Rock Listner's Guide To Jazz Music


大西順子



WOW

曲:★★★★
演奏:★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★
[Recording Date]
1992/9/3-5

[1] The Jungular
[2] Rockin' in Rhythm
[3] B-Rush
[4] Prospect Park West
[5] Point-Counter-Point
[6] Brilliant Corners
[7] Nature Boy
[8] Broadways Blues
大西順子 (p)
嶋友行 (b)
原大力 (ds)
米国デビューを目指していたものの、まずは日本でのデビューとなったアルバム。低中音域を中心にパーカッシヴに鍵盤を叩きつけるようにスウィングするピアノは、流麗とかムーディいう言葉が全く似つかわしくない硬派なスタイルで一貫している。ジャズを聴いてきた人であれば、エリントン、モンクのイメージが思う浮かぶはず。エリントンや同時代のピアニストより硬質かつ正確なタッチで、ナタの切れ味というよりはナイフのようなキレ味のような女性ならではの鋭さが感じられる。90年代になってこんなに古いスタイルのピアノを臆面もなく前面に押し出して弾く若い東洋人女性ということが当時はニューヨークでも珍しがられたのかもしれないけれど、あまりにもルーツがはっきりと分かりすぎて個性という点ではむしろ評価されず、米国デビューがすんなり決まらなかった理由もそのあたりにあるのではないかと推察する。脇を固めるメンバーは、ミンガスばりのグイグイ進むベースはまだしも、技術に不足はなくてもその人ならではのビート感が希薄な如何にも日本人的な個性の薄いドラムに少し物足りなさを感じる。(2022年2月4日)

Crusin'

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1993/4/21,22

[1] Eulogia
[2] The Sheperd
[3] Summertime
[4] Congeniality
[5] Melancholia
[6] Caravan
[7] Roz
[8] Switchin' In
[9] Blue Seven
大西順子 (p)
Rodney Whitaker (b)
Billy Higgins (ds)
こちらが米国デビュー盤で米国ではブルーノートからリリースされた。しかし、制作は日本主導(プロデューサーは行方均)で行われている。サイドを固めるのは現地のミュージシャンで大西と同世代の若いベーシストにベテランのドラマーという組み合わせ。日本デビュー盤とのリズム・セクションとの違いは明白で、こちらを聴くと日本人のベースとドラムは(技術が劣っているということはないんだけれど)単調で多面性がないことを実感する。この2枚の比較は黒人リズム・セクションと日本で活動している日本人リズム・セクションの力量差を示す格好のサンプルだとさえ思ってしまう。その影響かどうかは定かでないけれど、大西のピアノもだいぶ異なっている。日本デビュー盤では一本調子という批判を恐れずに自分のルーツであるエリントンやモンクのようなパーカッシヴなスタイルで押し通していた(ピアノならではの柔らかなタッチはほとんどなかった)のに対し、中低音中心で強いタッチの音使いは不変でありつつ、いかにもジャズ・ピアノらしい強弱の表現を交えた演奏も多く聴ける(ボビー・ティモンズのようなスタイルも聴ける)し、日本デビュー盤にはなかったバラード[5]も織り交ぜている。明け透けに自分のスタイルを押し出した日本デビュー盤の方がある意味大西の素の演奏と言えるかもしれないけれど、表現の幅とクオリティはこちらの方が断然上だし、オーソドックスなピアノ・トリオ・ジャズの音楽スタイルの中で大西の個性が十分に出ている。(2022年2月4日)

Live At The Village Vanguard

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1994/5/6-8

[1] So Long Eric
[2] Blue Skies
[3] Concorde
[4] How Long Has This Been Goin' On
[5] Darn That Dream
[6] Congeniality
大西順子 (p)
Reginald Veal (b)
Herlin Riley (ds)
マンハッタンにあるヴィレッジ・ヴァンガードというジャズ・クラブで録音されたライヴ盤には幾多の名盤があり、その名前はジャズファンにとって特別な響きを抱かせる。実際のヴィレッジ・ヴァンガードは、数あるマンハッタンの有名クラブの中でも出演ミュージシャンの質が高く、ストイックに音楽を聴きに来る(ここは食事は提供していない)リスナーが集まる場所というムードが漂っていてそんなところも熱心なジャズ・ファンにとって一目置かれている理由になっている(と思う)。そこに、若くしてデビューした大西が6日間出演したときの録音からセレクトされた演奏集がこのアルバム。たぶん日本のマネジメント側の強力なPushもあったのだと思われ(当時の日本のジャズ界はまだ独自でアルバム制作を企画するなどのパワーがあった)、しかしそれでもヴィレッジ・ヴァンガードに出演できたというだけでまずは一定の評価は受けていたものと考えられるし、出演によって箔が付いたことも推察できる。肝心の内容は、先に出たスタジオ盤ほどピアノは尖っていなくて、中低音を強調したり硬質な打鍵で押す「エリントンが師です」的な要素は控え、日本人らしからぬブルース・フィーリングに溢れた伝統的ジャズ・ピアノ(ここでも僕はボビー・ティモンズ的なものを連想する)を聴くことができる。あるいはデビュー盤で聴かせた若さ炸と比べると、この3枚目ではより成熟した表現になっている。それでもハキハキとしたタッチには大西らしさが出ているし、演奏のクオリティそのものは高い。全体的にライヴらしい自由度の高さと緩さを伴った演奏となっていて、オーソドックスで伝統的なピアノ・トリオ・ジャズとしてまっとうな演奏が展開されている。(2022年2月5日)

