Nanowerk 2012年2月2日
ナノ食品に何が起きているか?

情報源:Nanowerk, February 2, 2012
What's happening with nanofoods?
By Michael Berger
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=24155.php

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2012年3月30日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/120202_What's_happening_with_nanofoods.html


(Nanowerk Spotlight)  2000年代のはじめには、食品ナノテクノロジーは非常にホットなトピックスであり、大きな産業食品会社は、ナノテクノロジーの応用によって提供される新たな機会を熱心に探し求めていたように見えた。その後、NGOs(例えば、FoEの報告書:食品と農業におけるナノテクノロジー 研究室から食卓へ(当研究会日本語訳))や規制機関(例えば、英上院科学技術委員会報告書:ナノテクノロジーと食品(当研究会日本語訳サマリー/勧告))の批判的な声が現れて、食品産業界は沈黙するようになった(Nanowerk Spotlight: "Food nanotechnology ? how the industry is blowing it")。しかし、そのことは、ナノテク食品が世界中の研究所で研究開発が行なわれなくなったということではない 。

 食品技術の中で、どのようなナノテクノロジーの応用が現在、研究されており、テストされており、ある場合には既に実施されているかについて、その概要を下記に示す。

(訳注:オリジナルに示される画像と表を参照のこと)

 ”Nanotechnology food coming to a fridge near you(ナノテク食品があなたの近くの冷蔵庫にやってきている)”と、”The promises of food nanotechnology(食品ナノテクノロジーの約束)”という我々の以前の二つの記事が取り上げたトピックスを更新しつつ、Trends in Food Science & Technologyに最近(2011年1月)発表された論文("Food applications of nanotechnologies: An overview of opportunities and challenges for developing countries" ナノテクノロジーの食品分野における応用:開発途上国の機会と課題の概要)が、産業界と大学が行なっている応用研究の概要を示している。

応用分野 状況
ナノ構造化又は歯ごたえ加工された食品(例:低脂肪及び乳化、より良い味) 多くのナノ構造化された食品成分と添加物が研究開発の途上にあると理解される(例:マヨネーズ)
リポソーム又はバイオポリマーを利用したナノカプセル物質による栄養やサプリメントのナノ搬送システム いくつかの国及びインターネット上で多くのものが商業的に入手可能
食品、サプリメント、動物飼料用の有機ナノサイズ添加物 色、保存剤、香料からサプリメントや抗菌剤までの範囲
食品、健康食品、動物飼料用の無機ナノサイズ添加物 広範な無機添加物(銀、鉄、シリカ、二酸化チタン、セレン、プラチナ、カルシウム、マグネシウム)がサプリメント、機能食品、食品、飼料などの用途に利用可能
食品容器用途(例:機械的又は機能的特性強化のためにプラスチックポリマー含有又はナノ材料で表面加工、例えば Food packaging takes over the role of quality control " を参照) この領域は、食品分野におけるナノテク用途の現在及び短期的な最大の市場である。例:ガス遮断用途でのナノクレイのプラスチックポリマー;抗菌剤作用としてのナノ銀及びナノ酸化亜鉛;強化用途としてのナノ窒化チタン)
遮断(バリア)又は抗菌特性のために食品接触面のナノ表面加工 多くのナノ材料利用の表面加工が食品調理及び食品調理機械の用途で利用可能
表面機能化ナノ材料 主な用途は現在食品容器包装:動物飼料の分野でも利用可能性が出現
ナノサイズの農業用化学品 研究開発段階
食品ラベルのためのナノセンサー("Edible optical nanotechnology sensor for food packaging") 研究開発段階
水浄化 ナノ鉄が既に産業規模の量産で利用可能。多くの企業が途上国でのこの技術の利用を検討
動物飼料での応用 有毒物質又は病原菌を結合又は除去きるナノ物質含有飼料のための、特別なナノサイズ添加物を開発又は開発中


 我々が、スーパーマーケットの棚に”フランケンフード(訳注:本来は遺伝子組み換え食物であるが、ここではナノテク食品)、例えば、焼く温度に依存して味が変わるピザ;又は電子レンジにかけて好みに合わせるワインなどを見るのはまだまだのようである。米・食品医薬品局(FDA)のチモシー・ダンカンによるネイチャー・ナノテクノロジーでの最近の評論("The communication challenges presented by nanofoods")によれば、ナノ食品の導入を抑制しているものは、遺伝子組み換え食品で起きたことのように公衆の反発を恐れる食品業界のためらいと、自然を勝手に改ざんすることについてのいくつかの国の公衆の恐れである。

 食品技術の以前の議論における取扱いの誤りが、食品業界に対する公衆の不信をもたらし、ナノ食品とそれを規制する責任のある監視体制を不利な立場にしたとダンカンは書いている。”一方、農業バイオテクノロジーの歴史は、多くの組織が注意を払っている明確なコミュニケーションと公衆の意見を尊重することの価値についての教訓を教えている”。

