Food Safety News 2011年6月21日
食品にナノを使いたがる者は多いが、
そのことを認める者は少ない

アンドリュー・シュナイダー

情報源:Food Safety News, Jun 21, 2011
Many Eager to Use Nano in Food, But Few Admit It
by Andrew Schneider
http://www.foodsafetynews.com:80/2011/06/many-eager-to-use-nano-in-food-but-wont-admit-it/

訳:野口知美(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2011年7月23日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/110621_Food_Safety_News_Nano.html


【ニューオーリンズ】―15,000人以上もの食品科学者、シェフ、レシピ開発者、香辛料・調味料・添加物業者が先週この地に集まり、料理人の鍋や食料品店の棚における最新のイノベーションを吟味した。

 農場から食卓に至るまでの全過程を一変させる可能性のあるナノ粒子について、食品技術者協会の年次大会では数多くの科学セッションで率直かつ熱烈に論じられた。

 しかし巨大な展示会場では、食品産業の最新の進展に関する展示がごまんとある中で、ナノが心躍る科学になるであろうなどと宣伝されることはめったになかった。ナノがないというのは、一体どうしたことか。

 われわれ食品安全性ニュースは、新技術ナノを使用していると思われる者に質問しながら、このだだっ広い食品見本市会場を見て回った。熱心な企業の営業担当者も科学者も、われわれの入場許可証に「報道関係者」とあるのを見ると、とたんに口を閉ざしてしまった。まるで「身内の恥をさらすな」とでもいうように。

 趣向を凝らした展示物は、ナノ技術について言及する気配すら見られないものがほとんどであった。たった1つの例外は、サウスウェスト研究所の展示である。この研究所は、テキサス州サンアントニオで200万平方フィートの研究所を運営している。

 「ナノ物質は様々な分野で、食品の開発、加工、安全監視、包装に大いに役立つ可能性がある」と、サウスウェスト研究所でナノ物質専門の上級科学研究員を務めるJames Oxleyは食品安全性ニュースに対して語った。

 出展企業の多くは、ナノ粒子を使った心躍る応用例の開発に精を出しているが、そのことについて話そうとしないだけである、とOxleyは説明した。

 「ナノ物質による潜在的な健康被害や有害反応に対する懸念が続いているため、みんな自分たちのやっていることについて何も語らないのだ」と彼は言う。

 「食品医薬品局(FDA)が食品や包装において何を認め、何を認めないか、もっと明確に示してくれれば、ナノ物質を幅広く食品関連に応用できるようになる可能性が高まるであろう」

 世界トップの食品科学者たちがこの年次大会のために集まる1週間前、FDAは規制対象製品にナノ技術が応用されているかどうかについて、当局の見解の概要を示したとされるガイダンスを発行した。

 「FDAの規制対象製品にナノ技術が応用されているか否かについての検討」というひどいタイトルのこのガイダンス案に対し、当局はパブリックコメントを求めている。「このガイダンス案は、ナノ技術へのFDAの取り組みに規制の明確性を持たせるための第1歩となるものである」と当局者は言う。

 「ナノ技術は新興技術であり、FDAが規制している様々な医薬品、食品、化粧品にも使用される可能性がある」とFDAの新興技術プログラムの責任者であるCarlos Penaは述べた。「FDAは、ナノ技術の使用が利益をもたらすことを確保するために、これを監視している」。

 一方、FDAがナノについての発表を行ったその日、環境保護庁は農薬製品中のナノ物質が「環境や人間の健康に不当な悪影響を及ぼす」可能性があるかどうか判断しようとしているところであると述べた。(訳注1

 産業界は、ナノ物質の使用の承認をもっと早急に進めるよう、政府に多大な圧力をかけている。数多くの安全規制当局や公衆衛生団体は、ナノ物質への曝露による健康被害に関する調査が十分に行われていないのではないかと懸念している。

 オバマ大統領が1月18日に署名した大統領命令は、目覚しい成長を遂げるナノ粒子の世界の関係者全員が直面している苦境を非常によく表している。

 「わが国の規制制度は、公衆衛生、福祉、安全、環境を守らなければならない一方で、経済成長、革新、競争力、雇用創出を促進しなければならず、利用可能な最善の科学に基づいたものでなければならない」。

何についての話か?

 「ナノ」は、ギリシャ語で「矮小体」を意味する言葉に由来しているが、そう言われても何のことだか全く分からない。では、こういうのはどうか。1ナノメートルは10億分の1メートルであり、ナノ粒子は文末のピリオドの何万倍も小さい。

 新興ナノテクノロジー・プロジェクト(PEN)―ウッドロー・ウィルソン国際学術センターとピュー・チャリタブル・トラストの共同プロジェクト―は、入手可能な最高の知識に基づきナノ物質の商業化に関する推測を提示する消費者製品目録を管理している。PENの最新の記録では、ナノ物質を含む製品は現在、30カ国において587の企業により1,317種類製造されている。

 こうした製品の大部分はこれまでのところ、一部の食用油やチョコレート香料を除けば、食品ではなく食品貯蔵や調理に関係する食品関連製品、例えばまな板などである。しかし、この消費者製品目録は全てを包含しているとはとても言えない、と目録作成者は漏らす。

