web 「西の常識」総目次旧「西の常識」序章「大坂中華思想」「ことば」「観光名物」くらしと生活さいふと経済風俗トレンド人種歴史地理事件スポーツ芸能娯楽教養魔境旧「西の常識」総テキスト(あ〜ん:≒400k)新「西の常識」


10章)事件

「関西新空港」

も開港1ケ月を経過し、お祭り騒ぎもおちついたようだ。しかし、わたしの周辺には関空(かんくうと呼ぶ)にいった人がいない。ということで、開港初日に関空まで客を乗せたというタクシードライバーにお話をうかがいました。開口一番「やっぱりババ(最下級の罵倒語)ちゃうか?」と、あまり好感をもってはいない様子◆「関空でこっち(タクシー)はあんまりエエ目せえへんのとちゃう? 一回いったら、マ、1万5千円からいくから楽やけどその帰りがなァ。埋め立てた島じゅうワシらの走るとこきーっちり決まってるんでっせ、オモロイことなんかなーんもない。楽しい割り込みもできへん(笑)。そーら、建モンの内はキレイかも知れへんけどワシらに関係おまへんわ。出てくるお客さんらみーんなクタクタに疲れてまっせ。広すぎるんとちがいます? どっちにしろタクシーはあきまへん。電車は(関空列車:JR、南海とある)混んでるそうでんがな」「でも、エエ目ェしたモンもいてまっせ。2日目に神戸からの高速船止りましたやろ。あのとき港におったうちの会社のんがボロ儲けしましたわ。神戸から関空まで3万(円)楽に越えまっせ。3万いうたらアンタ、もう市内をチンタラころがしてる一日分の水揚げです。ま、タクシーもバクチみたいな商売でっさかいな。そーら当たった時は気持ちよろしでェ(笑)」◆千日前のすっぽん太郎(写真参照)も一生懸命応援してることだし、関西新空港もぜひ成功していただきたいものであります。('94/11「GON!」vol.4に掲載)

 

「神戸のコ」

◆「地震のコト聞くの? いややなあ。うん、うち(自宅)のマンションは大丈夫やったけど、近所の10階建てのマンションの壁にアミダクジみたいなヒビ割れができとってコワイ。揺れてから2週間ほど、ほとんど避難所とマンションの往復しかしてない。だいたいは家でボーッしてる。寝ながらテレビ見てるとか…。ほとんどベッドで寝てた。妹(小学生)がときどきテレビゲームのシムシティとかしとんのがコワかったわ。建てたり壊したり。しかもそこの名前神戸にしとんねん(笑)。ゲームやけど、あんまりやわ。はじめて三宮が全部コワレとんのを自分の目で見たときはホンマにショックやった。ぜんぜん信じられへん。(自宅のある)元町まで歩いてきてホッとした。何で元町だけ大丈夫やったんやろ。救援物資? 韓国からのカンズメとか、開けたら中がトンガラシで真っ赤っ赤で、それからあのカンパンとかも、悪いけど食べられへんかった。わたし三宮の居酒屋でバイトしてたんやけど、バイト料はどうなんねやろ…、もらえるんやろか。ホンマにコワイわ。」◆地震20日後の大阪駅前で、JR元町駅北側の自宅まで帰るという19才の学生さんに、お話をうかがいました。('95/4「GON!」vol.6に掲載)

 

「新世界」

◆いま現在、大阪で一番活気がある街は「新世界」である◆南側の「あいりん地区(旧釜ケ崎)」に住む国内最大規模の未組織労働者たち、俗にいう「あんこ(人夫)」の日当が、皮肉なことではあるが、阪神大震災の影響でうなぎのぼりに上昇し、戦後未曾有の好景気となっているのである。去年の暮れにはガラガラだった通天閣もジャンジャン横丁もひとであふれている。でも、再開発だけはやめてほしいネ。('95/8「GON!」vol.7に掲載)

 

