体上の行列の加法・スカラー乗法 : トピック一覧

・定義:行列の和/行列のスカラー倍/−A/行列の差  
・定理:行列の加法の性質/行列のスカラー乗法の性質 

【体上の行列関連ページ】
 ・体上の行列の定義/正方行列に関する様々な定義 
 ・行列積の定義   
 ・逆行列・正則行列・特異行列の定義 
 ・転置行列の性質/行列の代数系  
 ・行列の階数

【体として実数体を指定した具体例】
 ・実行列の和・スカラー倍の定義 
 

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定義:行列の和 


【舞台設定】
 K:(例:有理数をすべてあつめた集合Q実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C) 
 A, B :K上の行列 

【本題】

K上の行列「AB」は、
 AとBの型が一致する場合に限り、
 対応する成分の「Kに定義されている和」を成分とする行列として定義される。

・つまり、A, Bともにm×n行列であるならば、

 A B  













a11
a12
a1n




a21
a22 a2n

 :


am1
am2 amn



















b11
b12
b1n




b21
b22 b2n

 :


bm1
bm2 bmn







 
       
   
 












a11b11 a12b12
a1nb1n




a21b21
a22b22 a2nb2n

 :


am1bm1 am2bm2
amnbmn







 と定義される。

 なお、aij ,bijKのであり、最終式の行列内の"+"は、Kに定義されている加法を指す。 

・上記定義を略記すると、m×n行列A=( aij ) , B=( bij )にたいして、A B = ( aijbij )  

【体として実数体を指定した具体例】

 ・実行列の和

【文献】

 ・『岩波数学辞典』83行列B(pp.219-220)
 ・永田『理系のための線形代数の基礎』1.4(p.24)
 ・斎藤『線形代数入門』2章§1(p.32)
 ・藤原『線形代数』2.1(p.22)



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定義:行列のスカラー倍  

【舞台設定】
 K(例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C) 
 kKの  
 AK上の行列 
【本題】
kKによる、K上の行列Aスカラー倍・スカラー積 kAとは、
  Aの各成分の「Kに定義されている乗法」によるk倍を成分とする行列のこと。
・つまり、
kA












a11
a12
a1n




a21
a22 a2n

 :


am1
am2 amn







 = 












ka11
ka12
ka1n




ka21
ka22 ka2n

 :


kam1
kam2 kamn







 
       
   

 と定義される。
 なお、aijKであり、
    最終式の行列内のkaijは、「Kに定義されている乗法」によるkaijとの積を指す。
・上記定義を略記すると、kK, A=(aij)にたいして、kA=(kaij)  

【体として実数体を指定した具体例】

 ・実行列のスカラー倍

【文献】
 ・『岩波数学辞典』83行列B(pp.219-220)
 ・永田『理系のための線形代数の基礎』1.4(p.24)
 ・斎藤『線形代数入門』2章§1(p.32)
 ・藤原『線形代数』2.1(p.23)]



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定義:−A 


【舞台設定】
 K(例:有理数をすべてあつめた集合Q、実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C) 
 kKの  
 AK上の行列 

【本題】
・「A」とは、(−1)K行列Aとのスカラー積のこと。
・つまり、
 A(−1)A













a11
a12
a1n



= (−1)  a21
a22 a2n

 :


am1
am2 amn







  













 (−1)a11 
(−1)a12 
 (−1)a1n 



=   (−1)a21 
(−1)a22   (−1)a2n 

 :


 (−1)am1 
(−1)am2   (−1)amn 







    ∵スカラー積の定義  













a11
a12
a1n



=  a21
a22 a2n

 :


am1
am2 amn







     ∵体における積と符号の性質   
      
【体として実数体を指定した具体例】

 ・−(実行列)
        
【文献】
 ・藤原『線形代数』2.1(p.23)
 ・『高等学校代数幾何』(p.79)


 

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定義:行列の差 


【舞台設定】
 K(例:有理数をすべてあつめた集合Q実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C) 
 A, BK上の行列      

【本題】
行列A行列BAB)とは、A(B)のこと。   
つまり、AB型が一致する場合に限り、ABA(−1)Bと定義される。
A, Bともにm×n行列であるならば、
 AB 













a11
a12
a1n




a21
a22 a2n

 :


am1
am2 amn



















b11
b12
b1n




b21
b22 b2n

 :


bm1
bm2 bmn







 
       
   














a11
a12
a1n




a21
a22 a2n

 :


am1
am2 amn







(−1)












b11
b12
b1n




b21
b22 b2n

 :


bm1
bm2 bmn







 
       
   
 













a11
a12
a1n




a21
a22 a2n

 :


am1
am2 amn



















(-1)b11
(-1)b12
(-1)b1n




(-1)b21
(-1)b22 (-1)b2n

 :


(-1)bm1
(-1)bm2 (-1)bmn







 
   

 ∵行列のスカラー積の定義 

 
   














a11
a12
a1n




a21
a22 a2n

 :


am1
am2 amn



















-b11
-b12
-b1n




-b21
-b22 -b2n

 :


