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設定 |
K:体
例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、
複素数をすべてあつめた集合C
V:K上のベクトル空間
v1, v2, …, vl:l個の「V上のベクトル」。つまり、v1, v2, …, vl ∈V
a1, a2, …, al :スカラー。a1, a2, …, al ∈K
+:「K上のベクトル空間」に定義されているベクトルの加法
スカラーに続けてベクトルを並べて書いたもの:
「K上のベクトル空間」に定められているスカラー乗法 |
[文献]
・『岩波数学辞典』210線形空間:C線形結合(p.571);
・志賀『線形代数30講』14講(p.90);
・永田『理系のための線形代数の基礎』1.2(p.10);1.3(p.16);
・藤原『線形代数』4.2(p.94);
・本部『新しい代数』5.2-Aベクトル空間(p.133);
・ホフマン『線形代数学I』2.3基底と次元(p.41);
・神谷浦井『経済学のための数学入門』§3.1.3(p.108);
・松坂『集合・位相入門』3章§5C(p.134);
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背景
問1 |
l個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」v1 , v2 , …, vlを取り上げる。
このl個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」v1 , v2 , …, vlにたいして、
a1v1+a2v2+…+alvl=0
を満たすl個のスカラーa1, a2, …, al ∈K は存在するだろうか?
存在するとしたら、それは、どのようなスカラーl個の組合せになるのだろうか? |
回答
1-1 |
・どのようにl個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」v1 , v2 , …, vlを選んだとしても、
このl個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」v1 , v2 , …, vlにたいして、
a1v1+a2v2+…+alvl=0
を満たすl個のスカラーa1, a2, …, al ∈K は少なくとも一組は存在する。
このことを論理記号であらわせば、
(∀v1 , v2 , …, vl ∈V)(∃a1, a2, …, al∈K)( a1v1+a2v2+…+alvl=0)
・なぜ、そうなるのかといえば、
どのようにl個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」v1 , v2 , …, vlを選んだとしても、
このl個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」v1 , v2 , …, vlにたいして、
l個のスカラーa1=a2=…=al=0が、
a1v1+a2v2+…+alvl=0
を満たすからである。
∵ベクトルのスカラー0倍は零ベクトル、
零ベクトルとのベクトル和の性質 |
回答
1-2 |
・つまり、
どのようにl個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」v1 , v2 , …, vlを選んだとしても、
このl個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」v1 , v2 , …, vlにたいして、
a1v1+a2v2+…+alvl=0
を満たすl個のスカラーa1, a2, …, al ∈K として、
a1=a2=…=al=0が、いつでも存在する。
これは、見方をかえれば、
どのようにl個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」v1 , v2 , …, vlを選んだとしても、
このl個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」v1 , v2 , …, vlにたいして、
a1v1+a2v2+…+alvl=0かつa1=a2=…=al=0
を満すl個のスカラーa1, a2, …, al ∈K
が、いつでも存在するということ。
つまり、
(∀v1 , v2 , …, vl ∈V)
(∃a1, a2, …, al∈K)((a1v1+a2v2+…+alvl=0)かつ(a1=a2=…=al=0)) |
背景
問2 |
・l個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」v1 , v2 , …, vlを取り上げる。
・このl個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」v1 , v2 , …, vlにたいして、
a1v1+a2v2+…+alvl=0
を満たすl個のスカラーa1, a2, …, al ∈K の組合せとしては、
まず、a1=a2=…=al=0をあげることができる(∵前段)。
・では、
このl個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」v1 , v2 , …, vlにたいして、
a1v1+a2v2+…+alvl=0
を満たすl個のスカラーa1, a2, …, al ∈Kの組合せは、
(i) a1=a2=…=al=0だけであって、
a1=a2=…=al=0以外の組合せは存在しないのだろうか?
それとも、
(ii) a1=a2=…=al=0に加えて、a1=a2=…=al=0以外の組合せも存在するのだろうか?
