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6章)食

「金龍ラーメン」

の周辺道路はつねに混雑気味でまったくもって歩きにくい◆私は決してグルメではないのだが。各種マスコミを通じてくりかえし流される、ラーメン情報は気にかかっていた。このラーメン屋の客は以前からクセが悪く、御堂筋の歩道に面した店前は人だかりがしているだけでなく、その人だかりがみんなラーメン鉢を持ち、そこらじゅうウンコ座りなどしながら、かって気ままに食べている。伝え聞く戦後闇市はかくあるべく、の思いがつのる。そこまで気になるなら食べにいけば良いのだが話はそう簡単ではない。ココの前をとおるときは必ずといっていいほどハラがくちいているのだ。今日は食うぞ、の決意で歩きだすのだが、うどん、カレー、メンチカツ、お好みやき、オムライス、くしかつ、などなど、ラーメン以外にもたくさんの「うまいモン屋」があるのでついそちらに入ってしまうのだ。うまいもんだらけの大阪にも困ったもんだ。('94/11「GON!」vol.4に掲載)

 

「納豆」

納豆は古くから「東の食べもの」の代表的チャンピオンであり、ここ関西においてはクサレ外道食品の代表とされ昭和30年代までは市場で販売もしていなかったという◆当時、大阪の下町で早朝、関東出身者の家族がどこで入手したのか納豆を、窓を開け放しねちねちかきまぜていたところ、となりのおっさんから「クサイ!」と包丁片手に怒鳴り込まれ、ついには一家6人惨殺という悲惨な事件もあったという(これは「文化住宅納豆事件」として大阪では広く知られている)◆しかし、その後の関東人の関西への流入で納豆食も拡大し、いまや関西食文化のシンボル「たこやき」の具として評判になるほど一般化している◆最近のデータによると、京都・滋賀では57%、和歌山50%、兵庫・大阪36%の子供が家庭で納豆を食べた経験をもち、納豆を習慣的に食べている人間は全関西人の48%にも達するといわれている。商品や情報、人の交流が全国化し「食」においても地方性がうすれていくのは仕方のないことではあるが一抹の寂しさがともなう◆いっぽう、関西独自の食作法をいまだに残している食物にトコロテンがある。個人的には何がうまいのかわからんのだが、現在関西ではトコロテンには黒蜜(くろみつ)をかけ、関東のように酢醤油で食べる習慣はみうけられないようだ◆余談であるが、握り寿司にはわさびというのが全国の常識とおもわれているが、瀬戸内のある地方ではハマチの握り寿司にからし醤油で食する地域もある。常識といえどもローカルな文化のひとつであり、普遍性はないのである。('95/1「GON!」vol.5に掲載)

 

「チャイ」

エスニックブームとやらで我が国の食生活にもアジアの風が吹いて数年たつが、戦後ずーっとアジア丸出しであった大阪ではチャイなど当たり前の飲みものになっている◆大阪では一般の喫茶店のメニューにチャイがあることがそれほどめずらしいことではない。これは他の地方にはあまりみうけられない現象である◆もともとチャイはインド半島を中心に、東南アジア、西アフリカ、チベットなどで広く飲まれている大衆飲料である。ダスト茶と呼ばれる粉末紅茶と香辛料を牛乳と水で炊き込み、砂糖を入れれば出来上がり◆大阪のチャイは、戦前から堂島にあった紅茶専門店「ムジカ」の「シナモンティー」に発する説もあるが、それは現在広く飲まれているインド風の「炊き込みミルク茶」とはルーツが明らかに異なる英国式のものである。大阪のチャイの普及は大阪のひとびとがもつ根強いアジア憧憬の現われではないかとも考えられるが、じつは大阪には存外に根っからヒッピーのひとが多いのかも知れない。('95/4「GON!」vol.6に掲載)

 

「たこやき」

中島らも氏の文章に、関西人に追いかけられた男がフトコロからたこやきを大量にバラまき、追手がそれに気をとられれているスキに九死に一生を得逃げのびることができる、本当の関西人なら焼きたてのたこやきを素足で踏むことなど不可能である、というのがあった。それほどたこやきは関西で愛されている◆しかし、ここ数年の関西ブームとやらで全国どこでも食べられるようになったのはいいが、関西以外のたこやきがウマかったためしがない。やはり、たこやきは関西で食するもんです。土地の力がちがいます。さて、今回ご紹介する「たこやき」という本はたこやきのおいしい作り方、の本ではなく、たこやきについて勉強する本です。とはいっても学術用語がバンバン出てくるのとはちがってたこやきのさまざまな謎を解き明かしていくミステリーとしても読める楽しい本です。たこやきもウマイが、この「たこやき本」もウマイです●「たこやき」熊谷真菜著、リブロポート刊、定価1545円。('95/5「GON!」vol.7に掲載)※本書は現在文庫化されています。

 

