Rock Listner's Guide To Jazz Music


Chick Corea


Now He Sings, Now He Sobs

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
1968/3/14
1968/3/19

[1] Steps-What Was
[2] Matrix
[3] Now He Sings-Now He Sobs
[4] Now He Beats
          The Drum-Now He Stops
[5] The Law Of Falling
                   And Catching Up
Chick Corea (p)
Miroslav Vitous (b)
Roy Haynes (ds)
チックのピアノ・トリオ作はグラミー賞を受賞した「Akoustic Band」をまず聴いた。これが率直に言ってつまらなかった。それだけで評価を下すのはなんとも生意気だったんだけれどチックのアコースティック・ピアノはつまらないと思っていた。「The Song Of Singing」はピアノ・トリオによるフリー・ジャズということで、まずまず成功していると思うものの異色作であることに違いなく、もうチックのピアノはいいやと思っていた。でも結論を下すのは名作の声が高い本作を聴いてからにしようと思い入手。聴いて驚いたのはまっとうなピアノ・トリオだということ。先進的であってもまったく前衛的ではなく、美しく繊細でリリカルなタッチ、洗練された力強さを備えたフレッシュな感覚に衝撃を受ける。マイルス・グループ在籍中の録音でエレクトリック・ピアノを演奏していた時期にこのような演奏をしていたことにも驚く。またミロスラフ・ヴィトウスの鋭角なベースとロイ・ヘインズの小刻みかつキレのあるドラムが創出するスピーディなリズムも出色で3人のコンビネーションも申し分ない。ピアノ・ソロから始まりベースとドラムが途中で加わる[4]がスリリング。甘いムードに身を任せる聴き方を否定するような緊張感は、難解でなくともやや聴き手を選ぶものの、緊張感が最初から最後まで持続しているところが素晴らしい。硬派でカッコいいピアノ・トリオを聴きたいという人に強く勧められるし、個人的にはすべてのピアノ・トリオ作品の中でも最高峰に位置する1枚。(2007年3月2日)

"is"

曲:★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1969/5/13,14

[1] Is
[2] Jamala
[3] This
[4] It
Woody Shaw (tp)
Bennie Maupin (ts)
Hubert Laws (fl, piccolo)
Chick Corea (p)
Dave Holland (b)
Jack De Johnette (ds)
Horace Arnold (ds)
マイルス・デイヴィスのロスト・クインテット(69年頃に活動)は、破壊的な勢いでジャズを演奏する後にも先にもないグループだった。その演奏は、メロディやコード、リズムが解体されたもので一種のフリー・ジャズと言えるもの。そのロスト・クインテットの初期に採り上げていたチックの曲”This”は特に典型的なフリー・ジャズのイディオムに則ったものだったことはマイルス・マニアならよくご存知の通り。その"This"のスタイルの演奏、否もっと解体された演奏で占められているのがこのアルバム。フリー・ジャズの定義は人それぞれでしょうが、僕の定義はメロディ、コード進行、リズムに一定の法則性を持たない、加えてヒステリックでカオスなものということになっている。そしてこのアルバムではまさにそのような演奏が中心になっている。"This"はこの中では一番音楽的でまとまりを見せた曲になっているものの、[1](28分)、[2](14分)は僕の定義のフリー・ジャズが延々と展開されている。その破壊力はロスト・クインテットに匹敵する(なにしろエレピ、ベース、ドラムは同じメンツである)し、曲の解体度はこちらの方が高い。フリー・ジャズが聴いてみたいという方にはまさにうってつけといえる内容と言える。わずか27秒で、譜面で書かれた[4]もムードが一変するわけではなく、他の曲と同じ耳で聴けるのは、デタラメに演奏しているように聴こえる[1][2]も、メンバーの意思に一体感があるからであることを実感させる。齢50を超えた僕には正直なところ胃もたれする内容ではあるけれど、刺激を求めるジャズ・リスナーなら聴いて損はないと思う。(2021年5月9日)

Sundance

曲:★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1969/5/13,14

[1] The Brain
[2] Song of Wind
[3] Converge
[4] Sundance
Woody Shaw (tp)
Bennie Maupin (ts)
Hubert Laws (fl, piccolo)
Chick Corea (p)
Dave Holland (b)
Jack De Johnette (ds)
Horace Arnold (ds)
「"is"」がフリー・ジャズ演奏でほぼ占められているのに対して、こちらは一定の枠に収めた演奏(リズムもフォー・ビートを基本としている)が中心になっている。しかし、その演奏はやはりマイルス・デイヴィス・ロスト・クインテット的に荒々しく、(この当時としては)先進的、先鋭的なものだし、[3]は「"is"」にそのまま入っていても良いフリー・ジャズ。[1]はまずはピアノ・トリオ演奏で進むものの、その演奏はロスト・クインテットの勢いとイディオムを踏襲したものであることは、時期と奏者が同じであることを考えれば当然のこと。もちろんこの種の演奏は21世紀においては時代遅れであり、今このような演奏をしても誰も評価はしない。時代の徒花と言える露骨にアグレッシヴなスタイルは、言い換えるとこの時期のジャズでしか聴くことができないものであり、ジャズの歴史の一部として、そしてその後に聴きやすいアルバムを量産するチックの歴史の一部として、一度は通過しなくてはならない重要なものだったと思う。心を落ち着ける要素がほとんどないこの種のジャズは、歳を重ねると中々聴く気になれないけれど、自分の精神が安定しているときにはやはり魂を持っていかれる。そういう意味である種自分のメンタル状態を測るものになっている。(2021年6月28日)

