FoE オーストラリア2007年5月
ナノ技術−食品への新たな脅威

情報源:Friends of the Earth Australia
Nanotechnology - the new threat to food
Reprinted from “Clean Food Organic” Volume 4, May 2007
http://nano.foe.org.au/node/198

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年6月28日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/FoE_au/FoE_au_new_threat_to_food.html


 遺伝子組み換え技術に続いて、ナノ技術は我々の食料供給チェーンに入り込む最新の高度な技術の代表である。経験を積んだ科学者らは、原子及び分子レベルのスケールで物質を取り扱うナノ技術は人と環境の健康に様々な新たなリスクをもたらすと警告している。まして社会での議論もなしに、あるいは規制による監視もなしに、ナノ技術を使用して製造されたことを示すラベルもない食品が我々のスパーマーケットの棚に現れ始めた。

 世界中で我々の食品、健康、及び環境についての関心が増大している。どこで、どのようにして、誰によって製品は作られ、どのくらい遠くまで運ばれ、どのくらい長い期間保管されていたのか、などである。食料生産における化学物質使用の増大に対する直感的で現実的な反応として、また全体農業システムの中で工業的農業ビジネスが増大することに対する反応として、有機及び地場食品運動が興ってきた。人々は家族の健康と環境の健康について注意するようになったために、有機食品を食べることを選ぶようになってきた。有機農業はまた、化学物質をたっぷり使った工場農業よりも人々がバランスの取れた環境にやさしい農業と適切な技術を支援することを可能にした。

 有機に対する支援はまた、我々の食用穀物を遺伝子操作するバイオ技術巨大企業による取り組みに対する直接的な反応として増大している。世界中の農民と食料購入者はかつてもそうであったし、今も遺伝子組み換え穀物の導入にひどく腹を立てている。多くの人々にとってお決まりの結論は、バイオ技術会社は遺伝子組み換え食品を食料供給チェーンに導入することによって利益を得るという立場であったのに対し、消費者、農民、及び環境は全てのリスクを負ってきたということである。

 現在、ナノ技術は我々の食品を急襲する新たな波を導入している。ナノ技術は高度な技術であり、原子レベルで処理するものであり、新鮮で加工していない自然食品の自然の恵みを尊ぶ有機農業とは正反対のものである。それはさらに、企業の管理を必然的に集中する特許製品を使用しつつ農業を高度技術を駆使した工場生産ラインの自動生産の形に変換する。

ナノ技術の紹介−それは何か? それはなぜ違うのか?

 ナノ技術は、原子及び分子レベルで自然を分解し再構築するための強力な新しい技術である。科学者は広範な新たな物質、装置、生体組織、及び技術的システムを一変させて作り上げるために原子レベルでの操作を行うことにより、原子の世界から作り直すことができるという夢を実現するという。

 ナノ技術とナノ科学は現象と物質の研究であり、サイズが100ナノメートル(nm)以下のナノスケールで存在する構造、装置、及びシステムの操作を必要とする。100nmがどの位のサイズかといえば、例えば、DNAは 2.5nm、たんぱく質分子は5nm、赤血球は7,000 nm、そして人の髪の毛は幅が80,000 nm である。

 ナノ粒子の特性は、もっと大きな粒子に適用される物理法則によって支配されず、量子力学のメカニズムである。ナノ粒子の物理的及び化学的特性は、例えば、色、溶解性、強度、化学的反応及び毒性、などが、同一物質でより大きな微粒子の特性と全く異なることがありえる。

 このナノ粒子の特性の変化は、多くの新たな有益な製品や応用をもたらす可能性を作り出してきた。人工ナノ粒子はすでにスーパーマーケットの棚から手に入れることができる文字通り数百の製品、例えば、透明な日焼け止め、光回折応用の化粧品、浸透性強化のモイスチュライザー、防汚防臭繊維、防汚コーティング、長期耐容塗料・家具用ニス、そしてある種の食品にさえ使用されている。

 技術見通しのためのアジア太平洋経済協力(APEC)センターは、ナノ技術は我々の経済の全ての領域と社会の全ての領域に大規模な変動を伴う変革をもたらすであろうと予測している。

ナノ技術は食品の製造と加工にどのように使用されるのか?

