Cluster-amaryllis
彼岸花の出てくる物語や詩、漫画などをご紹介しています。
ヒガンバナ科の夏植え球根
〔別名〕リコリス・曼珠沙華・死人花・数珠花・狐剃刀など
〔花期〕7月〜9月 〔花言葉〕悲しい思い出
日本から中国が主産地。秋頃にしべの長い鮮紅色の花を咲かせる。葉のないときに花が咲くのが特徴。全草に有毒成分を含むが、救荒植物の一つ。一千以上の俗称があると言われる。
<短歌(和歌)>
路の辺の 壱師の花の 灼然(いちじろ)く 人皆知りぬ 我が恋妻は (よみ人しらず/万葉集)
※「壱師の花」は彼岸花のこと。
曼珠沙華 一むら燃えて 秋陽つよし そこ過ぎてゐる しづかなる径 (木下利玄)
<俳句>
まんじゆさげ 蘭に類ひて 狐啼く (蕪村)
曼珠沙華 あれば必ず 鞭うたれ (高浜虚子)
歩きつづける彼岸花咲きつづける (種田山頭火)
つきぬけて 天上の紺 曼珠沙華 (山口誓子)
<詩>
北原白秋 「曼珠沙華」
GONSHAN. GONSHAN.何処へゆく、
赤い、御墓の曼珠沙華(ひがんばな)
曼珠沙華、
けふも手折りに来たわいな。
GONSHAN. GONSHAN.何本か、
地には七本、血のように、
血のように、
ちやうど、あの児の年の数。
GONSHAN. GONSHAN.気をつけな。
ひとつ摘んでも、日は真昼、
日は真昼、
ひとつあとからまたひらく。
GONSHAN. GONSHAN.何故(なし)泣くろ。
何時まで取つても曼珠沙華、
曼珠沙華、
恐や、赤しや、まだ七つ。
<小説>
菅浩江 『末枯れの花守り』より「第ニ話 曼珠沙華」 角川文庫
鬼と呼ばれることもある花守り・青葉時実は、ある秋の日、とある山村に来ていた。ちょうど実りを迎える稲は黄金に輝き、農道には赤い曼珠沙華の花が細長く群れ咲いている。
夜になって時実たちが出会ったのは、みねこという少女を待つ、狐の子供だった。しかし、曼珠沙華が咲いたら遊びに来るというみねこは、とうの昔に死んでいる。
狐が持ち続けるみねこへの気持ち。それを狙う姫君たちも現れて……。
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曼珠沙華、幽霊花、地獄花、手腐り花、死魂狩り、疫病花、狐のたいまつ、火炎草。…… (p.57)
私たちのもつこの花へのイメージをどれもよく表した言葉だと思います。
新美南吉 『ごん狐』 偕成社
中山というところから少しはなれたところに、「ごん狐」という狐が住んでいた。ごんはいたずら好きで、近くの村に忍び込んでは、芋をほり散らかしたり、とんがらしをむしりとったり、いろいろな悪さをしていた。
ある秋のこと、ごんが村の小川まで来てみると、兵十が魚をとっていた。いつものように兵十のいないすきに魚を逃がしてしまうごんだが、兵十の母親がそのあと亡くなったことを知り、自分のやったことを後悔する。
その後、ごんは兵十の家に、くりやまつたけを届けに行くようになるのだが……。
墓地には、ひがん花が、赤い布のようにさきつづけていました。 (偕成社、p.14)
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この話の彼岸花も「死」と結びついています。
<漫画>
今市子 「雨降って地に流るる」(『百鬼夜行抄10』収録) 朝日ソノラマ
主人公・律の母親のところに、かつて縁のあった櫛が舞い込み、そこから不可思議な現象が続き始めた。本来あるはずのない獅子の置物が家の中にあり、律の従姉の司には、不幸な結婚をした女性たちが次々に憑いて、律に話を聞いてもらいたがる。
そもそもの原因である元々の櫛の持ち主と、櫛を作った職人の霊をどうするのか悩む律のところへ、今の持ち主の女性が櫛を返してほしいと現れて……。
花一輪に一人の霊 (p.16)
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「死人花」とも呼ばれる彼岸花のイメージをうまく使った短編です。
くらもちふさこ 『α 上』 集英社
伯父の葬儀のために、半年ぶりに訪れることになった本家で、名花子は「いとこ」のきいちゃんと再会する。きいちゃんの姉みっちゃんがもともと苦手だった上に、自分を助けてみっちゃんが川で死んだこともあり、名花子はきいちゃんとの距離をうまく取ることができない。
足だけの姿になっても自分やきいちゃんの周りにいるみっちゃんを怖がる名花子だが……。
見慣れた川辺の『死人花』
その鮮やかな
赤のレースを追いながら
ある人を思う (p.187)
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この話の彼岸花も「死」を強くイメージさせます。
市東亮子 『BUD BOY 3』より「第七話 華獄火」 秋田書店
地上で暮らす高位の花仙の一人である薫は、急な雨に降られてある屋敷に迷い込んだ。
そこで出会った女性にアクセサリーを買ってもらった薫は、別の顧客に山城の奥様と呼ばれているその女性にはあまり関わらないほうがいいと忠告される。
その女性の周囲では不幸が続いているというのだ。
もう一度その女性のところを訪れる途中に、薫は彼岸花を棒でなぎ倒している少年を見かける。少年を止めた薫だが、その日から命が狙われているような事件が続き……。
この世に咲きながら
あの世に焦がれている
花か… (p.113)
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彼岸花の花の精は、他の花の精とはかなり違っているようです。