矩形上の2重積分 double integral

前ページ:矩形上の2重積分の定義
     矩形上の可積分条件(その0)(その1)(その2)、 

次ページ:矩形中の2重積分の性質累次積分
     面積(定義性質面積ゼロ・negligible・零集合)、矩形上の可積分条件(その3)  

総目次

VI. パラメーターを含む積分の性質

【文献】

 ・小平『解析入門II』323-326
 ・高木『解析概論』8章93節(pp.334- 337.)
 ・和達『微分積分』140-4
 ・Lang, Undergraduate Analysis,471-482.
  ・吹田新保『理工系の微分積分学』246:矩形上で;196: 一般の積分区間で。
  ・杉浦『解析入門I』IV章§7(pp.248-254):わざわざ矩形上の重積分に限定して説明;
 

定理:極限と積分の順序交換 

[小平『解析入門II』補題6.1:298-9;]
(舞台設定)
 
K : Kは、R2上の閉区間(閉矩形) { (x ,y ) | axb, cyd }=[a,b]×[c,d]を表すとする。
 
t : tは閉区間[c,d]の一点。つまり、 t[c,d] (あるいは、 ctd )
 f (x ,y ) : ここでは、関数f (x ,y )として、Kの上で定義された有界関数のみを考える。
(本題)
(1)  f (x ,y ) K上でyを固定したときxについて連続であり、 
 各
xについて、極限
  
 が存在し、これが
xについて連続であるならば、 
   
(証明)
 小平『解析入門II』補題6.1:299:背理法による証明。Arzelaの定理を利用。 
 

() f (x ,y ) K連続関数ならば、 
 各
xについて、極限
     
 が存在して、 
  
(証明)
 
 f (x ,y ) K連続関数ならば2変数関数の連続性の性質より、 
    
f (x ,y ) K上でxを固定したときyについて連続yを固定したときxについて連続
   


→[トピック一覧:矩形上の二重積分]
総目次



定理:パラメータを含む積分の連続性 

[小平『解析入門II』定理6.19(p.299);吹田新保『理工系の微分積分学』付録1 (246-7);
   杉浦『解析入門I』IV章§14(pp.317-8)。 ]
(舞台設定)
 
K : Kは、R2上の閉区間(閉矩形) { (x ,y ) | axb, cyd }=[a,b]×[c,d]を表すとする。
 
t : tは閉区間[c,d]の一点。つまり、 t[c,d] (あるいは、 ctd )
 f (x ,y ) : ここでは、関数f (x ,y )として、Kの上で定義された有界関数のみを考える。
(本題)
 f (x ,y ) K連続関数ならば、 
   
 は、
[c,d]においてyの連続関数。 
(証明1[小平『解析入門II』定理6.19(p.299)] 
step1: f (x ,y ) K連続関数ならば2変数関数の連続性の性質より、 
    
f (x ,y ) K上でxを固定したときyについて連続
    つまり、∀
t[c,d](閉区間[c,d]上の任意の一点t )にたいして、
        …
(1)
step2:
 f (x ,y ) K連続関数ならば極限と積分の順序交換が成り立って、
        …
(2)
step3:
 (1)(2)より、 f (x ,y ) K連続関数ならば
         …
(3)
step4:
 (3)より、 f (x ,y ) K連続関数ならば
      
    これは、
F(y)t[c,d]連続であることの定義に他ならない。 
(証明2[吹田新保『理工系の微分積分学』付録1 (246-7):関数列の一様収束に帰着.] 
予告編:
 
Step1: 次の関数列を定義。
     
 
Step2-6: 関数列Fn(t)は、極限関数F(t)[c,d]一様収束することを示す。 
 
Step7: Step2-6の結果と、もとのf ( x ,y ) 連続性から、定理より、極限関数F(t)[c,d]連続となる。 
本編: 
Step0:設定
 仮定:
2変数関数f (x ,y ) K=[a,b]×[c,d]上の連続関数。…(0-1)
 仮定:2変数関数f (x ,y ) K=[a,b]×[c,d]上の有界関数。…(0-2)
 仮定: t : tは閉区間[c,d]の任意の一点。つまり、 ∀t[c,d] …(0-3)
 2変数関数f (x ,y )で、yt[c,d]に固定してx1変数関数としたものを、f (x ,t )とする。…(0-4) 
  
(z=f(x,y)の立体グラフを、y=tという面で切断したときの断面に現れる平面グラフがf (x ,t )となる。)
 仮定(0-1)から2変数関数の連続性の性質が成り立って、 
   
(0-4)でつくったx1変数関数f (x ,t ) [a,b]連続    …(0-5)
  とおく。…(0-6)
  (z=f(x,y)の立体グラフを、y=tという面で切断したときの、断面の面積がF(t)となる。)
Step1:  
閉区間 [a,b]を、n等分して、a=x0<x1<x2<<xn1<xn=b分点としたn個の閉区間
  