Live At The Village Vanguard II

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1994/5/6-8

[1] House Of Blue Lights
[2] Never Let Me Go
[3] Brilliant Corners
[4] りんご追分
[5] Tea For Two
大西順子 (p)
Reginald Veal (b)
Herlin Riley (ds)
「Live At The Village Vanguard」が好評だったことからの別演奏集。基本的にはもちろん同じメンバーで同じようなスタイルではあるけれど、演奏機会の少ないバラードで繊細かつ黒人ピアニストのようなタッチを聴かせる[2]と、美空ひばりのヒット曲[4]が耳を惹く。20分に及ぶ[4]は後の活動を含めて大西のキャリアとの接点を見いだしにくいコルトレーンを明確にイメージした(この曲にコルトレーンとの近似性があるなんて誰が想像できるだろうか)と思われる演奏で、長いソロを交えた自由度の高い長尺の演奏であることやエルヴィン・ジョーンズ風のドラムとマッコイ・タイナーを連想させるピアノと相まって、大西としては珍しいスタイルのパフォーマンスになっている。(2022年2月5日)

Piano Quintet Suite

曲:★★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1995/7/7-10

[1] Piano Quintet Suite
[2] Peggie's Blue Skylight
[3] Interlude 1
[4] Naturally
[5] Interlude 2
[6] The Tropic Of Capricorn
[7] Tony
[8] Orange Was The Color
    Of Her Dress, Then Blue Silk
[9] Take The A Train
Marcus Belgrave (tp)
林栄一 (as)
大西順子 (p)
Rodney Whitaker (b)
Tony Rabeson (ds)
[1]のオリジナル曲はジャズ・メッセンジャーズのアルバム「Mosaic」に収録されていた"Arabia"に似ていて、中間部ではミンガス・グループのようなアンサンブルが出てくる。以降の曲も同様で、もちろん(?)モンク・グループを彷彿とさせるところ多く見られる。これまでのアルバムでルーツが明確に見えていたのと同様に、ルーツをベースにクインテットで自らの音楽を表現したのがこのアルバムということになる。ここまでルーツがハッキリ見えているというのは果たしてオリジナリティを求められる世界において良いことなんだろうか、と個人的には思うけれど、それらを確立されたジャズの基本形式であると好意的に解釈するのであれば、このアルバムは高く評価できるはず。クインテットと言ってもトランペットとサックスはソロパートで強く自己表現をすることはなく、大西が作った音楽を忠実にトレースしている印象。つまり、大西がコントロールした上で音楽が形成されていることが良くわかる。この編成で聴く大西のピアノはこれまで以上にデキが良い。スタイルはもちろん従来と同様だけれど、クインテットで演奏されるジャズにおけるピアノのソロパートは、スピーディな推進力と高い技術力に裏打ちされた正確なタッチ、そして内面から湧き出てくる躍動感に溢れており、バッキング時の演奏と合わせてこのグループの音楽の原動力になっている。このようなピアノを弾ける人は世界中探しても他にはいない。ただのピアノ弾きではなく音楽家として自身の表現を昇華させた力作。(2022年2月6日)

Play, Piano, Play

曲:★★★★
演奏:★★★☆
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★
[Recording Date]
1995/7/11

[1] Play, Piano, Play
[2] How High The Moon
[3] Slugs
[4] Trinity
[5] Portrait In Blue
[6] Kutoubia
[7] The Jungular
大西順子 (p)
荒巻茂生 (b)
原大力 (ds)
モントレー・ジャズ・フェスティヴァル始め欧州ツアーのライヴ演奏集。パーカッシヴなピアノ導入で始まるエロール・ガーナー作の[1]から大西節が全開。伝統的でスウィンギーなジャズをスピーディに演奏[する3]以降はオリジナル曲を収めており、欧州のオーディエンスに向けて堂々と自身のパフォーマンスを披露する様子が捉えられている。[5]では大西流の黒人テイストをベースにしたバラードも披露。全体的に熱気溢れ鮮度の高い演奏であると思う反面、やはり日本人のベースとドラムは、技術があっても遊びや余裕がないところは他の項目で触れた点と同様で少し物足り。それでも自身の表現で鍵盤を叩きつける大西のピアノを味わうことに不足はない。(2022年2月6日)