「ストーンサークル」

●テレビのニュース報道が阪神大震災からオウムに替わりだしたころ、大阪市内で頻繁に奇妙なストーンサークルが発見されるようになった◆そのストーンサークルは3月末、北区プラザホテル南側の歩道で最初に発見されたと聞く。その後、大阪市北区大淀(旧大淀区)全域まで拡がりをみせ、確認されたストーンサークルは数百にも及ぶといわれている◆ひとつひとつは、道路に設置されたコンクリート製電柱の根元に小石や砂利を数センチの幅でドーナツ状に並べたものであるが、その数の多さに圧倒される。主に電柱にあるのだが、ときたま交通標識のポールなどにも為されている。また、街路樹など植物の根元にはないことも何らかの意志を感じさせる◆ストーンサークルのある地域は南北1キロ東西0.5キロ四方にもなり、子供のいたずらにしては規模が大きく、しかもその作業が整っていることから、死ぬほどヒマなご老人たちの仕業ともおもったが、作法に統一感があることで謎を呼ぶ◆まったく気がつかないひともいるほど、それとなく存在るところから、現代芸術・ミニマルアート説もあったが、不思議は深まるばかりであった◆しかしついに、あるストーンサークルの補修をしていた中年の女性に遭遇することができた◆聞くところによると、「地震よけのまじない」で「宇宙人から世界統一のため指令が下った」ので「妨害を受けながらひとりで作業」している、とコワレタお答えでした◆残念ながら、やっぱり流行りのオカルト者の仕業であった。('95/7「GON!」vol.8に掲載)

 

「APEC」

◆オウムやらサリンやらいうのは他国の事件で、ワシら関係あらしません、と思っていた春先、大阪市内では自転車に乗りガードマンと見紛う真新しい制服を着用した警察官を頻繁に目撃するようになった。APEC(エイペック)である◆APECとはこの秋、大阪で開催される「アジア太平洋経済協力会議」のことで、この国際会議のため、おまわりさんたちは汗ダクで大阪の町内を走り回っていたのである◆警官曰く、おタクのご近所に不審な車、たとえばトラックなどが止っていたら必ず荷台を確認してくださいねー、隣のビルの屋上に過激派のミサイル(!)が設置されてたら通報して下さいねー、といった呑気なお願いをしながら市内をしらみ潰しに調査(これがローラー作戦か)していたのであるが、じつは裏があった◆その後、市内で日常的に行なわれている駐車違反をAPECを期に、10月からはレッカーで即時撤去する方針と聞いた◆そうか、警察はこれが目的だったのか。中央区、北区、福島区、西区などで適用されますので、みなさん気を付けましょう。('95/11「GON!」vol.12に掲載)

 

「そねざきけいさつ」

大阪に限ったことではなく全国規模でのことかもしれないのである◆ここ数年、豪華ホテルのよう改築されていく大阪の警察署のカンバンが「ひらがな表示」になっているのが気にかかる◆大阪の警察は過去に何度も不祥事を繰り返してきたことを深く反省し、市民に愛される警察を願い、平易な表示にしたのであろうか◆何かウラがありそうで、気になる◆誰か根性のあるひと、問い合わせてくれまへんか。('95/10「GON!」vol.11に掲載)

 

「中央図書館」

◆雨の日の中央図書館は恐ろしい。現在、旧大阪市立電気科学館の一、二階を市立中央図書館として仮設開館しているのだが、高架道路のすぐ横という場所がら、知識欲あふれるホームレス諸氏のサロンとなっており、雨の日には利用者の半数近くがホームレスのおっちゃんたちになる◆皆さん大人しく読書などしていらっしゃるのでありますが、いかんせんチョット香りが強烈なエスニックなのである。特に、1階奥の新聞カウンターは横にトイレがあり、そのミックスされた香りは鼻孔を通じ脳髄を直撃する。長時間の調べものがあるときには、カウンターでガスマスクのサービスを心から要求したい●写真は小雨にけむる大阪中央図書館。戦災にも焼け残った昭和初期のバウハウス風モダン建築。その内部が恐ろしい状況にあるのを知るひとは少ない。('95/8「GON!」vol.7に掲載)

 

「封印」

オウム横山弁護士は来たのに、肝心のクリントンが来なかった「APEC会議」である◆大阪は25年前「万国博覧会」というイベントで、考えてもみなかったボロい儲けを経験し、その甘い記憶の後遺症でこの手の派手なイベントを数年おきにやらかすのである◆本気でテロ阻止など考えていない今回の警備体制はすでにお伝えしましたが、続報◆特にバカバカしいと感じたのは、地下鉄構内にベタベタ貼られたシールである。フタというフタ、ドアというドア、あらゆる開口部に大阪市のマークが印刷された封印が貼られたのだ◆シールでテロリズムが防げると思っているのだろうか。誰が何処で決めたのかは知らないが所詮は公務員である。やることが全て、見せるための仕事のような気がしてならない。キョンシーの護符ではないのだからシールなど子供でもその気になれば剥がせる◆住民が辛抱するだけのバカなイベント招致もそろそろヤメにしていただきたいのだが、いっぽうそのころ大阪は、本気で2010年のオリンピック誘致を計画している最中なのだった▼散水栓にも封印▼時計も封印▼何かワカランのも封印▼APEC会議中、新御堂筋を北上中、見よこの交通量。ガンラガラ。('96/1「GON!」vol.14に掲載)

