妊娠と片頭痛治療薬(こばやし小児科・脳神経外科クリニック)

脳神経外科パンフ集

妊娠と片頭痛治療薬

 片頭痛を有する20代から30代の女性では、片頭痛治療薬の服用に当たって、妊娠時の対応を考えておく必要があります。ただ妊娠した片頭痛患者の80%以上で片頭痛発作が軽減あるいは消失し、また妊娠判明後は産科医の管理下に置かれるため、妊娠中に片頭痛が問題になることはあまり多くありません。最も問題になるのは、妊娠判明までに、知らずに服用してしまった片頭痛治療薬が、胎児に及ぼす影響(催奇形性)ということになります。統計的には薬とは無関係に、一般的な新生児の3~5%に小奇形を含めた奇形の自然発生が認められていますし、予防薬を除けば、片頭痛治療薬でヒト胎児に奇形を起こすことが報告されている薬はないため、予防治療中でなければ実際問題としては必ずしも過剰な心配をする必要はないと考えられています。

妊娠時期と催奇形性

 妊娠中の薬物服用と催奇形性に関しては、妊娠時期との関係が最も重要です。まず最終月経開始日を1日目として計算して、(28~)33日目までに服用された薬については、その種類を問わず胎児に対し影響がありません。それ以降、妊娠7週末までは、主要器官が分化するため、催奇形因子に対し最も敏感な時期に当たります。この時期にヒト胎児に対し催奇形性のある薬を飲んだ場合が問題になります。妊娠8週から妊娠15週末までは、主要器官の発生は終了しているものの、顔面や性器の分化が続いている時期で、薬剤の種類によっては問題となります。妊娠16週以降は器官の分化は完了しているため、催奇形性は問題になりませんが、薬による胎児機能障害(胎児毒性)が問題になります。

FDA(アメリカ食品医薬品局)カテゴリー

 以前は妊娠中の薬物投与に関する基準として、FDAのカテゴリー分類があり、一定の指標になっていました。カテゴリー分類は、胎児に対する薬剤のリスクをA~DおよびXに分類するものですが、同じカテゴリーの薬剤でも、そのリスクの質にかなり程度の差があったこともあり、2015年6月30日をもって廃止になりました。現在は製薬会社各社に、これらの情報を記述式で提示することが義務づけられていますが、情報は不足しており、個々の薬剤のリスクに関しては、専門書や医薬品インタビューフォームから情報を収集して検討する必要があります。

片頭痛治療薬の催奇形性および妊娠中投与の可否

  •  消炎鎮痛剤については、ヒトでの催奇形性の報告はありません。妊娠初期から中期にかけては、原則としてどの消炎鎮痛剤でも使用できるとされていますが、添付文書にて妊娠中禁忌とされるのは、インドメタシン・ジクロフェナック・メロキシカムです。その他の消炎鎮痛剤は、治療の有益性が危険性を上回るときのみ投与可とされ、アセトアミノフェンを除いて妊娠後期は投与しないことが望ましく、妊娠末期は胎児毒性の関係から投与は許容されません。従って安全性を最優先に考えた場合、第一選択はアセトアミノフェン(ただし抗炎症作用はなく鎮痛作用も弱め)と考えられます。通常妊娠判明まではナプロキセンなどいつもの消炎鎮痛剤を服用しますが、妊娠判明後はアセトアミノフェンに切り替えるというのが現実的な対応です。
  •  トリプタン系薬剤に関しては、催奇形性や胎児毒性の報告はありません。いずれのトリプタンも添付文書上、妊娠中投与禁忌ではなく、治療の有益性が危険性を上回るときのみ投与可とされています。妊娠中のトリプタン投与に関しては、スマトリプタンが最も多くのデータ集積があり、妊娠初期だけでなく、中期・後期も含めて有害事象の報告もないことより、妊娠中にどうしてもトリプタン製剤を投与する必要があるときは、スマトリプタンが最も無難な選択と考えられています。一方エルゴタミン製剤は子宮収縮作用、胎盤血管収縮作用により妊娠中使用禁忌です。
  •  制吐剤を使用する場合、ドンペリドンは添付文書上妊娠中禁忌(大量投与のラットで催奇形性の報告)なので、妊娠中禁忌ではないメトクロプラミドを使います。その他月経に伴う片頭痛の緩和に使うこともあるプレドニゾロンは、添付文書上は妊娠中禁忌ではなく、20mg程度までなら胎児への影響は小さいといわれています。
  •  一方妊婦に対する片頭痛の予防治療は勧められていません。従って予防治療中は避妊することが望ましいと言えます。ロメリジンは添付文書上妊婦に使用禁忌(大量投与の実験動物で障害の報告)で、ヒトでの催奇形性や障害の報告はありませんが、服用中に万一妊娠した場合は服用を中止します。アミトリプチリンも妊娠中の服用は回避すべきで、バルプロ酸はヒト胎児での催奇形性や胎内暴露によるIQの低下が示されており、妊娠の可能性がある場合、片頭痛予防を目的とした投与は容認されません。妊娠中あるいは妊娠する可能性を前提にどうしても投与するのであればβ遮断剤、特にプロプラノロールを選択して、少なくとも出産2週間前までに中止する方法が一応提唱されています。