Fragile

曲:★★★★
演奏:★★★☆
ジャズ入門度:★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1998/7/5-7

[1] Phaethon
[2] Complexions
[3] You've Lost That Lovin' Feelin'
[4] Compared To What
[5] Hey Joe
[6] Eulogia Variation
[7] Sunshine Of Your Love
大西順子 (p, elp, org)
Reginald Veal (b)
Karriem Riggins (ds)
日野元彦 (ds [2][4])
本田珠也(ds [5][7]
PEACE(Vo [4])
歪んだエレピのサウンドが衝動的にガツンと入る冒頭で従来からのファンはのけぞったに違いない。スピーディなロック系ドラムに乗って次にピアノが登場、大西ならではの鋭利なリズムで疾走する。以降、ジャズそのもののピアノ・トリオとハード・フュージョン系の演奏が入り混じり、その演奏のテンションは高い。ポップスのヒット曲[3]やジミ・ヘンドリックスの[5]をゆったりとムーディに仕上げ、勢いとノリ一発のラフな演奏のクリームの曲で締める。曲によってはツインドラムまで導入し、アグレッシヴなサウンドへの意欲を感じる出来栄えではあるものの、それでも根はジャズ・ピアニストであるという軸は確固としてあり、ジャズ・ピアニストの課外活動的な内容に聴こえてくる(ブラッド・メルドーがやりそうななスタイルでもある)。個人的にはハード・フュージョン系は割と好きなので満足できる内容ではある。このサウンドの中でも大西のリズム感は発揮されているとはいえ、オーソドックスなジャズ演奏の中でのピアノの方が大西の個性はより際立つように思う。純粋なジャズのフォーマットで生き残るのは大変なことだけど、この種のサウンドも競合相手も多く大西順子でなければ聴くことができない、と言えるような独自性を備えているとまでは言えないところが弱点。(2022年2月7日)

Musical Moments(楽興の時)

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
2009/4/30,5/1
2008/9/14 [10]

[1] Hat And Baired
[2] I Gotta Right To Sing The Blues
[3] Back In The Days
[4] Bittersweet
[5] Ill Window
[6] Musical Moments
[7] Something Sweet,
              Somthing Tender
[8] G.W.
[9] Smoke Gets In Your Eyes
[10] Medley
  - So Long Eric
  - Mood Indigo
  - Do Nothing 'till You Hear From Me
[1]-[9]
大西順子 (p, elp)
井上陽介 (b)
Gene Jackson (ds)

[10]
大西順子 (p)
Reginald Veal (b)
Herlin Riley (ds)
活動休止からの復帰第1作目、前作から11年ものブランクを経て発売されたアルバム。エリントン、ミンガス、モンクといった強面の先達からの影響を隠さない大西が、ここではエリック・ドルフィーの3曲を採り上げる。しかも、そのうち2曲は複雑な構成と特殊な表現の極地とも言える「Out To Lunch」から。演奏は特にトリッキーなものではなくまっとうなピアノ・トリオ演奏。ドルフィーの曲意外の方が自然で、こちらは淀みなくパカッシヴなフレーズが溢れ出るテンションが高い演奏。[2][5][9]はソロ演奏で、アート・テイタムのような伝統的黒人ピアニストのスタイルを大西流のリズム感で弾いている。全体的にデビュー当時の、聴きようによってはややヒステリックな打鍵は抑え気味になり良い意味でカドが取れてきた印象。実はボーナストラック扱いの16分に及ぶ [10](ブルーノート東京での録音)がなかなかの聴きどころで、メンバー間の阿吽の呼吸で曲が展開され、、これぞ大西のスタイル!と言いえるピアノをいかにもライヴらしい演奏で聴くことができる。ちなみに、御本人談によると活動休止中に勉強したことが形になった一番お気に入りのアルバムとのこと。(2024年1月16日)