・つまり、
このl個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」v1 , v2 , …, vlにたいして、
「a1v1+a2v2+…+alvl=0 を満たし、
かつ、a1=a2=…=al=0を満たさない
l個のスカラーa1, a2, …, al ∈K」
は
(i) 存在しないのか、
(ii) 存在するのか。
・この問いを論理記号であらわせば、
与えられたl個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」v1 , v2 , …, vlにたいして、
(i) ¬((∃a1,a2,…,al∈K)((a1v1+a2v2+…+alvl=0)かつ¬(a1=a2=…=al=0)))
であるのか、それとも、
(ii) (∃a1,a2,…,al∈K)((a1v1+a2v2+…+alvl=0)かつ¬(a1=a2=…=al=0))
であるのか。 |
回答
2 |
・問2については、一概には、どちらともいえない。
l個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」v1 , v2 , …, vlの選び方によって、
「a1v1+a2v2+…+alvl=0 を満たし、
かつ、a1=a2=…=al=0を満たさない
l個のスカラーa1, a2, …, al ∈K 」
が
(i) 存在しない
こともあれば、
(ii) 存在する
こともある。
・(i) (ii) の2つのケースに重複はないので、
l個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」v1 , v2 , …, vlは、(i) か(ii) のいずれかである。
・ということは、
(i) (ii) は、あらゆるl個の「体K上のベクトル空間Vに属すベクトル」を、2つのケースに二分する分類軸として機能する。
(i)を一次独立ないし線形独立と呼び、 (ii) 一次従属ないし線形従属をとよぶ。 |
線形独立
の
定義 |
(1)
l個の『体K上のベクトル空間Vに属すベクトル』v1, v2, …, vlが一次独立・線形独立であるとは、
・「このl個の『体K上のベクトル空間Vに属すベクトル』v1 , v2 , …, vlにたいして、
a1v1+a2v2+…+alvl=0
を満たすl個のスカラーa1, a2, …, al ∈K の組合せは、
a1=a2=…=al=0だけであって、a1=a2=…=al=0以外の組合せは存在しない」ということ
・つまり、
「この『体K上のベクトル空間Vに属すベクトル』v1 , v2 , …, vlにたいして、
a1v1+a2v2+…+alvl=0 を満たし、かつ、a1=a2=…=al=0 を満たさない
l個のスカラーa1, a2, …, al ∈K は存在しない」ということ
・論理記号であらわせば、与えられたv1 , v2 , …, vl ∈Vにたいして、
¬((∃a1,a2,…,al∈K)((a1v1+a2v2+…+alvl=0)かつ¬(a1=a2=…=al=0 )))
をいう。
(2) この定義は、次のように述べてもよい。
l個の『体K上のベクトル空間Vに属すベクトル』v1, v2, …, vlが一次独立・線形独立であるとは、
・「この『体K上のベクトル空間Vに属すベクトル』v1 , v2 , …, vlにたいして、
どのようにl個のスカラーa1, a2, …, al ∈Kをとっても、
a1v1+a2v2+…+alvl≠0となるか、あるいは、a1=a2=…=al=0となるか、しかない」
ということ。
・論理記号であらわせば、与えられたv1 , v2 , …, vl ∈Vにたいして、
(∀a1,a2,…,al∈K)((a1v1+a2v2+…+alvl≠0)または(a1=a2=…=al=0 ))
ということ。
(3) この定義は、次のようにも述べてもよい。
l個の『体K上のベクトル空間Vに属すベクトル』v1, v2, …, vlが一次独立・線形独立であるとは、
・「この『体K上のベクトル空間Vに属すベクトル』v1 , v2 , …, vlにたいして、
どのようにl個のスカラーa1, a2, …, al ∈Kをとっても、
a1v1+a2v2+…+alvl=0 ならば、a1=a2=…=al=0 」
ということ。
・論理記号であらわせば、与えられたv1 , v2 , …, vl ∈V にたいして、
( ∀a1,a2,…,al ∈K )((a1v1+a2v2+…+alvl=0) ⇒ (a1=a2=…=al=0))
ということ。
(4) この3つの線形独立の定義が同じモノであることは、次のようにして確かめられる。
¬((∃a1,a2,…,al∈K)((a1v1+a2v2+…+alvl=0)かつ¬(a1=a2=…=al=0 )))
⇔ (∀a1,a2,…,al∈K)¬((a1v1+a2v2+…+alvl=0)かつ¬(a1=a2=…=al=0))
∵存在命題の否定は否定命題の全称命題に言いかえられる
⇔ (∀a1,a2,…,al∈K)(¬(a1v1+a2v2+…+alvl=0)または¬¬(a1=a2=…=al=0))
∵連言の否定は、否定命題の選言に言いかえられる
