1変数ベクトル値関数の極限の定義:トピック一覧 |
・定義:1変数ベクトル値関数の収束・極限値/右極限/左極限 ・定理:ベクトル値関数の極限の1変数関数の極限への言い換え/ ベクトル値関数の収束と点列の収束の関連 |
※ 1変数ベクトル値関数の諸概念:1変数ベクトル値関数の定義/連続性/微分※ベクトル値関数の極限の具体例:1変数関数の収束・極限値/2変数関数の収束・極限値/ n変数関数の収束・極限値 ※ベクトル値関数の極限の一般化:距離空間上の関数の収束・極限値 →総目次 |
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定義: 1変数m値ベクトル値関数の収束convergence・極限値limit |
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→ はじめに読むべき定義/ε-δ論法による定義/近傍概念による定義cf.1変数関数の収束・極限値/2変数関数の収束・極限値/ n変数関数の収束・極限値 n変数ベクトル値関数の収束・極限値/距離空間上の関数の収束・極限値 |
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はじめに |
「 実数tを実数aに近づけたとき、1変数m値ベクトル値関数 (y1 , y2 , … , ym )=f (t) が、点B(b1,b2,…,bm)に収束する」 「実数tを実数aに近づけたときの、 1変数m値ベクトル値関数 (y1 , y2 , … , ym )=f (t)の極限は、点B(b1,b2,…,bm)である」 f ( t )→(b1,b2,…,bm) ( t→a) ![]() ![]() 「R上の点tを点aに近づけたとき、 1変数m値ベクトル値関数f ( t ) が、 m次元空間Rm上の点Bに収束する」 「R上の点tを点aに近づけたときの、 1変数m値ベクトル値関数f ( t )の極限は、 m次元空間Rm上の点Bである」 f ( t )→B ( t→a) ![]() ![]() とは、 R上の点tを点aと一致させることなく点aに近づけたとき、 1変数m値ベクトル値関数 (y1 ,y2 , …, ym )= f (t)の値(y1 ,y2 , …, ym )が Rm上の点B(b1,b2,…,bm)に近づくことをいう。 |
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※ 留意点(1)極限の定義において、実数tを実数aが一致することは除外している。 実数aが1変数m値ベクトル値関数 (y1 ,y2 , …, ym ) = f (t)の定義域に含まれているとは限らない。 (2) 実数tを「実数aより大きな値」にセットしたうえで、 実数tを減らしていって実数aへ近づけた場合(「右から」近づけた場合) と、 実数tを「実数aより小さな値」にセットしたうえで、 実数tを増やしていって実数aへ近づけた場合(「左から」近づけた場合) とで、 1変数m値ベクトル値関数 (y1 ,y2 , …, ym )= f (t)が近づく値が異なるときには、 「実数tを実数aに近づけたとき、 ベクトル値関数f (P) = f (x1,x2,…,xn)が点B(b1,b2,…,bm)に収束しない」 「点P(x1,x2,…,xn)を点A(a1,a2,…,an)に近づけたとき、 ベクトル値関数f (P) = f (x1,x2,…,xn)に極限値は存在しない」という。 ※この定義は一見わかりやすい。 ところが、「近づく」とはいかなる事態を指すのか、という点が、 明らかにされておらず、 この「収束」「極限」定義は、実のところは不正確で、 証明での使用に耐えられない。 そこで、 「近づく」の意味を明確化するために、 「収束」「極限」概念は、次のように厳密に定義される。 |
→ 「ベクトル値関数の収束・極限の定義」先頭 |
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厳密な 論法 |
