矩形上の2重積分 double integral


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     パラメーターを含む積分の性質累次積分
     面積(定義性質面積ゼロ・negligible・零集合)
     矩形上の可積分条件(その3)  

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III. 閉矩形における有界2変数関数積分可能条件(1)


【文献】
 ・杉浦『解析入門I』214-218: n変数関数全般
 ・吹田新保『理工系の微分積分学』190
 ・高木『解析概論』p.325-6
 ・Lang, Undergraduate Analysis,471-482 
  ※小平『解析入門II』317-20;黒田『微分積分』348.は連続関数に限定して議論するゆえ、すべて可積分に。
       だから、可積分条件は論じられていない。

ダルブーDarbouxの定理


[杉浦『解析入門I』214-216: n変数関数全般についての詳細な証明;
         吹田新保『理工系の微分積分学』190:証明付;高木『解析概論p.325:証明ナシ。]
(舞台設定)
 K  :   Kは、R2上の閉区間(閉矩形) { (x ,y ) | axb, cyd }=[a,b]×[c,d]を表すとする。
 f (x,y) : ここでは、関数f(x,y)として、Kの上で定義された有界関数のみを考える。

(本題)
R2上の閉区間(閉矩形)Kの分割を限りなく細かくしていくと、
分割の取り方(つまり、閉矩形Kmn個の小矩形にわける際の分点・分割線のとりかた)
によらず、
Kにおけるfの過剰和S[]上積分S収束し、Kにおけるfの不足和s[]下積分s収束する
これを記号で表すと、
  |處→0のとき、S[]Ss[]s
あるいは、
  
   ※ε-δ法による極限定義を用いて正確に書くと、
     任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、
     「 0<|處<δ ならば 
        
任意の(分点・分割線の取りかたで作れる)分割に対して、
        |S[]S|<ε、 |s[]s|<ε  
       を成り立たせる、ある正の実数δが存在する」
     となる。上積分下積分の定義から、常にS≦S[], s[]sなので、絶対値をはずして書くと、
     任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、
     「 0<|處<δ ならば 
        任意の(分点・分割線の取りかたで作れる)分割に対して、
       0≦S[]S<ε、0≦ss[]<ε  
       を成り立たせる、ある正の実数δが存在する」
     となる。移項して、不等式を変形すると、
     任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、
     「 0<|處<δ ならば 
        任意の(分点の取りかたで作れる) 分割に対して、
       SS[]S+ε、s−ε<s[]s  
       を成り立たせる、ある正の実数δが存在する」
(証明)
 杉浦『解析入門I』214-216;を参照せよ。



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定理:閉矩形における有界2変数関数f(x,y)のリーマン可積分条件

         [杉浦『解析入門I』216-218: n変数関数全般についての詳細な証明;
          吹田新保『理工系の微分積分学』190;高木『解析概論』p.326:証明ナシ。]
    cf.1変数関数リーマン積分の可積分条件スチルチェス積分の可積分条件
(舞台設定)
 K  :   Kは、R2上の閉区間(閉矩形) { (x ,y ) | axb, cyd }=[a,b]×[c,d]を表すとする。
 
Kij : Kの分割によってできたmn個の小矩形
      Kij ={ (x ,y ) | xi1xxi , yj1yyj }=[ xi1, xi ]×[ yj1, yj ] (i=1,2,,m, j=1,2,,n )
        ただし、x0= a, xm=b, y0= c, yn =d
   で表すとする。
 f (x ,y ) : ここでは、関数f (x ,y )として、Kの上で定義された有界関数のみを考える。
 ωij  : 小矩形Kijにおけるf(x,y)の振幅・振動量を、ωijで表すとする。 

(本題)

f(x ,y )が閉矩形K上有界ならば
下記の命題
   (命題A1: K上リーマン可積)(命題A2) (命題A3:リーマンの可積分条件)
   (命題B1: Kで上積分=下積分) (命題B2)
は互いに同値となる。

