Rock Listner's Guide To Jazz Music


その他


This Here Is Bobby Timmons

曲:★★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1960/1/13, 14

[1] This Here
[2] Moanin'
[3] Lush Life
[4] The Party's Over
[5] Prelude To A Kiss
[6] Dat Dere
[7] My Funny Valentine
[8] Come Rain Or Come Shine
[9] Joy Ride
Bobby Timmons (p)
Sam Jones (b)
Jimmy Cobb (ds)
ファンキー・ピアニストの代表格、ボビー・ティモンズのピアノ・トリオ・アルバム。50年代中期くらいには、まだ抑えた演奏をしていたティモンズは徐々にそのファンキー濃度を高め、ジャズ・メッセンジャーズで活動するころには力強いブロック・コードを連打する黒さで人気を博した。このアルバムでは、そんな濃厚さを前面に押し出したティモンズのピアノが堪能できる。自身のヒット曲に有名スタンダードも加えて、耳慣れた曲を次々に黒っぽく料理しているところが聴きどころ。サム・ジョーンズとジミー・コブの演奏も勢いがあっていい。ジャズ門外漢がイメージする、オシャレ、洗練、知的といったキーワードとは異なり、バタ臭く、ややコッテリ気味の世界なので、ジャズ初心者向けではないかもしれないけれど、こういう黒っぽい音楽こそがジャズの根源であることを知るのにもいいんじゃないだろうか。ティモンズのピアノを堪能できる反面、次々に流れてくる有名曲を聴いていると管楽器入りのクインテット編成などで演奏されているオリジナル・バージョンを聴きたくなってしまうのは、演奏がつまらないというよりもティモンズが作曲家として優れていることを示している。(2007年8月19日)

At The Hickory House / Jutta Hipp



曲:★★★★☆
演奏:★★★☆
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1956/4/5

Vol.1
[1] Introduction
    by Leonard Feather
[2] Take Me In Your Arms
[3] Dear Old Stockholm
[4] Billie's Bounce
[5] I'll Remember April
[6] Lady Bird
[7] Mad About The Boy
[8] Ain't Misbehavin'
[9] These Foolish Things
[10] Jeepers Creepers
[11] The Moon Was Yellow

Vol.2
[1] Gone With The Wind
[2] After Hours
[3] The Squirrel
[4] We'll Be Together Again
[5] Horacio
[6] I Married An Angel
[7] Moonlight In Vermont
[8] Star Eyes
[9] If I Had You
[10] My Heart Stood Still
Jutta Hipp (p)
Peter Ind (b)
Ed Thigpen (ds)
ピアノ・トリオがジャズのメインストリームでないことは他の項目でも書いている通りで、特に50年代録音のレコードでピアノ・トリオのジャズは少なく、名盤と呼ばれるアルバムも思い浮かばない。そんな50年代の中盤に、なぜドイツ人女性によるピアノ・トリオのライヴ盤が2枚も残されたのか。テクニックが取りたてて優れているわけでもなく、エキセントリックな感性があるわけでもない、ユタ・ヒップというピアニストの活動期間はごく短く、残された録音もわずか。名門、ブルーノートのカタログに残っていなければきっと忘れられていたことだろう。いろんな意味で貴重だからと言ってこのアルバムを必要以上に持ち上げるつもりはない。一方で、56年という時代に白人が引くジャズ・ピアノは、確かに他の黒人ピアニストとは異質で、独特の憂いを帯びたトーンが特徴的。コテコテのブルースが入っているなど演奏の幅が広いVol.2もいいけれど、彼女ならではのトーンを楽しむのならVol.1の方が楽しめる。このヒッコリー・ハウスというのはステーキ・ハウスだったとのことで、このCDを聴いていると、ニューヨークのレストランで観た、生活の一部としてさりげなく演奏されていたピアノ・トリオを思い出してしまう。(2009年2月14日)

Money Jungle / Duke Ellington

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1962/9/17

[1] Money Jungle
[2] Fleurette Africain
[3] Very Special
[4] Warm Valley
[5] Wig Wise
[6] Caravan
[7] Solitude
[8] Switch Blade
[9] A Little Max (Parfait)
[10] REM Blues
[11] Backward Country Boy Blues
[12] Solitude (alt take)
[13] Switch Blade (alt take)
[14] A Little Max (Parfait)
      (alt take)
[15] REM Blues (alt take)
Duke Ellington (p)
Charles Mingus (b)
Max Roach (ds)
デューク・エリントン。ジャズ界最大の重鎮。帝王でも神でもなく重鎮である。誰もエリントンのことを悪く言うことはいない。エリントンを否定することはジャズを否定することにつながるかのような空気さえある。にもかかわらず、エリントンが好きでたまらないという人は意外と少ないような気もする。そんなデューク・エリントンはビッグ・バンドのリーダーとして、作曲家、編曲家として知られていて、自身も「私の楽器はオーケストラだ」と発言している。そんなエリントンをピアニストとして聴く、なったときに真っ先に挙げられるのがこのアルバム。僕は55年以前のジャズにはあまり関心を持てないこともあって当然エリントンについても疎い。知っているのは「Duke Ellington & John Coltrane」くらいで、そこで聴けるピアノは予想外にモダンで美しいものだった。しかし、このアルバムで聴けるエリントンのピアノは、伝統的なスタイルをベースにしながらも極めて野性的で、時に前衛的と言えるほどの押し出しがあり、「重鎮」という言葉のイメージとのギャップにあっけに取られてしまう。CDには、録音日が「Duke Ellington & John Coltrane」と9日違うことが書かれており、それを知ると更に呆然とする。ちなみに前衛的といってもフリー・ジャズのそれとはまったく質が違っていて、あくまでも伝統ジャズを下地にしているところが「重鎮」たる所以でしょう。ブンブンとうなりながら前衛的ムードに拍車をかけるミンガスのベースと、堅実なスネアワークとシンバルの「チーチチ、チーチチ」という使い方がいつも通り個性的なローチのドラムも好演。ジャズ・ピアノをお洒落でムーディなものと思い込んでいる人にはまったく用のない、そしてジャズの幅広さを柔軟に受け止める人には強く推奨できる超個性的ピアノ・トリオ・アルバム。(2007年4月26日)