The Song Of Singing

曲:★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1970/4/7,8

[1] Toy Room
[2] Ballad I
[3] Rhymes
[4] Flesh
[5] Balad III
[6] Nefertitti
Chick Corea (p)
Dave Holland (b)
Barry Alstschul (ds)
チック・コリアがマイルス・グループ在籍中に録音したもので、マイルスの「Black Beauty」3日前のセッション。というわけで非常にフリー・ジャズ色濃厚なピアノ・トリオ作品。当時のマイルス・グループにおけるチックは歪んだエレクトリック・ピアノで攻撃的なバッキングとソロを展開していた。このアルバムはそれをアコースティック・ピアノに置き換えた感じで、ピアノで演奏されることによって現代音楽的な響きも出ている。デイヴ・ホランドもマイルス・グループのときより自由かつアグレッシヴで、バリー・アルトシュルの柔軟かつ手数の多いドラムが攻撃性を加速。その世界はなんとなくキース・ジャレット・スタンダーズ・トリオがインプロヴィゼーションと演ったときと似た印象を受けるものの、スタンダーズ・トリオはすべての中心がキースにあるのに対し、こちらは3人のバランスの良さが際立ち、結果としてグループとして密度の高い演奏になっているところにより魅力を感じる。演奏のテンションが非常に高い一方、そのテンションが一定で起伏に乏しいためか平坦な印象を受けるという側面もある。尚、[6]はごくたまにメロディが見え隠れする程度で原型を留めておらず完全にオリジナルな曲になっているので、マイルスのあの曲と同じだと思わない方が良い。(2007年2月17日)

Circling In

曲:★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1968/3/14,19,27 (Disc 1)
1970/4/7, 8/13,19 (Disc 2)

Disc 1
[1] Bossa
[2] Gemini
[3] My One And Only Love
[4] Fragments
[5] Windows
[6] Samba Yanta
[7] I Don't Know
[8] Panonica

Disc 2
[1] Blues Conotation
[2] Duet For Bass And Piano No.1
[3] Duet For Bass And Piano No.2
[4] Starp
[5] 73°-A Kelvin
[6] Ballad
[7] Danse For Clarinet And Piano No.1
[8] Danse For Clarinet And Piano No.2
[9] Chimes No.1
[10] Chimes No.2
Disc 1
Chick Corea (p)
Miroslav Vitous (b)
Roy Haynes (ds)

Disc 2 [1]
Chick Corea (p)
Dave Holland (b)
Barry Alstschul (ds)

DIsc 2 [2]-[10]
Anthony Braxton
(as, fl, cl,
    contrabasse cl, per)
Chick Corea (p,)
Dave Holland (b, g, per)
Barry Astschul (ds, per)
Disc 1は名作「Now He Sings, Now He Sobs」セッションのお蔵入り音源(現在はボーナストラックとしてこの全8曲収録済みの盤あり)。個人的にはチックに限定せずともピアノ・トリオの最高傑作と崇めているこのアルバムなだけに当然期待して聴いてみた。その期待は同等レベルのものを聴けるだろうというものではなく、あのときに録音されたものなら採用されなかった出来の良くない曲でも楽しめるだろうというもので、しかしこのアウトテイクは高くない期待をも下回るアウトテイク集でしかなかった。演奏の緊密さ、鋭さ、研ぎ澄まされたテンション、それていてクールでスマートという要素が高次元でバランスしていた「Now He Sings, Now He Sobs」本編を「10」とすると、ここにある演奏は「6」程度のもの。演奏自体の方向に違いはなく、部分的には身を乗り出したくなる瞬間もあるものの、曲は短く、演奏にまとまりがない。リハーサルとして一応やってみて録音はしておきました、という経緯だったのではないかと推察する。生で聴くならともかく、レコードとして繰り返し聴くに耐えるかという観点では「6」に落ち着く。
Disc 2は「Circulus」と同じセッション。[1]はブラクストン抜きのピアノ・トリオ編成で「The Song Of Singing」と同様で同質のフリーを横目に見つつのジャズらしさを備えた演奏。[2]からが実質サークルの演奏となり、フリー・ジャズが展開される。サークル名義で有名な「Paris-Cnecert」は確かにフリー・ジャズではあったけれど、フリー・ジャズまで行っていない演奏も少なからずあり、ライヴ・アルバムとして聴くとそれが中途半端な印象になっていた。ライヴの場ではフリー・ジャズ一辺倒というわけにもいかず(客も演奏者も疲れるはず)、緩急を付けて幅広い演奏するのは当然のことで、それを音源化した「Paris-Cnecert」がどっちつかずの中途半端な内容になってしまったのは仕方がないことだったのかもしれない。でもスタジオ・アルバムであればそんなことは気にしなくても良い。ベースとピアノのデュオ、サックス、ベース。ピアノでのトリオ演奏を織り交ぜて構築された実験的演奏(ライヴで映えないでしょう)を混ぜ、時にはデイヴ・ホランドにアコギまで弾かせるここでのフリーは、感情の勢いに任せた暴力的な荒々しさを志向したものではなく、室内楽的な現代音楽を聴いているかのよう。それはまさしくスタジオという閉じた空間でなければ生まれなかったのかもしれない。(2021年8月14日)

