薬物乱用頭痛[治療と予後](こばやし小児科・脳神経外科クリニック)

脳神経外科パンフ集

薬物乱用頭痛(治療と予後)

 薬物乱用頭痛の治療の最終目標は、過剰に服用している屯用薬を中止する、あるいは適正使用に戻すことです。薬は一度に中止する方法と、徐々に減量する方法がありますが、どちらが良いかは決まっていません。頭痛の予期不安から、早め早めに服用する傾向がある場合は、一度に中止しても問題は少ないと考えられていますが、それ以外は症例毎に検討する必要があるでしょう。乱用薬剤を減量または中止していくと、問題薬物の血中濃度が下がることで起こるリバウンドとしての頭痛(反跳頭痛)や、本来からある頭痛発作に対する対応、またカフェイン含有製剤の乱用では、カフェイン離脱頭痛に対する対応が必要になってきます。具体的な対応としては、まず予防薬の投与を開始し、次に頭痛が起こったときに使用する屯用薬をどうするかを決めます。

 薬物乱用頭痛の予防薬として何を使うかは、標準的な考え方があるわけではありません。

  • (1) 副作用が少なく、忍容性の良さを考慮してオーソドックスな塩酸ロメリジンを使う方法。
  • (2) 痛みに対する感受性閾値を上昇させる効果と、セロトニン枯渇に拮抗する効果を期待して抗うつ薬系の塩酸アミトリプチリンなどを使う方法。
  • (3) 頭痛発作の引き金となる神経細胞の興奮性を抑える効果を期待して抗てんかん薬系のバルプロ酸ナトリウムなどを使う方法。
  • (4) 即効的な抗不安作用等を期待してベンゾジアゼピン系の抗不安剤やクロナゼパムやSSRIを併用する方法。

 などがあり、効果不十分な場合は薬剤の変更、2剤以上の併用を考慮します。

 屯用薬としては、過剰使用に陥っている薬はほとんど効かないか、短時間しか効かないため、通常別の屯用薬を必要に応じて投与します。まず消炎鎮痛剤としては消失半減期の長いナプロキセンの投与を試み、必要に応じて制吐剤なども処方します。また本来の頭痛が片頭痛の場合は、トリプタン製剤の処方も考慮します。乱用中はこれらの屯用薬が効きにくくても、乱用から離脱できると普通に効くようになる場合が多く、通院の度に薬の効き具合を良く検討して、根気よく有効な屯用薬を探していきます。

 薬を中止したときの典型的な離断症状は2~10日間続くといわれ、薬剤別ではトリプタン4.1日、エルゴタミン6.7日、鎮痛剤9.5日という報告があります。この離脱の時期を楽に乗り切るために、通常漢方製剤の頭痛薬などを最初の2~4週間は予防薬に併用します。離脱に成功してくると、起床時に頭痛がなく爽やか、頭痛のない日が何日も続く、頭痛が起こっても屯用薬で楽にコントロールできるといった変化が出てきます。予防薬は3~6ヶ月間服用後漸減中止とし、以後は屯用薬を適切に使用して頭痛をコントロールするようにします。薬物乱用頭痛も治療により、大多数の例で改善が見られますが、およそ20~40%が再び薬物乱用に戻るという報告もあります。今後は屯用薬の不適切な使用が、頭痛を引き起こすということをしっかりと認識して、再び薬物乱用頭痛に陥ることがないように注意することが大切です。