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1章「ことば」>おこめ/宮路社長/まいど、さよか/ちんぼ/めばちこ/大坂/プール/スカタン/ババ/〜はん/〜でんがな/ミンチ/いらち/いたち/ちゃう/本場/ワレ/チンコ/ひったくり

0-0)ことば

「おこめ」

関西のおこめはアブナイ! 今年の米は渇水と台風のダブルパンチ、などというはなしではないので安心せよ。関西で「お」と「め」と「こ」、この3つの「音」を組み合わせた語を口にだすとアブナイ。また目で読んでもアブナイ。「おこめ」がそれにあてはまる。なぜアブナイかは言及しがたいが、アブナイのだから仕方がない。町内の何のへんてつもない米穀店のガラス戸に「全国おこめ券」というシールが貼ってあるだけで関西人はドキドキしてアブナイ。「お・こ・め」を組み替えた三文字単語は関西で育った人間はとても恥ずかしいことがらとしてとらえている。若いおなごなど口にできるものではない。このため関西地区に限って「おこめ」は「お米」と表記するように総理府から通達があり、それを農林水産庁が反対し、また、文部省が大阪府の農協を通じ米屋をやんわり指導したというまことしやかな話もある。しかし、有能な我がスタッフはその証拠というべき写真を入手したのでここに慎んで発表いたします。ここはJA全中のショウルーム「お米ギャラリー心斎橋」である。他の地方では通常「おこめ」と表記するところが全て「お米」になっているのがおわかりでしょうか。普段は気がつかないが、中央から大阪への言語統制はここまできているのである。('94/10「GON!」vol.4に掲載)

 

「あなたも宮地社長に!」 

テレビでおなじみの城南電気、宮地社長の関西弁です。関西であればどこでも町内に一人は存在するカラ元気なジジイである。ま、あれだけ現金が手元にあれば誰でも元気にもなる。会話の中で特徴的なのは、強引とも思えるほどに「やはり」「いわゆる」「いうたら」を多用していることです。また、語尾にはかならず「…わけダ」をつけることも肝心。自信のない事柄でも自分のふところの財布には常に300万円が存在するつもりで強気になり、すべていいきってしまうことも大事なこと。上級者を目指す方なら彼の細かい和歌山県山間部訛り(濁音の転訛)なども取り入れることも一考の余地がある。会話例:「やはり、世の中で、いわゆる一番大事なものは、いうたらお金です。やはり、何事も、じぇーったい(絶対)にぎぇんきん(現金)をたむる(貯める)ことが、大事なわけダ」というわけで今日から宮地社長になれるわけダ。('94/8「GON!」vol.3に掲載)※宮地社長は98年死去、「城南電気」は倒産したようです。

 

「まいど、さよか」

大阪での商売人のあいさつは、「もーかりまっか?」と問い掛け、「さっぱりですわ」と応える、ということになってますが、いまでは船場のあきんどでも本気でそんな挨拶をする大阪人はいません。いまは「まいど!」の一言で済ましています。「まいど」はていねいにいうと、「毎度、常々、いつもお世話になっております、ありがとうございます」の簡略形ですが、短くしてもべつに失礼にはあたりません。しかし、その「まいど」にも大阪弁独特の抑揚があり、ある程度使いこなすには数年かかるといわれています。また「まいど」というあいさつには「まいど」で答えるわけですが、受けの「まいど」にはあいさつの「まいど」とまた異なるニュアンスがふくまれています。などというクドイ説明を大阪人から受けた時には、歯切れよく「さよか!」と答えます。「さようか、そうですか」、にあたる軽いうっちゃりことばである。('95/1「GON!」vol.5に掲載)

 

「ちんぼ」 

このノレンは大阪の道頓堀にある老舗の洋食屋さんのものです。大阪は何でもアリか、と思ってはいけません。このノレンは左から普通に読んではいけないのであった。戦前から続いたお店であるからして旧仮名遣いで右から読むのが正式なのであります。「ぼんち」というのは大阪では、お坊っちゃん、すなわち他人の息子のことです。兄弟が多いときには「兄(あに)ぼん」「中(なか)ぼん」「小(こ)ぼん」と呼び分けていたそうです。ついでに左の「正弁丹吾亭」という関東煮(かんとだき:おでん)屋さんも大阪グルメとしては有名な店です。「正弁(しょうべん:小便)」と「丹吾(たんご:便つぼ)」だなんて、昔の大阪人は食い物商売に無茶なネーミングをしたもんです。('95/3「GON!」vol.6に掲載)

