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12章)西の「教養/その他」

「大阪呑気大事典」

という本があるのをご存じか。あいや、あったというべきかもしれない◆この手の本のなかでは比較的、店頭に並んでいた期間は永いほうではあったが、我が国の娯楽出版物の例にもれず、知らない間に棚から消えてしまったのであった。なお、版元のJICC出版局(宝島出版)では未だ絶版にはしていないと聞くが、大阪の書店ではここ3年、姿をみることはない◆1988年9月に発売された当時、大阪の森羅万象を呑気に語る昭和の名著として話題となり、一夜にして初版を売り尽くし、全国で、いや全世界でエネルギッシュに活躍する大阪人の本棚には必ず「大阪呑気大事典」があるともいわれている。その後、何度か再版されたようなことも聞くが現在は本屋になく。共同執筆者である私にも印税の払いはない◆大阪、関西本の大ブームといわれている矢先、その元祖的存在である「大阪呑気大事典」が手に入らないのはとても残念なことである。「西の常識」を身につけるためにも、さあ書店へ走り「大阪呑気大事典」を大量注文しようではないか!出版社を動かすのは常に民衆の力である。(94/11掲載)

 

「大阪雑誌」

大阪は雑誌不毛の地とよばれる。94年の夏、そのろくなもんが育たない不毛の地、から季刊誌「雲遊天下」が発刊され、現在で3号目になる◆不毛とよばれる根拠のひとつは、いのちより大事な現金をそんな儲からんことに使いたくはない、という大阪人の現実的な経済事情もある。また、東京へのメディア一極集中化、というのもあるかもしれない。そんな時代に、そんな大阪で創刊された雑誌だが、そんなことを意識させないアナクロな雑誌のつくりになっている◆どんな内容か知りたいひとは、すぐ06・338・8355、ビレッジプレスの村元、まで電話しなさい。やさしい大阪弁で応対してくれるでしょう。全国の書店で一応購入できるシステムにはなってはいるが、大書店か少しクセのある書店(具体的には表現しずらい)にしかおいてないので定期購読を薦めます●「雲遊天下(うんゆうてんが)」定価:700円(創刊号は680円) (95/1掲載)

 

「神戸の本」 

「大変ご心配をおかけしましたがとりあえず僕は元気です。1月28日の時点でまだ電話が通じておらず(略)。それなら「トオリヌケ・キ」をいつも通り作って(略)」◆手書きコピーのミニコミペーパー「トオリヌケ・キ」が地震から2週間目に届いた。これは私にとって神戸からの、久々の喜ぶべき便りだった◆発行者の中村よおさんは神戸に生まれ、神戸に住むシンガーソングライターである。流通業界誌の大阪支社長という肩書きを持ちながら自主レコードを制作し、エッセイ集「バー70’sで乾杯」を上梓し、最近は小説も書きはじめる、といわば「動いている」ひとです。私のようなおっさんにとっては「期待の星」なのである◆手紙が届いた夜、遠い余震に脅えながらよおさんの本を読み返し、多くの思い出深い建物は失われてしまったが、まだ神戸という街全部がなくなってしまったわけではないということを少し確信したのでした●「バー70’sで乾杯/失われた夢スポットの記録」中村よお著、ビレッジプレス刊、¥1480円(95/4 掲載)

 

「街の宝さがし」

◆「探検」というと、前人未踏のジャングルや、犬ぞりでいく北極などでスルもんだ、とおもってるひともいるかも知れないが、探検はどこでもできる。気分がよい時は、ご近所をプラプラ歩くだけでも十分たのしめるものです。でもやっぱり、いつもと同じ道では発見は少ないとおもう。散歩して楽しいのは何かを発見したときである。いつもとちがう新鮮な自分をみつけたときである◆イラストレーターの土橋とし子さんは、いつも新鮮な自分を発見する街歩きの達人です。本人は、はづかしがりなのでそうゆう風に言われると耳まで真っ赤になり、汗をかき始めるでしょうが。この本は、生まれ育った和歌山県橋本市から東京へ出、バリバリ活躍している土橋さんが都会の街をプラプラしながら面白いもん、かわいいもん、へんなもん、をみつけ、それを絵と楽しい文章でつづった、いわば「宝さがしの本」です。大阪の出版社から出た本なのですが、本屋で注文すればちゃんと届きます。あたりまえだけど●「よいこの玉手箱」土橋とし子著、ビレッジプレス発売、チャンネルゼロ発行、¥1800円です。(95/8 掲載)

 