 

「神戸」

◆当初、完全復旧までには少なく見積って数年かかる、などともいわれていた神戸の各種交通機関ではあったが、最も復旧がおくれていた六甲ライナーも去る8月25日に再開し、あとは派手に落下崩壊した阪神高速神戸線の高架数キロを残すのみとなった。町並みも表通りの派手な倒壊ビルなどはほとんど撤去され、ただの空き地ないしは駐車場になっている◆しかし、まめに裏通りを歩けばマダマダこの世のものとはおもえない物件は多数残存している。見ておいて損はないので、これを機会にぜひ神戸をd経験eしていただきたい。その場合、震災直後のルートで神戸入りするのをオススメしたい◆まず、JR「大阪」から福知山線で「三田」まで行き、そこで神戸電鉄に乗り換え「新三田」から「板宿」に到着。神戸入りしたあとはすべて徒歩。これが六甲北まわり迂回ルートです。もっと臨場感に凝りたいマニアには、大阪港から漁船をチャーターして海上ルート、という手もある●写真は現在の神戸市役所新館ビル。肉眼では確認不可能だが、いまも0.5度程山側に傾斜しているらしい。('95/12「GON!」vol.13に掲載)

 

「新地下街」

北区のJR大阪駅前に10月12日、ダイヤモンド地下街「ディアモール大阪」がオープンした◆駅前地区は、敗戦後いちはやく闇市化し、バラックの商店が立ち並んだ場所でもある。そうした地上のゴタゴタが地下へ持ち込まれたように、梅田の地下街は悪名が高い◆一九六三年に梅田地下センター(第一期、現ホワイティうめだ)が完成し、以後中ノ島、堂島地下街と迷路のように繋がっていった地下街は、地下鉄、JR、阪急の地下連絡通路としても利用されている。ラッシュ時の人通りは大阪随一といわれ、方向オンチの旅行者など人混みに流されたら最後、目的の場所にはたどりつけない◆また、周辺のほとんどのビルがそれぞれに地下街を持ち案内板もバラバラ表示。これも迷路化をすすめる原凶にもなっている◆今回オープンした新地下街は天井も高く圧迫感は少なく、フロアーにもゆるい傾斜が設けてあり歩きやすい。しかも、地上が見える明るく大きな広場などもあるので、ショップもシャレてみえる。だが、新地下街が素晴らしい分、既存の地下街との落差が大きくなり、旧地下街のスラム化の進行は早まることになる◆これからの10年が楽しみだ。('95/12「GON!」vol.13に掲載)

 

「毒グモ」

◆去年の11月、大阪府高石市で「セアカゴケグモ」が発見され、日本蜘蛛学会はこの平成の大発見に狂喜乱舞した。ひとつ、残念だったのは、そのクモが「ラロトキシン」という神経性の猛毒をもつことであった◆マスコミによる毒グモパニックは、オウム以降派手な事件を渇望していた一般大衆にとり、被害者(死亡者)が居ない楽しいニュースであった。もっとも、マスコミが大挙静かな住宅地に押し掛けたのだから、ご当地は迷惑な話なのだ◆その後の詳しい調査で、当初、刺されれば即死の毒グモは実はガセネタということが判明し、ニュースの風船はシュルシュルとしぼんでしまうことになる◆「大阪に毒グモ!」というのはなかなか派手な見出しだ。どんなことでも、どちらかといえば後味の悪い事件でも大阪で起こったことなら妙に喜び自慢する大阪人は、これで少し残念な気分で正月を迎えることになったのである◆毒グモにあんまり毒がないことが判明したので現地取材を敢行しました。が、報道が落ち着いてからの取材なので、d生きてる eのは発見できず。残念◆現地の人に話を聞いたところ、数年前から毒グモの被害らしきものは数件あり、なかには老人が原因不明の刺し傷がもとで太股をかなり切除した例やペットが突然死した例もあるにはあるという▲毒グモを20数匹発見、テレビニュースに出演し、一躍ヒーローになった、高石小6年の岡室弘毅君(左から2番目)と毒グモ仲間。現在、素手での毒グモ捕獲は現地教育委員会から禁止令がでている▲これがニュースで有名なった毒グモ墓地▲墓地は焼き場に隣接している関係上、供物目当ての猫だらけ。猫には毒が効かなかったようである▲これが「毒グモポスター」。大量に殺虫剤を撒いたので現在はアリンコ一匹発見できない。春まで待つべし!('96/2「GON!」vol.15に掲載)