Tender Feelin's / Duke Pearson

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★★☆
評価:★★★☆
[Recording Date]
1959/12/16 [4] [6]
1959/12/19 [1]-[3] [5] [7]

[1] Bluebird Of Happiness
[2] I'm A Fool To Want You
[3] I Love You
[4] When Sunny Gets Blue
[5] The Golden Striker
[6] On Green Dolphin Street
[7] 3 A.M.
Duke Pearson (p)
Gene Taylor (b)
Lex Humphries (ds)
ドナルド・バードやグラント・グリーンのアルバムで魅了され、(個人的にはあまり好きではない)ピアノ・トリオ編成でも聴いてみたくなったのがこのデューク・ピアソン。ピアソンは作曲家としても良質の曲を提供しており、黒さを根底に持ちながら洗練された美しい音使いで抑えた哀愁を漂わせるところに魅力がある。では、そんなピアソンの代表作とされているピアノ・トリオ編成の本作はどうかと言えば、実は少々期待外れだった。まずオリジナルが1曲しかないところが残念。ピアノのフレージングもサイド・メンのときより個性が薄く、ありきたりなピアノ・トリオとしてまとまっている。それでも、ピアノのタッチはやはりピアソンならではの上品さがあるし、意外や少々泥臭いフレーズも出てきたりもして、これはこれで違った面が楽しめる。結局、ピアソンが最も輝いているのは作曲家・バンドリーダーあるいはサイド・メンとしてであるという結論になってしまったけれど、全体的に聴きやすく、演奏そのものはとても良いので、ピアノ・トリオ好きには安心してお勧めできる。(2009年4月5日)

Sweet Honey Bee / Duke Pearson

曲:★★★★
演奏:★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★
[Recording Date]
1966/12/7

[1] Sweet Honey Bee
[2] Sudel
[3] After The Rain
[4] Gaslight
[5] Big Bertha
[6] Empathy
[7] Ready Rudy?
Freddie Hubbard (tp)
Joe Henderson (ts)
James Spaulding (as, flute)
Duke Pearson (p)
Ron Carter (b)
Mickey Roker (ds)
フロント・ラインを見れば、いずれ劣らぬ新主流派のツワモノばかりで、激しいフリー・ブローイング大会になっていてもおかしくない顔ぶれ。しかし、そこに期待すると大きな落胆を味わうことになる。曲がすべて6分未満であるところから想像できるように長尺のソロはなく、コンボとしての音楽表現に心を砕いたコンセプト。全曲ピアソンのオリジナルでアレンジャー、音楽家としてのピアソンの作品となっている。曲も演奏も親しみやすく、それでいて軽薄な感じはしない。そんなピアソンの世界を豪華なフロント・ラインで贅沢に表現する。特に[1]を筆頭に美しいフルートを聴かせるジェームス・スポルディングが光っている。アルバムとしては正直なところ地味で、作曲、編曲も、脇役で活躍をしていたドナルド・バードやグラント・グリーンのアルバムほどには冴えていないことを考えると、主役になると輝けないタイプなのかもしれない。しかし、親しみやすく心地よいこの音楽に身を任せるのもジャズの楽しみ方のひとつ。この時期のブルーノートの録音には音像のハッキリしないものが散見されるけれど、このアルバムもそんな1枚。(2010年1月9日)

The Music from The Connection / Freddie Redd

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1960/2/15

[1] Who Killed Cock Robin?
[2] Wiggin'
[3] Music Forever
[4] Time To Smile
[5] Theme For Sister Salvation
[6] Jim Dunn's Dilemma
[7] O.D.
Jackie McLean (as)
Freddie Redd (p)
Michael Mattos (b)
Larry Ritchie (ds)
「The Connection」というミュージカル用に全曲をフレディ・レッドが書き下ろした、ブルーノートにしては一風変った生い立ちを持ったアルバム。実際にこのメンバーをオリジナルとして劇中で演奏していたらしく、それをスタジオで録音したものが本作という位置づけ。とはいえ、いかにもミュージカル然とした曲かというとそんなことはなく、レッドが書いた明るくも哀愁漂うメロディに、マクリーンが哀愁を上乗せする予想通りのサウンドの、良い意味でのオーソドックスなハードバップ。つまりは聴きやすく、マクリーンの「Swing Swang Swingin'」並みにワンホーンのアルトが楽しめるという、マクリーン好きにはたまらない内容になっている。名作と称される要素がほぼない、言い換えるとカジュアルな曲と演奏がむしろ強みで、こういうジャズもまた楽しい。(2013年5月18日)

Shades Of Redd / Freddie Redd

曲:★★★★
演奏:★★★☆
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★
[Recording Date]
1960/8/13