「 実数tを実数aに近づけたとき、1変数m値ベクトル値関数f (t)が m次元空間Rm上の点Bに収束する」 「実数tを実数aに近づけたときの、 1変数m値ベクトル値関数f (t)の極限は m次元空間Rm上の点Bである」 f ( t )→B ( t→a) ![]() ![]() 「実数tを実数aに近づけたとき、 1変数m値ベクトル値関数f (t)が点B(b1,b2,…,bm)に収束する」 「実数tを実数aに近づけたときの、 1変数m値ベクトル値関数f (t)の極限は点B(b1,b2,…,bm)である」 f ( t )→(b1,b2,…,bm) ( t→a ) ![]() ![]() とは、 任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、ある正の実数δをとると、 0<| t−a |<δ ⇒ dm ( f (t), B )<ε が成り立つ ということ。 この定義を、論理記号で表せば、 (∀ε>0)(∃δ>0)(∀t∈R)(0<| t−a |<δ⇒dm ( f (t), B )<ε ) となる。 * dm ( f (P), B )は、 m次元空間Rm上のf (t)と点B(b1,b2,…,bm)との距離を表す。 |
[ 文献]杉浦 『解析入門I』 I§6定義2-3(pp.51-2); 黒田 『微分積分学』 定義8.6(p.277); |
※ユークリッド距離が定められたユークリッド空間 Rmにおける極限概念1変数m値ベクトル値関数 (f1 (t),f2 (t),…,fm (t)) =f (t)について、 収束・極限を扱う際には、 特別な目的がない限り、 m次元空間Rmの上の距離をユークリッド距離で定めて、 m次元空間Rmををユークリッド空間Rmとする設定 のもとで考えるのが普通。 この設定下では、 ![]() だから、 「実数tを実数aに近づけたとき、 1変数m値ベクトル値関数 ( f1 (t), f2 (t) , … , fm (t) ) = f ( t )が点B(b1,b2,…,bm)に収束する」 「実数tを実数aに近づけたときの、 1変数m値ベクトル値関数 ( f1 (t), f2 (t) , … , fm (t) ) = f ( t )の極限は点B(b1,b2,…,bm)である」 「f ( t )→(b1,b2,…,bm) ( t→a )」 の定義は、具体的には ┌任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、 |ある正の実数δが存在して、 | 「 0<| t−a |<δ ならば | ![]() └を成り立たせる (∀ε>0) (∃δ>0) (∀t∈R) (0<| t−a |<δ ⇒ ![]() となる。 |
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※ m次元数ベクトル空間の上に定義されたユークリッド空間Rmにおける極限概念・ m次元空間Rmに ベクトルの加法・スカラー乗法・自然な内積(標準内積)・ユークリッドノルム‖‖mが定義されており、 m次元空間Rmを実n次元数ベクトル空間・計量実ベクトル空間・ノルム空間として扱える場合、 任意の実m次元数ベクトルx', y'∈Rmのユークリッド距離は‖x−y‖m と表せる。 このユークリッド距離を定義したユークリッド空間Rmのもとでは、 dm( f (t), B )=‖f (t)−B‖m ・したがって、 「実数tを実数aに近づけたとき、1変数m値ベクトル値関数f (t)が、 m次元空間Rm上の点Bに収束する」 「実数tを実数aに近づけたときの、1変数m値ベクトル値関数f (t)の極限は m次元空間Rm上の点Bである」 「 f (t)→B ( t →a ) 」 の定義は、具体的には ┌任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、 |ある正の実数δが存在して、 | 「 0<| t−a |<δ ならば ‖f (t)−B‖m<ε 」 | └を成り立たせる (∀ε>0)(∃δ>0)(∀ t∈R)(0<| t−a |<δ⇒‖f (t)−B‖m<ε ) と表せる。 ただし、上記のBは、「点B(b1,b2,…,bn)」を表す実m次元数ベクトル(b1,b2,…,bn) である。 |
→ 「ベクトル値関数の収束・極限の定義」先頭 |
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近傍を |