 彼は、現時点では、メディア報道が工業的ナノ物質を食品と食品関連製品に導入することでもたらされる潜在的な利益とリスクのバランスの取れた記述を提供しているかどうか、又は徐々に誇張された見出しへ変化することが、ナノ食品の将来を危うくする波及効果をもたらしているかどうかは、未解決の問題であると彼は主張する。

 メディアはともかく、食品産業界自身はナノ食品について公衆と互いに影響しあうようになった時には重要な役割を持つが、現在までのところ、産業界はそのことに比較的関与していない。カーディフ大学のビジネス関係・責任・持続可能性・社会センターが指摘するように("CSR in the UK Nanotechnology Industry: Attitudes and Prospects")、”企業の社会的責任は現在産業側により、’危害を加えないこと’と解釈されており、産業側は、彼等の製品の潜在的な将来の影響を予測する必要性からというよりも、むしろ政府の規制に対する反応としてリスク管理政策をつくり上げている”。

 ダンカンは、食品産業界は、恐怖、不信、そして最終的には拒否の原因となる公衆の川下の懸念を防ぐために、行動を起こすよう勧告している。”そうは言っても全ての利害関係者が公的寄与に長期的な展望を持ち、たとえ市場向けのナノテクノロジーに対する公衆の即座の支持を生み出さなくても、信頼性の構築又は約束の履行努力を捨てないことが重要である。むしろ公的な約束は将来への投資として扱われるべきであり、配当がつくようになるためには、時間と忍耐と粘り強さが必要である”


訳注:ナノ食品関連記事
  1. コーネル クロニクル オンライン 2012年2月16日 食品やビタミン剤に含まれるナノ粒子がヒトの健康を害するおそれありと研究者たちが警告
  2. C&EN 2012年1月27日 二酸化チタンの分量 キャンディ中のTiO2のレベルは高いので、子どもは大人よりこの漂白剤を多く摂取する
  3. Food Safety News 2011年6月21日 食品にナノを使いたがる者は多いが、そのことを認める者は少ない
  4. 農業貿易政策研究所(IATP) 2011年6月 米・農業ナノテク 規制不在のまま どんどん疾走する
  5. 2011年5月10日 EFSA科学委員会 食品・飼料連鎖中でのナノ科学及びナノ技術適用のリスク評価ガイダンス
  6. EFSA科学委員会 2011年1月14日 パブリック・コンサルテーション用科学的意見草案 食品及び飼料へのナノ科学及びナノ技術の適用により生ずる潜在的なリスクに関するリスク評価ガイダンス
  7. 欧州環境事務局(EEB)2011年3月17日 ナノ食品が我々の食卓をうろつく
  8. FOOD productiondaily.com 2010年9月20日 食品業界の見解 ナノ定義は法的な地雷原であると科学者らが警告
  9. 欧州環境事務局(EEB)プレスリリース 2010年7月23日 ナノ食品:欧州議会 安全第一を求める
  10. 2010年6月9日 食品安全委員会セミナー資料『欧州委員会 健康・消費者保護総局 食品分野におけるナノテクノロジー  欧州連合における規制の枠組み』(パワーポイント資料)
  11. 2010年5月10日欧州議会環境委員会第二読会 リスク評価を受けていないナノ食品は市場に出すべきではない
  12. SAFENANO 2010年5月6日 カナダ 有機食品中でのナノテクノロジーを禁止
  13. 2010年3月発表 内閣府食品安全委員会 平成21 年度食品安全確保総合調査『食品分野におけるナノテクノロジー利用の安全性評価情報に関する基礎的調査報告書』
  14. 2010年3月16日欧州議会プレスリリース 明確でもっと情報のある食品ラベル
  15. FoE オーストラリア メディアリリース 2009年3月26日 欧州議会採択 ナノテク食品を事実上、一時禁止(モラトリアム)
  16. 欧州議会プレスリリース 2009年3月25日  欧州議会 ナノなど新規食品に新たな規則
  17. Nanowerk 2009年2月9日記事の紹介 栄養補助食品に含まれるナノ粒子は健康懸念を引き起こす
  18. WWICS/PEN 2008年12月18日 ナノ食品添加物新たな監視が必要と専門家らが主張
  19. Nanowerk 2008年10月20日記事の紹介/食品の安全に及ぼすナノテクノロジーの潜在的影響を明らかにするためのヨーロッパの取り組み
  20. FoE ナノ・ニュース2008年10月/提案されたオーストラリア 食品基準はナノ食品の有害リスクを管理できない
  21. 地球の友 2008年4月 報告書 食品と農業におけるナノテクノロジー 研究室から食卓へ
  22. FoE オーストラリア 2007年5月 ナノ技術−食品への新たな脅威
  23. サウス・センター向け ETCグループ(カナダ)報告 2005年11月 ナノスケール技術の一次産品市場への潜在的な影響 一次産品に依存する諸国のかかわり (エグゼクティブ・サマリー紹介)
  24. DOWN ON THE FARM The Impact of Nano-Scale Technologies on Food and Agriculture / ETC Gropup, November 2004


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