[1] Thespian
[2] Blues - Blues - Blues
[3] Shadows
[4] Melanie
[5] Swift
[6] Just A Ballad For My Baby
[7] Ole
Tina Brooks (ts)
Jackie McLean (as)
Freddie Redd (p)
Paul Chambers (b)
Louis Hayes (ds)
いわゆるモダン・ジャズの管楽器で音域的に万能なのはテナー・サックスとアルト・サックスである。トランペット、ソプラノ・サックス、バリトン・サックスによるワン・ホーン編成がとても少ないのに対して、テナーあるいはアルトのワン・ホーン編成が珍しくないことがそれを物語っている。そんなこともあってか、ワン・ホーンでも十分なテナー・サックスとアルト・サックスという組み合わせのクインテット編成というのは意外とありそうでない。[1]は2本のサックスによる柔らかいハーモニーで最後まで決められてたメロディを奏でる(アドリブはほとんどない)。この哀愁あるメロディが以降最後まで展開され、それがアルバムのカラーになっている。レッドのピアノはやや無骨な面と柔らかさが同居した感じが特徴とはいえ演奏の面では特別光るものがあるというほどではなく、つまり、このアルバムはフィレディ・レッドの曲表現が何よりも中心で聴かせどころになっている。ティナ・ブルックスとマクリーンはこの雰囲気に合う適度にリラックスしたソロを展開、特にマクリーンの独特のトーンはこの音楽に合っている。60年という録音時期を考えると音楽的にはやや野暮ったさが感じられるけれど、フレディ・レッドのオリジナル曲による独特のメロディとハーモニーを味わう作品。(2006年11月28日)

Horace Silver And The Jazz Messengers

曲:★★★☆
演奏:★★★☆
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1954/11/13 [1] -[3] [8]
1955/2/6 [4]-[7]

[1] Romm 608
[2] Creepin' In
[3] Stop Time
[4] To Whom It My Concern
[5] Hippy
[6] The Preacher
[7] Hnkerin'
[8] Doodlin'
Kenny Dorham (tp)
Hank Mobley (ts)
Horace Silver (p)
Doug Watkins (b)
Art Blakey (ds)
ジャズ・メッセンジャーズ結成の経緯には諸説あり、名前こそ古くからアート・ブレイキーが使っていたものの、ホレス・シルバーのコンボにブレイキーが加わってクラブに出演、好評を博したのが発端という説が有力らしい。いずれにしても初期ジャズ・メッセンジャーズの音楽はホレスが主導したものであることは間違いなく、「At The Cafe Bohemia」までの音楽性はホレスが作ったものだと言える。このアルバムはもともとホレスをリーダーとして録音されたもので、その後ジャズ・メッセンジャーズの名前が売れたことからこのアルバム・タイトルになったとのこと。曲は[7]を除きすべてホレスのオリジナル。実は僕はあまりホレスの良い聴き手ではなく、シンプルすぎるピアノにも曲にもさほど感じるものがない。代表作とされるアルバムにもどうも馴染めない。とはいえ、ここでのメンバーはオリジナル・ジャズ・メッセンジャーズそのもの。ドーハムとモブレーの堅実なプレイ、そしてここではやや控えめながらブレイキーのノリは僕にとって好ましいもので、楽しく聴ける。「At The Cafe Bohemia」が好きな人なら聴いておきたい1枚。ちなみに、このアルバムを最初に聴いたとき、曲名を見ずに流していたろころ、アルフレッド・ライオンが「Cony(くだらない)」と評したヒット曲が[6]であることがすぐにわかった。ヒット曲というのは単純でわかりやす曲というのはジャズの世界でも同じ。(2008年3月16日)

6 Pieces Of Silver / Horace Silver

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1956/11/10

[1] Cool Eyes
[2] Shirl
[3] Camouflage
[4] Enchantment
[5] Senor Blues
[6] Virgo
[7] For Heaven's Sake
Kenny Dorham (tp)
Hank Mobley (ts)
Horace Silver (p)
Doug Watkins (b)
Louis Hayes (ds)
始めにお断りしておくと、僕はホレス・シルヴァーの良い聴き手ではない。そのホレス・シルヴァー、マイルス・デイヴィスやアート・ブレイキーなどを聴いていれば自然に耳にする機会があるものの、そこで聴こえてくるピアノはさして個性的な響きがあるわけでもないし、アクが強いわけでもない。ピアノがシンプルすぎることも、少しヒネたものを好む僕にとっては物足りなさを感じる原因かもしれない。しかし、そのような分かりやすさと軽快なスウィング感こそがホレスの持ち味。そして、作曲家としての評価が高いホレスの真価を問うならリーダー・アルバムを聴くしかない。そこで、大ヒット曲[5]を含むこのアルバム。総じて言ってしまえば、良くも悪くもオーソドックスなハード・バップ。ドナルド・バードとハンク・モブレーのジャズ・メッセンジャーズからの引き抜き組の演奏もオーソドックスにブローしていて、ホレスの音楽に良く合っているように思える。そして、少し憂いがありつつもラテンな味が見え隠れするホレスのピアノが、リズミカルでグルーヴのリズム感を支えているところはさすがバンド・リーダーといった感じ。トリオ編成による[2][7]のスローな曲で聴かせるメランコリックなピアノも味わいがある。曲も含めて、音楽家ホレスの魅力を僕に教えてくれた1枚。(2010年6月6日)

Us Three / Horace Parlan

曲:★★★★
演奏:★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★
[Recording Date]
1960/4/20