Circulus

曲:★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★
評価:★★★★
[Recording Date]
1970/4/8, 8/19,21

Disc 1
[1] Drone
[2] Quartet Piece No.1

Disc 2
[3] Quartet Piece No.2
[4] Quartet Piece No.3
[5] Percussion Piece
Anthony Braxton
(as, fl, cl,
    contrabasse cl, per)
Chick Corea (p,)
Dave Holland (b, g, per)
Barry Astschul (ds, per)
「所謂マイケル・カスクーナの発掘モノの1枚(量は2枚)でチックが鬼籍に入ったことでCD化された。[1]は「The Song Of Singing」のセッションから。よってピアノ・トリオによる演奏。[2]以降はアンソニー・ブラクストンを加えたカルテット編成で、即ちサークルのメンツである。しかし名義はサークルではない。まあ、このあたりは契約の問題などの影響と思われ、実質はサークルの貴重なスタジオ録音と受け止めて良いでしょう。内容はこの時期のチックがご執心だったフリー・ジャズで、わかりやすいメロディやコード、リズムはここにはない。ここでのフリーは「Circling In」で展開される内向的なものだけではなく、演奏者の情感をデフォルメした激しさを伴うものもある。リード奏者のフリー・ブローイング、マリンバやヴィブラフォンと打楽器の乱れ打ち、ギーコギーコとアルコ弾きベース、ドラムの疾走といった要素がいろいろな場面で入れ替わり立ち替わり、時には絡み合って展開されるため、長尺演奏(順に26分、16分、17分、12分、6分)でも意外と飽きない。セシル・テイラーのようにヒステリック過ぎず、コルトレーンのように濃厚すぎず、オーネット・コールマンのように人を食ったような妙ちくりんなものでもない、いかにも王道でわかりやすいフリー・ジャズだと思う。「フリー・ジャズってどんな音楽なの?」と訊かれたら(そんなことを訊かれることはないでしょうが)僕はこのアルバムをお勧めしたい。(2020年7月18日)

Paris-Concert

曲:★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★
評価:★★★
[Recording Date]
1971/2/21

[1] Nefertitti
[2] Song For The Newborn
[3] Duet
[4] Lookout Farm
   / 73° Kelvin (Variation -3)
[5] Toy Room - Q & A
[6] No Greater Love
Anthony Braxton
               (as, fl, per )
Chick Corea (p)
Dave Holland (b, cello)
Barry Astschul (ds, per)
チックが若い時に組んでいたグループ、Circleはフリージャズを強く指向していたことで知られている。短命で終わったことから残された音源が少なく、今容易に手に入るのは71年にパリで録音されたこのアルバムくらいか。演奏時間は長く、6曲で1時間36分([2]は7分弱のベースソロ)というところに時代を感じる。サックスのアンソニー・ブラクストンは当時よく居たタイプの典型的なフリー指向リード奏者で、しかしときにオーソドックスな歌心も垣間見えるタイプ。そこにホランドのゴリゴリしたベース、ジャック・ディジョネットから重さを取り除いてスムーズなタム回しをしたらこうなるかというバリー・アルトシュルの手数が多いドラムというのが演奏の概要。「The Song Of Singing」を聴いた人ならそこにブラクストンを加えたもの、と言った方がわかりやすいかも。いかにもフリージャズ的な演奏、展開を聴かせる曲もあれば、ちょっと先進的ながらフツーのカルテット・ジャズのような部分もある。演奏レベルは高い。でもこれがどういうわけか僕の耳には妙に整った音楽に聴こえてしまい、グチャグチャした情念的なものや雑然とした熱気のようなものが今ひとつ感じられない。チックはきっと、マイルスのロスト・クインテットの路線を自分なりに発展させたかったんだろうと思う。そこに付け加えられている部分はそれなりにあるものの、発展しているとは残念ながら言い難い。当時、リアルタイムで聴いていれば衝撃を受けたのかもしれないけれど、現在聴いても気持ちをグイグイ持っていくような引力はここには残っていないと思う。おそらく、当の4人のメンバー、何よりチック自身が何かが足りていないと自覚し、短期間で活動を終えたんじゃないだろうか。チックはフリージャズの限界を感じたのか、これ以降この路線への追求は止めてしまう。それでも「過去のあの一瞬の記録」として熱心なチックのファンであれば聴いておくべきかもしれない。(2016年12月21日)