 

「めばちこ」

昨今は、関西弁もよほど高度なものでないかぎり、全国的にコミュニケートできることばとして認識されるようになった。電車のドアに貼られた「ゆびづめ注意氏vのシールから「さすがヤクザの本場!」など、関西が誤解を受ける原凶となった悲しい歴史も、現在は「ドアにご注意」とアッサリとまとめられている。ところで、さまざまな揶揄を生みだしてきた関西弁であるが、名詞などにはまだまだ難易度の高いものが存在する。たとえば「めばちこ」である。これはまつげの毛根が炎症をおこし膿みはれあがる、平たくいえば「ものもらい」である。「めェ」が「バチコーン氏vとなる、その患部の痛みを表現したオノマトペア(擬態語)の一種である。また、「めはじけ」の転訛という説もある。さらに関西のなかには「めいぼ」と呼ぶ土地もある。また、ビタミン A、C 欠乏時に爪の根元に発生する皮膚の裂けを大阪では「さかむけ」と呼ぶのだが、一般的な「ささくれ」に比べ、より痛そうな、指が「ずるむけ」になりそうな疾患名がついている。同種に、「肉離れ」をあらわす「こむらがえり(こぶらがえり)」という意味不明なものもある。('95/8「GON!」vol.7に掲載)

 

「大坂 or 大阪?」

「大坂」が「大阪」になったのは明治時代のことだが、なぜ、こうした表記をするにいたったのかは謎とされている。独自の調査によると、「坂」の字は「土に反(そ)る」と書くのでイメージ的に悪いことから変更した、という説が今のところ有識者の間では有力である。しかし無識者の間では、明治政府が府印(大阪府のハンコ)を製作したおり、大ボケをかました係りのおっさんが字を間違ったのではないか、という説が根強い。こうした楽しいミステイクは大阪の伝統芸で、全国の市町村行政担当者も見習うようにしたいものである。ちなみに、和銅7(714)年のころは「小坂(おさか)」と呼ばれていた記録があり、また『日本書記』には「烏瑳箇(おさか)」と表記されています。「大阪城」も最近の看板類は「阪」になっているが、戦前の地図などでは「坂」である。で、細かいことはさておきまあどっちゃでも読めたらエエ、というのが大阪人の主張である●写真は大阪を代表する名の喫茶店「喫茶OSAKA」であります。JR大阪駅構内の東の端にヒッソリと存在するマニア向けの店。('95/9「GON!」vol.8に掲載)

 

「プール」

夏本番! 真っ赤に燃えあがったヤングたちは、海だ山だとセックスなどを目的にした男女交際に命を賭けるのであった。でも都市近郊の海はよほどの理由がないかぎり遊泳するにはやぶさかでないので、やっぱり都会の夏はプールだす。東京に比して一人暮らしの若い男女の人口がすくなく、経済原理より男女交際専用の施設にとぼしい大阪のプール状況は遊園地と同じく、投下した資本に対し回収できる水揚げ、すなわち成功(性交?)に至るコストパフォーマンスが低いことで知られる。ここは発想を転換し、水着のクイコミが激しい女性が多いであろうホテル関係の派手なプールはあきらめて、郊外の地味な公営プールの暇をもてあました若妻と、年々成熟度を増す小学生にターゲットを絞ってはいかがなもんか。派手なプールでのウォータースライダーのチラリポロリ事故も捨てがたいが、見るのが目的なら最初からストリップに行こう髄蜊繧ノ「プール学院」という大阪で一、二を争うというお嬢さん学校がありますが、水泳の学校ではないので注意するように。男性の場合、海パン姿で校門前に5分間たたずむと確実に逮捕されます。また関東では見かけない「モータープール」というのも大阪の街中では頻繁に目撃されますが、これは単なる有料駐車場のことなので、水着を持って行っても残念ながら無駄です、泳げません。('95/9「GON!」vol.8に掲載)