[1] Us Three
[2] I Want To Be Loved
[3] Come Rain Or Come Shine
[4] Wadin'
[5] The Lady Is A Tramp
[6] Walkin'
[7] Return Engagement
Horace Parlan (p)
George Tucker (b)
Al Harewood (ds)
右手に不自由があるピアニストとして有名なホレス・パーランの代表作。確かに流暢に指が動くというよりは、パーカッシヴでテンション・ノート(不協和音)を多用した独特なフレーズで畳み掛けるところが個性的。タッカーの重みを持ちつつも躍動するベースが強力でこのトリオの駆動力の源になっている。そのベースの音は録音のバランス的にやたら強調されていてちょっとやりすぎと言えるほどズンズンと響く。メロディ、テクニック云々よりもこのパーカッシヴなフィーリングが合うかどうかがパーランと付き合うカギになりそう。僕は意外と難解に感じる。(2006年8月5日)

The Trio / Oscar Peterson

曲:★★★★☆
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1961/7/28,29

[1] I've Never Been In Love Before
[2] (In The) Wee Small Hours
   (Of The Morning)
[3] Chicago That Todding Town
[4] The Night We Called It A Day
[5] Sometimes I'm Happy
[6] Whisper Not
[7] Billy Boy
Oscar Peterson (p)
Ray Brown (b)
Ed Thigpen (ds)
ジャズ・ピアノを追いかけていくと、そのうちオスカー・ピーターソンに必ず出会う。そしてガイドブックに従って「We Get Request」を聴き、その質の高さに納得しつつ、僕のようなシリアスなジャズを好む人は、「うん、いいね。でもちょっと横に置いておいて次に行こう」と新しい出会いを求めるに違いない。つまり、気難しさがない故に深みがなく、何度も繰り返して聴くほどではないと判断してしまう。ジャズに親しむ助けになってくれたのに、使い捨てのごとく扱ってしまうとは薄情であはあるけれど、あえて言うならばそれで良いと思う。そして他のジャズを次々と聴き倒し、その奥深さがわかったころ、思い出したように聴いてみることをお勧めしたい。このアルバムは、「We Get Request」をとりあえず横に置いてしまった人の立ち戻りの1枚としても聴き応え十分。ライヴとあってより自由奔放に弾くピーターソンは、しかし、確固たるその表現にいささかもブレがなく、どんな曲でも独自のタッチと音使い、心躍るスウィング感で彩り、自分色に染めてしまう。そういう意味ではオーネット・コールマンにも負けていないほどだけど、ジャズの範疇で卓越したテクニックとフレージングを駆使してそれを成し遂げてしまうところがピーターソンの凄さ。クリアで超低音域まで響く録音がまた素晴らしく、ベースのスケール感が織りなす雄大な音場が秀逸。ただし、この低い音域を再生するにはそれなりのオーディオ環境が必要で、イヤホンで聴くと府抜けたベースの音しか聴こえてこないために、本作のおいしいところを味わうことなく「ま、普通だね」とやはり軽く扱われてしまう可能性もある。是非、しっかりとした機材でこの録音を味わっていただきたいもの。(2009年6月6日)

Night Train / Oscar Peterson

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1962/12/16

[1] Happy-Go-Lucky Local
             (aka "Night Train")
[2] C-Jam Blues
[3] Georgia On My Mind
[4] Bags' Groove
[5] Moten Swing
[6] Easy Does It
[7] Honeydripper
[8] Things Ain't What
             They Used To Be
[9] I Got It Bad
       (And That Ain't Good)
[10] Band Call
[11] Hymn To Freedom
[12] Happy-Go-Lucky Local
         (aka Night Train)(alt take)
[13] Volare
[14] My Heart Belongs To Daddy
[15] Moten Swing (rehearsal take)
[16] Now's The Time
[17] This Could Be
         The Start Of Something
Oscar Peterson (p)
Ray Brown (b)
Ed Thigpen (ds)
オスカー・ピーターソンのザ・トリオはいつだって安心して聴ける。ピアノを筆頭にすべて期待通り、イメージ通りの演奏が聴けるから。大有名盤である「We Get Request」もこのアルバムも、演奏の質という意味ではまったく同等と言える。では、この認知度の差は何かといえば、録音状態がやや劣ることと選曲の違いによるところが大きいのではないかと思う。「We Get Request」が親しみやすいポップな曲が多いのに対し、このアルバムではブルース主体の演奏で占められており、その分、地味な印象を与えるのは仕方ないところ。一方で、オスカーのブルース・フィーリングを味わいたいのなら断然こちらのアルバムということになる。[2]をレッド・ガーランドの演奏と比べてみると、そのブルース表現の違いが明確にわかって面白い。その中にあって(オリジナルアルバムで言う)ラストの[11]が素晴らしい。オスカーは作曲家としてはほとんど評価されていないけれど、この曲だけでも評価するだけの価値がある。しかも、演奏がまたオスカーの優しさと明るさに溢れていて静かな感動を呼ぶ。最初に聴くべきザ・トリオのアルバムではないものの、内容に不足感はなく秀作として十分に薦められる。(2010年2月20日)

We Get Requests / Oscar Peterson

曲:★★★★☆
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1964/10/19,20
1964/? [10]