Return To Forever

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1972/Feb

[1] Return To Forever
[2] Crystal Silence
[3] What Game Shall
                    We Play Today
[4] Sometime Ago/La Fiesta
Joe Farrel (fl, ss)
Chick Corea (elp)
Stanley Clarke (elb, b)
Flora Purim (vo, per)
Airto Moreira (ds, per)
チック・コリアがマイルス・グループを脱退し、サークルという実験的音楽グループを経てたどりついたのがこのリターン・トゥ・フォーエヴァー。一般的にはフュージョンの走りと称されるのと同時にフュージョンの枠に留まらず、高い評価を受けた名盤とされている。時にダークに、時にリリカルに、時にスパニッシュに縦横無尽に活躍するチックのエレピは、マイルス・グループのときのような凶暴さは消えているものの違う意味で素晴らしい。このエレピにフローラ・プリムの声とジョー・ファレルのフルート/ソプラノ・サックスが透明感を与え、マイルス・グループではパーカッション専任だったアイアートがタイトなリズムを刻み、スタンリー・クラークのエレキ/アコースティック・ベースがウネりを加える。爽やかだとかピースフルだとか評されることが多いこのアルバム、チック自身が語っているようにわかりやすさに心を砕いた、言わば売れることを狙ったサウンドだけれど安易さや手抜き感は皆無で、幻想的な面も、終盤のようなスリルもある。そのバランスの良さこそが本作の最高の美点ではないだろうか。フュージョンが苦手な僕でも聴き込んでしまう魅力がある。(2006年11月27日

Light As A Feather

曲:★★★★☆
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
1972/Oct

[1] You're Everything
[2] Light As A Feather
[3] Captain Marvel
[4] 500 Miles High
[5] Children's Song
[6] Spain
Joe Farrel (ts, fl)
Chick Corea (elp)
Stan Clarke (elb, b)
Flora Purim (vo, per)
Airto Moreira (ds, per)
デビュー・アルバムと比べると知名度も扱いも破格に低いリターン・トゥ・フォーエヴァーのセカンド・アルバム。メンバーは同じ、曲も演奏も質的にはまったく劣らない。では、なぜこんなに「あってもなくてもいい」かのように世間はこのアルバムに冷たいのか。僕なりに分析してみると、一番の原因は曲のタイプにあるように思う。重厚で少しもったいぶった始まり方をして"La Fiesta"の終盤に盛り上がる「Return To Forever」は、聴き手をカタルシスに導く高揚感が確かにある。このアルバムには、そこまでのドラマチックな曲は用意されていないし、エンディングの[6]は有名曲とはいえ軽妙さと哀愁のメロディが持ち味。デビュー・アルバムは演奏に冗長さがあってそれが幻想的な面となって出ているのに対して、前作ではフルートに徹していたジョー・ファレルの力強いテナー・サックスがフィーチャーされ、プリムのヴォーカルが全面に出ていることでより汎用的でタイトなサウンドに近づいているところも差異が見られる。でも、それは枝葉に過ぎないと僕は思う。この2枚は対(つい)として成立していると言っても良いほど共通のコンセプトで作られていて、こと演奏についてはこちらの方が成熟していてアグレッシヴ。特にチックのエレピのフレーズとサウンドはより多彩に展開され、そしてスタンリー・クラークのベースもこちらの方が冴えわたっている。デビュー・アルバムだけを聴いて「リターン・トゥ・フォーエヴァーってなかなかいいね」と思っている人はこのセカンド・アルバムを聴いて更にその思いを強くしてほしいと思う。(2008年11月8日)

Romantic Warrior

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★☆
[Recording Date]
1976/Feb

[1] Medival Overture
[2] Sorceress
[3] The Romantic Warrior
[4] Majestic Dance
[5] The Magician
[6] Duel Of The Jester
    And Tyrant (Part I & Part II)
Al Di Meola (g)
Chick Corea (key)
Stan Clarke (elb, b)
Lenny White (ds, per)
カモメのジャケットで知られるあのリターン・トゥ・フォーエヴァーは後に電化、そしてロック化していく。そのロック化した同名グループのこのアルバム、カモメのイメージが1曲目を聴き始めた瞬間から消し飛んでしまうほどで、どちらかといえばマハヴィシュヌ・オーケストラ的なテクニカル・フュージョンに仕上がっている。チックはエレピだけでなくムーグなどさまざまなキーボードを駆使、アル・ディメオラはいかにもフュージョン的な音色とフレーズのエレキ・ギターとテクニカルなアコギを披露、スタンリー・クラークの太くうねるベースに、パワフルかつタイトなレニー・ホワイトのドラムと、単体で見ていけば高い演奏力と色彩豊かなサウンドが何らかの新しい音楽に昇華しても良さそうなものなのに、どこか無機質なロック系フュージョンで終わってしまっている。演奏力の高さはもちろん実感できるものの、そんなドライで人間味のないサウンドのせいか、スリルが生まれてこない。個人的にチックは当たり外れが激しく、このアルバムは後者だったということで。(2009年9月12日)

Trio Music

曲:★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1981/Nov

Trio Improvisations
[1] Trio Improvisations 1
[2] Trio Improvisations 2
[3] Trio Improvisations 3
[4] Duet Improvisations 1
[5] Duet Improvisations 2
[6] Trio Improvisations 4
[7] Trio Improvisations 5
[8] Slippery When Wet