 

「スカタン」

球団創立60周年の95年シーズン。早くも盆明けで60敗してしまい、さっぱりワヤな阪神タイガースであった。さて、シーズンまっただ中の7月24日、阪神タイガースの監督を5年9ケ月にわたって務めてきた中村勝広(46)氏が辞任した。報道によると辞任の直接の原因は、7月17日、在阪各スポーツ紙を騒がせた阪神九万(くま)オーナーの「中村はスカタン!」発言であるという。関東は千葉出身の中村氏はこの発言に激怒し、球団との信頼関係をなくし、ついには辞任に至ったというわけである。「スカタン」という軽いマイナスイメージの大阪ことばを、ひどく重要に受けとめたわけですね。軽〜く「スカタン」といわれて真剣に激怒するような人物が在阪の球団の監督をしていたこと自体、根本的に無理があったともいえる。こうゆうのを大阪では「スカタン聞く」といい、軽くいなされるのである●スカタン→反対。失敗。当てのはずれたこと。「タン」はまったく意味のない接尾語。「スカ」は「透(すき)」すなわち、空虚なこと。からっぽ。当てはずれ。ヘマなどの意。('95/10「GON!」vol.9に掲載)

 

「ババ」

尼崎市出身の女性タレントであり、主に努力のいらないクイズ番組や露天風呂殺人事件などのこころざしの低そうなドラマなどに出演し、その貴重な天然ボケを全国に拡散している「千堂あきほ」であるが、その本名が「馬場晃穂」という事実を知るひとは少ない。関西では馬場という名字に対するいわれなき差別がある。いくら美人でカシコイ女子であっても馬場はババなのだ。彼女もその名字のため、小学校時代には男子からはやしたてられた悲しい思い出を持つであろうと容易に想像できる。この地では「糞・大便」のことをババといい、世の中で最低な事柄を表現する罵倒形容詞の一つでもある。とうぜん、あまり上品なことばではない。しかし、口には出さずとも大便のことをババと呼ぶのは関西一円で通用する。余談だが、出席順(ハ行)がぐうぜんにも「馬場、広田、堀田」となってしまったクラスは、「ウンコを拾って投げた」という連続技が発生し、教師が出席をとるたびに大爆笑をさそう。また関西人にとっては、偉大なレスラー「ジャイアント馬場」も二重の意味(ダブルミーニング)でなかなか深いモノが存在するわけです。('95/11「GON!」vol.11に掲載)

 

「大阪はん」

近代の大阪ことばは、主に商用として発展してきたので、その敬語にも多彩なバリエーションを持つ。敬称の「さん」は「はん」に転訛する場合が多い。糸川はん、冨岡はん、由美子はん、おばはん、などである。しかし、全ての「さん」が「はん」になるとは限らず、親しい間柄では、京やん、武やん、アバやん、など「やん」も使用される。また、久内つぁん、山口つぁん、松つぁん、など「つぁん」と音便化する場合もある。ところが、村上さん、金森さん、竹下さん、などの場合は決して「はん」「やん」「つぁん」は使わない。おじさんも「おっさん」とはいうが「おじはん」とはあまりいわない(希に、いうひとも存在する)。さらに「おじやん」の場合は「おじいさん」の意にもなる。村元さん、林さん、住吉さん、なども、むらもっさん、はやっさん、すみよっさん、と促音便化することも特徴のひとつである。すべてをまとめると以下のようになる。それぞれの敬称のすぐ前の音が「い段、う段、ん」の場合は「さん」。「あ段、え段、お段」ならば「はん」。ただしその場合、すぐ前の音が「し、す、ち、つ、と」ならば「つぁん」となる。関係がより親しく、あるいは目下の場合は「やん」。しかもこれらすべては慣用法であり、一般の成人大阪人ならば自由自在に操っている。これら大阪ことばにおける、名前のていねい表現を完全にマスターし、自然に違和感なく使い分けるには最低でも20年かかるといわれている。(参考『大阪ことば事典』牧村史陽編、講談社刊)('95/9「GON!」vol.8に掲載)

 