「 実数tを実数aに近づけたとき、1変数m値ベクトル値関数f (t)が、 m次元空間Rm上の点B(b1,b2,…,bm)に収束する」 「実数tを実数aに近づけたときの、 1変数m値ベクトル値関数f (t)の極限は m次元空間Rm上の点B(b1,b2,…,bm)である」 f ( t )→B ( t→a) ![]() ![]() f ( t )→(b1,b2,…,bm) ( t→a ) ![]() ![]() とは、 点Bの任意の「Rm上のε近傍 Uε(B)」に対して(でも)、 ある「実数aの除外δ近傍U*δ(a)」が存在して、 f ( U*δ(a) ) ⊂ Uε(B) を満たす ということ。 この定義を別の表現でいうと、 任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、ある正の実数δが存在して、 「 f ( U*δ(a) )⊂ Uε(B) 」 すなわち「 t∈ U*δ(a) ならば、 f (t) ∈Uε(B) 」 を成り立たせる、 ということ。 この定義を、論理記号で表せば、 (∀Uε(B))(∃ U*δ(a))( f ( U*δ(a) ) ⊂ Uε(B) ) (∀ε>0)(∃δ>0)( f ( U*δ(a) )⊂ Uε(B) ) (∀ε>0)(∃δ>0)(∀t∈R))( t ∈ U*δ(a) ⇒ f (t) ∈Uε(B)) となる。 |
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※ユークリッド距離が定められたユークリッド空間 Rmにおける極限概念1変数m値ベクトル値関数f (t) について、 収束・極限を扱う際には、 特別な目的がない限り、 m次元空間Rmの上の距離をユークリッド距離で定めて、 m次元空間Rmををユークリッド空間Rmとする設定 のもとで考えるのが普通。 この設定のもとでは、 実数aの除外δ近傍U*δ(a)= (a−δ,a )∪(a,a+δ) 点B(b1,b2,…,bn)の「Rm上のε近傍 Uε(B)」は、 ![]() だから、 「実数tを実数aに近づけたとき、1変数m値ベクトル値関数f (t)が、 m次元空間Rm上の点Bに収束する」 「実数tを実数aに近づけたときの、1変数m値ベクトル値関数f (t)の極限は m次元空間Rm上の点Bである」 「 f (t)→B ( t→a) 」 の定義は、具体的には ┌任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、 |ある正の実数δが存在して、 | t ∈ U*δ(a) = (a−δ,a )∪(a,a+δ) | ならば | ![]() └を成り立たせる となる。 |
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※ m次元数ベクトル空間の上に定義されたユークリッド空間Rmにおける極限概念・実数aの除外δ近傍U*δ(a)= (a−δ,a )∪(a,a+δ) ・ m次元空間Rmに ベクトルの加法・スカラー乗法・自然な内積(標準内積)・ユークリッドノルム‖‖mが定義されており、 m次元空間Rmを実n次元数ベクトル空間・計量実ベクトル空間・ノルム空間として扱える場合、 任意の実m次元数ベクトルx', y'∈Rmのユークリッド距離は‖x−y‖m と表せる。 このユークリッド距離を定義したユークリッド空間Rmのもとでは、 点B(b1,b2,…,bn)の「Rm上のε近傍 Uε(B)」は、Uε(B)={ Q∈Rm | ‖Q−B‖<ε } ・だから、 「実数tを実数aに近づけたとき、1変数m値ベクトル値関数f (t) が、 m次元空間Rm上の点Bに収束する」 「実数tを実数aに近づけたときの、1変数m値ベクトル値関数f (t) の極限は m次元空間Rm上の点Bである」 「 f ( t )→B ( t → A ) 」 の定義は、 ┌任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、 |ある正の実数δが存在して、 | t∈U*δ(A)=(a−δ,a )∪(a,a+δ) | ならば | f (t) ∈Uε(B)={ Q∈Rm | ‖Q−B‖<ε } └を成り立たせる と表せる。 ただし、上記のBは、「点B(b1,b2,…,bn)」を表す実m次元数ベクトル(b1,b2,…,bn) である。 |
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1変数関数の極限」への言い換え | ||
定理 |
次の命題 Pと命題Qは互いに言い換え可能である。つまり、命題P⇔命題Q。 命題 P:実数tを実数a に近づけたとき、 1変数m値ベクトル値関数 (y1 , y2 , … , ym )=f ( t ) が、 点B(b1,b2,…,bm)に収束する。 すなわち、f ( t )→(b1,b2,…,bm) ( t→a ) 命題Q:1変数m値ベクトル値関数 (y1 , y2 , … , ym )=f ( t )を、 m個の 1変数関数の組 y1 = f1 (t) y2 = f2 (t) : ym = fm (t) として表したときに、 f1 (t)→b1 ( t→a ) かつ f2 (t)→b2 ( t→a ) かつ : かつ fm (t)→bm ( t→a ) が満たされる。 |