 食品産業も他の業界と同様、お抱え科学者を使ったり、外部の専門家と契約したりして、自分たちが製造・販売するものの機能を高めるために、原子より小さい人工構造体が何をすることができるのかを確かめている。

 科学的プレゼンテーションや、新たな研究成果に関する何百ものポスターの多くが明らかにしていることは、いくつかの企業が多額の研究開発費を投じてナノを利用し、食物の種の害虫耐性を高めたり、病原菌に対する防御を強化したり、食品包装のセンサーによって腐敗を観測またはトレーサビリティを支援したり、風味を高めて貯蔵寿命を延ばしたりしているということである。

 企業の中には、細菌の増殖を抑制し、焼いた食品の鮮度と寿命を保持し、肉をより美味しく保ち、無害ではあるが嫌な臭いを除去し、レシピの砂糖と塩の分量を減らすために、人工ナノ物質をもう既に試しているところもある。

規制を急ぐ必要性

 特に食品においてナノ粒子の使用を規制することは、国際的に厳しい状況になっている。

 「ナノ物質の定義については、いくつかの国が独自の定義を発表しているものの、はっきりと決まった定義は実のところないのだ」と、カントックス・ヘルス・サイエンスの科学/規制上級コンサルタントであるBernadene Magnusonは食品安全性ニュースに対して語った。

 食品の法規制に関するセッションでMagnusonは、北米やその他の地域の食料安全当局は特定の特性を持つナノ物質の安全性評価をさらに行うよう要求するかもしれない、と科学者たちに説明した。

 「安全性評価の対象になるのは、人間の体内または環境中に残留し、生物濃縮する可能性のあるナノ粒子、化学・生物反応性の高いナノ粒子、複雑な形状・構造、複雑な変化を遂げることができるナノ粒子などである」と、トロント大学医学部栄養科学科の非常勤教授でもあるこの国際専門家は解説した。

 「しかし、監視・規制する上で重要な問題となるのは、ナノスケールで特性や現象が新たに生じる、または変化することによって、ナノ粒子の特定の応用によるリスクと利益がどのように生まれる、または変化するのか否か、ということである」。

 彼女はまた、潜在的な健康・環境問題など全くないと証明するために実施すべき安全性テストがまだ残されている、と言っている。ホワイトハウスも彼女の意見に賛成のようだ。

 「ナノ物質が良いか悪いか裏付ける科学的証拠がない限り、その本質についての判断または断定をすべきではない。そして規制措置は、そうした科学的証拠に基づいて行うべきである」と、ホワイトハウスは今月初め、FDAや農務省(USDA)など全省庁の長に対しナノ政策の最新情報を長々と説明した際に、ナノ物質のあらゆる応用の監視について述べた。

リスク評価

 ナノ技術を医薬品、電子機器、航空機、車などの車両に使用することは、SFのようであり、信じがたいとさえ感じられることがしばしばある。

 自然発生したナノ粒子―完全に無害である―は、数多くの食品や香辛料、さらにチョコレートやビール、乳製品の中にも存在している。毒物学者などのリスク評価者が懸念しているのは、もし重大な危険性が存在する場合があるのであれば、原子サイズ以下の化学構造が分子を構成単位として商品価値のある人工・加工ナノ構造になった場合にもこうした危険性が存在する恐れがあるということである。

 米安全当局―FDA、USDA、環境保護庁(EPA)、疾病管理予防センター(CDC)、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)など―は、産業界に悩まされている。産業界は、いくつかの化学物質―銀、二酸化チタン、銅―がほぼ安全に何十年もの間使用されていることから、ナノ粒子も安全なものとして即刻認めるよう要求しているのだ。

 しかし、健康・安全規制当局は、ナノスケールになったこうした金属や化学物質を吸入または摂取した場合は特に、完全に安全であるかどうか依然として疑いを持っている。

 専門家によって検証された重要な研究は政府調査官によるものであっても大学研究者によるものであっても、ナノ粒子について、その多くは非常に小さいために皮膚や肺そして極めて重要な血液脳関門までも通過するということを示している。

 カーボン・ナノチューブ―数多くのナノ製品及び包装の主要な構成要素の1つ―を吸入することによって、アスベストの場合と同じくがんが発症するということが証明されている。しかしナノ粒子は、アスベストよりも完全に肺を通過することが可能であるため、実験動物に対しより急速に致命的なダメージを与えることが多いようだ。

 ナノ二酸化チタンは白色剤として数多くの食品や化粧品に使用されているが、大量のナノ二酸化チタンに曝露した実験動物は病気を発症するということが証明されている。カリフォルニア大学ロサンゼルス校での研究では、こうした実験動物のDNAと染色体の損傷または破壊が繰り返し示された。

 食品技術者協会のポスター・セッション期間中に研究発表した新卒者や若手科学者の数から判断すると、ナノ物質の使用が食品科学の世界において重要な役割を担うことになるということは明らかである。


訳注1
EPA ニュースリリース 2011年6月9日 EPA 農薬中のナノ物質に関する方針を提案

訳注:参考
地球の友 2008年4月 報告書 食品と農業におけるナノテクノロジー 研究室から食卓へ



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る