「でんがな」

関西弁としてひとくくりで語られることの多い関西圏言語であるが、そこに居住するものたちにとって、ことばは日々の生活でそうそう意識してすごすものではなく、また川を越えればそのことばは微妙に変化するのが自明の理である。特に、それは語尾変化に於いて顕著に現われ、あらゆる関西弁の語尾変化により出身地がわかる、とも過去にはいわれていた。しかし、近年来関西発のマスコミによってなされた「統一関西弁」というべき妙な標準言語の普及により、こうしたローカルな趣が失われつつある。さらに、ひどく誇張された関西弁を使用することでお金持ちになっていった落語家出身の数人の関西タレントのおかげで、全国に流行の兆しもあるといわれる「〜でんがな」「〜まんがな」「〜でおます」「〜でやす」などは、一般ではほとんど使用されていないのが現状である。高級住宅地として全国にも知られる芦屋近辺でも過去には、漁師ことばである播州弁の影響である「〜でいかいや」などという意味不明の語尾を付着させていたという話なども聞くが、今やむかし話になりつつある。ことばがイキモノである限りは仕方ないことではあるが、統一されたことばにより文化が平均化するのも事実である。('95/11「GON!」vol.10に掲載)

 

「ミンチ」

新聞チラシでツブれかけたクリーニング店が、「今週だけのビックリ価格! カッター50円氏vなどという崖っぷちな商売をにおわす表示をすると、朝から市場には大きなふくろを下げたおばはんの人だかりができる。ふくろの中にはお父んのドド汚れた古いワイシャツがギッシリと詰められているわけだ。関西では、俗にワイシャツを「カッター」と称するのが一般的である。聞くところによると、他の地域ではあまり使用されていないようなので、大阪の繊維問屋が集まる、船場センタービルへいってみた。しかし、数店のワイシャツ専門店で調査したにもかかわらず、はっきりした理由は判別しなかった。で、あくまで仮説ではあるが、英語の「CUT」には「仕立てる」という意味もあるので、ツルシ(既製品)のワイシャツに高級感をもたせる意味で「カッター」。たぶんそんなところであろう。特筆すべきは、この言い回しは戦後に定着したことばで、画鋲を「押しピン」、ひき肉を「ミンチ」と呼ぶのと同様、新参の関西ことばである。しかるに、ケンカの時「バラバラにしてミンチにしたろか!」の方が「ひき肉にしたろか!」に比べ、よりインパクトがある。ところで、他府県では「ミンチカツ」は「挽肉カツ」なんでしょうか?

※その後の調査で「カッターシャツ」はある衣料品メーカー(たぶん「フクスケ」)の登録商標であることが判明しました。('95/12「GON!」vol.11に掲載)

 

「いらち」

大阪は日本で一番歩くのが速い街である。また、歩行者の信号無視率も異常なほど高いことでも知られている。ほとんどの人は意味無く急いでおり、信号など守らない。フライングした歩行者をハネてしまい、法の犠牲になる順法運転者は後を絶たない。これは命を賭けお上(かみ)の法に拮抗してきた西の精神の現われなどともいうが、単に「いらち」なだけともいえる。「いらち」とは「苛ち」のことで、「短気」とは異なり、せかせかイラつく落ち着きのない性格を指す。大阪ではこれが街のシステムになっている。ためしに大阪の177にコール。『ピンポンパンポーン。気象ニュースをお知らせします。大阪地方の明日の天気は…』とおよそ15秒以内に明日の天気が判明するのである。他の地方で、ここまで即物的な天気予報サービスは例をみない。また全国に先駆け導入され(1970年阪急電鉄)、現在では京阪神間の私鉄、地下鉄、JRにほぼ行き渡った自動改札も「いらちシステム」の一環である●地下鉄に設置されている、5枚までのコインなら一度に投入可能な券売機なども「いらちシステム」ならではのもの。だが、通常の券売機のほうが多少(0.7秒)早いので利用者は少ない。もっとカルシウムをとりましょう。('96/1「GON!」に掲載)

 