⇔ (∀a1,a2,…,al∈K)(¬(a1v1+a2v2+…+alvl=0)または(a1=a2=…=al=0))
∵命題の2重否定はもとの命題
⇔ (∀a1,a2,…,al∈K)((a1v1+a2v2+…+alvl=0)⇒(a1=a2=…=al=0))
∵ならば⇒の定義 :「A⇒B」とは、「¬AまたはB」のこと |
線形従属
の
定義 |
(1)
l個の『体K上のベクトル空間Vに属すベクトル』v1, v2, …, vlが一次従属・線形従属であるとは、
・「このl個の『体K上のベクトル空間Vに属すベクトル』v1 , v2 , …, vlにたいして、
a1v1+a2v2+…+alvl=0
を満たすl個のスカラーa1, a2, …, al ∈K の組合せには、
a1=a2=…=al=0に加えて、a1=a2=…=al=0以外の組合せもある」ということ
・つまり、
「 a1v1+a2v2+…+alvl=0 を満たし、かつ、a1=a2=…=al=0を満たさない
l個のスカラーa1, a2, …, al ∈K が存在する」ということ
・論理記号であらわせば、
(∃a1,a2,…,al∈K)((a1v1+a2v2+…+alvl=0)かつ¬(a1=a2=…=al=0))
ということ
をいう。
(2) この定義は、次のように述べてもよい。
l個の『体K上のベクトル空間Vに属すベクトル』v1, v2, …, vlが一次従属・線形従属であるとは、
・「この『体K上のベクトル空間Vに属すベクトル』v1 , v2 , …, vlにたいして、
『a1v1+a2v2+…+alvl≠0 または a1=a2=…=al=0』
を満たさないl個のスカラーa1, a2, …, al ∈K が存在する」
ということ
・論理記号であらわせば、与えられたv1 , v2 , …, vl ∈Vにたいして、
(∃a1,a2,…,al∈K)¬(¬(a1v1+a2v2+…+alvl=0)または(a1=a2=…=al=0))
ということ
をいう。
(3) この定義は、次のようにも述べてもよい。
l個の『体K上のベクトル空間Vに属すベクトル』v1, v2, …, vlが一次従属・線形従属であるとは、
・「この『体K上のベクトル空間Vに属すベクトル』v1 , v2 , …, vlにたいして、
『a1v1+a2v2+…+alvl=0 ならば、a1=a2=…=al=0』
を満たさないl個の実数a1, a2, …, al が存在する」
ということ
・論理記号であらわせば、与えられたv1 , v2 , …, vl ∈Vにたいして、
(∃a1,a2,…,al∈K)¬((a1v1+a2v2+…+alvl=0) ⇒ (a1=a2=…=al=0 ))
ということ
をいう。
(4) この3つの線形従属の定義が同じモノであることは、次のようにして確かめられる。
(∃a1,a2,…,al∈K)((a1v1+a2v2+…+alvl=0 )かつ¬(a1=a2=…=al=0))
⇔(∃a1,a2,…,al∈K)¬(¬(a1v1+a2v2+…+alvl=0 )または(a1=a2=…=al=0))
∵命題の2重否定はもとの命題、選言の否定と否定命題の連言は言い換え可能
⇔(∃a1,a2,…,al∈K)¬((a1v1+a2v2+…+alvl=0 ) ⇒ (a1=a2=…=al=0))
∵ならば⇒の定義 :「A⇒B」とは、「¬AまたはB」のこと
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線形
従属
/独立
の
関係 |
・「l個の『体K上のベクトル空間Vに属すベクトル』v1, v2, …, vlが一次従属・線形従属である」は、
「l個の『体K上のベクトル空間Vに属すベクトル』v1, v2, …, vlが一次独立・線形独立である」ことの否定命題。
・「l個の『体K上のベクトル空間Vに属すベクトル』v1, v2, …, vlが一次独立・線形独立である」は、
「l個の『体K上のベクトル空間Vに属すベクトル』v1, v2, …, vlが一次従属・線形従属である」ことの否定命題。
・なぜなら、
「v1, v2, …, vlが一次独立・線形独立」は、
¬((∃a1,a2,…,al∈K)((a1v1+a2v2+…+alvl=0)かつ¬(a1=a2=…=al=0)))
として、
「v1, v2, …, vlが一次従属・線形従属」は、
((∃a1,a2,…,al∈K)((a1v1+a2v2+…+alvl=0)かつ¬(a1=a2=…=al=0)))
として、
定義されているのだから、明らか。 |
※ |
下位概念:
体上の数ベクトル空間での一次独立/実ベクトル空間での一次独立/実n次元数ベクトル空間での一次独立
体上の数ベクトル空間での一次従属/実ベクトル空間での一次従属/実n次元数ベクトル空間での一次従属 |
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高校で習ったようなベクトルについてなら、実n次元数ベクトル空間における線形従属・線形独立/実2次元数ベクトル空間における線形従属・線形独立を見よ。 |
※ |
関連事項:線形独立と一次写像/線形独立と単射である一次写像/線形独立と同型写像 |
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