薬物乱用頭痛[病態と診断](こばやし小児科・脳神経外科クリニック)

脳神経外科パンフ集

薬物乱用頭痛(病態と診断)

 薬物乱用頭痛とは簡単に言うと頭痛を止める屯用薬を、慢性的に(毎週2~3回以上で3ヶ月以上)服用することにより起こってくる頭痛です。従来から使われてきた薬物乱用頭痛という名称は、犯罪のような良くない印象を惹起すると言う指摘があり、現在は薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)と呼ぶことになっています。ただこの頭痛の病態から考えると、薬剤誘発頭痛(薬が頭痛を起こしている)とでも呼んだ方がしっくりと来るかもしれません。
 本来頭痛を止めるはずの薬を頻回に服用することが、なぜ逆に頭痛を誘発するのか、詳しいことは分かっていませんが、鎮痛剤の連用が、(1)痛みを感知する神経の感受性を変化させて、弱い痛みでも強い痛みとして感じてしまう、(2)片頭痛を抑制する働きがあるセロトニンの、慢性的な枯渇状態を引き起こすといったメカニズムが提唱されています。また注目すべきことは、これらの屯用薬を連用すれば、誰でも薬物乱用頭痛になるわけではないということです。最近薬物乱用頭痛の大多数に、片頭痛の既往があることが分かってきました。このことから薬物乱用頭痛は、素因として感受性のある患者(主に片頭痛の体質をもっている患者)が、原因となる薬剤(屯用薬)を連用することにより引き起こされてくる頭痛という考えが有力になってきています。

薬物乱用頭痛の症状

 薬物乱用頭痛を疑う典型的なエピソードは、「若い頃から頭痛持ちで、時々発作性の頭痛があった。当初は市販の鎮痛薬でおさまっていたが、だんだん薬が効きにくくなったので、薬の種類を変えたり、量を増やしたりしてみたが一時的な効果しかなく、今ではほとんど毎日のように服用するが、頭がすっきりすることは少ない。朝起きた時から頭痛があり、薬を飲んで一日が始まる。」といったものです。原因となる薬には、市販の鎮痛薬の他にも、医師が処方した鎮痛剤・トリプタン製剤・エルゴタミン製剤などがあります。典型的な薬物乱用頭痛は、頭部が締めつけられるような持続的で不快な頭痛がほぼ絶え間なく(1ヶ月に15日以上)続く上に重なって、発作性の激しい頭痛(片頭痛発作様)が種々の頻度で入り混じるような複雑な頭痛で、ほとんどすべての鎮痛剤が効かないか、乱用中の鎮痛剤のみがごく短時間有効といった状態になります。

薬物乱用頭痛の診断

 診断に際しては、頭痛ダイアリーなどを使って屯用薬の服用状況(服用量と服用パターン)をチェックします。単一成分の鎮痛剤では1ヶ月に15回(平均2日に1回)以上、その他の屯用薬については1ヶ月に10回(平均3日に1回)以上の定期的な服用が3ヶ月を超えて続いていることを確認します。また服薬パターンとしては、逆に薬を飲まないですむ日が連続何日くらい続くかの確認も大切です。さらに元になった頭痛のタイプの確認や心理的側面からは、頭痛を避けようとする余り、早め早めあるいは予防的に薬を服用する傾向があるかどうか、逆に痛みがどうしても我慢できなくなってから服用するタイプかどうかなどを確かめます。最後に必要に応じて画像診断を行い、器質的頭蓋内疾患(脳腫瘍などの画像で捉えることが出来るような病変)が存在しないことを確認しておきます。