一次独立なベクトルからの基底の生成の証明
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(舞台設定)
R:実数体(実数をすべて集めた集合)
Rn:実n次元数ベクトル空間
v1, v2, …, vl:l個の実n次元数ベクトル。
具体的に書くと、i=1,2,…, lにたいして、vi1, vi2, …, vin∈Rとして、vi=( vi1, vi2, …, vin )
したがって、v1, v2, …, vl ∈Rn 。
なお、個数lが有限個であることに注意。
(
本題)
実n次元数ベクトル空間Rnにおいては、
一次独立な実n次元数ベクトルに、適当な単位ベクトルを補充することによって基底をつくることができる。
つまり、
v1, v2, …, vl∈Rnが一次独立ならば、
ある単位ベクトルei(1), ei(2) ,…, ei(n−l) が存在して、
v1, v2, …, vn, ei(1), ei(2) ,…, ei(n−l)は、Rnの基底となる。 。
(補足説明:ベクトルの個数と上記定理の関連)
実n次元数ベクトルv1, v2, …, vl の個数lで、場合分けをする。
[case1] l > n
実n次元数ベクトルv1, v2, …, vl の個数lが、nより多いならば、
v1, v2, …, vlは、つねに一次従属であって、一次独立であることはありえない。(∵)
だから、この場合に、上記定理の仮定「v1, v2, …, vl∈Rnが一次独立ならば」が成り立つことはない。
このケースでは、上記定理に出番はない。
[case2] l = n
実n次元数ベクトルv1, v2, …, vl の個数lがnならば、
v1, v2, …, vl=vnが一次従属の場合もあれば一次独立の場合もありえる。
もし、ここで、上記定理の仮定が成り立ち、v1, v2, …, vl=vnが一次独立ならば、(∵)
v1, v2, …, vl=vnは、すでに、Rnの基底である。(∵)
だから、このケースでは、上記定理は自明なのであって、ありがた味がない。
[case3] l < n
実n次元数ベクトルv1, v2, …, vl の個数lがnより少ないならば、
v1, v2, …, vlが一次従属の場合もあれば一次独立の場合もありえる。
もし、ここで、上記定理の仮定が成り立ち、v1, v2, …, vlが一次独立だとしても
v1, v2, …, vlは、Rnの基底になりえない。
一次独立な実n次元数ベクトルv1, v2, …, vlが、基底の定義を満たすには、
v1, v2, …, vlの一次結合として、Rnに属す「任意の」実n次元数ベクトルを表すことができなければならないが、
これは不可能である。
v1, v2, …, vlの一次結合としては表し得ない実n次元数ベクトルがあることは、
次の点について考えてみると判然とする。
|Rnの単位ベクトルは、いつでもn個ある。
|また、Rnの単位ベクトルは、いつでも一次独立である。(∵)
|つまり、Rnには、一次独立なn個の実n次元数ベクトルが、単位ベクトルを実例として存在している。
|ところが、
|l < nという設定下で、v1, v2, …, vlの一次結合をn個つくると、
|このn個の「v1, v2, …, vlの一次結合」は一次従属にしかならない。(∵)
|「v1, v2, …, vlの一次結合」としてあらわしうる、一次独立なベクトルの個数は、l以下である。(∵)
|したがって、
|単位ベクトルを実例とする、一次独立なn個の実n次元数ベクトルを、「v1, v2, …, vlの一次結合」として表そうとしても、
|表せない(n−l)個のベクトルが存在することになる。
したがって、実n次元数ベクトルv1, v2, …, vl の個数lがnより少ないケースにおいて、
「一次独立な実n次元数ベクトルに、適当な単位ベクトルを補充することによって基底をつくることができる」
とする上記定理は、意義をもつ。
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(証明)
[永田『理系のための線形代数の基礎』定理1.2.4(p.14);]
l < nのケースについてのみ証明する。(→説明)
仮定:v1, v2, …, vl∈Rnが一次独立 …(仮定1)
l < n …(仮定2)
Step1: v1, v2, …, vlの一次結合としては表し得ない単位ベクトルをei(1)とおく。
・Rnの単位ベクトルe1, e2 ,…, enは、一次独立なn個の実n次元数ベクトル。(∵)…(1-1)