「いたち」

「いたち」と「いらち」は似ているが関連はない。今回は「いたち」である。大阪市内の地名で最も難読、すなわち読むのが難しいといわれているのは「立売堀」である。これで「いたちぼり」と読む。そこそこ年くった、訳知りの大阪のおっさんおばはんでも「いたちぼり」という地名が大阪市内に存在することは承知していても、まさか「立売堀」だとはおもっていない場合が多い。もっとも知らずしても何ら大阪での生活に不自由はない。さてそもそも立売堀はこの地に江戸時代の初めに掘割がほられ、材木の立ち売りがおこなわれたことから名付けられたという。しかし、何故に読みが「いたち」なのか。一説には伊達藩の屋敷跡を堀にしたので「伊達(いだて)堀」になった、というのがまことしやかに伝わっている。が、いっぽう「イタチ」に似た家族が堀割に住んでいたのではと推測する郷土史家も存在する。関西はこうしたほんの些細なことがらを契機に地名が決まらないとも限らない土地柄ではないと言い切れない。郷土史家の悩みはつきない。余談であるが、東京の秋葉原と並び、電気屋街で知られる「日本橋」も、東京では「にほんばし」であるが、大阪では「にっぽんばし」と発音するのが正しい。どーでもよいことではあるが。('96/2「GON!」掲載)

 

「ちゃう」

「ちやう」とも発する場合もあるが、大阪では物事の否定、あるいは疑問を投げかける意の「違いますか」を「ちゃう」というのが一般的である。強く否定する場合は「ちゃうちゃう」と重ねて使用する。さらに強い否定のときには「ちゃうちゃうちゃうちゃう」など数を重ねることにより否定の度合いを深めることになる。あるいは「ちゃうちゃう、ちゃうねん」など、リズムを付け、語尾+音便の「ねん」で弾ますとダメ押す感じがでる。また、語尾に「ちゃうのん」など「の〜」がつけば疑問の「ちゃう」になる。「ちゃいまへん」という「ちゃう」の否定(二重否定であるから強い肯定の意)などもあるが、ヤングな大阪人は口にしない。同様の「ちゃえへん」は幼児語●一般用例;「この犬、ちゃうちゃうとちゃう?」「ちゃうちゃう、ちゃうちゃうとちゃうねんて、この犬雑種がちょっと肥えた(太った)だけやねん、ちゃうちゃうと全然ちゃうねん」「そうなん、ちゃうちゃうとちゃうのん。わたし、てっきりちゃうちゃうやと思てたわ」('96/4「GON!」掲載)

 

「本場」

西が本場、といわれているモノは数多い。特に、自らの欲望に対し貪欲な関西の風土ら生み出された「性風俗文化」には本場といわれるモノは多い。各種男性専門誌の広告どでおなじみのホンバン裏ビデオの世界において関西モノの評価は高いという。また、アルサロ、昼サロ、ノーパン発祥の地としても名高い関西は、さらにSMの世界でも発祥の地として歴史その名を残している。わが国初の本格的SM誌「奇譚クラブ」は昭和25年堺市で創刊され、大長編SM小説「花と蛇」を成した団鬼六氏も青春時代は神崎川ですごしたという。ストリップも一般的には、昭和22年の新宿「帝都座」が日本初演とされているが、その前年、戎橋のたもとで「島田サーカス」がストリップ的興業をしたという資料もないではない●はなしは変わって、たこやきの本場が大阪である、との主張に異を唱えるひとはいない。だが、たこ焼きはわざわざ電車賃をつかって街中へくりだして食するものではない。たこ焼きはご近所の商店街のが一番ウマイ。大阪では、たこ焼きがまずい町内に住んでいたら引っ越しをします。これが常識です。('96/2「GON!」掲載)

 