 産業アナリスト及びナノ推進者らは、ナノ技術は原子レベルで食品を改造するために用いられるであろうと予測している。”ナノ技術のおかげで、明日の食品は分子と原子を整形することによってデザインされるであろう。食品は、食品の傷みや有害な汚染物質を検出することができる”賢い”安全包装によって包まれるであろう。将来の製品は、消費者毎の好みや健康の必要性に応じて、その色、香り、または栄養素を強化したり調整するであろう。そして、農業では、ナノ技術は農薬使用の低減、動物及び植物の品種改良、そして新たなナノ生物産業製品の創造を約束する”。アメリカの新規ナノ技術プロジェクトの食品と農業におけるナノ技術の利用に関する最近の報告書もそのように述べている(http://www.nanotechproject.org)。

 食品と農産物産業はナノ技術研究に数十億ドルを投資しており、数も知れない表示のないナノ食料製品をすでに市場に出している。世界中のどこもナノ製品の表示を義務付ていないので、どの位多くの商業食料製品が現在ナノ成分を含んでいるのかもわからない。ナノ技術推進派のアナリスト集団であるヘルムト・カイザー・コンサルタント・グループは、世界中の市場で現在300種以上のナノ食料製品を入手できると示唆している。同グループは、世界のナノ食品市場は005年には53億ドル(約6,400億円)であり、2010年までに204億ドル(約2兆4,500億円)に達するであろうと推定している。また、2015年までに食品産業の40%でナノ技術が使用されるであろうと予測している。

 ナノ技術食品研究には4つの主要な領域がある。
  • 種子と肥料/農薬の改良
  • 食品の”栄養強化”と改良
  • 双方向情報伝達の”賢い(smart)”食品
  • ”賢い”包装と食品追跡
種子と肥料/農薬のナノ改良

 ナノ推進者らは、ナノ技術は現代農業ビジネス分野をさらに自動化するために用いられると言っている。農場に投入される全てのもの−種子、肥料、農薬、そして労働力はますます技術的に改良されるようになる。ナノ技術は、農業の遺伝子組み換え技術の次のレベル−原子技術(atomic engineering)へと続く。原子技術は、色、栽培時季、生産高などを含んで異なる植物の特性を得るために、種子のDNAを再配置することを可能とする。高い能力のある原子操作された肥料と農薬は植物の成長を維持するために用いられる。ナノセンサーは植物の成長、pHレベル、栄養素の存在、水分、昆虫、病気などの状態を離れた場所から監視し、農場に張り付く労働者の必要性を著しく削減することを可能にする。ナノ技術を懸念するカナダのETCグループは、セミナー報告書””ナノ技術の食物及び農業への影響(Down on the Farm)”の中で、”農場はパソコンから監視し管理することができる広範な生物工場となり、食物は栄養を体内に効率的に届けるよう設計された物質から作られるであろう”と述べている。(訳注1

食品の”栄養強化”と改良

 ナノテク会社は、ナノ−カプセル化栄養素をともなった栄養強化食品に取り組んでおり、その外見と風味はナノ技術による色彩で強化され、脂肪分と糖分は除かれ、又はナノ改良により無効とされ、口当たりが改善される。強化食品は、どのような加工食品でも栄養学的効能を増加するために使用される。例えば、”医学的に有益な”ナノ・カプセルを含んだチョコレート・チップ・クッキーやホット・チップを健康増進または血管掃除としてすぐにでも市場に出すことができる。ナノ技術はまた、アイスクリームやチョコレートのようなスナック食品から体が吸収する脂肪分や糖分の量を減らすよう改善することを可能とする。これは、脂肪分や糖分のある量を他の物質に置き換えるか、または体が食品中のこれらの要素を消化または吸収するのを防ぐためにナノ粒子を使用することによって実現する。このようなやり方で、ナノ産業はビタミンや繊維強化、脂肪分・糖分カットのスナック食品を健康増進または減量効果と称して市場に出すことができる。

