矩形上の2重積分 double integral

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     矩形上の重積分の性質 
     パラメーターを含む積分の性質累次積分、  
     面積(定義性質面積ゼロ・negligible・零集合)
     矩形上の可積分条件(その3)  

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I.矩形上の2重積分の定義

定義:分割 (矩形網) a partition of the rectangle 


【文献】
 ・高木『解析概論』p.325
 ・小平『解析入門II』317
 ・吹田,新保『理工系の微分積分学』189
 ・黒田『微分積分』346-7
 ・片山『微分積分学』202;
 ・LangUndergraduate Analysis468;
 ・杉浦『解析入門I』207:n次元区間一般の分割.

 R2上の閉区間・閉矩形(長方形)K={ (x ,y ) | axb, cyd }=[a,b]×[c,d] }があるとする。
  (→下図黄色部分)
閉区間 [a,b]を、a=x0<x1<x2<…<xm−1<xm=b分点としたm個の閉区間分割
  ― つまり、[a,b]を、I1=[a,x1], I2=[x1,x2],…,Im=[xm−1,b] (a=x0<x1<x2<…<xm−1<xm=b)に分割し―、
閉区間 [c,d]を、c=y0<y1<y2<…<yn−1<yn=d分点としたn個の閉区間分割することで、
  ― つまり、[c,d]を、J1=[a, y1], J2=[y1,y2],…,Jn=[yn−1,b] (c=y0<y1<y2<…<yn−1<yn=d)に分割することで―
  mn個の小矩形subrectangle Kij = Ii × Jj ={ (x,y) | xi−1xxi , yj−1yyj } (i=1,2,…,m、 j=1,2,…,n ) に、
矩形Kは分割される。
これを矩形の分割a partition of the rectangleないし矩形網[高木『解析概論』]と呼び、記号で表す。 
また、Kを小矩形Kij(i=1,2,…,m、 j=1,2,…,n )にわける線分を、
     凾フ分割線[黒田『微分積分』347.]、凾フ割線[吹田新保『理工系の…』190ページ23行以降]
   などとよぶ。
 
分割のメッシュの細かさを示す指標として、以下の二つがとりあげられる。
これらは、記号|處δなどで表される。
  (杉浦『解析入門I』207:は1次元同様に、分割凾フ幅(mesh)と呼んでいる。)
 1.すべての小矩形の最長辺  [高木『解析概論』p.325;吹田,新保『理工系の微分積分学』189;.]
  すなわち、xixi−1 (i=1,2,…,m)とyjyj−1 (j=1,2,…,n) すべてのなかの最大値、
 2. 小矩形の直径の最大値
    [小平『解析入門II』317;黒田『微分積分』347;杉浦『解析入門I』207:n次元区間一般]
  すなわち、mn個ある小矩形Kij (i=1,2,…,m、 j=1,2,…,n ) の対角線
       
      のなかの、最大値。



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定義:リーマン和 Riemann sum


[高木『解析概論』p.325-6;小平『解析入門II』317-8;吹田,新保『理工系の微分積分学』189;黒田『微分積分』348.
                  杉浦『解析入門I』207:n次元区間一般]

   cf.1変数関数のリーマン和スチルチェス和、 

(舞台設定)
 K:  Kは、R2上の閉区間 { (x ,y ) | axb, cyd }=[a,b]×[c,d]を表すとする。
 
Kij: K分割によってできたmn個の小矩形
        
Kij ={ (x ,y ) | xi1xxi , yj1yyj }=[ xi1, xi ]×[ yj1, yj ] (i=1,2,,m, j=1,2,,n )
        ただし、x0= a, xm=b, y0= c, yn =dとする。
   で表すとする。

 f(x ,y ): ここでは、関数f(x ,y )として、Kの上で定義された有界関数のみを考える。
(本題)
 まず、
Kij (i=1,2,,m, j=1,2,,n )の各々から、
 代表点Pij =(ζijij )Kij ={ (x,y) | xi-1xxi , yj1yyj }を一つ、勝手に選ぶ。(下図参照)
  
以下のように、積:f (Pij )・(Kijの面積)=f ijij )( xixi−1)(yj yj−1)
を、mn個全てのKij (i=1,2,…,m, j=1,2,…,n )について足し合せる。
  
これを、
関数fの 、(分割・代表点{ Pij }とした際の)リーマン和 Riemann sum 
という。

 ※分割、代表点{ Pij }のとりかたは、いろいろであるから、
  関数fのリーマン和は、
  分割、代表点{ Pij }のとりかたに応じて、値を変えうる。
  つまり、関数fのリーマン和は、分割、代表点{ Pij }のある種の関数となっている。
  分割を細かくしていったときに、この関数が収束するかどうかという問題が、
  下記の積分可能の有無の問題に他ならない。