I1=[a, x1], I2=[x1, x2],,In=[xn1, b] へ分割する。
  
n等分なので、i=1,2,,nに対して、(xi xi1) =(b-a)/nである。 …(1-0) 
この
[a,b]n等分割をnであらわすことにする。…(1-1)
各小閉区間 Iiの右端点xiを代表点として、分割nに関する、f (x ,t )[(0-4)]のリーマン和をとる。  
  
f (x ,t ) [(0-4)]の、分割nに対する、リーマン和を、Fn(t)と定義する。  
        …
(1-2)
・上記の関数Fn(t)で、分割nの分点の数n1,2,3,…と、色々変えて、
  関数列{
Fn(t)}={ F1(t), F2(t), F2(t),, Fn(t), …}
          
 をつくる。 
Step2:  
区間加法性より、 
  …
(2-1) 
(0-5)より、[a,b]に含まれる任意の閉区間でf (x ,t )積分の第1平均値定理2が適用できて、
 
i=1,2,,nに対して、
    
  を満たすζ
i( xi1 , xi ) が存在する。  …(2-2) 
(2-1)(2-2)をあわせると、
  
  を満たすζ
i( xi1 , xi ) が存在する。  …(2-3) 
Step3: f (x ,y ) の一様連続性→任意のεに対し、あるδをとれる。 
・定理:
2変数関数が有界閉集合上連続ならば、そこで一様連続より、 
 仮定
(0-1)下で、f (x ,y ) K=[a,b]×[c,d]一様連続。 
 すなわち、
任意の正数εに対して、
   
d (P, A) δ(点P,AK ならば、 | f (P)f (A) |<ε 
 を成り立たせるある正数δが存在する。
(δは、各点AKに対して共通にとれる) …(3-1)
Step4: (step3で任意のεに対してとれた)δに対し、あるNをとれる。 
Step1で採った[a,b]の分割nの分点xi(2-3)で存在が保証されたζi( xi1 , xi )を用いて、
P=(ζi , t )、点A=( xi ,t )を考える。 
この
2点について、以下が成り立つ。
・点
P,AK  …(4-1)
d (P, A) = |ζixi |
     ≦ xi xi1  ∵(2-3) ζi( xi1 , xi )より、 
     
= (b-a)/n  (1-0)より。
 だから、
[a,b]の分割nをある限度以上細かくすれば、すなわち、ある限度以上nを大きくすれば、
 
d (P, A) (b-a)/n δ となる。
 すなわち、「
nNならば、d (P, A) δ 」を成り立たせる、Nが存在する。  …(4-2) 
(41)(42)(3-1)から、  
n > N ならば、 | f (P)f (A) |=| f (ζi , t )f ( xi ,t ) |<ε    …(4-3) 
Step5:   
| Fn (t)F (t) |
  ∵(1-2) (2-3)から。
 
よって、
| Fn (t)F (t) | 
  
  ∵絶対値の性質
   ∵絶対値の性質  
   ∵
xi1 < xi 
以上をまとめると、
   …
(5-1) 
Step6:   
(4-3)(5-1)より、 
n > N ならば、 
 
εとは、任意の正数であった。
[(3-1)に戻って確認せよ。] 
また、
tとは、閉区間[c,d]の任意の一点であった。[(0-3)に戻って確認せよ。]
よって、上記の命題は、
任意の正数ε
(b-a)に対して、 
 「∀
t[c,d]かつn > N ならば| Fn (t)F (t) |<ε(b-a) 」
を成り立たせる
Nが存在する、
ということになる。
つまり、
関数列Fn(t)極限関数F (t)[c,d]一様収束する。…(6-1)
Step7:   
関数列{
Fn(t)}={ F1(t), F2(t), F2(t),, Fn(t), …}
          
の各項はすべて、
[c,d]連続である。…(7-1)
 なぜなら、(0-1)より、f (xi ,t )は、K=[a,b]×[c,d]上の連続関数
     連続関数の定数倍・連続関数どおしの和も連続関数だから、
     
     は、n=1,2,…で、K=[a,b]×[c,d]上の連続関数となる。
     2変数関数の連続性の性質から、 
     Fn(t) (n=1,2,)[c,d]連続となる。
(6-1)と(7-1)から、定理により、
関数列Fn(t)極限関数F (t)も、[c,d]上の連続関数となる。
 

→[トピック一覧:矩形上の二重積分]
総目次

 

(reference)


I.わざわざ矩形上の重積分に限定して説明しているテキスト。
吹田・新保『理工系の微分積分学』学術図書出版社、1987年、付録1積分記号下の微分・積分(pp.246-7).
小平邦彦『解析入門II』 (軽装版)岩波書店、2003年、第6章§6.3.b) (pp.298-300;)。
杉浦光夫『解析入門I』東京大学出版会、1980年、IV章§14(pp.317-8)
黒田成俊『21世紀の数学1:微分積分』共立出版、2002年、第10章1節定理10.2の証明(p.349.の終わり3行のみ)。