[1] Quiet Night's Quiet Starts
    (Corcovado)
[2] The Days Of Wine And Roses
[3] My One And Only Love
[4] People
[5] Have You Met Miss Jones?
[6] You Look Good To Me
[7] The Girl From Ipanema
[8] D. & E.
[9] Time And Again
[10] Goodbye J.D.
Oscar Peterson (p)
Ray Brown (b)
Ed Thigpen (ds)
初心者向けのジャズ・ガイドブックで、真っ先に出てくるピアノ・トリオの代表作といえばビル・エヴァンス。確かにエヴァンスのピアノは耳当たりが良く、洗練されていて美しい。しかし、どこか屈折した感性と陰鬱なムードも併せ持っていて内面は意外と難解であるというのが僕の意見。また、ビル・エヴァンス・トリオの大きな特徴であるインタープレイも初心者向けであるとは思えない。その点、オスカー・ピーターソンの感性と演奏は解かりやすい。それだけでなく繊細なタッチと流麗な指の動きといったテクニック面も圧倒的。テクニックに長けた人は往々にして難解な音楽に走る傾向があるけれどピーターソンは独特のスウィング感を体現し、明快であり続けた。エド・シグペンのシャープなドラム、レイ・ブラウンのフレキシブルなベースとの阿吽の呼吸もピアノ・トリオとして他に代わりがないと思わせる。このアルバムではコンパクトな曲にそんなトリオの魅力を凝縮して聴かせる趣向。伝統的なジャズの持つ明快さが、音楽にある程度のアクを求める向きには少し物足りないと感じさせる一因であるのも事実だけれど、心地よく高揚させるピーターソンのアイデンティティを楽しむべき名盤。(2006年9月21日)

Bottoms Up / The Three Sounds

曲:★★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1958/9/16
1958/9/28
1959/2/11

[1] Besame Mucho
[2] Angel Eyes
[3] Time After Time
[4] Love Walked In
[5] I Could Write A Book
[6] Jinnie Lou
[7] Nothing Ever Changes
                   My Love For You
[8] Falling In Love With Love
Gene Harris (p)
Andrew Simpkins (b)
Bill Dowdy (ds)
スタンダードを親しみやすく演らせたら右に出るものはないと言われるスリー・サウンズ。だからといって単に軽くて聴きやすいだけの演奏ではなく、黒人独特のフィーリングがあるところがこのグループの良いところ。そういう意味で、オスカー・ピーターソンに通じるものがあるけれど、ピーターソンが流暢な指の動きと繊細なタッチで聴かせるのに対し、ジーン・ハリスは簡潔な躍動感で勝負していてそれ故に更にフレンドリーに感じる。日本では求道的にジャズを聴くシリアスなリスナーが多いため、このグループは軽視されているけれど、聴いていて楽しい気分になれる軽妙な演奏もジャズの面白さ。シリアスなジャズの愛好家も、このアルバムで時にリセットして、ジャズという音楽の幅広さを楽しんでみてはどうでしょうか。(2006年8月5日)

The In Crowd / Ramsey Lewis Trio

曲:★★★★★
演奏:★★
ジャズ入門度:★★★★★
評価:★★
[Recording Date]
1965/5/13-15

[1] The "In" Crowed
[2] Since I Fell For You
[3] Tennesee Waltz
[4] You Been Talkin' 'bout
                                Me Baby
[5] Spartacus (Love Theme From)
[6] Felicidade (Hapiness)
[7] Motherless Child
[8] Come Sunday
[9] The Party's Over
Ramsey Lewis (p)
Eldee Young (b, cello)
Red Holt (ds)
過日、ウディ・アレンの「教授のおかしな妄想殺人」を観ていたとき、何度もBGMでエイト・ビートのピアノトリオ・ジャズの曲が流れていた。その曲調、曲の持つ空気感(録音状態、演奏スタイル)を聴いていると、リー・モーガンの「The Sidewinder」に端を発し、一世を風靡した60年代のジャズ(ジャズ・ロックとも言われていたらしいけれどその呼び方は個人的にはピンと来ない)と似た匂いがするため、同時代のジャズであろうことがわかる。でも、曲は知らないし、このような曲を演奏するピアノ・トリオも思い当たらないし、ピアノ演奏からも誰が弾いているのかイメージがわかない。調べてみた結果、このアルバムの[1]であることが判明。こういう気軽に聴けるジャズもいいじゃないか、と思ってCDを購入して聴いてみる。本作はライヴ・アルバムで「サンジェルマンのジャズ・メッセンジャーズ」以上に気分良くなった観客の雰囲気を捉えていることも特徴。有名曲を多く選び、ファンキー・スタイルのピアノで気軽に聴けるジャズに仕上がっていて、観客が気分良くなっているのもそういった曲によるものであることがよくわかる。しかし、これはうるさ型のジャズ・ファンには食い足りない。客を唸らせる演奏技術があるわけでもなければ、表現にアクがあるわけでもなく、曲も演奏もフックがない。そもそも、僕は50〜60年代のアメリカのジャズを熱心に聴いてきたつもりなのに、曲やアルバムはおろか、ラムゼイ・ルイスという名前まで初耳。このアルバムはビルボード総合チャートで2位、[1]はシングル・チャートで5位になるほどの大ヒット、一緒に映画を観ていた妻はジャズだと思っておらず、ポップでおしゃれな曲と思ったという。もちろん、コアなジャズ・ファンが軽視するから音楽として価値がないと言うつもりはないけれど、聴きやすくても聴き応えのあるピアノ・トリオであれば、ホレス・シルヴァー、オスカー・ピーターソン、ボビー・ティモンズ、そしてなんと言っても娯楽精神に溢れるザ・スリー・サウンズといった素晴らしいアーティストがいる。しかし彼らと比べても本作は大衆に大きく寄せたものであり、ジャズの歴史というよりはポップ・ミュージックの歴史の中に属しているのは確か。なるほど、初心者向けジャズガイドに紹介されていないし、ジャズ関連の本を何冊も読んでも名前が出てこないわけだ。BGMとして聴くのは悪くないし、こういう音楽はこういう音楽で愉しめばいいと思いますけどね。(2017年6月29日)

Overseas / Tommy Franagan

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★
[Recording Date]
1957/8/15