 

「難波駅」

春は、木の芽時。マチガイが続出する季節である◆若い友人が、JR「難波」駅がどうたらこうたらいうのを小耳にはさんだ。私の記憶が正しければ、確かJRに「難波」など存在しないはずである。地方出身者による無知をやんわり指摘してあげるつもりが、マチガイはこちらだった◆旧「湊町」駅をリニューアルした大規模ターミナル駅「難波」が、こちらの知らんうちにできていたのである。以前のJR「湊町」は奈良への関西本線(大和路線)の始発駅、あるいは湊町貨物駅として知られる、暗くさびれた駅であった◆関空の開港以来、大阪南部の玄関口としてナンバのターミナルは拡大化されており、ついに湊町をも飲み込んだのである。関係ないけど、ミナミからタクシーでワンメーターの駅周辺は知るひとぞ知る、オトナの風俗地帯でもある。('96/5「GON!」vol.18に掲載)

 

お宅拝見F「S野邸」

◆住専問題で世間を騒がせているお宅です。家宅捜索があったのでニュース画面でこの千里ニュータウン内でも屈指の豪邸を見たひとも多いだろう。主筆は以前、ここのご主人に間接的にだが、てっちりをたらふく喰わしていただいたことがあり個人的には悪感情はないが、社員の所得税未納をはじめ、資産隠し、巨額な脱税容疑など社会的に罪は重い。表札の下にNHKのシールが貼付されており、少なくとも受信料を1回は支払ってるようだが、未確認。('96/7「GON!」vol.20に掲載)

 

「救急車が事故」

◆癌で死んでしまう人の数は年間六、七千人、わが国の死亡原因のトップだという。いっぽう交通事故死は年間一万人。計算上では癌死を抜き交通事故死がぶっちぎりでトップということになる。死亡にまで至らない交通事故はその百倍、軽い接触までふくめると数千倍にふくれあがるのが当然。事故があったとき真っ先に駆けつけるはずの救急車が事故っても仕方はないのである。('96/11「GON!」vol.24に掲載)

 

「大ダヌキ」

◆ミナミの千日前二丁目には身長四メートル近い大ダヌキ様。自動車修理工場の店先に何故タヌキ? 近所で聞き込んだらじつはこの地の先代は料理屋だったということが判明した。噂によると、代が替わってもタヌキを絶対壊さないという先代の女将との約束を守った結果、現在もここ立っている由。昭和三十年代中頃に特注され本場信楽で焼かれた陶器製なんですが風雨にさらされ、一見するとセメント造りに見えてしまうのが残念。当時の値段で百万円!というからはんぱではない。ちなみに当時は国産大衆車(パブリカ)が三十万円ちょっとで買えた時代。またNGK(ナンバグランド花月)が近いせいか、女子中高生たちが大きなタマをつつきつつ何やら「願かけ」していることもあるようだが、いったいタヌキの金玉になにをお願いしているのか。偏差値アップでないことだけは確実◆大通りから一本入ったところにあるので探しにくいかも。('96/11「GON!」vol.24に掲載)

 

「謎の喫茶店発見」

◆とにかく店の外装はボロボロ、戦後のバラック状態。看板に開店時間があるのだが実は不定期開店で、タイミングがあわず店内は未確認。いまどきジャズ喫茶いうのもかなりキてる。詳細は次回ね。('96/11「GON!」vol.24に掲載)

 

散歩でポン

震災仮設住宅・ローカル編

◆阪神淡路大震災から五百五十日を経過し、復興へまーっしぐら、と思っている全国の方々もたくさん居られるでしょう。が現在、阪神間にある震災仮設住宅は約四万八千戸あり、そこで九万人のひとが暮らしている状況なのです。被害が大規模広範囲だった神戸、芦屋、西宮などの仮設住宅には定期的にマスコミが取材しているようですが、比較して被害が量的に軽微だった、尼崎、宝塚、伊丹、川西、豊中、西淀川(大阪)などは同じ地震による被災者であるのにワリを喰った感があります。今回は、これから大量の首つりでも出ないかぎり取材されることのないマイナーな仮設住宅を中心にまわってみました。あくまで外から見た印象だけのことで、中のことはうかがいしれないのですが、気楽な生活ではないことは容易に想像つく世界でありました◆梅雨時の取材ということもあるが、どこの仮設住宅も暗く、空気が重い。宝塚、川西などは完全な山ン中。まわりには商店などなく、ときどきハイキングの家族連れが迷いこむほど山深い。原付のエンジンが焼きつくほどの急坂を登り切っトコにある◆平地に整然と並んだ伊丹は、神戸や西宮にたくさんある仮設住宅のミニチュア版だが、土地が狭いのでそのぶん圧迫感が強い。宝塚や川西よりは街中だが、やはりヘンピな所にある。しかも前の国道は交通量が多く騒音は半端ではない。いくぶんましだったのは、大阪の西淀川の仮設。区役所のすぐ横という一等地。ここなら一月ぐらい住んでもいいような気がする。でも、ツライだろうな…。('96/8「GON!」vol.21に掲載)

