Autumnal leaves
紅葉の出てくる物語や和歌などをご紹介しています。
主にカエデ科の落葉高木
モミジは秋に葉が紅葉する木々の総称だったが、特に紅葉の美しいカエデを指すことが多い。日本の山野には約20種が自生。
<古典>
『伊勢物語』 第二十段
むかし、おとこ、大和にある女を見て、よばひてあひにけり。さて、ほど経て、宮仕へする人なりければ、帰りくる道に、三月ばかりに、かえでのもみぢのいとおもしろきを折りて、女のもとに道よりいひやる。
君がため たおれる枝は 春ながら
かくこそ秋の もみぢしにけれ
とてやりたりければ、返事(かへりごと)は京に来着きてなむ持てきたりける。
いつの間に うつろふ色の つきぬらん
君が里には 春なかるらし
『更科日記』
…宮路の山といふ所こゆるほど、十月つごもりなるに、紅葉ちらでさかりなり。
嵐こそ 吹きこざりけれ 宮路山
まだもみぢばの ちらでのこれる
<短歌(和歌)>
吾が屋戸に 黄変(もみ)づかへるで 見るごとに
妹を懸けつつ 恋ひぬ日は無し (大伴田村大嬢/万葉集)
秋山の 黄葉(もみぢ)を茂み 迷(まと)ひぬる
妹(いも)を求めむ 山道(やまぢ)知らずも (柿本人麻呂/万葉集)
奥山に もみぢ踏み分け 鳴く鹿の
声聞く時ぞ 秋は悲しき (よみ人しらず/古今和歌集)
秋の月 光さやけみ もみぢ葉の
おつる影さへ 見えわたるかな (紀貫之/後撰集)
<漢詩>
杜牧 「山行」
遠上寒山石経斜
白雲生処有人家
停車坐愛楓林晩
霜葉紅於二月花
「山行」
遠く寒山に上れば石経斜なり
白雲生ずる処人家有り
車を停めて坐(そぞろ)に愛す楓林の晩(くれ)
霜葉は二月の花よりも紅なり
<小説>
宮本輝 『錦繍』 新潮文庫
ある事件のためにお互いに思いを残しながら離婚した二人が、偶然に紅葉で染まる蔵王で再会した。そして、女が男へと送った長い手紙に、男も返事を書いていく……。
往復書簡で構成された物語。
全山が紅葉しているのではなく、常緑樹や茶色の葉や、銀杏に似た金色の葉に混じって、真紅の繁みが断続的にゴンドラの両脇に流れ去っていくのでした。それゆえに、朱い葉はいっそう燃えたっているように思えました。 (p.14)
森絵都 『永遠の出口』 集英社
<永遠>という響きにめっぽう弱かった子供時代。世界は取り返しのつかないものやこぼれおちたものばかりであふれていることを紀子はまだ知らなかった。
小学校四年生のときの好恵の誕生会、小学校高学年のときの担任との戦い、中学校入学前の旅行、流れるままに流されて終わった中学二年生のとき……紀子の成長を描いた物語。
緑の森から紅の海へ投げ込まれたようだった。
右から、左から、頭上から、石段を襲うように垂れこめるもみじの並木。木皮の茶も、空の青も、天から注ぐ白光さえも遮蔽するもみじの紅。赤。朱。微かに風がそよぐたび、その紅はゆらゆらと私たちの上に降り注ぐ。 (p.192)