[1] Relaxin' At Camarillo
[2] Chelsea Bridge
[3] Eclypso
[4] Beat's Up
[5] Skal Brothers
[6] Little Rock
[7] Verdandi
[8] Delarna
[9] Willow Weep For Me
[10] Delarna (take 2)
[11] Verdandi (take 2)
[12] Willow Weep For Me
    (take 1)
Tommy Flanagan (p)
Wilbur Little (b)
Elvin Jones (ds)
最強のサイド・ピアニストと称されるトミー・フラナガンのピアノ・トリオ作として有名なアルバム。フラナガンといえばハード・バップ初期から活躍していながら、ホレス・シルヴァー、レッド・ガーランド、ボビー・ティモンズなどの黒人らしいピアノよりも垢抜けていて、相手によって柔軟に対応できるところが重宝され、それが名盤請負人として評価につながっている。フラナガンのリーダー作の決定盤とされる本作では、[2]に代表される不協和音の使い方や全体に力強いタッチに、いつものサイド・メンとしてのフラナガンと違う面が見えるとはいえ、それほど尖がった感じはしない。とりたてて美しいメロディがあるわけでも叙情的な要素はがあるわけでもなく、流暢に指が動くわけもないけれど、小気味良いフラナガンのピアノを聴くには良いアルバム。もともとピアノ・トリオに面白みを感じていない僕は、あえてこのアルバムを積極的に聴こう思わせる個性を感じないのも事実で、フラナガンはやはりサイド・メンでこそ輝く人だという結論に至ってしまう。エルヴィン・ジョーンズが終始ブラッシュ・ワークに徹して、ブラシ使いとしても一流であることを証明している。(2006年11月23日)

At The Village Vanguard / The Great Jazz Trio

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1977/2/19,20

[1] Moose The Mooche
[2] Naima
[3] Favors
[4] 12+12
Hank Jones (p)
Ron Carter (b)
Tony Williams (ds)
この後、メンバーを入れ替えてずいぶんと長く続くことになったグレート・ジャズ・トリオ結成初期のライヴ。ロン・カーターとトニー・ウィリアムスの若手にオーソドックスなスタイルのベテラン、ハンク・ジョーンズとはやや違和感を覚える組み合わせで、録音時期も、どんなジャズが演奏されるのか予想するのが難しい77年とあって興味をもって入手。ハンク・ジョーンズのピアノは持ち味であるオーソドックスさに加えて驚くほどモダンさがあって、なるほど若い共演者を得るとミュージシャンというのはこう変わるんだと思わせるもの。正直なところ、このピアノを聴いてハンクであることを言い当てることは僕にはできない。一方、ロンのベースはいい意味でいつも通り。注目はトニーで、ピアノ・トリオというフォーマットとあっては当時の V.S.O.P. のようにドッカンと行くわけにもいかず表面的にはやや大人しい。しかし、力んでいないというだけでトニーらしいパワーは十分。[1]の推進力とシックでクールなドラム・ソロのカッコいいこと。また[2]のような叙情的な曲では、シンバルやスネアの角を細かく刻んで自由自在にリズムを繰り出すところなど、意外と他のアルバムで見落としがちの「脇役でも奔放なトニー」「小技のトニー」を聴く事ができる。インタープレイという意味での聴きどころには乏しいアルバムだけれど、抑え気味でも才能を見せつけるトニーがトリオをリードしているところが最大の聴きどころ。(2006年11月25日)

Unit Structure / Cecil Taylor

曲:★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★
評価:★★★★
[Recording Date]
1967/5/19

[1] Steps
[2] Enter, Evening
  (Soft Line Strructure)
[3] Enter, Evening (alt take)
[4] Unit Structure
    /As Of A Now
    /Section
[5] Tales
Eddie Gale Stevens Jr. (as)
Jimmy Lyons (as)
Ken McIntyre (as、oboe,
bcl)
Cecil Taylor (p, bells)
Henry Grimes (b)
Allan Silvia (b)
Andrew Cyrille (ds)
フリー・ジャズといえば、オーネット・コールマンとセットで必ず名前が出てくるセシル・テイラー。僕が始めて接したのはあるテレビ番組で1曲だけ放送されていたピアノ・ソロのもの。超高速で両手を鍵盤に叩きつける姿は迫力があって「凄いな。これがかの有名なフリー・ジャズ・ピアニストなのか」と思ったと同時に、何曲も続けて聴く気にはならないかなという印象も持った。そんなソロとは違い、このアルバムは多くの人がイメージするフリー・ジャズが展開されていてある意味わかりやすい。ただ、世間での評価の通り、演奏がフリーキーであっても良く聴けば曲はかなり作り込まれている印象で、各人が自由気ままに音を出していたり音の垂れ流しにはなったりしてはいない。統制して纏め上げたセシル・テイラーの才能が良く現れたアルバムだと言える。そのセシルのプレイもパーカッシヴなだけでなく繊細さも出ていて、現代音楽的な資質も良く見える。僕の持論ではジャズにおけるピアニストは脇役であり、優れたピアニストは音楽家として個性を主張するものというのがあって、例えばホレス・シルヴァー、ソニー・クラーク、ハービー・ハンコックのように、セシル・テイラーも自分のピアノをベースにした音楽性で勝負する音楽家であることがよくわかるアルバムだと思う。メンバーが重複する「Conquistador!」も同じ傾向で、あえて比較すれば緻密さと色彩感は本作が、勢いと力強さでは「Conquistador!」が勝る印象。(2009年1月16日)

Chiasma / 山下洋輔

曲:★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★
評価:★★★★
[Recording Date]
1975/6/6