The Music Of Thelonious Monk
[9] Rhythm-A-Ning
[10] 'Round Midnight
[11] Eronel
[12] Think Of One
[13] Little Rootie Tootie
[14] Reflections
[15] Hackensack
Chick Corea (p)
Miroslav Vitous (b)
Roy Haynes (ds)
前半の即興と、モンク曲を取り上げた後半の二部構成。その前半はメロディラインを決めてあった[8]とリズムのモチーフだけ決めてあった[3]以外は完全に即興演奏とあってフリーに展開される。フリー・ジャズの面白みは確かにある。何しろあの「Now He Sings, Now He Sobs」のメンバーなのだからそれなりの質は担保されているんだけれど、81年にフリー・ジャズというのもちょっと外している感じはある。セロニアス・モンクの曲に挑む後半の方がこのトリオ面白さは出ていて、こちらも3人の演奏の質の高さは体感できる。でも、モンクの曲ならではの面白さをどう改変するかという観点ではそれほど斬新なものになっているとは思えないし、モンクの曲を並べてしまうとチックの個性との相性もあまり良いとは思えない。とはいえ、3年後のライヴ・アルバムのまったりしたムードと比べると演奏には緊張感があってそれなりに聴き応えはあり、あの名作の3人ということで必要以上に期待値を上げなければ十分楽しめる。(2022年3月24日)

Trio Music, Live In Europe

曲:★★★
演奏:★★★☆
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1984/Sep

[1] The Loop
[2] I Hear A Rhapsody
[3] Summer Night- Night And Day
[4] Prelude No.2- Mock Up
[5] Transformation
[6] Hittin' It
[7] Mirovisions
Chick Corea (p)
Miroslav Vitous (b)
Roy Haynes (ds)
「Now He Sings, Now He Sobs」から16年の時を経ての再会。だからと言って同じものを求めるのは酷。なにしろ「Now He Sings, Now He Sobs」は折り紙つきの名演を収めた名盤中の名盤。短くない時間の経過によって個々のプレイだって変化する。同じものを期待する方が間違っている。というわけで気持ちをできるだけリセットして聴いてみると、ピアノ・トリオのアルバムとしての質は十分に高いことがよくわかる。昔のような、ヒリヒリするような緊張感はなくとも適度にリラックスしていて、適度にスリルがあるというバランス感覚が心地よい。チックの軽快でラテン風味が隠し味になった瑞々しいタッチを十分に堪能できのが何よりも聴きどころ。そのチックのピアノ・ソロを[4]でフィーチャー、[5]ではヴィトウスのアルコ・ソロ・パフォーマンスを、[6]ではヘインズのドラム・ソロ楽しめる。と言いたいところだけれど、僕はソロ・パフォーマンスを長々(全部で約23分)と聴かされるのはあんまり好きじゃない。アルバムの中心にこれらソロがデンと座っているために、バンドとしての一体感が薄くなり、このトリオの美味しいところが薄らいでしまっているようにさえ感じてしまう。[7]なんて本当にクールでカッコいいんだから。まあ、これも結局は昔と比べてしまっているからなのかもしれないけれど。(2010年3月6日)

Akoustic Band

曲:★★★★
演奏:★★★☆
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★
[Recording Date]
1989/1/2,3

[1] Bassie's Blues
[2] My One And Only Love
[3] So In Love
[4] Sophisticated Lady
[5] Autumn Leaves
[6] SOmeday My Prince Will Come
[7] Morning Sprite
[8] T.B.C
     (Terminal Baggage Claim)
[9] Circle
[10] Spain
Chick Corea (p)
John Patitucci (b)
Dave Weckl (ds)
グラミー賞を受賞しているチックのアコースティック・ピアノ・トリオ代表作(らしい)。有名なスタンダード織り交ぜた大物ピアニスト、チックの人気盤なんだけど僕はどうにもピンと来ない。ひとつは楽器の録音バランス。ピアノの音が妙に遠い。ベースに電気唸り、現代的でロックのようなドラム・サウンドがジャズのムードから遠ざける。でも音楽そのものはオーソドックスなジャズだし、根底にあるチックのラテン・フレーヴァーはしっかり出ている。トリオの演奏レベルは高く、部分的にフリー・ジャズ的な演奏を織り交ぜながらも、それを感じさせないところで踏みとどまっているところもこのトリオの持ち味だと思うし、スタンダードの解釈も独特だとは思うけれど妙に薄味で面白くない。このアルバムがどうしてこんなに評価が高いのか不思議。(2007年2月17日)

Chick Corea & Origin (Live At The Blue Note)

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
1998/Jan

[1] Say It Again (PartT)
[2] Say It Again (PartU)
[3] Double Image
[4] Dreamless
[5] Molecules
[6] Soul Mates
[7] It Could Happen To You
Bob Sheppard (fl, ss, ts, bcl)
Steve wolson
     (fl, ss, as, clarinet)
Steve Davis (trombone)
Chick Corea (p)
Avishai Cohen (b)
Adam Cruz (ds)
スタジオ・アルバム「Change」(下項参照)の内容に満足して、さらに手を伸ばしたこのアルバムが実はオリジンのデビュー盤だった。いきなりライヴ盤でデビュー、この直後に同じくブルーノートでの6日間分ボックスセットもリリースしているのだから、きっとチックもこのグループに満足していたんでしょう。さて、遡って聴いての感想は実はあまり変わらない。ホーン奏者が3人ながら、そのうち2人が次々とリード楽器を持ち替えてくるだけにサウンドはカラフル、アドリブよりも複雑なアンサンブルを持ち味にしている点も変わりない。ドラマーがジェフ・バラードでないというのが僕には残念だけれど、アダム・クルーズなる人も腕は確かで役不足感は皆無。強いてこちらの特徴を上げるとすれば、ライヴなだけに一部フリーキーな展開があるところだけれど、全体の雰囲気を変えるほどにはなっていないし、そこで留まれるところがこのグループの生命線なのではないかとも思う。もう叶わなとわかっていつつ、一度ライヴで観てみたかったと思わせるグループ。(2012年2月25日)