相互作用の”賢い(smart)”食品

 クラフトやネッスルのような会社は、色や香り、または栄養価を要求により変更する”個人向け仕様”の食品とするために、消費者と双方向で情報伝達する”賢い(smart)”食品をデザインしている。クラフトはある期間潜伏するナノ・カプセルに数百の風味を含む透明な味のない飲料を開発している。家庭の電子レンジを使って個人の好みの色、風味、濃さ、及び歯ごたえを引き出すことができる。この”賢い(smart)”食品はまた、個人が食品のある成分にアレルギー反応を起こすときにはそれを検出することができ、その成分を阻止することができる。あるいは”賢い”包装が、特定の食事管理の必要を持った人であると特定して追加的な栄養素、例えば、骨粗鬆(そしよう)症の人に対するカルシウム成分をある量を放出する。

”賢い”包装と食品追跡

 ナノ技術は食品の賞味期間を劇的に延長することができる。マークス社は、食品をガス及び湿度変化を防ぎながら食品を包装する目に見えない食用のナノ包装に関する特許をすでに持っている。”賢い”包装(ナノ・センサーと抗菌剤を含む)は、食品の賞味期間を延ばすために食品の傷みを検出しナノ抗菌剤を放出することを可能とし、スパーマーケットが食品を販売する前に長期間、在庫することを可能とする。人の目には見えない小さなチップとして食品中に埋め込まれるナノ・センサーはまた、電子バーコードとして機能する。それらは、生鮮食品を含んで食品が許容する信号を発信し、下見場所から工場、スーパーマーケット、さらにはそれ以上まで追跡することを可能とする。

食品及び農業におけるナノ技術に関する主要な懸念は何か?

 農業及び食品製造におけるナノ技術の利用に関する懸念は、食品製造のさらなる自動化と人間疎外、人と環境に対する新たな深刻な毒性リスク、そして食料供給チェーンにおけるそれぞれのステップをナノ調査システムが追跡することによる更なるプライバーの侵害に関連する。ナノ技術のリスクから公衆と環境を保護するための法律の導入を政府が怠っていることが最も深刻な懸念である。

 農業におけるナノ技術は、種子中の原子を再配置することにより、もっと能力ある化学物質の投入を開発することにより、人間に基づく農場での監視調査ではなく電子技術の利用可能な高度な監視調査技術を使用することにより、そして植物成長に対する更なる自動化によって、効率と生産性を向上することができるという約束の上に成り立っている。ナノ技術の食品加工への応用は、人は、味、歯ごたえ、外見、栄養素、食品賞味期間を原子レベルで操作することにより”改善する”ことができるということを前提にしている。このことが、”より安全”な食品となるということすら主張されている。

 これらの仮定は、人は自然界を原子レベルから作り直すことができ、より良い結果を得ることができるという欠陥のある考えに基づいている。それは、我々は、たとえ量子のメカニズムのように予測することが非常に難しいプロセスと力学を扱う時ですら、我々の活動の結果を予測することができるということを前提にしている。残念ながら歴史は、我々は複雑なシステムの結果を予測することが上手ではないということを教えている。ケイン・トード(訳注:外来猛毒ヒキガエル)のような生物学的管理の導入やスポーツのためののラビットとキツネの導入からもたらされた災害が証明している。歴史はまた、当初は”驚愕すべき”物質として認識された CFCs、DDT 、アスベストなどについても、早期の警告の兆候に対応することを怠ったためにもたらされた深刻な健康と環境に対する問題の事例も同様に物語っている。

 ナノ粒子は反応性が高く、移動性が高く、もっと大きな粒子に比べて人と環境により毒性があるということを示唆する毒物学的文献は少量ではあるが増大している。予備的な科学研究は多くのタイプのナノ粒子は、がん、DNA変異、さらには細胞死すらもたらすことができる自由ラディカルの形成をもたらす酸化ストレスを増大する結果となることがあるということを示している。カーボンナノ粒子であるフラーレンは、規制当局により環境毒性影響を定義するためのモデルとして受け入れられている大口バスの脳にダメージを与えることが見いだされている。(訳注2

 2004年の報告書でイギリスの王立協会は、深刻なナノ毒性のリスクを認め、”ナノ粒子形状の成分は、製品中で使用が許可される前に適切な科学的審議機関により完全な安全審査を受けるべきこと”を勧告した(訳注3)。この警告にもかかわらず、この王立協会の報告がでてから2年後においても、それらを使用する公衆に対して、それらを製造する労働者に対して、そして廃棄ナノ製品が放出される環境系に対して危害を及ぼさないことを確実にするために、消費者製品中でのナノ物質の使用を管理する法律はまだどこにもない。