[1] Double Helix
[2] Nita
[3] Chiasma
[4] Horse Trip
[5] Introhachi
[6] Hachi
坂田 明 (as)
山下 洋輔 (p)
森山 威男 (ds)
日本人の演る洋楽というものは、実は洋楽っぽいだけであってエッセンスは歌謡曲であるというのが僕の意見。これはバカにしているわけでも見下しているわけでもなく、本質が違うんだということを指してのこと。例えばフラメンコなんかも、スペイン人のそれと日本人のそれを見比べれば門外漢の僕から見ても明らかに違っていて、異文化を自分のものにするというのが如何に困難かを感じてしまう。ジャスは基本的に歌がないものが中心であり、表面的な音を聴いていると日本人だと意識することがない。それでも、日本人のジャズを聴いているとジャズらしき音が鳴っているものの、やはり同じものだとは感じることができない。ロックも含めて特に顕著なのはベースを中心としたリズム感で白人や黒人のそれと、民謡などの日本の伝統音楽とのリズム感の違いを考えれば埋めがたい質の違いがあることは誰にでもわかるはず。ジャズを聴き始めた当初こそ日本人も差別なく聴いていた僕が、いつしか日本人のジャズを聴かなくなったのはそんな理由からのこと。と、前置きがようやく終わったところでこの山下洋輔のアルバム。ベースレスのトリオ編成、伝統的なところから逸脱するところが起点になっているフリー・ジャズという形式は前述の「日本人が越えられない壁」というハンデが少ない。[1][2]の入りはフリーキーでありながら内向的。[3]から激烈モードに突入、ひたすらけたたましく狂乱の演奏が繰り広げられる。その演奏は、恐らく本人たちからすると日本人のハンデを避けるために行き着いたものではなく、時代の空気に触発され、内から湧き出る表現の成果であると思われ、そのパワーと情熱に圧倒されてしまう。恐らく僕のように受け止める人は少ないとは思いつつ、それでもあえて言うならばやはりその演奏は日本人的に緻密で生真面目さに基づいていて遊びがない。そして、それこそがこのトリオの魅力と言える。ドイツでのライヴでありながら、観客の声援が大きいのは、そんな日本人的生真面目な狂乱を評価していたからに違いない。(2009年11月22日)

Lover Man / Jackie Terrasson

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1998/11/18
1998/11/19

[1] Donna Lee
[2] Nardis
[3] First Child
[4] In Your Own Sweet Way
[5] Wail
[6] Lost
[7] Broadway
[8] Lover Man
[9] Close Enough For Love
[10] Love For Sale
Jackie Terrasson (p)
Ugonna Okegwo (b)
Leon Parker (ds)
あまり日本で取り上げられることのない90年代のピアニスト、ジャッキー・テラソン。したがって情報は少ない。僕もガイドブックの片隅に書いてあったものを発見し、どんなものなのかという興味で入手。低音域から中音域を多用、活発でパーカッシヴな演奏、時に不協和音を交えて緊張感を高めるそのスタイルはバド・パウエルやセロニアス・モンクの影響が感じられる。[2]や[6]といった自作曲で繊細なタッチを聴かせるとはいえ、流麗、優美といったキーワードがあまり似合わないタイプで、なるほどお洒落でムーディなピアノ・トリオを好む日本ではあまり話題にならないのもよくわかる。有名曲を自分のスタイルで大胆に解釈しているところはなかなかで、厚みのある音でオーソドックスに刻むベース、ハイハットとタムタムなしというセットでも何の過不足も感じさせないドラムと共にトリオとしてのバランスも良く、主役がピアノであることが歴然としていながら、キース・ジャレットやブラッド・メルドーのようにひとりよがり的な感じがしないところが個性。バークリー音楽大学出身で、モンク・コンペティション受賞という経歴からイメージするハードルの高さはなく、音楽の表現はストレートで心地良よい。(2007年1月21日)

TEN / Jason Moran

曲:★★★☆
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★☆
評価:★★★☆
[Released in 2010]

[1] Blue Blocks
[2] RFK In The Land Of Apartheid
[3] Feedback Pt. 2
[4] Crepuscule With Nellie
[5] Study No. 6
[6] Pas De Deux - Lines Ballet
[7] Study No. 6
[8] Gangsterism Over 10 Years
[9] Big Stuff
[10] Play To Live
[11] The Subtle One
[12] To Bob Vatel Of Paris
[13] Old Babies
Jason Moran (p)
Tarus Mateen (b)
Nasheet Waits (ds)
リズムが柔軟かつ入り組んでいて、フォービートを強調した曲が少ないのは、少なくとも21世紀以降のニューヨークのジャズ・シーンでは最低限クリアしておかなくてはならない要素になっている。曲がオリジナル中心であること、そして確かな技術に裏打ちされながら安易に心地よいメロディや表現に流されないこと、これらが僕の考える21世紀に入ってからのジャズの必須要素である。50年代のジャズの焼き直しでは聴衆に評価されないという暗黙の共通認識があり、ミュージシャンはよく考えて音楽を作らなくてはならなくなった。そしてこのピアノ・トリオはこれらの要素を完璧に満たしている。ジェイソン・モランのピアノはセロニアス・モンクやホレス・パーランを洗練させたようなスタイルで、時にフリー・ジャズの匂いまで微かに漂わせ、それでも伝統的なジャズ(あるいはブルース)がベースにあり、黒人らしい骨太なグルーヴが感じられる。こういうフィーリングは、白人には(ましてや日本人には)真似できない。また、作曲者の名前にはモンク、ジャッキー・バイアード、コンロン・ナンカロウ(という現代音楽の作曲家)、バーンスタインの名前があり、オリジナルの8曲の中の1曲の共者にはアンドリュー・ヒルの名前が見えていて、総合してみると実際そのイメージ通りの音楽、演奏になっている。どの演奏にも高い音楽性が宿っていて、アヴァンギャルドの向かわずともオリジナリティを感じさせるのは才能の証。しかし、最初に挙げた21世紀ジャズに求められるジャズの要素は、親しみやすいとは言い難く、聴いていてハッピーな気分にはなれないという特性もある。難解と言うほどではないのに、親しみやすさももう一歩、というのも「気持ちや肉体よりも頭脳と理論でできている」現代のジャズの抱える問題で、音楽性の高さに関心しつつも排他的(ジャズが好きな人以外が近寄りがたい)な面があるところに良くも悪くも2010年代のジャズの特質がそのまま現れている。(2016年2月6日)

