to…は過去の比較的長い期間に及ぶ常習的、または特徴的な習慣を表して「よく~した、~するのが常だった」の意を表す。
memory
stuff 記憶の部分、記憶 →stuffは漠然と「物、代物」などの意を表す。
hang
out ぶらつく、付き合う
Ex.
Who has he been hanging out with? (彼は誰と付き合ってるんだ)
see
anyone 誰かと付き合う →ここでのseeは男女の交際などに用いて「会う、付き合う、セックスする」の意を表す。
happen
to …. たまたま~である、あいにく~である
Ex.
Do you happen to know her? (ひょっとして彼女をご存知です)
What
would you say to… ~はいかがですか、~はどうですか
Ex.
What would you say to a drink? (一杯やるってのは、どうですか)
After
you お先、お先にどうぞ
subtitle
字幕
inspire 霊感を与える、触発する、生むきっかけとなる → 出来事などが作品の着想などを生むきっかけとなる、ことを言う。
regain 取り戻す
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