-bm1
-bm2 -bmn







 
   

 ∵体における積と符号の性質  

 
   
 













a11-b11

a12-b12

a1n-b1n






a21-b21

a22-b22

a2n-b2n


 :



am1-bm1

am2-bm2

amn-bmn








   

 ∵行列の和の定義   

 
   
 
【体として実数体を指定した具体例】

 ・実行列の差

【文献】
 ・藤原『線形代数』2.1(p.23)
 ・『高等学校代数幾何』(p.79)



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定理:行列の加法の性質 

【舞台設定】
 K:(例:有理数をすべてあつめた集合Q実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C) 
 A, B :K上の行列      

【本題】

1:可換則 
 同じ型の任意の行列A,B,Cについて、行列の加法は、
    A+BB+A
 を満たす。   
2:結合則  
 同じ型の任意の行列A,B,Cについて、行列の加法は、
     ( A+B )+C A+( B+C )
 を満たす。   
3:零行列との  
 任意の行列Aと、同じ型の零行列Oとの間で、
    A+O O+A A  
 が成り立つ。 
4:   
 任意の行列Aと、同じ型の零行列Oとの間で、 
   A(A)(A)AO    
 が成り立つ。

【体として実数体を指定した具体例】
  ・実行列の加法の性質 

【文献】
 ・『岩波数学辞典』83行列B(pp.219-220)
 ・斎藤『線形代数入門』2章§1(p.33)
 ・藤原『線形代数』2.1(p.23)
 ・『高等学校代数幾何』(p.79);]
 


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定理:行列のスカラー乗法の性質  

【舞台設定】
 K:(例:有理数をすべてあつめた集合Q実数をすべて集めた集合R、複素数をすべてあつめた集合C) 
 A, B :K上の行列      

【本題】

1:  
 任意の行列Aと、K上で定義された乗法の単位元"1" との、スカラー積1Aは、Aに等しい。 
   つまり、 1AA 

2:結合則 
 任意の行列Aと、任意a,bKについて、
  「K上で定義されたab」とAとのスカラー積(ab)Aは、
      aと「bとAとのスカラー積bA」とのスカラー積a(bA)に等しい。    
 つまり、任意の行列Aと、任意a,bKに対して、(ab)Aa(bA)

3:行列に関する分配則  
 同じ型の任意の行列A,Bと、任意aKについて、
   aと「AとBとの」とのスカラー積a(A+B)は、
      「aとAとのスカラー積aA」と「aとBとのスカラー積aB」との等しい。 
 つまり、同じ型の任意の行列A,Bと、任意aKについて、a(A+B)aA+aB   

4:スカラーに関する分配則  
 任意の行列Aと、任意a,bKについて、
  「K上で定義されたa+b」とAとのスカラー積(a+b)Aは、
     「aとAとのスカラー積aA」と「bとAとのスカラー積bA」との等しい。 
 つまり、任意の行列Aと、任意a,bKについて、(a+b)AaA+bA  

【文献】
 ・斎藤『線形代数入門』2章§1(p.33)
 ・藤原『線形代数』2.1(p.23)
 ・『高等学校代数幾何』(p.79)




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(reference)

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目83行列(pp.219-)
線形代数のテキスト
永田雅宜『理系のための線形代数の基礎』紀伊国屋書店、1986年、1.4行列と一次写像(pp.23-6)。
佐武一郎『線形代数学(第44版)』裳華房、1987年、I.ベクトルと行列の演算§2-3行列の演算(pp.4-16)。
砂田利一『現代数学への入門:行列と行列式』2003年、§2.2一般の行列(pp.54-60)、§2.3行列の演算(pp.60-65)、§2.4行列の操作(pp.66-70).
藤原毅夫『理工系の基礎数学2:線形代数』岩波書店、1996年、2.1行列の定義と演算(pp.21-29)。
斎藤正彦『線形代数入門』東京大学出版会、1966年、第2章行列§1行列の定義と演算(pp.31-40)。

ホフマン・クンツェ『線形代数学I』培風館、1976年、一次方程式(pp.1-27)。
志賀浩二『数学30講シリーズ:線形代数30講』朝倉書店、1988年、17講線形写像と行列(pp.107-112)。


数理経済学のテキスト
西村和雄『経済数学早わかり』日本評論社、1982年、2章線形代数§2行列と行列式(pp.46-72)。
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、5章行列(pp.161-199):一次写像の行列表現を中心にしている。
William H. Greene(斯波・中妻・浅井訳) 『経済学体系シリーズ:グリーン計量経済分析I:改訂4版』エコノミスト社、2000年、第2章行列代数2.2行列の用語(pp.10-12);2.3行列の算法(pp.12-21)。
岩田暁一『経済分析のための統計的方法(第2版)』東洋経済新報社、1983年、12.1行列の演算(pp.269-277);12.4.2逆行列(pp.294-5)。