「上岡龍太郎」

●本書については数年まえから伝聞し密かに期待していた。というのも、その芸人たちに対する記憶力は常人の域をはるかにこえ、細部にいたるまで正確なものである、と聞いていたからである◆この10年ですっかり全国区タレント、しかもゴールデンタイムの住人となってしまった上岡龍太郎の口伝による芸談、戦後芸能史である。発刊当初、かの小林信彦氏が、良書ではあるが内容がローカルすぎて不親切、と評していたのを目にしたが、関西圏のみの読者を相手にしているようにも受け取れる内容は、関西芸人である上岡龍太郎にとって当然のことであろう◆大阪をすべての中心と考える、いわゆる大阪中華思想のスポークスマンとして、そのシンパから絶大なる人気をあつめていた、過去の上岡龍太郎の潔さをかんじる◆何をしても全国区の仕事が大前提となってしまう東京からの批判は、ローカルな感性がもはや存在しえない東京のジレンマかもしれない◆しかしそれは、現在の大阪にあっても同様である●「上岡龍太郎かく語りき」上岡龍太郎著、筑摩書房刊、定価¥1400円。(95/7 掲載)

 

「大阪パノラミン」

こう不景気になると、何となく人心も曇りがちである。そうした風潮をモノともせず、明るく呑気にしっかりしぶとく生きているのが、大阪のみなさまなのであります◆バブル崩壊前後より、各種マスコミでは「大阪ブーム」というべき風潮があり、まあ、本ページにしてからが、その恩恵にあずかっているわけではありまするが。多数の「大阪本」が出版されたのも、この脳天気で明るい大阪人気質をみこしての事とおもわれる◆で、その「大阪本」であるが、残念ながら決定版というべきモノが未だない、というより一時の流行りモンとしてしか企画されていないところに、一抹のビンボーくささが漂ってしまうのだ◆過去には「大阪呑気大事典」という昭和の名著(手前ミソです)が存在したが、現在は入手が難しい現状であり、本書をその末裔の第一候補としてお薦めしたい。おもしろいです●「朝日ワンテーママガジン・大阪パノラミン-アホによく効く博覧読本」朝日新聞社、定価1300円(95/10 掲載)

 

「猟奇王」

ここ数年、表立ってまんが作品を発表せず、「猟奇庵」と自ら名付けた兵庫県伊丹市の文化アパートにコモッていた関西のi伝説のまんが家j川崎ゆきおが活動を再開した◆しかも「ガロ(青林堂)」以外では読むことが出来ないであろうとおもわれていた、幻の代表作「猟奇王」の連載である◆そのまんがの原点となる江戸川乱歩や水木しげるには数年おきにブームが来るのに、当の川崎ゆきおには「ガロ」デビュー以来二十数年間、一度もブームは来なかった(まんが評論家村上知彦氏による)。しかし、今回は確実に川崎ゆきおブームが到来する時代の兆しがある。手塚治虫が見たら卒倒する(劇作家北村想氏による)、ともいわれたその描線が一般誌で見られるのは、ほとんど奇跡である。まんが界の北公次(知らない人は両親に聞いてみよう)といわれた甘いマスクで人気を集めるのも時間の問題。また、秋には「猟奇王全集」が刊行され、某大手新聞系の週刊誌でもまんが連載するとも聞く●川崎ゆきおの「猟奇王」は「月刊・まんがジャパンダ(毎月15日発売、辰巳出版、定価280円)」に連載中です。(95/11 掲載)

 

「猟奇王大全」

極貧を洗濯板でゴシゴシしていた大阪(正確には、兵庫県伊丹市)マイナー漫画界のグル、川崎ゆきおが、前触れもなく、いきなり大メジャー週刊誌『サンデー毎日』にパソコン漫画「大阪WEST物語」を連載し、全国3000万人の漫画ファンを驚かせている◆本人は来年の伊丹税務署からのタタリをひどく恐れているようだが、時代は確実に「猟奇」方面へと向かっている◆前号で予告したように、「猟奇王」川崎ゆきおのブームがくるのは必至である。しかも今回、20年前からこつこつと月刊漫画雑誌「ガロ」に掲載してきた、代表作「猟奇王シリーズ」が「猟奇王大全」として11月中旬に出版される予定もある。偶然はこれで必然になったわけである。ご近所の書店にない場合は予約注文してでも買うべし●猟奇王大全A「猟奇夢は夜ひらく」川崎ゆきお著、チャンネルゼロ発行、ビレッジプレス発売、980円(11月中旬刊行)。以下続刊、猟奇王大全B「大阪は燃えいるか」、猟奇王大全C「猟奇の証明」は96年2月刊行予定。(95/12 掲載)