Change / Chick Corea & Origin

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★
[Recording Date]
1999/Jan

[1] Wigwam
[2] Armando's Tango
[3] Little Flamenco
[4] Early Afternoon Blues
[5] Before Your Eyes
[6] L.A. Scenes
[7] Home
[8] The Spinner
[9] Compassion (Ballad)
[10] Night (Lylah)
[11] Awakening
[12] Psalm
Bob Sheppard (ts, bc, fl)
Steve Wilson
     (ss, as, fl, clarinet)
Steve Davis (tb)
Chick Corea (p, marimba)
Avishai Cohen (b)
Jeff Ballard (ds)
アコースティック・バンドのあまりの退屈さに「近年のチックはもう聴かなくてもいいかも」と思っていた。そして偶然手にしたこのアルバム。世間の評判が良いという話も聞かないのでさして期待もせず聴いてみるとこれが嬉しい誤算でなかなか良い。とにかく、グループとして現代(20世紀末)のアコースティック・ジャズを創造することに独自のスタイルで挑んでいるところを高く評価したい。多彩な曲とアレンジと各メンバーの複雑な絡みを基本にしながら、決してフリー・ジャズのように展開されることはなくチックの統制の元に音楽が成り立っているところが素晴らしい。込み入った演奏はストレート・アヘッドなジャズしか聴けないという人や "Spain" にこだわるような人にはひねくれすぎていると思うけれど、音楽性は高くメンバーの技量も確か。やり尽くされたはずのアコースティック・ジャズでこのような音楽を志したチックに敬意を表したい。すでに10年近く経過しているとはいえ、今聴いても古くないし、今後も決して古くはならないと思う。(2009年3月28日)

Further Explorations

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★
[Recording Date]
2010/4/4-17

Disc 1
[1] Peri's Scope
[2] Gloria's Step
[3] They Say That Falling
                 In Love Is Wonderful
[4] Alice In Wonderland
[5] Song No.1
[6] Diane
[7] Off The Cuff
[8] Laurie
[9] Bill Evans
[10] Little Rootie Tootie

Disc 2
[1] Hot House
[2] Mode VI
[3] Another Tango
[4] Turn Out The Stars
[5] Rhapsody
[6] Very Early
[7] But Beautiful ? Part 1
[8] But Beautiful ? Part 2
[9] Puccini's Walk
Chick Corea (p)
Eddie Gomez (b)
Paul Motian (ds)
チック・コリア版、ビル・エヴァンスのトリビュート・ライヴ・アルバムで名義は3人横並び。収録はニューヨークのブルーノートでベストテイクを選んだ模様。Disc 1 [9] と Disc 2 [3] がチックの、Disc 2 [2] がモチアンの、[9] がゴメスのオリジナルで、それ以外は基本的にビル・エヴァンスの曲または演奏されていた曲で構成されている。チックはあまりエヴァンスの影響を僕は感じないんだけれど、やはり非黒人ピアニストであればエヴァンスへのリスペクトがあるんだろうか、と思わせるそのまんまベタな企画。組む相手はエヴァンスとの共演で知られるエディ・ゴメスとポール・モチアンだから、企画としての本気度も伺える。チックのプレイもエヴァンス的に展開され、しかし、もちろんコピーとまでは行かない、あくまでもエヴァンス的に留めたという感じの塩梅。トリオの絡みも自由度が高く、むやみにダラダラとソロパートを続けたりしない(ほとんどの曲が6〜8分台と短め)点もエヴァンス的で、純粋にピアノ・トリオとして十分楽しめる。でも、生で聴いているのならともかく、CDで聴くのならエヴァンスの演奏を聴いていればいいんじゃないか、という思いが頭を過るのも事実。このディスクならでは魅力は、実はエヴァンスのグループでは共演していなかったゴメスとモチアンの絡みで、ルーズなビートを繰り出すモチアンと相変わらずツッコミ気味のゴメスのやりとりを楽しむものなのかもしれない。こう言ってしまうと身も蓋もないけれど、前述のオリジナル曲はじめ、3人が即興的に演奏してるDisc 1 [7]、セロニアス・モンクのDisc 1 [10]、タッド・ダメロンの Disc 2 [1] の方が面白い演奏と感じてしまうというということはエヴァンス・トリビュート企画としては失敗しているということなのかもしれない。(2019年9月15日)

The Vigil

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★☆
[Release]
2013

[1] Galaxy 32 Star
[2] Planet Chia
[3] Portals To Forever
[4] Royalty 9:19
[5] Outside Of Space
[6] Pledge For Peace
[7] Legacy
Tim Garland (ts, ss, bcl, fl)
Charles Altura (g)
Chick Corea (key, p)
Hadrien Feraud (b)
Marcus Gilmore (ds)