Baroque

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
2010/3/24-29

[1] Tutti
[2] The Mother’s (Where Johnny Is)
[3] The Threepenny Opera
[4] Stardust
[5] Meditations For A Pair
                  Of Wire Cutters
[6] Flamingo
[7] The Street Beat
   / 52nd Street Theme
[8] Memories of You
Nicholas Payton (tp)
James Carter (ts, as, bcl, fl)
Wycliffe Gordon (tb)
大西順子 (p)
Reginald Veal
     (b [1]-[3][5]-[7])
Rodney Whitaker
     (b [1][3][5][7])
Herlin Riley (ds)
Roland Guerrero
             (conga [1])
3管、2ベースのセプテット(2曲は1ベースのセクステット)編成で「Piano Quintet Suite」と同じくバンドリーダーとして音楽をクリエイトする大西を味わうアルバム。演奏は管楽器ソロパートの奏法などからアヴァンギャルドな色合いを備えてはいるものの、バンドとしてしっかり統制されており、音の感触は耳障りなものではない。それでも伝統的なジャズの王道を中心に追いかけてきた大西からすると、より後の時代(=60年代)のジャズの自由な表現を取り込んだものになっている。よって大西流の直球でスウィンギーなリズム感を前面に出したピアノ演奏は少ない。特にデビュー直後あたりのピアノ演奏が好きな人には物足りないと思うことが予想されるけれど、音楽家としての独自のサウンドをクリエイトしているという点では「Piano Quinted Suite」から更に一歩進んだ印象だし、ピアノはリズムの一部としてサウンドを形成する重要な役割を担っている。ピアノ・ソロ演奏の[4]では、アート・テイタムのスタイルをベースに自身のスタイルでオールドジャズへのリスペクトも披露。全体的に、60年代のミンガス・グループが今もあったらこんな感じだったのでは?という骨太なサウンドは決して聴きやすくはないけれどで、フロント3管はじめ各プレーヤーの演奏レベルも高く(それにしてもニコラス・ペイトンは上手い!)聴き応えたっぷりの傑作アルバム。(2022年2月7日)

Tea Time

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
評価:★★
[Recording Date]
2016/3/6-9

[1] Tea Time 2
[2] Blackberry
[3] Tea Time 1
[4] Chromatic Universe
[5] GL/JM
[6] The Intersection
[7] Caroline Champtier
[8] Malcolm Vibraphone X
   featuring N/K, OMSB
[9] U Know
   featuring OMSB, JUMA,
   矢幅歩, 吉田沙良
[10] Fetish
大西順子 (p)
Terreon Gully (ds)
Yosvany Terry (b)

[5][6]
庵原良司 (ts, fl)
竹野昌邦 (ts)
土井徳浩 (as)
近藤和彦 (as)
鈴木圭 (bs)
中川英二郎 (tb)
半田信英 (tb)
笹栗良太 (tb)
野々下興一 (btb)
エリック宮城 (tp)
西村浩二 (tp)
菅坡雅彦 (tp)
小澤篤士 (tp)
宮嶋洋輔 (g)
菊地成孔 (rap [8])
OMSB (rap [8][9])
JUMA (rap [9])
吉田沙良 (chorus)
矢幅歩 (chorus)

[4]
庵原良司 (ts, fl)
土井徳浩 (as)
鈴木圭 (bs)
中川英二郎 (tb)
半田信英 (tb)
笹栗良太 (tb)
エリック宮城 (tp)
西村浩二 (tp)
菅坡雅彦 (tp)
3地成孔が全面的に曲を提供してプロデュース、アルバム制作の主導権を他人に委ねた異色作。ヒップホップ系のサウンド処理から始まりつつ、前半はジャズ・ピアノ・トリオ演奏を基本に進む。ここで保守的なファンは恐らく拒絶反応が出るに違いない。確かに大西の独特のリズム感はここではほとんど生きていない。でも、ロバート・グラスパーも聴く僕はヒップホップを内包した現代的なジャズ・ピアノ・トリオとして積極的にカッコいいと言いたい(お気に入りのテレオン・ガリーがドラムを叩いているんだから)。[4]からホーン・アンサンブルが入ってきて、いかにも日本人的なアレンジではあるけれどこれも悪くない。しかし、[8][9]でラップ+ヒップホップが入ってくるともう聴いてられなくなる。ラップもヒップホップも別に嫌いじゃない。むしろここでのサウンドには合っている。でも僕は日本人のそれは全面的に受け付けない。こんなにカッコ悪いものがこの世の中にあるのかというくらいヒドイ。ラップとヒップホップはマシンガンのような喋りのリズムが命。そこに言葉を乗せるところに意義がある。日本語にそれが乗るはずがなく音楽とは呼ぶことすら躊躇う得体の知れないものになる。日本には日本のラップ、ヒップホップがあるんだという主張をする方もいるかもしれないけれどそんなものはない。もし本当にあるのなら独自のリズム感の質が異なるものが生まれるはずだ。ここには(ここにも)単に米国黒人のリズムに日本語を被せただけの分別不可能な廃棄物があるだけ。せっかく演奏がカッコいいのにすべてが台無し。(2022年2月7日)

Very Special

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★☆
評価:★★★★
[Recording Date]
2017/9/7-9
2011/1/17 [3][8]

