体上の正方行列に関する様々な定義 : トピック一覧

 定義:対角成分・非対角成分/対角和・トレース
 定義:対角行列/スカラー行列/クロネッカーのδ/単位行列 
※体上の行列関連ページ:体上の行列の定義/ 行列の和・スカラー倍の定義/行列の積の定義/行列の積の性質
            逆行列・正則行列・特異行列の定義/転置行列の性質/行列の代数系/行列の階数
※体として実数体を指定した具体例:実行列  
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定義:正方行列の対角成分・非対角成分

【舞台設定】  














a11
a12
a1n



 An次正方行列
    すなわち、 A a21
a22 a2n


 :



an1
an2 ann









【定義】
 ・n次正方行列A対角成分とは、  Aの対角線上にある成分a11, a22, …, annのこと。
 ・n次正方行列A非対角成分とは、Aの対角線上にない成分aij (ij)のこと。
【文献】
 ・斎藤『線形代数入門』2章§2(p.43);藤原『線形代数』2.1(p.21)

【具体化】
 ・実行列の対角成分・非対角成分
 



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定義:対角和・跡・トレース trace ・シュプール Spur    


【舞台設定】
  
 K:(例:有理数をすべてあつめた集合Q実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C) 














a11
a12
a1n



 A:K上のn次正方行列
    すなわち、 A a21
a22 a2n


 :



an1
an2 ann









【定義】

 n次正方行列 A対角和・跡・トレースtrace・シュプールSpurとは、
 A対角成分の和a11a22+…+annのこと。
 (なお、上記の+は、Kにおいて定義されている加法)

【記号】

 
n次正方行列Aの対角和・トレースは、記号「Tr A」などで表される。 

【文献】
 藤原『線形代数』2.1(p.29)

【具体化】
 ・実行列の対角和・トレース  

 

定義:対角行列diagonal matrix   

 ・対角行列とは、
  すべての非対角成分が0である正方行列
  
  すなわち、














a11





      a22

a33







ann









  のこと。

【具体化】
  ・実行列の対角行列

【文献】
 ・『岩波数学辞典』83行列A(p.220)
 ・永田『理系のための線形代数の基礎』5.1(p.133)
 ・斎藤『線形代数入門』2章§2(p.43)
 ・藤原『線形代数』2.5(p.52)

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定義:スカラー行列 scalar matrix   


スカラー行列とは、すべての対角成分が等しい対角行列のこと、

 すなわち、
 すべての対角成分が等しく、なおかつ、すべての非対角成分が0である正方行列  




















a










 
a






a
























a














  
 のこと。

【具体化】

 ・実行列のスカラー行列

【文献】

 ・『岩波数学辞典』83行列(p.220)
 ・斎藤『線形代数入門』2章§2(p.43)

定義:クロネッカーのデルタ Kronecker's delata

 次のように定義した δij  を、クロネッカーのデルタと呼ぶ。 
δij
{
1 (ij)
0 (ij)
 
【文献】

 ・『岩波数学辞典』83行列A(p.220)
 ・永田『理系のための線形代数の基礎』1.4(p.25)
 ・斎藤『線形代数入門』2章§1(p.35)
 ・藤原『線形代数』1.2(p.11

 

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定義:単位行列  unit matrix, identity matrix

【一般的な定義】

 n次単位行列とは、
 すべての対角成分が1であり、なおかつ、すべての非対角成分が0である、 「n次正方行列」  のこと。 

【クロネッカーのδをもちいた定義】

 n次単位行列とは、すべての( i, j )成分δijである n次正方行列 のこと。

行列の成分を明示した定義】 




















1











 
1




 n次単位行列とは、 

1


 という 「n次正方行列」 のこと。
























1















 
【記号】 
 n次単位行列は、In, En 、あるいは略して、I , E と表す。
 したがって、上記定義を記号で表すと、I=(δi j) となる。 

【性質】 
 任意の(m,n)型行列Aにたいして、
  Im A= A
  A In= A
 が成り立つ。(∵行列の積の定義にもどって考えればわかる) 


【具体化】
 実単位行列

【文献】
 ・『岩波数学辞典』83行列(p.220)
 ・永田『理系のための線形代数の基礎』1.4(p.26)
 ・斎藤『線形代数入門』2章§1(p.35)
 ・藤原『線形代数』2.1(p.27)]


 

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(reference)

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目83行列(pp.219-)
線形代数のテキスト
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.4行列と一次写像(pp.23-6)。
佐武一郎『線形代数学(第44版)』裳華房、1987年、I.ベクトルと行列の演算§2-3行列の演算(pp.4-16)。
砂田利一『現代数学への入門:行列と行列式』2003年、§2.2一般の行列(pp.54-60)、§2.3行列の演算(pp.60-65)、§2.4行列の操作(pp.66-70).
藤原毅夫『理工系の基礎数学2:線形代数』岩波書店、1996年、2.1行列の定義と演算(pp.21-29)。
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第2章行列§1行列の定義と演算(pp.31-40)。

ホフマン・クンツェ『線形代数学I』培風館、1976年、一次方程式(pp.1-27)。
志賀浩二『数学30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年、17講線形写像と行列(pp.107-112)。


数理経済学のテキスト
西村和雄『経済数学早わかり』日本評論社、1982年、2章線形代数§2行列と行列式(pp.46-72)。
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、5章行列(pp.161-199):一次写像の行列表現を中心にしている。
William H. Greene(斯波・中妻・浅井訳) 『経済学体系シリーズ:グリーン計量経済分析I:改訂4版』エコノミスト社、2000年、第2章行列代数2.2行列の用語(pp.10-12);2.3行列の算法(pp.12-21)。
岩田暁一『経済分析のための統計的方法(第2版)』東洋経済新報社、1983年、12.1行列の演算(pp.269-277);12.4.2逆行列(pp.294-5)。