杉浦『解析入門I』I章§6定理6.8-1(p.59); 杉浦『解析演習』I章§2要綱2.16(p.11); |
証明 |
証明は、杉浦『 解析入門I』I章§6定理6.8-1(p.59)参照。 |
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→ [トピック一覧:1変数m値ベクトル値関数の極限の定義]→総目次 |
具体例: 1変数関数の収束の、数列の収束への言い換え/ 2変数関数の収束の、点列・数列の収束への言い換えn変数関数の収束の、点列・数列の収束への言い換え 一般化:距離空間の間の写像の収束の、点列の収束への言い換え |
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定理 1 |
次の命題 P,Q,Rは互いに言い換え可能である。つまり、命題P⇔命題Q⇔命題R。 命題P: 実数tを実数a に近づけたとき、 1変数m値ベクトル値関数f (t)が、 m次元空間Rm上の点B(b1,b2,…,bm)に収束する」 これを記号で表すと、 ・f ( t )→B ( t→a ) ・f ( t )→(b1,b2,…,bm) ( t→a ) ・ ![]() など。 |
[ 文献]杉浦『解析入門I』定理6.2(p.53):証明付; |
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命題 Q:いかなる 「実数aに収束する数列{ x1 , x2 , x3 ,…}」(ただし、x1≠a , x2≠a , x3≠a ,… ) に対しても、 その数列の各項 x1 , x2 , x3, …を1変数m値ベクトル値関数f によりRm上に写した像の点列 { f ( xi ) }={f ( x1 ), f ( x2 ), f ( x3 ),… } は点B(b1,b2,…,bm)に収束する。 つまり、 任意の数列{ x1 , x2 , x3 ,…}について、 xi →a (i→∞)かつ x1≠a , x2≠a , x3≠a ,…ならば、f ( xi ) →B (i→∞) 論理記号で表すと、 (∀ {xi} )(( xi →a (i→∞) かつ(∀i) ( xi≠a) )⇒ f ( xi ) →B (i→∞) ) ※ なぜ?・「命題P⇒命題Q」となるわけ→[杉浦『解析入門I』定理6.2(p.53)] ・「命題Q⇒命題P」となるわけ→[杉浦『解析入門I』定理6.2(p.53)] ・「命題Q⇔命題R」となるのは、点列の収束と数列の収束の関係による。 |
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定理 2 |
次の命題 P,Q,Rは互いに言い換え可能である。つまり、命題P⇔命題Q⇔命題R。 命題P: 実数tを実数a に近づけたとき、 1変数m値ベクトル値関数f (t)が収束する すなわち、 ![]() が存在する ※極限値の値をだしていないことに注意。 |
[ 文献]杉浦『解析入門I』定理6.2系(p.54):証明付 |
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命題 Q:いかなる 「実数aに収束する数列{ x1 , x2 , x3 ,…}」(ただし、x1≠a , x2≠a , x3≠a ,… ) に対しても、 その数列の各項 x1 , x2 , x3, …を1変数m値ベクトル値関数f によりRm上に写した像の点列 { f ( xi ) }={f ( x1 ), f ( x2 ), f ( x3 ),… } が収束する。 |
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活用例 |
コーシーの判定法 |
→ [トピック一覧:1変数m値ベクトル値関数の極限の定義]→総目次 |
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[YouTube 横] |
1変数m値ベクトル値関数の右極限 | ||
定義 |
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1変数m値ベクトル値関数の左極限 | ||
定義 |
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