[1] Very Special -Inrto-
[2] I cover The Water Front
[3] Lush Life
[4] Easy To Love
[5] Barcarolle (from "The Seasons")
[6] Willow Song (from "Otello")
[7] Comecar De Novo (The Island)
[8] A Flower Is A Lovesome Thing
[9] How Do You Keep
                   The Music Playing
[10] After The Love Has Gone
[11] Very Special -Outro-
大西順子 (p, elp)
馬場孝喜 (g [2][4][7][9][10]
Jose James (vo [3][8])
挾間美帆 (arr, cond [6])
森卓也 (cl [6])
佐藤芳恵 (bcl [6])
井上陽介 (b [11])
高橋信之介 (cymbals [1])
ベース([11]のデュオを除く)もドラムもない、ピアノ・ソロ、あるいはギター、ヴォーカルとの組み合わせによる全曲ゆったり、しっとりと聴く曲で占められたこれまでにないバラードに絞った企画モノ。数は多くないながらバラードの演奏はこれまでにもあった。ただし、その内面には張り詰めた緊張感が内面にしっかりとある演奏だと個人的には思っている。このアルバムはそのような緊張感はなく、最初から最後までリラックスして聴くことができる。技術のあるピアニストならこのくらい弾けて当たり前とはいえ、躍動感やスピード感を求められていないピアノ演奏だけを収めたのはリズム感が武器の大西にとってある意味チャレンジだったかもしれない。そのようなコンセプトでもピアノのタッチの奥底には固い芯と妙な揺らぎのない安定したリズム感があって大西らしさは確かに宿っている。こうした方向性は年齢を重ねたが故のことかもしれないけれど、ただ静かな曲、演奏ではなく豊かな音楽性を備えていて安易な印象はまったくない。選曲もジャズに限定せず[5]はチャイコフスキー、[6]はヴェルディ、[10]ではEW&Fのヒット曲で(デヴィッド・フォスター作)まで採り上げていてジャズ曲にこだわっていない。演奏はギターもヴォーカルも上質この上なくウットリ聴き惚れてしまう。個人的にはリモートワークで深夜残業しているときに流す音楽に最適。つい聴き入ってしまって仕事進まなくなっちゃうけどね。(2022年2月8日)

Glamarous Life

曲:★★★★
演奏:★★★☆
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★
[Recording Date]
2017/9/4-6

[1] Essential
[2] Golden Boy
[3] A Love Song (a.k.a. Kutoubia)
[4] Arabesque
[5] Tiger Rag
[6] Almost Like Me
[7] Hot Ginger Apple Pie
[8] Fast City
[9] 7/29/04 The Day Of
    (from "Ocean's 12")
大西順子 (p)
井上陽介 (b)
高橋信之介 (ds)
久しぶりのピアノ・トリオでのアルバム。最初にまた苦言を呈することになるけれど、やはり日本人リズム・セクションはつまらない。技術は高いし、昔ながらのレガート・シンバルとスネア回しにフォービートというスタイルが主流でなくなった近年のジャズのトレンドももちろん押さえている。トリッキーな変拍子でプログレみたいな演奏も難なくこなす。でも、適度な間の作り方やあえての外し、遊びの要素がなく律儀すぎてつまらない。もちろん聴いていて邪魔にはならないけれど、そうかと言って耳を惹きつけられるところもなく、アルバム全体の音楽の質はやや下がってしまう。一方でピアノの方はどうかと言うと、デビュー直後の若い頃(この世界では今でもまだ若い部類だけど)にあった力強い打鍵は、ここでも健在ででその独自のリズム感には大西ならではのものがある。ただし、時にヒステリック一歩手前に聴こえなくもなかったデビュー盤の力強いタッチは少し丸くなり、1音1音の粒立ちも柔らかくなった。指を速く回す場面も以前よりは減り、コードの連打をする場面が増えた。これを衰えと表する人もいるようだけど僕はそうは思わない。そもそも、エリントンやモンクはもちろん、かつての黒人ピアニストたちは素早く指ま回して正確に弾くことなんて目指していない(オスカー・ピーターソンであっても)。かつてのの大西はその伝統的黒人ピアニストのスタイルを精度高く、鋭いリズムで弾くのが売りだった。そのための練習もかなりしていたに違いない。でも、そのスタイルのピアノを弾くことの重要さはスピードや精度ではないという悟りがあったんじゃないだろうか。表現が大人びてきても独自のリズム感は健在で、スタイルの変化はジャズ・ピアニストとしての成熟の現れだと思う。(2022年2月8日)