また、これらの命題が満たされるならば
 
f(x ,y )のK上の積分= f(x ,y )のK上の上積分=f(x,y)のK上の下積分 
→証明: A1⇒A2A2⇒A1命題A2⇔命題A3
    命題A2⇔命題B1、  

(命題A1) 有界関数f(x,y)閉矩形K=[a,b]×[c,d]リーマン積分可能
(命題A2)   [杉浦『解析入門I』216-218。]
  
[表現1] 閉矩形K=[a,b]×[c,d]分割を限りなく細かくしていくと、
       分割の取り方(つまり、閉矩形Kmn個の小矩形にわける際の分点・分割線のとりかた)
       によらず、
       閉矩形K=[a,b]×[c,d]における有界関数f(x,y)の (過剰和不足和)はゼロに収束する。
  [表現2] 記号を用いた簡潔な表現
      ・|處→0のとき、S[]s[]→0
      ないしは
      ・  
         (記号|處→0は、分割の幅が→0なら、そのようなすべての分割の取り方に対して、
                 という意味。ダルブーの定理の項を参照のこと。)
  [表現3] ε-δ法による極限定義に依拠した厳密な表現(→証明で利用可能)
   ・任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、
     「 
0||<δ ならば
        
任意の(分点・分割線の取りかたで作れる) 分割に対して、| S[]s[] |<ε 」 
       を成り立たせる、ある正の実数δが存在する。
   つねに、 
s[]S[] だから()、絶対値をはずせるので、
   ・
任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、
     「 
0||<δ ならば
        
任意の(分点・分割線の取りかたで作れる) 分割に対して、0S[]s[]<ε 」 
       を成り立たせる、ある正の実数δが存在する。
   としてもよい。
  すなわち、
( ε>0 ) ( δ>0 ) ( || ) ( 0<||<δ ( 0S[]s[]<ε) ) 
(命題A3:リーマンの可積分条件)
       [杉浦『解析入門I』216-218;吹田新保『理工系の微分積分学』190;高木『解析概論』p.326.]
      各小矩形Kijについて「f(x,y)振幅ωij 」と「小矩形Kijの面積」との積をとり、
     この積:ωij・(Kijの面積)をmn個あるすべての小矩形について足し合せて、
       
     という値をとる。
  
[表現1] 分割を限りなく細かくしていくと、
      
分割の取り方(つまり、閉矩形Kmn個の小矩形にわける際の分点・分割線のとりかた)
      によらず、
      上記の値Ωは0に収束する。
  
[表現2] 記号を用いた簡潔な表現
     
      すなわち、
     
  
[表現3] ε-δ法による極限定義に依拠した厳密な表現(→証明で利用可能)
   ・任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、
     「 
0||<δ ならば
       
任意の(分点の取りかたで作れる) 分割に対して、
       
| Ω |<ε    」
     を成り立たせる、ある正の実数δが存在する。
    常に、ω
ij> 0, (Kijの面積)0 なので、常にΩ>0となるから、絶対値をはずせて、 
   ・
任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、
     「 
0||<δ ならば
        
任意の(分点の取りかたで作れる)分割に対して、
        
 Ω<ε    」
       を成り立たせる、ある正の実数δが存在する。
(命題B1:ダルブーの可積分条件) 閉矩形K=[a,b]×[c,d]におけるf(x,y)上積分S= f(x,y)下積分s 
       [杉浦『解析入門I』216-218;吹田新保『理工系の微分積分学』190;高木『解析概論』p.326.]
(命題B2)   [杉浦『解析入門I』216-218。]

  [表現1] 閉矩形K=[a,b]×[c,d]分割のとり方

        (つまり、閉矩形Kmn個の小矩形にわける際の分点・分割線のとりかた)
       によって、
      閉矩形K=[a,b]×[c,d]における関数f(x,y)の (過剰和S[]不足和s[])は変わってくるが、
      適当な分割をとることで、(過剰和S[]不足和s[])を限りなく小さくすることができる。 
  [表現2] 任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、0≦S[]s[]<ε 
      を成り立たせる、ある分割が存在する。
      すなわち、( ε>0 ) ( ) ( 0S[]s[]<ε ) 
  ※命題B2は命題A2と一見似ているが、違う。命題B2は、命題A2よりゆるい。
   命題A2は、
      分割の細かさ(|處)を細かくしていきさえすれば、
      分割を行うときの分点・分割線をどういう風にとっても必ずS[]s[]がゼロに近づく、
   という厳しい条件を述べていたのに対して、
   この命題B2は、
      S[]s[]がゼロに近づくような、
      