Stanley Clarke (b [6])
Ravi Coltrane (ts [6])
Gayle Moran Corea (vo [5])
Pernell Saturnino
                (per [1][2][3])
若手ミュージシャンを中心とした、電化路線チックの後年のアルバム。時にジャコを思わせるベース、テクニックがしっかりしたドラムでボトムは手堅いし、いかにもこの路線のギタリストとして申し分のないギターと、プログレッシブ・ロックの流れではビル・ブラッフォードのアースワークスで馴染みのあるティム・ガーランド(ここでもマルチリード奏者として活躍)が彩りを加えていてバンドとしての水準は極めて高い。ギターはアコギも織り交ぜ、チックはエレピだけでなくピアノも駆使して、サウンドに幅を持たせることにも抜かりはない。耳あたりが良いサウンド故にこの種のサウンドを一括してフュージョンと片付けてしまう方には面白くないかもしれないけれど、コルトレーン的な[6]や、ロストクインテット的な[7]のようなジャズ的な展開も含まれ、良い意味で2013年という時代流のスリリングな演奏を聴くことができる。表面的な刺激はあまりなくとも、若手をうまく活かした自由度の高いスリリングな演奏が聴きどころ。(2022年10月18日)

Trilogy

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★★
[Recording Date]
2010/10/9 [16]
2010/10/12 [1][8]
2010/10/14 [15]
2010/12/8 [17]
2012/11/20 [9][14]
2012/11/21 [12]
2012/11/23 [10][11]
2012/11/27 [13]
2012/11/28 [3]
2012/12/1 [2]
2012/12/2 [4]-[7]

Disc 1
[1] You're My Everything
[2] Recorda Me
[3] The Song Is You
[4] Work
[5] My Foolish Heart
[6] Fingerprints
[7] Spain

Disc 2
[8] This Is New
[9] Alice In Wonderland
[10] It Could Happen To You
[11] Blue Monk
[12] Armando's Rhumba
[13] Scriabin: Op.11 No.9
[14] How Deep Is The Ocean?

Disc 3
[15] Homage
[16] Piano Sonata: The Moon
[17] Someday My Prince Will Come
Chick Corea (p)
Chiristian McBride (b)
Brian Brade (ds)

Jorge Pardo (fl [5][7])
Nino Josel (g [5][7])
Gayle Moran Core (vo [17])
リリースされたアルバムに対するこのページのボリュームからも分かる通り、僕のチック・コリアへの関心度はそれほど高くない。鍵盤楽器奏者としてはピアノよりも電気系、また鍵盤楽器奏者よりもグループとして音楽を作るバンド・リーダーとして優れているという印象があり、また、人気盤の「Akoustic Band」がつまらないと思ったこともあってピアノ・トリオで持ち味が出る人ではないというのが僕の中のチック・コリア像だった。関心が薄い故に、チックがかれこれ4年半も前にピアノ・トリオのアルバムをリリースしていることすら知らなかった。いや、仮に知っていたとしても聴いてみたいとは思わなかったかもしれない。しかし、組んだ相手がクリスチャン・マクブライドとブライアン・ブレイドとなると話は変わってくる。2010年と2012年に行ったツアーから厳選したというこのライヴ3枚組。なにもこんなにまとめて出さなくてもいいじゃないかとは思ったけれど、聴いてみてそんな思いは飛んでしまった。スタンダードとチックのオリジナル、わかりやすく親しみやすい曲からフリーな展開を見せる曲まで幅が広い。演奏がまた凄い。クリスチャン・マクブライドとブライアン・ブレイドは伊達に知名度が高いわけじゃないことが嫌という程わかる。メロディックかつ鋭いソロを連発するマクブライド、小技大技を無限のバリエーションで繰り出すブレイドのソロという個人技だけで圧倒されるのに、チックのピアノと合わせての3者の絡みは、自由自在で有機的に変化する距離感が絶妙で一瞬たりとも目(耳)が離せない。ビル・エヴァンス・トリオとはまったく別の形態のインタープレイは、高度な演奏技術とミュージシャンシップに支えられたもので、現在のジャズ界では最高峰のクオリティの演奏を聴かせていることに疑いはない。ピアノ・トリオを好まない僕が、これほど凄いピアノ・トリオはないと断言できるほどの凄い演奏の数々に、ただただ圧倒され、3枚通して聴いても飽きることがなく、もっと聴き続けたいとさえ思わせる。最後の[17]で、お世辞にも上手いとは言い難い奥方の歌が入ってくるのはご愛嬌。拍手の音を聞いていると会場の規模もさまざまであることが伺えるけれど、楽器の音、バランスはそんなことを感じさせないほど安定しており、Fレンジは上から下まで幅広く、微細な音のニュアンスをすべて拾い上げた録音状態も素晴らしい。(2019年4月3日)

Trilogy 2

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★☆
評価:★★★★★
[Recording Date]
2010/10/3 [11]
2010/10/11 [10]
2012/11/16 [1]
2012/11/23 [5][6]
2012/12/3 [12]
2016/6/21 [7]
2016/6/28 [9]
2016/6/30 [8]
2016/7/7 [3][4]
2016/7/26 [2]

Disc 1
[1] How Deep Is The Ocean
[2] 500 Miles High
[3] Crepuscule With Nellie
[4] Work
[5] But Beautiful
[6] La Fiesta