XII

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
2018/8/28,29

[1] Essential
[2] Golden Boy
[3] A Love Song (a.k.a. Kutoubia)
[4] Arabesque
[5] Tiger Rag
[6] Almost Like Me
[7] Hot Ginger Apple Pie
[8] Fast City
[9] 7/29/04 The Day Of
    (from "Ocean's 12")
吉本章紘 (ts, fl)
広瀬未来 (tp, flh)
片岡雄三 (tb)
大西順子 (p, elp, clavinet)
井上陽介 (b)
高橋信之介 (ds)
大西はこれまでも5〜7人編成でのアルバムは何枚か制作している。それらのアルバムでは各人の演奏力は発揮されているとはいえ、大西の目指している音楽を表現するための要員として機能していて、デューク・エリントンが「私の楽器はオーケストラである」と言ったのと同様にバンドは完全に大西の管理下にあり、その統制力は見方によっては窮屈な印象を与えるものでもあった。しかし、このアルバムはそれらとはまるで違う。各メンバーが曲を持ち寄り、民主的に音楽が構成され、最終決定権を持つのは大西であっても自主性を重視したものになっていることは演奏を聴けば明らか。ジャケットに本人の写真を入れていないのもグループとしての音楽で勝負していることを表しているからだと思われる。曲によって伝統的なジャズからフュージョン、ファンクの要素を持つものまであり、大西自身もピアノにこだわらずエレピやクラビネットも弾いている。ここでは、これまでのバンドのようにミンガスやエリントンのスタイルはほとんど見えない。サウンドの幅は広く、これまでのジャズの歴史で演奏されてきたスタイルを総括しているかのようでもあり、言い方を変えると新しさはまったくない。でもそれは悪いことなんだろうか。例えばマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンは今聴いても素晴らしいと思える普遍性がある。ジミ・ヘンドリックスやレッド・ツェッペリンだってそうだ。でも、たとえ素晴らしい音楽・演奏であっても今では同じようなスタイルで演奏する人はいない。過去の偉大な音楽と同じことをしても評価されないからだ。でも僕は普遍性のある音楽のスタイルとして今そのような演奏をしてもいいじゃないかとずっと思っていた。素晴らしいものは素晴らしのだから。それをそのまま実践しているのがこのグループだと思う。(2022年2月9日)

JUNKO ONISHI presents JATROIT
                              Live at BLUE NOTE TOKYO

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
2019/2/16-18

[1] Harpsichord Session -Opening-
[2] Meditations For A Pair
                         Of Wire Cutters
[3] Morning Haze
[4] The Threepenny Opera
    (Dedicated to Jaki Byard)
[5] Very Special
[6] GL/JM
[7] Harpsichord Session -Closing-
大西順子 (p)
Robert Hurst (b)
Karriem Riggins (ds)
大西順子のピアノ・トリオ作品といえば、アップテンポの規則正しいフォービートに乗ってスピーディかつ正確で力強いタッチで弾くスタイルがすぐに思い浮かぶ。でも、このアルバムはだいぶ趣向が異なる。もちろんピアノの基本スタイルは変わっていない。しかし、以前と比べると指を規則正しく回すフレーズが少なくなり、ブロックコードの使用が増えた。指が回らなくなったのではなく回さないシーンが増え(回すところはもちろん回している)リズムや間のとり方も変則的。そんなスタイルでの演奏となっている理由はベースとドラムの影響であることは間違いない。ヒップホップのプロデューサーも務めるドラマーとフォービートを主体としない現代的スタイルのベースが織りなす伸縮自在なリズム隊と組むとなれば、かつての伝統的ジャズに乗った疾走感溢れるピアノのスタイルとは違うものになるのは必然である。リズム隊の力量はとても高く、このくらいのレベルの人といつも演ってほしいと思わずにはいられない。現代のピアノ・トリオ・ジャズとしての独自性、質の高さ、サウンドの新しさのいずれもハイレベルだし、ライヴならではのメンバー間のフレキシブルなインタープレイも味わえる骨太ジャズの名盤だと断言する。(2022年2月10日)


XI Live

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
2019/11/22,23,24

[1] Walter Reflection
[2] Rain In March
[3] Unity 1
[4] 2 Laps Behind
[5] Route 43
[6] Peace In Chaos
[7] Gate Crasher
[8] Apple Of My Eye
[9] To The End Of The World With You
[10] Lost and Confident
[11] Magic Touch
吉本章紘 (ts, fl)
広瀬未来 (tp, flh)
片岡雄三 (tb)
大西順子 (p, key)
井上陽介 (b)
高橋信之介 (ds)
吉田サトシ (g)
David Negrette (as)
Wornell Jones (vo)
クールで複雑なアンサンブルがあると思えば、ラテンのリズムで進む曲があり、ロック調、ファンク調(ギターが入ることで更にハマるようになった)ありとバラエティに富んだ内容ながら核はジャズそのものであり、バンドとしての音楽表現に散漫な印象がないところがこのグループの強みであることは「XII」と同様。ライヴということもあり、演奏の精度は甘くなるところはあるにしても、より荒々しく自由度高い演奏をたっぷりと楽しめる。スタジオ盤の項目で書いた通り、サウンドに目新しさはないものの、ジャズがこれまで通過してきたあらゆる音楽性がごった煮的に詰め込まれている。洗練されたニューヨークのジャズでは聴けない熱量と良い意味でのバタ臭さがあり、聴いていて一瞬たりとも集中力が途切れない。ジャズを初めて聴くような人にはとっつきにくいかもしれないけれど、ジャム・セッションや即興性の高い演奏が好きな人ならその面白さがわかるはず。ライヴと言っても狭いクラブでの演奏なだけに、その狭い空間でしか生まれない演奏者間の緊密なやりとりと阿吽の呼吸が見え隠れしていて、ああ、この場にいたかったと思わえる。今どき、こんなバタ臭い演奏は日本人でなければむしろ聴くことができない。フリーあり、8ビートあり、アフリカテイストあり、長尺のインタープレイありの60年代の混沌としたジャズが好きな人に積極的にオススメしたい。ピアノのソロパートは少ないため、大西のピアノが好きな人には物足りないだろうけれど、このグループにあったソロとバッキングを披露している。各メンバーに自由を与えて予測不可能な演奏展開を引き出すバンドリーダーとして音楽をクリエイトする姿がここにはある。(2022年2月13日)

