EHN 2009年4月15日
難燃剤は次のDDTか?
解説:カレン・キッド、ウェンディ・ヘスラー

情報源:Environmental Health News, April 15, 2009
Are flame retardants the next DDT?
Synopsis by Karen Kidd and Wendy Hessler
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/flame-retardants-next-ddt-for-kestrel

オリジナル:Fernie, KJ, J Laird Shutt, RJ Letcher, IJ Ritchie and DM Bird. 2009. Environmentally relevant concentrations of DE-71 and HBCD alter eggshell thickness and reproductive success of American kestrels. Environmental Science and Technology 43(6):2124?2130.

訳:安間 武(>化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年4月18日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_090415_flame_retardant_next_DDT.html

 一般的な難燃剤の商業的混合物への暴露により、捕獲したアメリカチョウゲンボウの殻が薄くなり、孵化が少なくなり、繁殖が難しくなっている。難燃剤化学物質は北アメリカの一部にいるこの生物種の数が減少している原因かもしれない。新たな発見は、すでに禁止された殺虫剤DDTが前世紀の中頃の数十年間、捕食性猛禽類に与えたよく知られる影響と類似している。

何をしたか?

 カナダの研究者らは捕獲した31対の雌雄のアメリカチョウゲンボウに商業的難燃剤混合(DE-71)(訳注1)の3つの濃度のうちの1つを混ぜて給餌した。 DE-71 は環境中に一般的に見出される個々の難燃剤を含んでいる。

 これらの鳥は、繁殖が始まる前、そして求愛、交尾、産卵の期間に、ゼロ(コントロール)、0.3 ppm(低用量)、1.6 ppm(高用量)の DE-71 を毎日、3週間にわたって与えられた。鳥は卵が孵化するまで、合計約75日間、この餌を食べた。

 研究者らはチョウゲンボウが卵を産むのに要した時間を測定し、産んだ卵の数を数えた。殻の厚さ、重さ、及び難燃剤のレベル(14種の PBDE と完全な HBCD (訳注2))が最初の卵について測定された。

 残りについては、卵の繁殖力とひなの生存への影響を測定するためにそのまま孵化させ。

何がわかったのか?

 予想されたように、メスのチョウゲンボウは難燃剤を卵に堆積させた。

 コントロールの餌を与えられたチョウゲンボウの卵からは 3ppb の難燃剤(14 PBDE の合計)が測定されたが、低用量及び高用量の餌を与えられた鳥の卵からは、平均288 ppb 及び1130 ppb がそれぞれ測定された。これらのレベルは、野生のチョウゲンボウ及びアメリカ北西部とスウェーデンに生息するハヤブサの卵で測定された範囲内であった。

 チョウゲンボウの生殖は餌の中の化学物質の影響を受けた。最も濃度の高い難燃剤に暴露した鳥が卵を産むのに10日の遅れがあった。産卵の遅れは、より高いレベルの4種のPBDEsに暴露した場合に増大した。産卵の遅れと卵の汚染は、暴露した親鳥からの繁殖力のある卵の数、孵化した幼鳥の数、及び生き残ったひな鳥の数が少ないことと関係していた。

 高用量の難燃剤の卵はまた、コントロールの卵に比べて、薄くて軽い殻を持ち、小さく、孵化中の重さの減少が大きかった。もっと具体的には、高用量難燃剤の餌を与えられた親鳥は、暴露していない親鳥より8%薄い殻の卵を産んだ。

何を意味するか?

 この結果は、難燃剤への暴露が高くなると、鳥の生殖成功率は低くなることを示している。いくつかの個々の難燃剤は産卵と卵の殻の変化と関連しており、それらの中のどれが野生生物に、そして多分人間にも、最も大きな脅威を与えるかを示すかもしれない。

 野鳥の卵の中の難燃剤のレベルの増加はチョウゲンボウの生殖に影響を与えるということが新たな証拠として加えられたが、このことは、北アメリカのこの生物種の数の減少の理由の一部を説明しているかもしれない。

 著者らによれば、”陸生及び水生の鳥類中に現在見出されるPBDEの濃度を用いて、鳥類の生殖とPBDE暴露の因果関係のメカニズムを示した”最初の研究かもしれない。

 この研究の中で、化学物質の混合が成鳥と卵の両方に広範な影響をもたらした。それは、産卵、卵の完全性、及び卵の生育能力に影響を与えた。これらのどれひとつをとっても野生動物の生殖の成功に影響を与える。

 この研究のチョウゲンボウの卵の中に見出された化学物質の総計は、チョウゲンボウ、セグロカモメ、ハヤブサなど野生の鳥に見出されるものと類似している。ハヤブサの卵の中の最も一般的な難燃剤は BDE-153 と呼ばれるもので、この研究においても、産卵の遅れ、卵の殻の質低下、孵化の困難さなど、多くの問題と関係していた。このことに基づけば、フィールド・スタディは行われていないが、野生生物の集団はこの研究の鳥と同様に共通の生殖問題を抱えているということができる。

 この話は、殺虫剤DDTが北アメリカでひどく使用されたときに起きたことと類似する。DDTは食物連鎖中及び器官の脂質組織に濃縮する。鳥類は餌に含まれる高いレベルのDDTに暴露していた。この農薬によりワシやハヤブサのような猛禽類は殻が非常に薄い卵を産んだので、これらの鳥類は減少した。

 野生の猛禽類中のDDTに関する以前の研究は、卵の殻が18%以上薄くなると猛禽類は個体数を維持できなくなることを見出していた。この研究では、難燃剤への暴露により卵の殻の厚みは8%減少していた。

 これらの化学物質がチョウゲンボウの生殖に影響を与えるという新たな証拠は、北アメリカにおけるこの生物種の数の減少の理由の一部を説明し、これらの化学物質が環境中に存在することの懸念をますます増大させるものである


訳注1:DE-71
 EHNの解説ではD-71 としているが、オリジナルの論文(Environmental Science and Technology 43(6):2124?2130)では DE-71 と記述しているので、EHN解説の日本語訳では DE-71 とした。
 環境省の下記データによれば 「DE-71はペンタブロモジフェニルエーテルの別名。本物質の市販品はポリ臭素化ジフェニルエーテル同族体の混合物であり、本物質の含有率は約50〜60%とされる」  とある。CAS番号は32534-81-9。化審法対象ではない。
http://www.env.go.jp/chemi/report/h19-03/pdf

訳注2:HBCD
ヘキサブロモシクロドデカンの別名。化審法第1種監視化学物質。

訳注:難燃剤関連記事


化学物質問題市民研究会
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