 

「大阪VOW!」

◆「西の常識」レギュラー執筆者でもある吉村智樹氏が初の単行本「VOWやねん!」を上梓した。本誌読者であれば、「VOW」についてのあれこれした説明は不要であろう。要はその大阪版である。大阪は街全体が変なのであるが、氏はその変な大阪でもとびきりのヤングヒーローである◆個人ミニコミ誌「耳カキ」の発行や、バンド「うみぼうず」のボーカルなどの活動を通じd変eを発表し続けていた名の知れたd変人eでもある。弱冠30歳にして、大阪では頂点ともいえる男性称号「どろがめ」の風格をもつに至った豆タンクの様な容姿は特筆すべきものがある。十数年にわたり収集してきた路上観察資料には「倒壊寸前の家屋を救った事業資金の看板」など、一生モノの深い感銘を受ける物件も数多く、さらなる大阪理解の強い味方となることは確実である。去る10月末に刊行され、はやくも増刷が決定、の喜ばしいニュースも届いている。変テコな吉村ビルが建つのも、そう遠い日のことはない●「VOWやねん」吉村智樹編・著、宝島社、定価900円(96/1 掲載)

 

「G-scope」

◆およそ雑誌というものは、個人の力のみでつくりあげることは難しいのだが、また個人の意志無くしては成立しえないものでもある◆93年4月に創刊された本誌は関西アンダーグラウンドシーンを基盤においた関西音楽誌である。関西にはd中心eがご近所にないという特殊な事情がある。弁当屋のにいちゃんが実は西ドイツでCDデビューしているというような、奥の深さを持つのだ。東京のマスコミに登場する特別なひとにだけでなく、市井のひとびとの深い井戸の底には黄金、いやプラチナの延べ棒がそれぞれ存在するという当たり前のはなしが普通にある。本誌は私財(主に借金)をなげうち、個人で編集発行している石原基久(通称ガンジー)氏の性格の強さが全面にでています。内容は、わたしが保証します●G-スコープ/編集発行人・石原基久、発行 F A L L、〒542大阪市中央区南船場4-11-23宮丸ビル6F 繁盛花形本舗内。一冊¥300-。現在まで14号が、隔月で発行。全国のクセのあるレコード店、あるいはタワーレコード各店にて販売。地方のかたは年間購読(6号分¥2500-)が確実。バックナンバーも多少あり。(96/4 掲載)

 

「SE MBA」

関西は出版文化不毛の地、とよくいわれる。しかし、同じことを関西以外の土地で耳にした記憶はないので、たぶん関西の出版業界人だけがそう考えているのだろう◆大阪が世界の中心である、という大阪中華思想にも多少の弱点、コンプレックスが存在するのである◆さて、関西には全国規模で売れる、儲かる雑誌はないのだが、細々と関西のみで出版販売されているローカル雑誌はある。代表的なものでは『あまから手帳』『オール関西』『神戸っ子』『月刊SEMBA』等々。それぞれに永〜い歴史を持つのであるが、誰が読んでいるのかそちらの方が気になる雑誌群ではあった◆そのなかで『月刊SEMBA』が、ついにこの五・六月合併号で休刊となるという。一九七一年の創刊時からずーっと編集長であった廣瀬豊氏(66)の健康上と経営上の問題だそうだ。一般書店でほとんど見かけることのないこの大阪雑誌の休刊を別に残念がる人もそうはいないだろうが●月刊 S E M B A/ヒューマガジン社、通算三百七号で終刊。¥三五○円(96/8 掲載)

 

「大阪探検」

大阪という街はディープ、言いかえれば多重的な都市であるからして、ヒマとお金があるひとが探検したくなる気持ちは理解できる。東京などという砂漠になぞらえる都市に住むと、余計にそうした想いが募るのであろう◆大阪にもチンケな行政があり、都市計画に則って街を形作ってきたはずなのではあろうが、どこから現れるのか、個人(おっさん、おばはん)の力技でもってスクランブルされ、表面には混乱しかうかがえない◆本書の著者は、大阪という都市を森になぞらえ、森を形成する一本一本の木、すなわち個々人に肉薄し細部を丁寧に描いている◆新世界、鶴橋、河内長野の落語会、アメリカ村、天牛書店、ボアダムス、大正区の沖縄村などをとっかかりに数カ月にわたりルポルタージュされた本書の大阪は、どこに暮らしていようが興味深く読める。二年前の発行だが、探してでも読むべき。オススメ大阪本●「大阪・大探検」枝川公一著、潮出版社発行、定価一四○○円(96/6 掲載)