 食品包装中のナノ−監視の使用はまた、新たなプライバシーの懸念を生み出す出すであろう。食品産業界のナノ−追跡の使用が増大すると、下見場から工場、スーパーマーケット、そしてあなたの食卓までへと食品のの移動を追跡するための能力が向上するであろう。このことは、それに準備がほとんどできていない我々にとって深刻な新たなプライバシーの問題を提起する。

 驚くべきことには、このようなナノ食品と農産物のスーパーマーケットや環境中への放出にもかかわらず、世界中の政府でナノ技術のリスクを管理するための規制を導入したしたところはいまだにない。

健康な食品の将来のための戦い−ナノ技術の代替は何か?

 我々の食品と技術的将来はどのようなものであろうか?我々は我々の食料供給の管理のための大きな戦いの只中にいる。企業又はコミュニティ運営者、世界又は地域、小規模対大規模、加工食品対自然食品。これらは我々が選択する必要のあるパラダイム(枠組み)である。健康で全体的(holistic)な農業を推進するための主要なやり方は、我々の購入選択によってそれを支えることである。保証された有機食品はよりよい健康、よりよい環境、そしてナノを含まない食品の将来をあなたに提供する。身体手入れ用品については、有機用品か又はナノ技術を使っていないと述べている会社から買ってほしい。

 健康な食品の将来を築くために役に立つために多くの方法がある。農民マーケットで買い、農民の無人販売箱から買い、有機食品店から買い、あるいはスーパーマーケットの有機食品コーナーから買ってほしい。地域の菜園に参加すること、あるいはあなた自身の菜園を持つことを検討してほしい。幼稚園あるいは学校で給食用有機農園を開始してほしい。製品表示を読み、当事者意識を持ち、関心を持ってほしい。あなた最もに関わりのある食品問題について友達や家族に話してほしい。会社に対し彼らの製品でのナノ技術の使用について懸念を持っているということを彼らの1800 feedbackを通じて知らせてほしい。あなたの地域選出の議員に対し、購入時の選択情報として識別できるように人工ナノ成分を含んでいることを示すラベル表示を製品につけるよう告げてほしい。

 我々の主要メディアと我々の研究及び教育機関により議論される食品政策を見ることは興味深い。しかし、人口ナノ成分を含むラベル表示のない食料製品がすでにスパーマーマーケットで手に入る一方、そのナノ技術はやっと注目を浴びるスタート地点に着いたばかりである。公衆と環境の健康を守る規制は存在せず、我々の食品を原子レベルで操作することによる長期的な影響について調べるために、会社または公共の金はほとんど使われていない。規制的監視がないためにリスクがますます増大する遺伝子組み換えの導入と類似していることにぞっとする。

 我々は全て、遺伝子組み換えについて我々が行ったのと同じように、ナノ技術に関して政治的に積極的でなくてはならない。我々が人と環境の健康を守るために適切な規制システムを持つまで、そして我々がナノ技術の導入関する意思決定に真の公衆の参加を得るまで、ナノ技術の使用を一時的に禁止させることが重要である。我々はまた、我々の政府が我々納税者のお金を有機の分野に向けて支援させるようにしなくてはならない。

 我々は、企業にではなく、我々のコミュニティに利益をもたらす健康な食品の将来を一緒に作ることができる。

  • ジョージア・ミラー:フレンドオブアース・オーストラリア ナノ技術プロジェクト コーディネータ
    (By Georgia Miller, Coordinator of the Friends of the Earth Nanotechnology Project)

  • スコット・キンニア:オーストラリア生物学的農民及び有機自然食品評議員
    (Scott Kinnear, board member of Biological Farmers of Australia and owner of Organic Wholefoods)


訳注1
DOWN ON THE FARM The Impact of Nano-Scale Technologies on Food and Agriculture / ETC Gropup, November 2004(ナノ技術の食物及び農業への影響)

訳注2
EHP 2004年7月号/フラーレンと魚の脳 ナノ物質が酸化ストレスを引き起こす
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ehp/ehp_04_July_Fish_Brains.html

訳注3
ナノ科学、ナノ技術:機会と不確実性−要約と勧告/英国王立協会・王立技術アカデミー報告 2004年7月29日
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/royal_society/RS_summary.html


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