「和歌山」

大阪から和歌山は電車で1時間以内というかなりのご近所なのだが、大阪人にとり和歌山の印象は希薄である◆和歌山県行政当局もそれをうすうす感じているのか、「もっと和歌山!」などという訳のわからないマスコミキャンペーンを展開してはいるが、効果はないようだ◆しかし、和歌山には独自の食文化がある◆県内のラーメン屋で定食を求めると決まって「ラーメン」に「バッテラ(さばズシ)」が付いてくるのだ◆自炊下宿学生がパチンコに勝った日の夕食のようだが、この組み合わせがなかなかウマイ◆しかし、べつにわざわざ和歌山まで食べにいくようなもんでもない。('95/5「GON!」vol.7に掲載)

 

「キューピット?」

むかしも今も大阪の夏は暑い◆現在の如く街のいたるところに自販機がなかった20年数年前の大阪では、夏の純喫茶(大阪では酒を出さない喫茶店をこう呼ぶ)で「キューピット」を注文する若者はあとを絶たなかったという◆70年代を代表する喫茶店飲料である「キューピット」とは、大きめのタンブラーにカルピスを下から2センチ程たっぷり注ぎ、それをコカコーラで割り、さらにクラッシャーアイスをぎっしり入れ、レモンの輪切りを一切れ浮かした、甘く冷たい飲みものである◆ちびちび飲むと歯のエナメル質が全部ワヤになりそうな感じがする飲料であり、大阪歯科医師会からのクレームがついたのか、90年頃までには大阪市内全域の喫茶店メニューから消滅したといわれている◆現在、「キューピット」は京都府東部、奈良県南部、滋賀全域、兵庫県北部、和歌山県南部などのマニアックな喫茶店で愛飲されておるとの情報もある◆また、寝屋川市内の某喫茶ラウンジでは、「キューピット」を「ドラゴンボール」と名づけ評判になっている、とも聞くが未確認である。('95/9「GON!」vol.10に掲載)

 

「お好みやき」

自分自身がいまどこに立脚しているかつねに把握している、ということは重要なことである◆大阪をはなれたとき、ついたその地がいかほど?大阪?なのか判断に迷うと不安である。こうした場合、大阪人は生まれながらに、いくつかの基準となるチェックポイントを用意している◆そのひとつは、そこに「やきそば定食」が存在するか否か、というものである◆やきそば定食とは、お好みやき風味の「やきそば」をおかずに「味噌汁+ごはん」を付随させた大阪独特のお昼の定食である。これが喫茶店メニューにあれば、そこは大阪以外のなにものでもない◆たこやきもそうだが?炭水化物食中心?といわれる関西食のほとんどに網をかぶせるのが「お好みやき」である。屋台の子供向けおやつから始まったものが、いまやフグとキャビアのお好みやきまで存在し貪欲なまでにそのバリエーションを増大しているのである◆ひとの?好み?がモロに反映したものが「お好みやき」なのである。「お好みやき」には人の数だけの「お好みやき」が存在する。('95/12「GON!」vol.13に掲載)

 

「便所とカレー」

食事中にウンコなどの話題を切り出すと常識を疑われる◆SMは好きでも、ウンコ食ったりするスカトロをいやがるひとは多い。普段はウンコの話題でもりあがったりするのに、何故だ◆また、カレーを食べたあとにすぐ下痢するひとは多いが、下痢便のあとに平気でカレーをバクバク食べるひとはデリカシーがないように思う◆さらに、小便しながらビールを飲むぐらいは出来そうでも、大便をブリブリこきながらカレーは食えそうにない◆さて、大阪の梅田地下街(ホワイティ梅田)には公衆便所にとなり合わせたカレーショップ「P」が存在する。どこに存在しようが法に触れない限り勝手なのだが、便所の横のカレー屋はあんまりだ◆いつも混んでいるので相当うまいカレーなのであろうが入店したことはない◆おとなりには数年前、汗ダクのギリギリ状況で入場したことがあるが、壁を隔てたところでカレーを食べているのを想像して、申しわけなかったことを記憶している◆どーでもいいことであるが、その便は水気の多い北部インド風であった。食事中のひとスマン。('95/10「GON!」vol.11に掲載)

 

「浜村淳」

ネバる関西弁といえば浜村淳にトドメをさす◆その押しつけがましい語り口は関西のおばちゃんたちから圧倒的支持を受け、大阪毎日放送ラジオ(MBS)の朝番組「ありがとう浜村淳です」は放送開始から20数年も経つ長寿番組である◆映画ファンにとって「ハマムラジュン」といえば、日本戦後映画史に残るバイプレーヤー、浜村純の方が全国的には知名度があるが、こちらの浜村淳も無名のころ映画出演している◆映画「続・新悪名(62)」では、劇中ステージ司会者として20代後半の姿を晒している。当時の司会姿を見て、高校生だった上岡龍太郎が弟子入り志願し断られた、という話もある。また、浜村淳は大阪ミナミの中華料理店「ハマムラ」のCM、でもオナジミです?中華の「ハマムラ」は料理もウマイのであるが、ここはお運びのおばちゃんをチェックすべき。たぶん、日本で一番、客の注文を記憶する能力に長けている。十人が好き勝手に注文した料理をメモも取らず即座に運んでくる(ので文句をいえない)、というのはすごい。('95/11「GON!」vol.12に掲載)

