トリプタン製剤[作用機序と使用禁忌](こばやし小児科・脳神経外科クリニック)

脳神経外科パンフ集

トリプタン製剤(作用機序と使用禁忌について)

トリプタンの作用機序

 片頭痛発作時には、硬膜血管に分布する三叉神経終末が活性化され、神経ペプチドの遊離が起こり、硬膜血管の拡張や神経原性炎症が引き起こされます。血管拡張や炎症による痛みは、頭痛として三叉神経核に伝わり、さらなる増悪を引き起こしていくものとされています。
 トリプタンはセロトニン(5-HT)神経系に作用するお薬(5-HT受容体作働薬)で、脳血管の平滑筋にある5-HT1B受容体、硬膜血管周囲三叉神経終末の5-HT1D受容体、三叉神経核の5-HT1F受容体に選択的・特異的に作用して、それぞれ硬膜血管の収縮、神経終末からの神経ペプチドの放出抑制、三叉神経核における痛みの伝達抑制等の作用を介して片頭痛発作を鎮めます。ちょうど片頭痛によって引き起こされた神経系の様々な変化を、1つずつ正常な元の状態に戻すように働きます。
 すなわちトリプタンは頭痛治療薬の内でも、片頭痛の頭痛に特化した治療薬であり、いわゆる一般的な鎮痛剤・痛み止めとは全く異なるお薬です。

トリプタンの使用禁忌

 片頭痛発作の治療にトリプタンを使用するに当たって、まず以下の使用禁忌に該当していないかの確認をおこないます。

 トリプタンは血管収縮作用を持つため、以下の方の服用は禁じられています。

  • 1. 狭心症または心筋梗塞など虚血性心疾患の既往や徴候のある患者
  • 2. コントロールできていない高血圧のある患者
  • 3. 脳血管障害や(脳梗塞・一過性脳虚血発作)の既往や徴候のある患者
  • 4. 閉塞性動脈硬化症等の慢性動脈閉塞症や末梢血管障害を有する患者
  •  その他使用禁忌とされるのは

    5. 重度の肝機能障害や腎機能障害、血液透析中の患者(一部のトリプタン)
  • 6. MAO阻害剤使用中あるいは投与中止2週間以内の患者(一部のトリプタン)
  • 7. 他の片頭痛治療薬(エルゴタミン製剤等)使用中やエルゴメトリン/メチルエルゴメトリン使用中の患者
  • 8. 脳幹性前兆を伴う片頭痛や片麻痺性片頭痛の患者

 などがあります。またSSRIやSNRIなど併用に注意が必要な薬剤、HIVプロテアーゼ阻害剤やプロプラノロールなど、特定のトリプタンでの併用禁忌薬があり、その他にも代謝酵素の関係で、特定のトリプタンに特定の併用注意薬があります。従ってトリプタン服用に際して、これまでの既往歴や現在服用中のお薬について、医師に正確に伝えておかなければなりません。また逆に今後もし上記の疾病にかかったり、上記の薬剤の服用が必要になったときは、それ以後トリプタンの服用はできなくなることを知っておく必要もあります。

 この様な注意を読むと、なんだか怖くて服用をためらわれる方がおられるかもしれません。実際トリプタンが登場した当時、脳梗塞や心筋梗塞を誘発するのではないかという指摘がありました。しかしその後20年以上にわたる疫学調査や臨床試験データが集積された結果、その可能性は否定され、現在トリプタンは極めて安全で、有効なお薬であるという評価が定着しています。従ってむやみに恐れる必要はありません。