命に関わる頭痛(2)椎骨脳底動脈解離(こばやし小児科・脳神経外科クリニック)

脳神経外科パンフ集

命に関わる頭痛(2)椎骨脳底動脈解離

椎骨脳底動脈解離とは

 動脈の壁は内膜、中膜、外膜の三層構造から成り立っています。脳の動脈も同じ構造で、この動脈の壁が層と層の間や、層内で裂けて、血流が動脈の壁の中に入る状態を動脈解離と呼びます。いわば動脈の壁が2枚おろしになった状態で、動脈壁に入り込んだ血流が、裂けた動脈壁の内腔側を内腔に向かって、外腔側を外側に向かって押すため、解離部分の動脈の外観は膨らんで、内腔は狭窄することになります。これを解離性脳動脈瘤と呼びます。狭窄が高度になれば一過性脳虚血発作や脳梗塞を引き起こし、薄くなった外側壁が破綻すれば、出血(多くはくも膜下出血)で発症します。日本における解離性脳動脈瘤は、椎骨脳底動脈系に発生することが多く、その内でも頭蓋内椎骨動脈に最も多く見られます。
 解離性脳動脈瘤は、動脈硬化などの危険因子を持たない、比較的年令の若い世代の脳卒中の原因として重要な位置を占めています。発症の平均年齢は40歳代で、男性に多く見られるといった特徴があります。原因としてカイロプラクティックや頸部の捻転を伴う様々なスポーツや運動、軽微な外傷などが引き金になったと考えられるもの(外傷性)と、明らかな原因が不明の特発性(非外傷性)のものとに分けられます。

前駆症状としての項部痛および後頭部痛の重要性

 椎骨脳底動脈の解離性動脈瘤は、脳梗塞やくも膜下出血といった決定的な神経症状が出現する前に、何らかの痛みを自覚することが多いといわれ、76%の症例に見られたという報告もあります。これは動脈壁が引き裂かれて解離するときに感じる痛みで、その特徴は急性に起こる一側(解離した椎骨動脈の側、時に両側)の項部(うなじ)や後頭部の持続的な痛みです。多くの患者はこの後頭部痛だけで終わりですが、一部の患者は経過中にくも膜下出血や脳梗塞(多くは脳幹梗塞)といった重篤な神経症状を発症します。

椎骨脳底動脈解離の診断

 脳幹梗塞や、くも膜下出血を起こしてしまえば、比較的容易に診断にたどり着くことが出来ますが、問題になるのは急性に起こった項部痛や後頭部の痛みだけで、どこまで積極的にこの疾患を疑うかと言うことです。よく似た症状の病気(鑑別診断)としては、後頭神経痛、一次性咳嗽性頭痛、小脳や後頭葉の小出血、静脈洞血栓症、RCVSなどが考えられます。診断は画像診断が中心で、頭部単純CTとMR検査を速やかに検討する必要があります。その際には本疾患を想定して、頸部椎骨動脈を含めて検索することと、MRAとBPASで比較検討することなどがポイントとなります。