「蓬莱と北極」

●大阪ローカルのTVコマーシャルに「551(ゴーゴーイチ)のブタマン!」というのがある。「ブタマン」というのは関東でいうところの「肉マン」のことで、関西は「肉」といえば「牛肉」に限定し、関東のように「肉じゃが」に豚肉を入れるのは外道だ、と感じる関西人が多いことに関連するネーミングである。関西には安くてうまい牛肉があり、関東にはうまくて安い豚肉がある。どちらもうまかったらいいのだ。で、「551」であるが、これはナンバに本店がある中華料理チェーン店『蓬莱(ほうらい)』のCMである。私は『蓬莱』さんに個人的な恨みはないが、ちょっと言いたい事がある。その中華饅頭をテレビで大々的に広告するのはかまわぬ、しかし、551のアイスキャンデーを大阪ナンバの古くからの名物のように宣伝するのはどうかとおもう。そもそも、大阪ナンバの名物であるアイスキャンデーといえばペンギンマークで戦前からの歴史を持つ甘党専科店『北極』のことなのだ。後発の中華料理店「蓬莱」が畑ちがいのアイスキャンデーで儲ける、というのは明らかに『北極』のイメージを剽窃しており許せない部分がある。特に、ここ数年のメディアを利用した大衆操作にはいきどおりに近いものを感じる。深い反省を促したい。参考までに『北極』は『蓬莱』から南へ1ブロック(50m)しか離れていないのです。('95/9「GON!」vol.10に掲載)

 

「ハリハリ鍋」

阪神高速11号池田線(通称空港線)は旧大阪国際空港(現大阪空港)へのアクセス道路である。94年の関空開港によりその影響力も多少かげりをみせはじめているとはいえ沿線は広告効果が高く、大がかりなネオン広告塔が数多く存在することでもしられている。忠実にスケールアップされたチチヤスヨーグルトなど大阪名物といわれるものも多い。また、巨大な潮を吹くクジラのネオンに近年は人気が集中している◆ここ十数年の世界的な捕鯨禁止の風潮に真っ向から反発する大阪ミナミ千日前のハリハリ鍋「徳家」の広告である◆おかみの大西睦子さん(55)はアイスランドで開催されたIWC(国際捕鯨委員会)総会に単身乗り込み、ロビーでクジラの刺身を試食させたという、何を考えているかわからん筋金いりの捕鯨推進運動家◆当の看板は英文表示もある親切さが関係各省を刺激し続けている●「ハリハリ鍋」はクジラと水菜を土鍋でさっと炊いた、大阪の庶民料理。しかし、現在は材料の入手難から「てっちり(ふぐ鍋)」と競る高級料理である。('96/4「GON!」vol.17に掲載)

 

「鍋物」

どちらさんもお寒ぅございます。こういうときにはあたたかい鍋ものがごちそう界の一等賞です◆さて、食い道楽の大阪で鍋といえば、うどんのすき鍋(「うどんすき」は料亭「美々卯」の登録商標で簡単にはつかえまへん)、湯どうふ、かにちり、てっちり、水炊き、しゃぶしゃぶ、数々あれど、それら総てのおともになるタレといえば、八尾の「旭ポンズ」しかない◆鍋だけでなく、たたき、酢の物、焼き肉、餃子のタレとしてもグー。四季を通じて台所の必需品なのであります。残念なのはいつどこでも簡単に買える商品ではない、という点である◆広告みたいになってしまったが、宣伝をほとんどしないことでも有名な「旭ポンズ」であるからかんべんしてね◆ちなみに関西グルメのバイプレーヤー「旭ポンズ」は?完全味付け旭ポンズ?が正式名称●「旭ポンズ」は基本的には八尾市内か近辺でしか販売されていない商品であるが、たまに郊外の肉屋なんかで少数販売していることもある。360?入、¥650円。製造元・?旭食品、八尾市南太子堂6・3・49。('96/3「GON!」vol.16に掲載)

 

「いかやき」

たこやきは炭水化物食のメッカ、大阪のシンボル的存在として、アッという間に全国を制覇し、現代大阪グルメ界の王者として君臨している◆一方、そのみなもとに於いて、同じお好みやき風味屋台食であった?いかやき?は未だローカルに留まっている◆球状の愛くるしいたこやきに比し、小麦粉をだし(水が多い)で溶きいか(ゲソが多い)を投入したものをペンチ状の器具(いかやき器)で両側からはさみ一気に加熱かつ加圧するいか焼きの製造過程は、見ていて食欲が湧くものではなく、ショーアップの余地はない◆なお、大阪グルメなどに詳しい輩のあいだでは、阪神百貨店梅田店の地下二階食料品売場「阪神スナックパーク」のいかやきが、客が列をなしていることでグルメ知名度が高い◆でも、すぐ買えるので安心●阪神百貨店のいかやきは一枚120円。デラバン(玉子入り)170円という安価さが並ぶ本当の原因とおもわれる。店内の立ち食いコーナーで食す場合、舟代(5円!)が加算される。おみやげに一人で数十枚購入するひともいる。('96/5「GON!」vol.18に掲載)

 


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