Unity All

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★
評価:★★★★★
[Recording Date]
2019/11/22,23,24

Day-1
[1] Unity 1
[2] Remembering Spring
[3] Gate Crasher
[4] Baby I'm Yours
[5] Magic Touch
[6] Falling Rocks
[7] Head Towards The Light
[8] Lost And Confident
[9] One Lap Behind

Day-2
[1] Unity 2
[2] Rain In March
[3] Kind
[4] July
[5] Walter Reflection
[6] Two Laps Behind
[7] Dr. Pu! Poon
[8] Dark Chime
[9] Tropical Sky

Day-3
[1] Unity Blues (Unity 3)
[2] Route 43
[3] Wakanda
[4] Apple Of My Eye
[5] To The End Of The World With You
[6] Peace In Chaos
[7] Cura De Gatos
[8] Teenager
[9] Alert 5!
[10] Speak Your Name
吉本章紘 (ts, fl)
広瀬未来 (tp, flh)
片岡雄三 (tb)
大西順子 (p, key)
井上陽介 (b)
高橋信之介 (ds)
吉田サトシ (g)
David Negrette (as)
Wornell Jones (vo)
「Live XI」は3日間の演奏の中から選曲されたもので、その全3日収録版となるのがこのアルバム。ステージでの演奏をすべて収録し、選りすぐりの演奏に絞って(場合によっては曲を編集して)ライヴ・アルバムをリリースし、のちにすべて公開されるのはよくあること。マイルスのフィルモアやセラードア、コルトレーンやビル・エヴァンスのヴィレッジヴァンガードなどがそのような経緯のライヴ音源の代表格。数日のステージがすべて収録されている所謂コンプリート音源は曲の重複が多く、同じ曲が日によってどのように演奏されているかを楽しむマニア向けの意味合いが強い。しかし、この「Unity All」は曲の重複がない(各日1曲めの "Unity" はジャム色が強く内容は異なっている)。そもそも、全曲をリリースするつもりで録音したということもあって、日ごとの同じ曲の演奏の違いを聴かせるためではなく、演奏したい曲が数多くあって、それをすべて聴いてもらおうという趣旨のコンプリート版となっている。「Live XI」から大きく質が異なる演奏があるわけではないけれど、振り幅はより大きく、1枚モノの収録には向いていない長尺曲(70年代のマイルスの匂いも漂う17分に及ぶDay-2の[3]など)も漏れなく収録。このグループを気に入っている人ならこの3枚組は当然必聴。(2022年2月8日)