 

「神戸雑感」

◆累計死者数、6348人(96年1月16日付けの数値、以下同)。全半壊家屋、42万世帯。避難所生活者数、31万9638人(95年1月23日)。仮設住宅数、4万8千戸。仮設住宅居住者数、約9万人。疎開児童数、2万4890人(95年2月4日)。停電家屋数、約100万戸。ガス使用不可家屋数、約84万5千戸。断水家屋数:約127万戸。倒壊家屋解体処理数、113235棟(マンションも含む)。総義援金集計、約1773億円(96年11月末現在)。震災国家予算、3兆6千億円。といえば阪神淡路大震災である◆本誌発売予定日(97年1月17日)は、あの大震災からちょうど2年になる。たぶん各種マスコミでギャンギャン報道されている真っ最中だろうが、改めて読むとどのデータもすんごい数量である◆主筆は兵庫県南東部、阪神間のチベットといわれる川西市の山間部に住み、大阪市内の中央区博労町、大阪商人のメッカ船場のはずれにある築後30余年鉄骨モルタルのぼろいビルの3階へ通っている◆拙宅で震災当日も電気は使えたのだが、ガス水道の復旧には数週間かかった。しかも、自宅上空が緊急のヘリ航路になり、バババババッと昼夜問わずの地獄の黙示録状態であった。でもマシなほうだった◆地震のつぎの日、休めない仕事があったので大阪へ。キタのターミナル梅田周辺は、黒く汚れた肌と疲れた表情の家族であふれていた。特大リュックを背負い、両手に飲料水のビン1ダースを下げた老人が階段をよろけながら降りている。手を貸すと老人はいきなり泣きだした。御堂筋に面したビルでは1階の大きなガラスが割れたのか、早くも入れ替え工事をしている◆地震のつぎのつぎの日も仕事は休めない。大阪市内から車で茨木市へ向かう。交通量は普段と変わらないが心なしか周りのみんながイライラした運転である。新御堂筋を北へ、中央環状線の合流で大渋滞まったく動かない。京都、滋賀などの近県消防隊、遠く静岡の消防団車両も。救援物資を運んだ帰りなのか大型車両も多く、ほとんどのドライバーは眠りこけている。1キロ進むのに約1時間経過。目的地までは10数キロ、あきらめて市内へもどる◆5日目、落ちつくまで来るな、といわれていた神戸元町の妻の実家へ向かう。電車はないが臨時バスが運行しているはず。バス発着場所の阪急西宮北口駅周辺はさながら闇市状態。大阪ならタダで配られているテレクラのティッシュが百円、ラジオ付き懐中電灯8千円、レンタサイクル24時間で二万八千円。すべての風景が刺さる。バスの待ち時間は5時間……◆などなど、直接被害がほとんどないに等しい主筆の個人的震災実体験のあれこれ。つい昨日のようだが、もう細かいところは忘れてしまっている◆先日、全面開通(96年10月)した阪神高速道路神戸線を走行してみた。派手に倒壊した高架道路である。手抜き工事の証拠隠滅か恐るべき速さで解体され、新規に建設された橋脚は優に以前の三倍の太さがある。継ぎ足しされた道路の感想はdひどく揺れるe道路であった。既設の部分から新設部に入ると目をつぶっていても判るほど道路が揺れる。耐震設計を取り入れた構造なので多少は揺れるようになっているのだろうが、恐ろしい道路である◆いっぽう、壊れたままの物件は数知れない。市民のこころ、行政との信頼関係方面の復興には数百年かかるといわれている。また、権利関係が複雑なのか1階のパーキングが潰れ高級外車が挟まったまんま放ったらかしというマンションがあり、崩れ落ちた岸壁を見ながら愛を語れるメリケン波止場があり、まだまだ風景としてもアブナイのはそこかしこに存在します。

 

そこで全国の読者の皆さんにおねがい。春には神戸へいらっしゃい。神戸でゼニいっぱい使こうて帰って。主筆からのお願い、たのむわ。('97/2「GON!」vol.27に掲載)

 


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