「ワレ」

大阪のことばはケンカことばだ、と東のひとにいわれることがある。じっさい、ケンカになれば関東人など口ではまず勝ち目はない。人口の約7割はヤクザ気質をもち、残りの3割が漫才師気質といわれる大阪の所以である。特に恐れられているのが「お前」の意の「ワレ」である。「ワレー(少し伸ばす)ドツキマワシタロカァ(ドを強く語尾を上げるのがビビらすコツ)」、「ワレ(歯切れよく)ナニサラシトンノンジャ(サラシに力をこめるのがコツ)」程度は地方のひとでも覚えておいて損はない。一般人(男女共)がワレを多用することで知られているのが河内地方である。大阪府の地形を左を向いたアントニオ猪木の顔に見立てると、こめかみからアゴにかけてピクピク動く筋肉のアタリが河内で、真の大阪の中心という説もあるほど文化的には特殊な地域である。20年ほど前のヒット曲「河内のおっさんの歌」やどおくまんの漫画「花の応援団」などで全国的な大誤解をうんだが、あれほど「ワレ」を連発する河内のひとなど存在しない●ところで、大阪には「カワチ」という大きな画材屋さんがありますが、店員全員が河内のおっさん、というわけではないので気の弱い美術方面の人でもOK。('96/3「GON!」掲載)

 

「ちんこ」

写真は大阪市内某所、文化住宅(棟続きの長屋風アパート)の密集するいわゆる下町とよばれる、あまり上品ではない雰囲気がただよう街角で発見した、水性ペンキによるものとおもわれるカリグラフィである。文字部分の下半分がかなりかすれて読みとりにくくはなっているのだが細心の注意をはかり解読してみると「小便するな チンコがハレルヨ」とあることが理解できる。大阪では平均的な男性の性器、特に玉袋を除いたサオの部、医学的にいうところの陰茎を「ちんぽ」とよぶことがおおい。使用時に直径五センチ、長さ一六センチ以上で片手で容易にはあつかえない、いわゆる巨根である場合は「ちんぼ」と語尾が濁ることもあるが、だいたいにおいては「ぽ」であろう。余談であるが、関西の玉袋方面、医学用語で陰嚢部は全国でも一般的な「きんたま」と呼ぶ。巨大なそれになると「おおぎんたま」と「き」の部分が「ぎ」のように濁りを生じることが特徴であろう。また、男性の第二次性徴発現以前の男児性器の場合は二種の言い回しが使用され、第一の「ちんちん」は全国標準語の場合と表記上は同音となるが、大阪での発音は第三音「ち」に強いアクセントをもつことが特筆すべき点であろう。今回発見の「ちんこはれるよ」の注意書きはもう一つの小児語「ちんこ」が使用されていることに注意していただきたい。ということでこの注意書きは大阪のお子たちに向けたものであると判断できるのである。('96/12「GON!」vol.23に掲載)

 

「ひったくり」

大阪府下でのひったくり被害件数は六○八六件(1995年度)、堂々の全国一位である。一日平均で約一七件も発生し、全国では20年間も連続ワーストナンバー1、という記録を保持する不動の「ひったくりチャンピオン」である◆被害者の九割は女性、犯人のうち七割は未成年の男子。大阪では、女性は生まれながらにひったくられる運命を持ち、また男性はひったくるためにこの世に生を受けるのである◆現在、「ひったくり」という犯罪方法の呼称は全国的に使用されてはいるが、もともとは大阪のことば。大阪で生みだされた犯罪なのであろう◆ひったくる、という動詞は「引手繰る、引奪る」の転訛したもので、強引にうばいとる行為をあらわす。「〜たくる」という補助動詞は行為自体の意味をつよめる機能がおおきく、「〜まくる」と同様の意味をもつ。「やらずぼったくり(ぶったくり)」「やったくり」。「〜たくる」というのが意を強める。「塗りたくる」「書きたくる」「喰いたくる」「飲みたくる」「し(やり)たくる」◆夜半過ぎ、歩道と車道の区別のないようなローカルな暗い道路で。おばちゃんがチャリンコ(自転車)の前カゴに無造作に入れたハンドバッグを、パクってきた無燈火の原付で後からきた髪の毛が真っ茶々のヤンキーのニイちゃんが追い抜きざま奪い取っていく、という絵づらは大阪ならではのひったくりの風景です。ひったくりは、女性やお年寄りが特に狙われやすいので気をつけましょう。('97/1「GON!」vol.24に掲載)


web 「西の常識」総目次旧「西の常識」序章「大坂中華思想」「ことば」「観光名物」くらしと生活さいふと経済風俗トレンド人種歴史地理事件スポーツ芸能娯楽教養魔境旧「西の常識」総テキスト(あ〜ん:≒400k)新「西の常識」


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