体上の行列の積の性質 : トピック一覧

【性質】

 ・行列積は可換則を満たさない 
 ・積の結合則 
 ・積の分配則 
 ・行列積とスカラー積の混合 
 ・零行列との積 

【体上の行列関連ページ】

 ・正方行列に関する様々な定義 
 ・行列の和・スカラー倍の定義 
 ・行列積の定義 
 ・逆行列・正則行列・特異行列の定義 
 ・転置行列の性質/行列の代数系  
 ・行列の階数 

【体として実数体を指定した具体例】

 ・実行列の積の性質  


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定理:行列の積は可換則を満たさない 

【舞台設定】

 K(例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C) 
 A , B K上の(m,n)型行列  

【本題】

K上の行列について、可換則は成立しない
 つまり、K上の(m,n)型行列AK上の(n,l)型行列Bの選び方によって、AB=BAが満たされないことが多々ある。

・そもそも、mlの場合、
 K上の(m,n)型行列AK上の(n,l)型行列Bに対して、ABは定義できても、BAは定義できない。
 (BAの定義は、《B数》lと《A数》mの一致を要請するが、
    m≠lの場合これが満たされないから、BAは定義不能。)

m=lの場合でも、K上の(m,n)型行列AK上の(n,l)型行列Bに対して、AB=BAとならないケースがある。
 たとえば、
 
   
( 1
)
2
( 0
1 )
1 0

( 0
1 )
1 0
( 1
)
2
 

AB=BAが成り立つ場合、「AとBとは交換可能」という。[藤原『線形代数』2.1(p.25);] 


【体として実数体を指定した具体例】
 行列積は可換則を満たさない

【文献】 

 ・斎藤『線形代数入門』2章§1(p.34)
 ・藤原『線形代数』2.1(p.25)
 ・『高等学校代数幾何』(p.83)


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定理:行列の積の結合則 


【舞台設定】

 K(例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C) 
 A , B ,C  K上の(m,n)型行列  

【本題】

 K上の行列は、結合則を満たす。 

 すなわち、

 任意のK上の(m,n)型行列AK上の(n,l)型行列BK上の(l,k)型行列Cに対して、
 「『ABの積Cとの積」は、「Aと『BCとの積との積」と等しい
     (AB)C=A(BC)  

可換則は成り立たないことに注意。
※なぜ→証明 

【体として実数体を指定した具体例】

  積の結合則 
 
【文献】 

 ・『岩波数学辞典』83行列B(pp.219-220)
 ・永田『理系のための線形代数の基礎』1.4(p.25)
 ・斎藤『線形代数入門』2章§1(p.34)
 ・藤原『線形代数』2.1(p.26)
 ・『高等学校代数幾何』(p.83;86)

定理:行列の積の分配則 

【舞台設定】

 K(例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C) 
 A , B ,C  K上の(m,n)型行列  

【本題】

K上の行列は、分配則を満たす。 

すなわち、

任意のK上の(m,n)型行列AK上の(n,l)型行列B,Cに対して、
   A(BC)=ABAC 

任意のK上の(m,n)型行列A,BK上の(n,l)型行列Cに対して、
   (AB)C=ACBC

可換則は成り立たないことに注意。

【体として実数体を指定した具体例】

 積の分配則

【文献】 

 ・『岩波数学辞典』83行列B(pp.219-220) 
 ・永田『理系のための線形代数の基礎』1.4(p.25) 
 ・斎藤『線形代数入門』2章§1(p.34) 
 ・藤原『線形代数』2.1(p.26) 
 ・『高等学校代数幾何』(p.83;86)



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定理:行列積とスカラー積

【舞台設定】

 K   : (例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C) 
 A , B   : K上の(m,n)型行列  
 c   : Kの  

【本題】

 任意のK上の(m,n)型行列A、「K上の(n,l)型行列B、「Kcに対して、

   c(AB)=(cA)B=A(cB) 
 
※行列の積については、可換則は成り立たないから、ABの位置は入れ替えられないことに注意。

【体として実数体を指定した具体例】

 行列積とスカラー積の混合 

【文献】 
 斎藤『線形代数入門』2章§1問2(p.34) 


定理:零行列との積     

【舞台設定】

 K : (例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C) 
 A    : K上の(m,n)型行列  

【本題】

 任意のK上の(m,n)型行列Aと、零行列とのは、零行列
   A On,l Om,l   
   Ol,m A Ol,n  

【体として実数体を指定した具体例】

 零行列との積 

【文献】

 ・斎藤『線形代数入門』2章§1(p.34)



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(reference)

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目83行列(pp.219-)
線形代数のテキスト
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.4行列と一次写像(pp.23-6)。
佐武一郎『線形代数学(第44版)』裳華房、1987年、I.ベクトルと行列の演算§2-3行列の演算(pp.4-16)。
砂田利一『現代数学への入門:行列と行列式』2003年、§2.2一般の行列(pp.54-60)、§2.3行列の演算(pp.60-65)、§2.4行列の操作(pp.66-70).
藤原毅夫『理工系の基礎数学2:線形代数』岩波書店、1996年、2.1行列の定義と演算(pp.21-29)。
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第2章行列§1行列の定義と演算(pp.31-40)。

ホフマン・クンツェ『線形代数学I』培風館、1976年、一次方程式(pp.1-27)。
志賀浩二『数学30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年、17講線形写像と行列(pp.107-112)。

数理経済学のテキスト
西村和雄『経済数学早わかり』日本評論社、1982年、2章線形代数§2行列と行列式(pp.46-72)。
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、5章行列(pp.161-199):一次写像の行列表現を中心にしている。
William H. Greene(斯波・中妻・浅井訳) 『経済学体系シリーズ:グリーン計量経済分析I:改訂4版』エコノミスト社、2000年、第2章行列代数2.2行列の用語(pp.10-12);2.3行列の算法(pp.12-21)。
岩田暁一『経済分析のための統計的方法(第2版)』東洋経済新報社、1983年、12.1行列の演算(pp.269-277);12.4.2逆行列(pp.294-5)。