Human / Shai Maestro

曲:★★★★
演奏:★★★☆
ジャズ入門度:★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
2020/Feb

[1] Time
[2] Mystery And Illusions
[3] Human
[4] GG
[5] The Thied's Dream
[6] Hank And Charlie
[7] Compassion
[8] Prayer
[9] They Went To War
[10] In A Sentimental Mood
[11] Ima (For Talma Maestro)
Philip Dizack (tp)
Shai Maestro (p)
Jorge Roeder (b)
Ofri Mehemya (ds)
最新のジャズの動向はほとんど追いかけていない僕でも名前は知っているシャイ・マエストロ。ブラッド・メルドーとのデュオで知ったマーク・ジュリアナのカルテットでピアノを弾いてたから、というのが知っている一番の理由ではあったけれど、他でも名前を見かけることがあって、ずっと気になっていたところに新譜が登場、一度しっかり聴いてみることにした。冒頭から繊細なタッチとリバーブがかった響きで、ジャズ・クラブで聴くというよりはホールで聴いているかのよう。その繊細なタッチはクラシックのピアニストを思わせるものの、テクニックや表現は明確にジャズ・ピアニストのそれで、高揚することなくクールに抑えた表現で一貫している。トランペット含めたワンホーン・カルテット編成ながら、トランペットはメロディを奏でる、あるいはアンサンブル的な役割に終始、[2]の後半でアドリブ的な展開が出ては来るものの、おそらくずっと譜面を追って吹いていると思われ、ピアノ・トリオ編成の曲([6][7][8])があることも含めてあくまでもピアノが中心の音楽として成り立っている。洗練されていて刺々しさや派手さがなく、内向的なその音楽はイージーリスニングに陥ることなく思慮深く、控えめな主張と高い音楽性を備えていて、いかにもイマドキのジャズといった感じ。じっくりと鑑賞する音楽としては素晴らしいと思いつつ、50〜60年代の自由奔放で荒々しいジャズをこよなく愛する僕としては、この種の体を動かしたい衝動に駆られることが一切ない(ドライブで聴きたいと全く思えない)この種の音楽が果たしてジャズの進化したカタチなのだろうかという疑問が頭をもたげないこともない。(2021年3月29日)

Legacies / Artoro O'farrill

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★★★
[Release Date]
2023/Aug

[1] Dolphine Dance
[2] Well, You Needn't
[3] Blue Stale Blues
[4] Pure Emotion
[5] Obsession
[6] Darn That Dream
[7] Utvikingssang
[8] Doxy
[9] Un Poco Loco
Arturo O'Farrill (p)
Liany Mateo (b)
Zack O'Farill (ds)
80年代あたり以降のジャズ・ミュージシャンが、ミュージカルなどのヒット曲を中心としたスタンダードを演奏しなくなったのは周知の通り。広く知られた曲をジャズで演奏することじたい、50年代で既にやり尽くされた手法であり、それを続けているだけでは評価されなくなっていったことがその理由。初期のブラッド・メルドーなど、ある程度スタンダードを取り上げてきた人たちであってもそれは主にライヴ盤でのことであり、スタジオ録音でスタンダードを数多く取り上げている例はほとんどない。本作リリースの2023年ともなればその傾向はより顕著で、ジャズ・ミュージシャンは自作曲で自己表現をすることが半ば常識になっている。このアルバムは、ラテン・ジャズの作曲家、編曲家、ピアニストとして知られるアルトゥーロ・オファリルが、アルバム・タイトルの通りかつてのジャズ曲をピアノ・トリオで演奏するという今となってはむしろ珍しい企画。実はこのピアニストを聴くのは初めてのことで、作編曲家としてはまったく存じ上げないんだけれども、そんな背景を知らずに聴いたとしても実に内容の濃い演奏。ピアノのタッチは歴史上の演奏者と比べて断然正確で、それでいてクラシックのピアニストのような規律正しい弾き方とはまったく異なったジャズとしか言いようがないスタイルで表現しており、有名曲を技巧でなぞるだけの安易な演奏とは完全に趣を異にする。スタンダードを演奏することが評価を妨げる要因とはなり得ないことを見せつけ、高い精度がありながら技巧に溺れない骨太なジャズ表現で勝負している。シンプルなピアノ・トリオで出てくるサウンドは誰もがイメージするとおりのもので革新性はなくとも、スタンダードでもここまで鮮度が高い演奏ができるというひとつの手本であると評しても過言ではない。尚、音楽的にはラテン色は希薄ながら、そのピアノには出自のラテン・スタイルが基盤にあり、それ故に時にフリーな展開になる曲でも前衛的なムードは皆無で、パワフルかつアグレッシヴな演奏で貫かれている。イージー・リスニング的なピアノ・トリオをは対局にある肉感的なエネルギーを聴くアルバム。(2024年3月10日)