 

「タイガース」

◆今年もまたまたタイガースは弱い。ま、弱いといってもJリーグのパープルサンガ(現時点で全てのチームと対戦し15連敗の最下位)よりはマシ。とはいえ結果的には同じ最下位である。こうしたつらい経験を積み重ねると、ふつう人格が分裂したりするのだが、もともとどこかしら崩壊した人々によって組織されている阪神ファンの場合は自己満足へと向かうのである。すなわちオタク化するのである◆試合内容をウンヌンカンヌンできない代償行為として、選手のとるにたらない些細な情報集収に常日頃から励むのである◆肩をこわし2年間試合にでていない中込投手が西宮の鳴尾で毎夜、とあるコンビニに出没し焼き肉弁当を2人前チンしてもらっては帰る。といった野球とまったく関係にない情報を友人から集めては悦にいるのであった◆プロ野球界で最初に球団が発行した雑誌「月刊タイガース」を読んでも些細なことは載ってません。あしからず●月刊タイガース/(株)阪神タイガース発行、定価三六○円 ('96/7「GON!」vol.20に掲載 掲載)

 

「大阪人」

◆大阪では金持ちであっても得にならない無駄使いをさける、俗にいうケチが多いなどといわれているが、本当はただのビンボー人なだけなのではないかとおもう。雑誌不毛の地、大阪で刊行されている月刊誌、「大阪人」を手にとるとそんな気分になる◆ご存じのかたもおられるでしょうが、東京には同様に月刊で「東京人」というハイブロウな地域誌が存在する。まあ、誌名が似ているというだけで、発行部数も判型も値段も編集方針も読者もまったく異なる雑誌を比較すること自体がどだい無茶なはなしではある◆がしかし、現在やっと通巻百号をむかえようという「東京人」に対し、昭和22年に創刊され、五十年間毎月発行されてきた歴史をもつ「大阪人」のビンボー臭さはどうだ。戦後の焼け跡、闇市から生まれた「大阪人」と、湧き水のように土地から現金が吹きあがり舞い上がっていたバブルのさなか生まれた「東京人」との時代背景の差、といえばそれまでであるが、寂しいことである●財団法人・大阪都市協会発行、定価¥360('96/2「GON!」vol.15に掲載)

 

「猟奇に走れ!」

◆昨年、メジャー誌に連載が決定、デビュー以来二十五年の長期にわたる悲願でもあったdまんが原稿料での生活eという夢を実現し、至福の絶頂であった川崎ゆきお氏であるが、幸せの日々は続かずワンクールで打ち切りが決定し、早くも元の清貧生活にカムバックするようである。さて、大震災、オウムと続いた終末思想を、独特の猟奇という人間臭い方向に牽引した感のある、幻の作品集「猟奇王大全」が、ついに完結することになった。全三巻の内第一巻「猟奇夢は夜ひらく」をすでに手にしている読者は、書店に走れ!●猟奇王大全「大阪は燃えているか」「猟奇の証明」川崎ゆきお著、チャンネルゼロ発行、既刊「猟奇夢は夜ひらく」、全3巻、各巻¥980円。('96/5「GON!」vol.16に掲載)

 

「じつわ」

◆去年の暮れ、「関西じつわ」という冗談のようなネーミングの雑誌が発売された。「フライデー」と同じ判型、値段、と三流大衆グラフ誌を臭わすが、「実話」と名付けたアナクロなセンスにウソはなく、中身は関西ローカルな社会風俗ネタのオンパレード。手元にある第2号では、オウム逃亡犯、菊池直子の青春ショット!という卒業アルバムから思いきり拡大しすぎて判別不能になった写真が掲載されている◆ここには爆弾娘の出身地が大阪、という内容しかない。しかし、これこそが大阪なのだ。全国を騒がした大犯罪者と大阪との関わり、それが意味を持つ。スカみたいな雑誌だが、東京発のパワフル雑誌群にはない脱力感、お手軽感覚、また何より重要なローカリズムを評価すべきだ。

●関西じつわ/日本ジャーナル出版発行・発売、定価280円、毎月第2第4月曜発売。('97/2「GON!」vol.27に掲載)※何の因果か、この文章がキッカケで「関西じつわ」のコラムを担当することになり、その隔週刊雑誌「関西じつわ」はその後、99年7月より月刊化した。が、2000年9月号にて休刊。ふふふ。


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