授乳と片頭痛治療薬(こばやし小児科・脳神経外科クリニック)

脳神経外科パンフ集

授乳と片頭痛治療薬

 妊娠中はエストロゲンが高濃度に維持されることにより片頭痛発作に悩まされることもなかった方も、出産後はエストロゲン濃度の低下に伴って再び片頭痛発作が起こるようになると言われています。過半数の方で、出産後は1ヶ月以内に最初の片頭痛発作を起こすといわれ、この頃はちょうど授乳期に当たります。従って片頭痛治療薬の服用と授乳について、あらかじめ対応を整理しておく必要があります。

日本の薬剤添付文書の対応

 我が国の薬剤添付文書では、授乳婦への薬物投与に関して、動物実験等で移行が確認されるとして、一律に「授乳を中止すること」あるいは「授乳を避けさせること」といった対応が示される場合がほとんどです。

米国小児科学会(American Academy of Pediatrics; AAP)の対応

 AAPは2001年に授乳中の薬剤投与に関するガイドラインを公表し、その中で授乳中も投与が許容される薬剤のリストを示しました。従って治療薬をこのリストの中から選択するのは、合理的な1つの方法と考えられます。また薬剤投与時の注意として、(1)薬剤投与が本当に必要か検討すること、(2)最も安全な薬剤を選択すること、(3)乳児への薬剤の影響を最小にするため、できれば授乳直後か、児がある程度長い眠りに入る直前に服用すること等の指針を示しています。

薬剤の選択と授乳中の投薬に関する考え方

 薬剤の選択に当たっては、AAPのガイドラインに従うこと、可能な限り乳幼児の治療にも使われる薬剤から選択することを重視します。また母乳中へ移行しやすい薬物の性質として、分子量の小さいもの、脂溶性薬物、血漿蛋白と結合率の低い薬物、弱塩基性薬物などがあり、考慮します。一方ほとんどの薬物が母乳中に移行しますが、乳児にまで移行する薬物の量は、通常母親に投与された薬物量の1%を超えることはないと言われ、実際問題として影響は小さいか無視しうると言う考えもあります。以上のことを踏まえて、最終的には日本の添付文書の指示に従って、服用後授乳を断念する(あるいは服用を断念して授乳を続ける)か、AAPのガイドラインに従った服用と授乳を試みるかの選択を、担当医と話し合って決めて頂かなくてはなりません。

授乳中の片頭痛治療薬投与について

  • 消炎鎮痛剤:

     日本の薬剤添付文書上、授乳中の投与に制限がない消炎鎮痛剤としてはアセトアミノフェンがあります。AAPガイドラインでは、アセトアミノフェン・イブプロフェン・メフェナム酸・ナプロキセンが投与可能(日本の添付文書ではアセトアミノフェン以外は投与時授乳不可)とされています。従って第一選択薬はアセトアミノフェンと考えられます。

  • トリプタン製剤:

     薬剤添付文書ではすべてのトリプタン製剤は、投与時授乳を避けることとなっています。24時間授乳を中止するのが一般的ですが、スマトリプタンのみ2005年9月の添付文書改訂以降12時間授乳を中止することになりました。スマトリプタンについては投与後8時間を過ぎるとほとんど母乳中に検出されないという報告もありますし、脂溶性が低く乳汁への移行が少ない上に、生物的利用率も低いため、AAPのガイドラインで唯一授乳時の投与が容認されるトリプタン製剤としてリストアップされています。従って授乳中にトリプタン製剤を使う場合は、スマトリプタンが最も無難な選択で、さらに投与後8時間授乳を避ければほぼ問題ないと考えられます。
     またエレトリプタンのヒト母乳中への移行は投与後24時間までで約0.02%と極めて少ないため、エレトリプタンを服用して授乳しても、乳児に影響が出る可能性はほとんどないと考えられています。

  • その他の薬剤:

     片頭痛時に使われる制吐剤の内、ドンペリドンは日本の薬剤添付文書上、授乳婦には大量ではない通常量の投与は認められています。またAAPのガイドラインでも授乳時投与が可能な薬剤とされています。それに対しメトクロプロミドは日本の添付文書上、投与時は授乳を避けることとされ、AAPガイドラインでも乳汁中への蓄積性があるとして、授乳中の投与は問題ありとされています。その他プレドニゾロンは薬剤添付文書では投与時授乳不可ですが、AAPガイドラインでは授乳時投与が容認される薬剤とされています。実際問題として、プレドニゾロンは乳汁中に移行しますが、その量はわずかで、母親への投与量が1日20mg~30mg程度以下であれば、授乳しても差し支えないとする報告があります。アスピリンとエルゴタミン製剤は日本の添付文書では、投与時授乳不可で、AAPガイドラインでも授乳中の投与は注意すべきとされています。また片頭痛に対する予防治療は、授乳中は原則避けるべきと考えられています。