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定義:(閉矩形)上で積分可能、2重積分 double integral

[吹田・新保『理工系の微分積分学』189; 高木『解析概論』p.325-6。
  ※小平『解析入門II』317-20;黒田『微分積分』348.は連続関数に限定して議論するゆえ、すべて可積分に。]

(舞台設定)
 K:   Kは、R2上の閉区間 { (x ,y ) | axb, cyd }=[a,b]×[c,d]を表すとする。
 
f(x ,y ): ここでは、関数f(x ,y )として、Kの上で定義された有界関数のみを考える。

(本題)
Kの分割を限りなく細かくしていくと、
分割の取り方、それによってできた小矩形 Kijの代表点Pij (i=1,2,,m, j=1,2,,n )の取り方によらず、
f(x ,y )リーマン和R[ f ; ; {Pij } ] が一定値J 収束するとき、
   ( すなわち、
||0で、R[ f ; ; {Pij } ] Jとなるとき、)
 ※正確に書けば、
   任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、
    「 0<|處<δ ならば
      分割の取り方、
      それによってできた小矩形 Kijの代表点Pij (i=1,2,,m, j=1,2,,n )の取り方によらず、
      
|R[ f ; ; {Pij } ]J|<ε 」
   を成り立たせる、ある正の実数δが存在するとき、
 ※これを、記号で表すとR[ f ; ; {Pij } ] J(|處→0
                  ないし、
                 
  fK上でリーマン積分可能リーマン可積分である、という。
  また、このとき、値Jを
 1.
  
  と書いて、「 fK上の(あるいはKにおける)積分」と呼ぶ。
あるいは、
 2.
  
  と書いて、「 fK上の(あるいはKにおける) 重積分(あるいは2重積分)」と呼ぶ。
また、Kを積分範囲[黒田『微分積分』348.]と呼ぶ。

 ※もちろん、
  (i) |處→0で、R[ f ; ; {Pij } ] Jとなって積分可能となる場合もあれば、
  (ii) |處→0で、R[ f ; ; {Pij } ] Jとならず、積分可能とならない場合もある。
  いかなる条件下で、(ii)ではなく、(i)となるのかについては、
  リーマン可積分条件を見よ。



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( reference )

日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、202項積分法(pp.520-525)→リーマン積分、
高木貞治『解析概論:改訂第3版』岩波書店、1983年、第8章90-92節pp.325-332. .
吹田・新保『理工系の微分積分学』学術図書出版社、1987年、第7章1節(pp.189-196).
小平邦彦『解析入門II』 (軽装版)岩波書店、2003年、第7章(pp.317-330.)。連続関数に限定
黒田成俊『21世紀の数学1:微分積分』共立出版、2002年、第10章1節(pp.346-352.)。連続関数に限定。
高橋一『経済学とファイナンスのための数学』新世社、1999年、第3章3.8節I(pp. 106-108):矩形上ではなく、いきなり一般の積分範囲上。

杉浦光夫『解析入門I』東京大学出版会、1980年、pp.205-229:矩形上;pp.254-279:一般の積分範囲。(2重積分についてというよりもむしろ、主にn変数関数全般についてリーマン積分を論じている。)

Walter Rudin,Principles of Mathematical Analysis,Mcgraw-Hill,1953-1976.
=ウォ−ルタ−・ルディン『現代解析学』共立出版、1971年、第6章。

高橋陽一郎『岩波講座現代数学への入門:微分と積分2』 岩波書店、1995年、5章2節(pp.138-146.):。このテキストは、リーマン積分とルベーク積分の間という特殊な立場を進んで行っている気がする。ついていってよいのかどうか。
片山孝次『微分積分学』(現代数学レクチャーズB-8)、培風館、1980年、p.202.極めて簡潔な要約。 
和達三樹『理工系の数学入門コース1:微分積分』岩波書店、1988年、pp.138-9. アイデアだけ。厳密な議論なし。
小形正男『理工系数学のキーポイント7:多変数の微分積分』岩波書店、1996、87-89. アイデアだけ。厳密な議論なし。

Lang,Serge.Undergraduate Analysis(Undergraduate Texts in Mathematics),Springer-Verlag New York Berlin Heidelberg Tokyo,1983,Chapter 19. Multiple Integrals. (pp.468-482.)。