・(仮定2) l < nの下で、v1, v2, …, vlの一次結合をn個つくると、
このn個の「v1, v2, …, vlの一次結合」は一次従属にしかならない。(∵)
「v1, v2, …, vlの一次結合」としてあらわしうる、一次独立なベクトルの個数は、l以下である。(∵)…(1-2)
・(1-1) (1-2)より、
一次独立なn個の単位ベクトルe1, e2 ,…, enをすべて、「v1, v2, …, vlの一次結合」として表すことはできないことがわかる。
n個の単位ベクトルe1, e2 ,…, enのなかで、
「v1, v2, …, vlの一次結合」として表すことはできない単位ベクトルの一つを、
ei(1)とおくことにする。 …(1-3)
Step2: v1, v2, …, vl, ei(1)は一次独立。
・a1v1+a2v2+…+alvl+aei(1)=0 ( a1, a2, …, al ,a ∈R) とおく。…(2-1)
・a≠0だとすると、aには逆数a−1が存在し、(2-1)を次のように変形してゆける。
a1v1+a2v2+…+alvl+aei(1)+{−(a1v1+a2v2+…+alvl)}=−(a1v1+a2v2+…+alvl)+0
∵両辺に(a1v1+a2v2+…+alvl)の逆ベクトルを加えた。
aei(1)=−(a1v1+a2v2+…+alvl)+0 ∵数ベクトルの加法の性質:v+(−v)=0
aei(1)=−(a1v1+a2v2+…+alvl) ∵数ベクトルの加法の性質:v+0=v
aei(1)=(−1)(a1v1+a2v2+…+alvl) ∵逆ベクトルの定義
aei(1)= (−1)a1v1+(−1)a2v2+…+(−1)alvl ∵数ベクトルのスカラー乗法の性質
a−1aei(1)=a−1 (−1)a1v1+a−1(−1)a2v2+…+a−1(−1)alvl
∵a≠0だとすると、aには、逆数a−1が存在するので、これを両辺にかけた。
a−1aei(1)= (−1)a−1a1v1+(−1)a−1a2v2+…+(−1)a−1alvl
∵実数の乗法の可換則
1ei(1)= (−1)a−1a1v1+(−1)a−1a2v2+…+(−1)a−1alvl ∵実数の逆数との積
ei(1)= (−1)a−1a1v1+(−1)a−1a2v2+…+(−1)a−1alvl ∵数ベクトルのスカラー乗法の性質:1v=v
すると、a≠0だとすると、ei(1)= (−1)a−1a1v1+(−1)a−1a2v2+…+(−1)a−1alvl と表せて、
(−1)a−1a1, (−1)a−1a2,…, (−1)a−1al∈R
となるから、
ei(1)は、「v1, v2, …, vlの一次結合」として表せることになって、(1-3)の設定と矛盾。
したがって、(2-1)において、a=0でなければならない。 …(2-2)
・(2-2)を(2-1)に代入して、
a1v1+a2v2+…+alvl=0 ( a1, a2, …, al ∈R )
すると、 (仮定1) v1, v2, …, vl∈Rnが一次独立より、
a1=a2=…=al =0 でなければならない。 …(2-3)
・(2-1)(2-2)(2-3)をあわせて考えると、
a1v1+a2v2+…+alvl+aei(1)=0 ( a1, a2, …, al ,a ∈R) とおくと、
a1=a2=…=al =a=0 でなければならないことになる。
このことは、v1, v2, …, vl, ei(1) ∈Rnが一次独立であることの定義を満たす。…(2-4)
Step3:
・l+1=nならば、
(2-4)で一次独立であると示されたv1, v2, …, vl, ei(1) は、Rnの基底となる。(∵)
・l+1<nならば、
n個の単位ベクトルe1, e2 ,…, enのなかで、
「v1, v2, …, vlの一次結合」として表すことはできないものの一つを、
ei(2)とおく(ただし、ei(2)はei(1)以外)。
すると、step2と同様にして、v1, v2, …, vl, ei(1), ei(2)は一次独立であると示される。
l+2=nならば、v1, v2, …, vl, ei(1), ei(2)は、Rnの基底となる。(∵)
l+2<nならば、上記の手続きを繰り返す。
n個のベクトルv1, v2, …, vn, ei(1), ei(2) ,…, ei(n−l)が一次独立であると示された時点で、
v1, v2, …, vn, ei(1), ei(2) ,…, ei(n−l)は、Rnの基底となる。(∵)
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