Nanowerk 2008年10月20日記事の紹介
食品の安全に及ぼすナノテクノロジーの
潜在的影響を明らかにするための
ヨーロッパの取り組み

マイケル・バーガー

情報源:Nanowerk Spotlight, October 20, 2008
European efforts to determine potential nanotechnology impact on food safety
By Michael Berger
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=7814.php

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年10月22日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/081020_European_food_safety.html


 食品関連分野におけるナノテクノロジーの適用についての欧州委員会の現在の評価は、ほとんど確実なもの(たとえば、メンブレン(膜技術)、抗菌剤、フレーバー(訳注1)、フィルター、補助食品、安定剤)から、ありそうなもの(たとえば、病原菌と汚染センサー、環境モニター、結合検出警報装置、遠隔検出追跡装置)、さらには、ありそうもないもの(たとえば、原子レベルで結合により食品を際限なく作ること)まで広い範囲にわたる。

 欧州委員会は、ナノサイエンスとナノテクノロジーから生じる潜在的な安全問題に一歩ずつ対応していくことに決めている。それにより食品と飼料の安全及び環境の分野における将来の活動のためのロードマップを確立することが容易になる。

 実践の第一段階として、欧州委員会は欧州食品安全機関(EFSA)(European Food Safety Authority )に対して、”食品と飼料分野におけるナノサイエンスとナノテクノロジーによって及ぼされる潜在的なリスク”の評価の必要性を特定し、リスク評価の手法の適切性を評価し、リスク評価を実施し、そして現状のリスク評価手法の適切性を評価するために、科学的意見を提出するよう要請した。欧州食品安全機関(EFSA)は意見(案)(訳注:Draft Opinion of the Scientific Committee on the Potential Risks Arising from Nanoscience and Nanotechnologies on Food and Feed Safety を10月14日に発表し、パブリックコメントにかけた。

 これは、ナノテクノロジーに対する健康消費者保護総局(Health & Consumer Protection Directorate- General)の活動のための枠組みを確立する様々な欧州委員会の取り組みのトップに位置づけられる。
  • ナノサイエンスとナノテクノロジーに関する欧州行動計画:2005年6月7日に採択された欧州行動計画 2005-2009は、ナノテクノロジーのための”安全で、統合された、責任あるアプローチ”を定義している。欧州委員会は2007年9月6日に、この行動計画の実施に関する欧州議会への報告を採択した。
  • さらに、第7次研究開発フレームワーク計画(FP7)は、行動計画への支援として35億ユーロ(約4,700億円)をナノテクノロジーに割り当てており、その一部はナノの安全性に関する研究のための資金となる。
  • 最近、欧州倫理グループ( European Group of Ethics)(訳注:欧州委員会の諮問機関)は、ナノテクノロジーにおける倫理問題に関する意見を提示した(pdf 4.1 MB)。
  • 欧州委員会は2008年6月17日にナノ物質の規制的側面に関するコミュニケーションを採択したが、それはナノテクノロジーのための既存の規制の適切性に関する法的レビューである。
  • 最後に、欧州委員会の役務には国際的な活動(OECD、大西洋間対話、等)が含まれる。
 今回発表された EFSA の科学的意見(案)は、工業的(engineered)ナノ物質に目を向けている。食品と飼料は一緒に論じられているが、それは基本的な側面(適用と潜在的影響)が同様であると考えられるからである。

 食品添加物と汚染物質2008年3月号(Food Additives & Contaminants: Part A, Volume 25, Issue 3 March 2008)に発表された、 味、歯ごたえと舌触り、低脂肪、強化栄養吸収、改良容器包装、食品の追跡性と安全性等のレビューを含み、食品に多くの便益をもたらすことが期待されるナノテクノロジーの適用をまとめた文献、”食品分野ナノテクノロジーの適用と影響(Applications and implications of nanotechnologies for the food sector)”の後、2008年10月に発表された、欧州食品安全機関(EFSA)のこの意見書は、食品と飼料分野におけるナノテクノロジーの適用を5つの領域に分類している。

  1. ナノテクノロジーを用いたプロセスと材料が食品接触材を開発するために採用されている領域。この領域は、ナノ強化物質(ナノ合成物)、食品又は食品周囲の環境とのある種の相互作用をするよう設計された食品接触活性物質、及びナノ物質またはナノ構造をもった表面にするコーティングを含む。
  2. 食品/飼料成分がナノ構造を形成するよう処理又は調合されている領域。この領域は、食材の味覚、歯ごたえ、一様な濃度を強化するためにナノ構造又はナノ生地を形成するようナノスケールで食品成分を処理する適用を含む。
  3. ナノ化、ナノカプセル化された、あるいは工業的ナノ物質成分が食品/飼料中で使用される領域。この領域は、添加剤(着色剤、フレーバー添加剤、保存剤)及び、様々な用途のために作られるプロセス助剤(ナノカプセル酵素)などのナノスケール成分を含む。
  4. 食品の保存及び輸送中に食品の状況を監視するためのバイオセンサー。この領域には表示機能を持つ容器包装を含む。
  5. ナノサイズ農業用化学物質、農薬、家畜用医薬品など、食品及び飼料分野におけるその他の間接的な適用。
 欧州食品安全機関(EFSA)の意見は、一般的な内容であり、それ自身は、ナノテクノロジーの暫定的適用、可能性ある用途、又は特定の製品のリスク評価ではない。この文書の著者らはまた、EU市場に存在するかもしれない可能性ある食品又は飼料のナノテクノロジー製品を概観したものはまだ存在しないということを指摘している。意見(案)の結論は以下のようなものである。
  • 現在、非ナノ化学物質に用いられているリスク評価に対する確立された国際的なアプローチはまた、工業的ナノ物質に適用することができる。
  • 非ナノ化学物質に関する科学的データをそれらのナノサイズ物質に満足いくよう外挿し、適用することは現在は可能ではない。したがって、それらの安全性を評価する場合には、具体的な適用にあてはまる適切な安全テストからの具体的なデータに基づく、具体的な1件毎のリスク評価が実施されるべきである。
  • 工業的ナノ物質が小さなサイズと相対的に大きな表面積をもつということもその理由の一部として、リスクを生じる可能性がある。小さなサイズは、大きな物質とは違い体内に入りこむ能力を増大し、一方、相対的に大きな表面積はその反応性を高める。
  • 特に、食品、飼料、又は体内の工業的ナノ物質を検出し、測定し、特性化することに関し、追加的な制限と不確実性が存在する。また工業的ナノ物質の毒性とともに、吸収、分布、代謝、排泄に関する情報も限定されている。
 欧州食品安全機関(EFSA)の開放性と透明性のポリシーにしたがって、また EFSA が科学界および利害関係者からこの意見に関するコメントを得るために、EFSA はこの意見(案)をパブリック・コメントにかけた。関心ある団体は、2008年12月1日17:00までにコメントと関連する科学的情報を詠出するよう招かれている。

マイケル・バーガー

訳注1:フレーバー
 フレーバー(Flavor)とは食品の香り、味、食感など口に入れた時に生じる感覚をまとめて指す用語。これらの3つの要素を補強するために使用される食品添加物もフレーバーと称される。 この意味では国際的にはフレーバリングの語が使用される。出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

訳注2:ナノ食品関連情報


化学物質問題市民研究会
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