Disc 2
[7] Eiderdown
[8] All Blues
[9] Pastime Paradise
[10] Now He Sing, Now He Sobs
[11] Serenity
[12] Lotus Blossom
Chick Corea (p)
Chiristian McBride (b)
Brian Brade (ds)
3枚組で一気に出した、マクブライド+ブレイドとの前作ライヴ・アルバムの続編で、今回もライヴ音源の選集。2曲重複があり、毎回違う気分でやっています、ということを楽しむ趣旨ながら、演奏の形態は前作と同じ路線。言うまでもなくその演奏は素晴らしく、まだまだ聴きどころが沢山あるので、皆さんもっと多く聴いてくださいということなんでしょう。前作と違って、ゲスト入りのテイクを採用していないので、トリオとしての演奏にフォーカスしたいならむしろ本作の方が好ましいかもしれない。(2019年5月21日)

Chinese Butterfly
          / The Chick Corea + Steve Gadd Band


曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★☆
[Recording Date]
2017

Disc 1
[1] Chick's Chums
[2] Serenity
[3] Like I Was Staying
[4] A Spanish Song
[5] Chinese Butterfly

Disc 2
[1] Return To Forever
[2] Wake-Up Call
[3] Gadd-Zooks
Steve Wilson (sax, fl)
Lionel Loueke (g, voice)
Chick Corea (key, p)
Carlitos Del Puerto (b, elb)
Steve Gadd (ds)
Luisito Quintero (per)
Philip Bailey (vo Disc 2 [1])
The Chick Corea + Steve Gadd Band名義。チックのプロジェクトはこれまで無数にあり、長続きしないのかそもそもさせるつもりもないのか、多くの場合は単発で終わっている。このバンドもそうしたプロジェクトにひとつと思われる。安定感抜群のガッドのドラムを下地にチックがエレピを中心にサウンドを作っていて、聴けばほとんどの人が「ああ、フュージョンね」と思うヒネリのなさに開き直りのようなものすら感じるんだけれど、若手プレイヤーたちの健闘もあって、思いの外と楽しく聴ける。ガッドは、名義に名を連ねるだけあって派手さはなくともさすがのプレイで、チックの超有名曲 Disc 2 [1]もアイアート・モレイラの硬質な切れとはまた異なる重みを持ったドラミングを聴かせる。このガッドの安定ドラムにパーカッションを加えたのは正解で、安定がときに退屈になりかねないところを救っている。Disc 2はおよそ17分の曲が3つ並んでいて、[2][3]はジャム・セッション風の演奏になっているため、聴き手によっては冗長と感じるかもしれない。恐らくあと5年もしたら「ああ、そんなバンドあったね」となりそうではあるけれど、ベテラン2人の安定感と若手の好プレイがうまくバランスしていてなかなか良いアルバムに仕上がっている。(2020年12月10日)

Akoustic Band Live


曲:★★★★☆
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
2018/1/13

Disc 1
[1] Morning Sprite
[2] Japanese Waltz
[3] That Old Feeling
[4] In A Sentimental Mood
[5] Rhumba Flamenco
[6] Summer Night
[7] Humpty Dumpty (set 1)

Disc 2
[1] On Green Dolphin Street
[2] Eternal Child
[3] You And The Night And The Music
[4] Monk's Mood
[5] Humpty Dumpty (set 2)
[6] You're Everything
Chick Corea (p)
John Patitucci (b)
Dave Weckl (ds)
Gayle Moran Corea
             (vo Disc 2 [6])
98年にAkoustic Bandとして最初のスタジオ録音盤をリリース、その数年後にライヴ音源をリリースはあったものの、かなり久しぶりのAkoustic Band名義のライヴ盤。かつては若手売りだし中だったパティトゥッチとウェックルも今や大御所に成長し、力関係のバランスがより均等なトリオに成長した感がある。自作曲、スタンダードをバランス良く配置、得意のラテンタッチ曲も抜かりなくを織り交ぜて、これだけの芸達者が集まれば、一定のクオリティは保証されている。しかし、クリスチャン・マクブライド+ブライアン・ブレイドとのトリオで、ディスクにして5枚分のアルバムをリリースしてからそれほど時間が経過していないものかかわらず、またピアノ・トリオを出すことに意義があるのか、という思いが頭をよぎるのもまた事実。チックの立ち位置はどちらのトリオでも変わらない。しかしこちらは手の内をお互いに知り尽くしたパティトゥッチとウェクルで、伴奏として控える素振りはなく合いの手もソロパートもグイグイと切り込みつつ、盤石の安定感がある。クリスチャン・マクブライド+ブライアン・ブレイドが、自分のスタイルをベースに、場合によっては「どうなってもいいか」的な安定しきらない不穏さがスリルを呼ぶのに対して、パティトゥッチ+ウェックルは破綻の素振りを見せずともダイナミックかつスリリングに、どの曲も高い完成度で演奏を聴かせる。なるほど、この2つのトリオは持ち味はまったく違う。ピアノ・トリオにおけるベースとドラムの在り方を知る良いサンプルにもなり得ることは聴き比べればすぐにわかる。僕はマクブライド+ブレイドとのトリオを好むけれど、パティトゥッチ+ウェックルの高いレベルでの安定感も捨てがたい。(2021年4月11日)