体における加法・乗法をからめた性質
[トピック一覧:体における加法・乗法をからめた性質]
・分配則、乗法の単位元の逆元との積、0との積、積の乗法の逆元、積と符号(1)、積と符号(2)
※体の性質関連ページ:加法、乗法、
※体についての関連ページ:体の定義、順序体の定義、実数体の定義
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体における加法・乗法の分配則
[本部『新しい代数』4.1節B(p.83);『岩波数学辞典』項目229体A(p.643);
斉藤『数学の基礎:集合・数・位相』2章§1定義2.1.8 (p.37);斎藤『線形代数入門』附録V§2(p.249);
ホフマン『線形代数学I』 1章§1.1体(p.1);永田『理系のための線形代数の基礎』1.9(p.45);
神谷・浦井『経済学のための数学入門』2.1.1節(p. 57)]
(設定)
K: 体
+ : 体の定義により、体Kに定義された加法。
xy : 体の定義により、体Kに定義された乗法。
(本題)
どんなふうに、x,y,z∈Kを選んでも、 ( x+y )z = xz+yz , z(x+y )= zx+zy が成り立つ。
つまり、 ( ∀x,y,z∈K ) ( ( x+y )z = xz+yz , z(x+y )= zx+zy )
※なぜ? 体の定義―条件Dより、
( ∀x,y,z∈X ) ( ( x+y )z = xz+yz , z(x+y )= zx+zy )を満たす代数系Xを、体Kと呼ぶのだから、
( ∀x,y,z∈K ) ( ( x+y )z = xz+yz , z(x+y )= zx+zy )は必ず成り立つ。
成り立たなければ、それらは体Kではない。
→
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定理:
0との積
[永田『代数学入門』定理1.4.2(p.12);松坂『解析入門1』1.3命題3(a)(p.29)
杉浦『解析入門I』1章§1-[2]問1vi(p.2);神谷浦井『経済学のための数学入門』2.1.1(1)(p.63)]
(設定)
K: 体
xy : 体の定義により、体Kに定義された乗法。
(本題)
どんなx∈Kでも、0との積は0。
つまり、 ( ∀x∈K ) ( 0x=x0=0 )
※常識的には、 0x=x0=0は自明だが、
アカデミックな数学は、0を加法の単位元として定義するだけ。
だから、加法の単位元0が乗法でどのように振る舞うかは自明ではない。
「0x=x0=0」は、加法の単位元と実数との乗法の結果は、常に加法の単位元であると主張しているわけで、
それはそれで、驚くべきこと。
※なぜ? [永田『代数学入門』定理1.4.2(p.12);杉浦『解析入門I』1章§1-[2]問1vi(p.2);
神谷浦井『経済学のための数学入門』2.1.1(1)(p.63)]
0+0=0 ∵体のいかなる要素も0との和は0
だから、 (0+0)x=0x …(1)
分配則より、(0+0)x=0x+0x だから、これで、(1)の左辺を書きかえると、
0x+0x=0x
両辺に、‐0xを加えて、
0x+0x+(−0x)=0x+(−0x)
体の元とその加法の逆元との和が0であることから、
0x=0
※これは、体のみならず、環一般について成り立つ。[永田『代数学入門』定理1.4.2(p.12)]
→
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定理:
乗法の単位元の逆元との積 [赤『実数論講義』定理2.3.2(p.44)]
(設定)
K: 体
xy : 体の定義により、体Kに定義された乗法。
(本題)
どんなx∈Kでも、「『乗法の単位元』の加法に関する逆元」−1との積は、xの加法に関する逆元−xに等しい。
つまり、 ( ∀x∈K ) ( (−1)x=−x )
(証明)
・赤『実数論講義』定理2.3.2(p.44)
・積と符号の関係の特殊例として。
→
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定理:
積の、乗法に関する逆元
[永田『代数学入門』定理1.3.3(p.9);杉浦『解析入門I』1章§1-[2]問1xi(p.2);]
(設定)
K: 体
xy : 体の定義により、体Kに定義された乗法。
x-1: 体の定義により、存在が保証されているxの乗法に関する逆元
(本題)
どんなふうに、x,y∈K−{0} を選んでも、(xy)-1=y-1x-1。
つまり、 ( ∀x,y∈K−{0} ) ( (xy)-1=y-1x-1 )
※なぜ? [永田『代数学入門』定理1.3.3(p.9);]
x,yを、K−{0} の任意の元とする。
・( y-1x-1 ) xy = y-1 (x-1x ) y ∵体における乗法の結合則
=y-1・1・y ∵体における自らの乗法に関する逆元との積
=y-1y ∵体における1との積の性質
=1 ∵体における自らの乗法に関する逆元との積
・xy ( y-1x-1 ) = x ( y y-1 ) x-1 ∵体における乗法の結合則
= x ・1・ x-1 ∵体における自らの乗法に関する逆元との積
= xx-1 ∵体における1との積の性質
=1 ∵体における自らの乗法に関する逆元との積
以上2点から、y-1x-1は、xy の乗法に関する逆元の定義を満たすことがわかる。
つまり、(xy)-1=y-1x-1
※これは、体のみならず、群一般について成り立つ。[永田『代数学入門』定理1.3.3(p.9)]
※体では可換則が成り立つので、(xy)-1=y-1x-1=x-1y-1。
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定理:
積と符号(1)
[杉浦『解析入門I』1章§1-[2]問1vii(p.2);永田『代数学入門』定理1.4.2(p.12);
松坂『解析入門1』1.3命題3(c)(p.29)]
(設定)
K : 体
xy : 体の定義により、体Kに定義された乗法。
−x: 体の定義により、存在が保証されているxの加法に関する逆元
(本題)
どんなふうに、x,y∈K を選んでも、(-x)y=x(-y)= −(xy)。
つまり、 ( ∀x,y∈K ) ( (-x)y=x(-y)= - (xy) )
※なぜ、(-x)y= - (xy) なのか?