分割を行うときの分点・分割線のとりかたが、少なくとも一つはある
      しかし、それ以外の分割のとりかただと、
       たとえ分割の細かさ(|處)を細かくしていったとしても、
      そうならないかもしれない、
   という緩い条件しか述べていない。 


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証明:

 ・(命題A1:リーマン可積) (命題A2)の証明 
                   杉浦『解析入門I』217. を参照せよ。

・(命題A2) (命題A1: リーマン可積)の証明 [杉浦『解析入門I』356.; .]
 命題A2任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、
      「 0<|處<δ ならば
        任意の(分点の取りかたで作れる)分割に対して、 S[]s[]<ε 」
     を成り立たせる、ある正の実数δが存在する 
  不足和・過剰和・リーマン和・上積分の間の関係式:
        任意の(どんな)「小矩形 Kijの代表点{Pij}のとりかた」に対して(でも)、
                      |SR[ f ; ; {Pij } ]|S[]s[]
  を命題A2の赤字部分の不等式に書き加えると、
 
命題A2a任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、 
     「 0<|處<δ ならば
       任意の「(分点の取りかたで作れる)分割」・「小矩形 Kijの代表点{ Pij }のとりかた」に対して、
             |SR[ f ; ; {Pij } ]|S[]s[]<ε 」
     を成り立たせる、ある正の実数δが存在する 
   命題A2aの赤字部分を省略してみると、
 
命題A2b任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、 
     「 0<|處<δ ならば
       任意の「(分点の取りかたで作れる)分割」・「小矩形 Kijの代表点{ Pij }のとりかた」に対して、
                    |SR[ f ; ; {Pij } ]|<ε 」
     を成り立たせる、ある正の実数δが存在する 
 命題A2bは、
 「関数f (x,y)は閉矩形K上でリーマン積分可能」であることの定義にほかならない。
  (命題A2bのSをJとしてみよ。)

・(命題A2) (命題A3) [杉浦『解析入門I』217;356. ]
 振幅ωk 過剰和S[兢 、不足和s[兢)の定義から、 
   
 が成立する故に。(
・(命題A2) (命題B1: 上積分S=下積分s) [杉浦『解析入門I』217; ]
  ダルブーの定理が成立して、|處→0のとき、S[]上積分Ss[]下積分s。…(1)
   ・(命題A2)⇒ (命題B1: 上積分S=下積分s)の証明 
    命題A2:「|處→0のとき、S[]s[]→0」は、ある定数Aを用いて、
    命題A2':「|處→0のとき、S[]A、s[]A」と書きかえられる
     (1)を用いて、A=S=s 。
         これはつまり、命題B1: 上積分S=下積分s にほかならない。
   ・(命題B1: 上積分=下積分)⇒(命題A2)の証明 
    上積分S=下積分sが成り立つとして、上積分S=下積分s=Aとおく。
    すると、(1)は、|處→0のとき、S[]A、s[]A。
    よって、命題A2|處→0のとき、S[]s[]→0 」が成立する。

命題B1命題B2 [ルディン『現代解析学』6-6.]
 ・命題B1「 fの上積分S= fの下積分s」を仮定し、この上積分S=下積分sをAとおく。
 ・任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、
        
S[2]A<ε/2 、 As[1] <ε/2 …(1)
  を成り立たせる、ある分割12が存在するので、この分割を採る。
  このとき、 S[2]A+ε/2 、 A s[1]+ε/2 だから
              