Out Of The Dawn

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
2021/3/23,24

[1] Naughty Ghost
[2] Suite Estaciones
    - I. Giraudo (Invierno)
[3] Suite Estaciones
    - II. Voluntad (Primavera)
[4] Suite Estaciones
    - III. Interludio (Verano)
[5] Suite Estaciones
    - IV. Bullicio (Tormenta)
[6] Suite Estaciones
    - V. Carnaval (Otono)
[7] Won't Cry Anymore
[8] Radio Engulfed In Sandstorm
[9] Metamorphosis
[10] Embers
[11] Rise's Triangle
[12] Blue Flower
[13] Both Sides Now
[14] In Need
広瀬未来 (tp)
佐瀬悠輔 (tp)
吉本章紘 (ss, ts, fl)
David Negrete (as, fl)
曽我部泰紀 (ts, ss, fl)
陸悠 (bs, cl)
佐藤芳恵 (cl, bcl [2][3][5])
和田充弘 (tb)
池本茂貴 (tb)
青地宏幸 (btb)
本間州 (oboe, ehr [1])
中澤幸宏 (hr [11][12])
松永敦 (tuba [11][12])
馬場孝喜 (g [7][8])
武本和大 (p except [1][5])
スガダイロー (p [1][5])
井上陽介 (b)
濱田省吾 (ds except [1][8])
吉良創太
     (ds [1]-[6][8][11][13])
大儀見元 (per [1]-[7])
ジャズに定番のトランペットやサックスだけでなく、クラシカルなビッグバンドで用いられるクラリネットやフルートも含めたオーケストラを大西のプロデュース(演奏はしていない)で編成、曲はセクステット・プロジェクトの共演以来、大西が信頼を寄せている広瀬未来、吉本章紘、井上陽介が書いている。これまでの大西作品と同様にミンガスやモンクのグループのようなアンサンブルのムードはありつつもその色合いは控えめになり、大西がすべてを方向性を決めているというよりは広瀬、吉本、井上のアイディアを積極的に取り入れたと思われる民主的なオーケストラ・サウンドになっている。つまりはセクステット・プロジェクトのオーケストラ版といったところか。僕の感覚の例に漏れず、技術はしっかりしていても主張が薄い日本人の演奏だなとは思うけれど、オーケストラということもあってあまり気にならない。サウンドの幅は広く、40年代のスウィング・ジャズのテイストをところどころまぶし、時にラテンのテイストを交えたり、60年代のフュージョン的なサウンドも取り込んだものになっている。よって(セクステット版のレビューでも似たようなこと書いた通り)サウンドは決して斬新ではく、ニューヨークの若手がリリースする新譜のように「そうかこれが現代の先端を走ろうとするジャズか」と思わせるところはない。恐らくニューヨークでは古いスタイルのジャズを踏襲して現代の解釈で違うものを作ることじたい評価されないという風潮があるんだろうと想像する。でもその最先端ジャズには失われたものもあり、このアルバムのように古いジャズを踏まえた上で現代風に演奏することには正当な意義があると思う。コロナ禍だからこその企画、制作となった側面であろうドメスティック・ジャズ・オーケストラのサウンドはさまざまな創意工夫に溢れており、アメリカで演奏しても高い評価を得られるのではないかと思う。(2022年2月13日)

Grand Voyage

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
2021/9/26-29

[1] Wind Rose
[2] Turquoise Drops
[3] Printmakers
[4] Tridacna Talk
[5] Ground Swell
[6] Harvest! Harvest!
[7] Flor de Organdi
[8] I Love Music
[9] Charlie The Wizard
[10] High Tide
[11] Low Tide
[12] Un Dia de Cielo Azul
[13] It's A Fine Day
[14] Kippy
大西順子 (p)
井上陽介 (b)
吉良創太 (ds)
大儀見元 (per, vo [12])
小野リサ (g, vo [7]
ジャケットのイメージのせいもあるかもしれないけれど1曲目から、あまり大西のイメージにはない爽やかな印象を与える曲と演奏。ピアノ・トリオ+パーカッションというカルテットで、どの曲でもパーカッションが全面的にフィーチャーされているため、所謂ピアノ・ジャズ・トリオのムードとは趣を異にする。ピアノ・トリオという編成は音に隙間があり、その間合いが演奏者によってさまざまな形で変化し、表現されるところが面白味でもある。パーカッションを積極的に取り入れた場合、その隙間が少なからず埋められることになるためベースとドラムとの関係性が薄くなり、ピアノ・トリオとしての面白さは減退することになる。一方で、パーカッションが入ることによって、ラテン味と楽しげなムードをより効果的に作ることができるし、リズムの複雑さとバリエーションを増やすことができるところに面白さが表れる。もちろん大西のピアノのスタイルは基本的にブレはなく、その音楽もジャズそのもの。ラテン調の曲などを柔軟にこなし、ピアニストとしての表現の幅を広げている。セロニアス・モンクの"Epistrophy"風主題、アート・ブレイキーのドラムソロ風打楽器パフォーマンス、得意とするスピーディなピアノにコンガの絡みで複雑味が増す演奏、まったりのボサ・ノヴやキューバ音楽スタイルの歌モノ、、躍動感としっとり表現の両面を聴かせるピアノソロなど曲調はバラエティに富んでいる。固い信念に基づいてエリントンやミンガスのような硬派なジャズで通していた若い頃はそれはそれで魅力的であったのは確かだけれど、音楽を受ける器が大きくなったというか懐が深くなったというか、より成熟したピアニスト、音楽家になったことを感じさせる。コンガは打ち方によってサウンドが民族臭が濃くなりすぎてしまう場合もあるけれど、ここでは軽快さ、爽快さを演出する重要なファクターになっているし、シリアスな曲調におけるパフォーマンスにも効果的。ベースとドラムの主張があまり強くないところもパーカッションの活躍で気にならない。ピアノの音量が抑え気味なところが気になるものの、ピアノを目立たせることを目的とせずグループとしての表現に主眼を置いたからかもしれない。全体的には良い意味で肩の力が抜けていて、それでいながら活力溢れる演奏で占められていており、このグループならではの音楽になっているところが素晴らしい。(2022年2月13日)