x,yを、Kの任意の元とする。
・x+(-x)=0 ∵体の元とその加法の逆元との和は0である
・0y=0 ∵体における0との積
上記2点より、{x+(-x)}y=0
分配則より、xy+(-x)y=0
体における加法の可換則より、xy+(-x)y=(-x)y+xy=0
よって、(-x)yはxyの加法に関する逆元の定義を満たす。
すなわち、(-x)y= - (xy)
※なぜ、x(-y)= - (xy) なのか?
x,yを、Kの任意の元とする。
・y+(-y)=0 ∵体の元とその加法の逆元との和は0である
・0x=0 ∵体における0との積
上記2点より、x{y+(-y)}=0
分配則より、xy+x(-y)=0
体における加法の可換則より、xy+x(-y)=x(-y)+xy=0
よって、x(-y)はxyの加法に関する逆元の定義を満たす。
すなわち、x(-y)= - (xy)
※これは、体のみならず、環一般について成り立つ。[永田『代数学入門』定理1.4.2(p.12)]
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定理:
積と符号(2)
[杉浦『解析入門I』1章§1-[2]問1viii(p.2);永田『代数学入門』定理1.4.2(p.12);松坂『解析入門1』1.3命題3(c)(p.29)]
(設定)
K: 体
xy : 体の定義により、体Kに定義された乗法。
(本題)
どんなふうに、x,y∈Kを選んでも、(-x)(-y)=xy。
つまり、 ( ∀x,y∈K ) ( (-x)(-y)=xy )
※なぜ?
(-x)(-y)=−( (-x)y ) ∵ x(-y)=−(xy) で、xを (-x)とおき、yを (-y)とおいた。
=−(- (xy) ) ∵ (-x)y=−(xy) で、xを (-x)とおいた。
=xy
※これは、体のみならず、環一般について成り立つ。[永田『代数学入門』定理1.4.2(p.12)]
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(
reference)
日本数学会編集『岩波数学辞典(第三版)』 岩波書店、1985年、項目156A.実数の公理系 (pp. 417-418), 168.順序 (pp.440-441). 項目183数:E.実数 (p. 475).
斉藤正彦『数学の基礎:集合・数・位相』東大出版会、2002年。第2章自然数から実数体の定義まで§5定義2.5.13 (p.58)
永田雅宜『代数学入門』培風館、1996年、定理1.4.2(p.12)。
解析学テキストのなかで。
小平邦彦『解析入門I』(軽装版)岩波書店、2003年、§1.5-a上限下限(pp.36-7.)。
高木貞二『解析概論改訂第三版』岩波書店、1983年、§3.数の集合・上限・下限(pp.1-5.)
杉浦光夫『解析入門I』岩波書店、1980年、§1実数(pp.1-9).
笠原皓司『微分積分学』サイエンス社、1974年、1.1実数(pp.1-7).。
松坂和夫『解析入門1』岩波書店、1997年、1.3節順序体(p.29)。
吹田・新保『理工系の微分積分学』学術図書出版社、1987年、pp.3-5.
黒田成俊『21世紀の数学1:微分積分学』共立出版株式会社、2002年、2.2実数の四則演算と順序(pp.23-9);2.4.1連続性の公理(p.35)。
赤攝也『実数論講義』SEG出版、1996年。
Walter Rudin,Principles of Mathematical Analysis,Mcgraw-Hill,1953-1976.
=ウォ−ルタ−・ルディン『現代解析学』共立出版、1971年、第1章。
数理経済学テキストのなかで。
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、pp.56-64
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