2011年5月10日 EFSA科学委員会
食品・飼料連鎖中での
ナノ科学及びナノ技術適用の
リスク評価ガイダンス

情報源:SCIENTIFIC OPINION
Guidance on the risk assessment of the application of
nanoscience and nanotechnologies in the food and feed chain
EFSA Scientific Committee
European Food Safety Authority (EFSA), Parma, Italy
Published: 10 May 2011
http://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/doc/2140.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年6月12日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/EFSA/110510_EFSA_guidance_risk_nano_food.html

アブストラクト

 欧州食品安全機関(EFSA)は、食品及び飼料連鎖中でのナノ科学及びナノ技術の適用により生じる潜在的なリスクを評価するための実際的なアプローチを開発した。ガイダンスは次の二点を提供する。
(i) 例えば、食品添加物、酵素、フレーバー、食品接触物質、新規食品、飼料添加物、農薬などに用いられる工業ナノ物質の物理化学的特性の要件、及び
(ii) 一般的に、インビトロ遺伝子毒性、吸収、分布、代謝、排泄、げっ歯類による90日間反復経口投与毒性試験による情報を含む、ナノ特性から生じるハザードを特定し特性化するためのテスト・アプローチ
 このガイダンスは、工業ナノ物質への曝露がないことが食品接触材料からの移行がないことを示すデータによって確かめられている時、又は、完全に変質/分解していることが工業ナノ物質の吸収がないことによって実証されている時には、情報を減らすことを許している。
 このガイダンスは、リスク評価をする時に考慮されるべき不確実を示す。この分野は急速に展開している状況にあるので、このガイダンス文書は適宜、改訂されるであろう。

KEY WORDS: Engineered Nanomaterials, Food, Feed, Guidance, Nanoscience, Nanotechnology, Risk Assessment


サマリー

 欧州委員会からの要求により、科学委員会は、ナノ科学とナノ技術の食品と飼料への適用に関わる安全評価のためのガイダンス文書を作成するよう求められた。この科学的意見は食品と飼料連鎖(食品添加物、酵素、フレーバー、食品接触材料、新規食品、飼料添加剤、農薬を含む)における工業ナノ物質の使用を伴う適用のリスク評価のための実際的なガイダンス(以降 ENM ガイダンス)を提供するものである。

 リスク評価パラダイム(ハザードの特定(identity)とハザードの特性化、及びその後の曝露評価とリスク特性化)は、これらの(ナノ科学とナノ技術の)適用のために適切である。したがってそれぞれの段階のための関連データと情報は、リスク評価者がリスク評価を実施するために利用可能にすべきである。

 ENMの適切な特性化は、食品/飼料製品中及びテスト条件下におけるその特定と物理−化学的形態を確立するために重要である。物理−化学的パラメーターは様々な環境中で変化するかも知れず、ENMの特性化は理想的には 5段階で決定されるべきである。すなわち、製造されたとき(真新しい状態)、食品/飼料製品中での使用に供されるとき、食品/飼料製品中に存在するとき、毒性テストに使用されるとき、生物学的流体及び組織中に存在するとき−である。

 ENMのリスクは、その化学的組成、物理−化学的特性、組織との相互作用、潜在的な曝露レベルによって決定される。物理−化学的特性は、ENMを特定し、ENMガイダンスが適切であるかどうかを決定するために必要である。

 もし、ENMガイダンスが適用可能なら、そのテストからの結果はハザードを評価するための情報を提供し、曝露評価と統合されて、リスク特性化のための基礎を形成するであろう。吸収、分布、代謝及び排泄(ADME)パラメーターは、ENMの化学的組成と物理−化学的特性(例えば、サイズ、形状、溶解性、表面電荷、表面反応性)の両方によって影響を受けるように見える。

 ナノ物質の詳細なリスク評価に着手する前に、提案される使用からの予測される曝露シナリオの概要が記述されるべきである。これらの曝露シナリオはハザード特性化の程度に関する決定に寄与し、リスク評価で求められる曝露評価のためのパラメーターを提供するであろう。

 異なる毒性テスト・アプローチの概要を示す6つのケースが提示されている。
 ENM の使用が、食品/飼料中に ENM の存在をもたらさない又はその変質/分解産物をもたらさないということを示す説得力のある証拠がある場合には、どのような追加的テストも必要ない。
 食品/飼料中でのENMの非ナノ形状への変換が、摂取前に完全であると判定されるときには、特定用途のための非ナノ形状のためのENMガイダンスが適用されるべきである。
 ENM が、胃腸管中で吸収されることなく、完全に分解/変質することが実証される時には、ハザード特定とハザード特性化は、(もし、利用可能なら)非ナノ形状物質のためのデータに依存することができる。
 同一物質の非ナノ形状に関する情報が利用可能であり、ENM の一部又は全部が食品/飼料中及び胃腸液に残留する場合には、テスト・アプローチは、非ナノ形状の ADME、毒性、遺伝子毒性に関する情報と、ENM の ADME、90日間反復経口投与毒性試験、遺伝子毒性情報との比較に基づくテスト・アプローチが推奨される。
 非ナノ形状に関する情報が利用可能ではなく、ENM の一部又は全部が食品/飼料中及び胃腸液に残留する場合には、ENMに関する毒性テストのためのアプローチは、ナノ特性を考慮に入れるために今回のENMガイダンスを修正して、意図した用途のための関連EFSAガイダンスに従うべきである。

 ハザードを特定し、ハザードを特性化するための用量−反応データを得るために、ENM に関する適切なインビトロ及びインビボ研究が行なわれるべきである。非ナノ形状のために使用されるいくつかのテスト・モデルと標準テスト・プロトコールは、ENM のテストとして必ずしも適切又は最適であるとは限らないかもしれず、研究者らが現在、行なっている取り組みは、これらの問題に目を向けている。

 曝露評価のためのENMの量を決定するための出発点は、現在は、食品/飼料に加えられる物質、又は食品/飼料に接触する物質の情報に依存しなくてはならない。添加されたENMの当初の特性は、曝露評価における前提として用いることができるが、食品/飼料中に存在するENMの量を決定することが望ましい。現在は、食品又は飼料中のENMを機械的に決定することは不可能であり、このことが曝露評価における不確実性を増大させる。曝露データがなく、食品/飼料中のナノ形状を決定する事ができない場合には、全ての添加されたENMがナノ形状で摂取され吸収されると仮定すきであるが、ENMの構造/特性は決定されず、毒性調査で使用されるENMの構造/特性と関連付けることは難しい。

 ENMの全ての可能性ある応用、見地、特性をカバーするための適切で確認されたテスト手法が欠如していることに関連するENMの特定、特性化、検出に関連する不確実性が現在ある。同様に、現状の標準的な生物学的及び毒性学的テスト手法のENMへの適用可能性に関連する多くの不確実性がある。これらの理由により、このENMガイダンスは経験と蓄積される知識に基づいて更新される必要があるであろう。この分野は急速な開発が行なわれており、従ってこのガイダンス文書は適宜、改訂されるであろう。


訳注:関連情報
パブリック・コンサルテーション用科学的意見草案 食品及び飼料へのナノ科学及びナノ技術の適用により生ずる潜在的なリスクに関するリスク評価ガイダンス EFSA科学委員会(公開:2011年1月14日/締切:2011年2月25日)



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