(A s[1]+ε/2」の両辺にε/2を加えて)
   S[2]A+ε/2 s[1]+ε …(2) 
 ・
分割1細分であり、なおかつ、分割2細分でもあるような、分割凾とる。…(3)
  すなわち、12。 
  (つまり、
1の分点・分割線も2の分点・分割線も、分点・分割線として継承し、
     さらにそれ以外にも分点・分割線を加えたのが、凵j
  
細分と過剰和・不足和の関係式より、S[]S[2]s[1] s []。…(4) 
 ・
(2)(4)をあわせると、S[]S[2] A+ε/2 s[1]+ε≦s [] +ε
  両端だけに着目すると、S[] <s [] +ε 
  つまり、S[]−s []<ε 
  以上から、命題B1の仮定下で、(1)と(2)を満たすような採り方をした分割凾ネらば、
  任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、0≦S[]−s []<εを成り立たせる、
  (しかし、任意分割が、これを成り立たせる保証はない)
  すなわち、命題B2が成立する、ことが示された。
 
命題B2命題B1 [杉浦『解析入門I』218;ルディン『現代解析学』6-6:;]

 命題B2任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、
            S[]s[]<ε を成り立たせる、ある分割が存在する 
 過剰和S[兢・不足和s[兢・下積分s・上積分Sには大小関係: 0≦SS[]s[] が
 が常に成り立っているので、
 これを利用して、命題B2に下積分s上積分Sとの関係も書き加えると、 
 
命題B2a任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、 
       0≦SS[]s[]<ε を成り立たせる、ある分割が存在する 
 上積分S下積分sに注目するために、命題B2aの赤字部分を省略すると、  
 
命題B2b任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、 
       0≦S<ε を成り立たせる、ある分割が存在する 
 上積分S下積分sはそれに固有の分割'のもとで決まっているので、
 上積分S下積分sの関係を分割の条件は拘束しない。
 よって、
 
命題B2b'任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、 0≦S<ε 
 定理任意の(どんな)正数ε>0に対し(てでも)、ε>a≧0ならばa=0」を用いると、 
 命題B2c S=0 すなわち、 S= 
 よって、命題B2命題B1が示された。


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(reference)

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、202項積分法(pp.520-525)→リーマン積分、
高木貞治『解析概論:改訂第3版』岩波書店、1983年、第8章90-92節pp.325-332. .
吹田・新保『理工系の微分積分学』学術図書出版社、1987年、第7章1節(pp.189-196).
小平邦彦『解析入門II』 (軽装版)岩波書店、2003年、第7章(pp.317-330.)。連続関数に限定
黒田成俊『21世紀の数学1:微分積分』共立出版、2002年、第10章1節(pp.346-352.)。連続関数に限定。
高橋一『経済学とファイナンスのための数学』新世社、1999年、第3章3.8節I(pp. 106-108):矩形上ではなく、いきなり一般の積分範囲上。
杉浦光夫『解析入門I』東京大学出版会、1980年、pp.205-229:矩形上;pp.254-279:一般の積分範囲。(2重積分についてというよりもむしろ、主にn変数関数全般についてリーマン積分を論じている。)
Walter Rudin,Principles of Mathematical Analysis,Mcgraw-Hill,1953-1976.
=ウォ−ルタ−・ルディン『現代解析学』共立出版、1971年、第9章9.28-: n変数関数。
高橋陽一郎『岩波講座現代数学への入門:微分と積分2』 岩波書店、1995年、5章2節(pp.138-146.):。このテキストは、リーマン積分とルベーク積分の間という特殊な立場を進んで行っている気がする。ついていってよいのかどうか。
和達三樹『理工系の数学入門コース1:微分積分』岩波書店、1988年、pp.138-9. アイデアだけ。厳密な議論なし。
小形正男『理工系数学のキーポイント7:多変数の微分積分』岩波書店、1996、87-89. アイデアだけ。厳密な議論なし。
Lang,Serge.Undergraduate Analysis(Undergraduate Texts in Mathematics),Springer-Verlag New York Berlin Heidelberg Tokyo,1983,Chapter 19. Multiple Integrals. (pp.468-482.)。